音楽をレコードで聴いていた時代

鈴木寛氏(以下、鈴木):おはようございます。よろしくお願いします。それではさっそく始めていきたいと思います。

今日は、我々パネリストは前半にお話をします。後半は、みなさんから我々パネリストに対する意見や質問などをお受けして、インタラクティブにやりたいと思います。ぜひ「誰になにを言おう、聞こう」と今から考えながらやっていただきたいと思います。

さっそく始めていきたいと思いますが、自己紹介やパネリストは(配布した資料を指して)「これを読んでください」ということで省略します。

今日のテーマは「創造的破壊」です。これは、ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン氏が言っている概念ですが、だいたいはわかりますか? 昔、僕たちの若い頃はレコードがありましたよね。

森まさこ氏(以下、森):はい。ありました。

鈴木:レコードを見たことがある人?

(会場挙手)

おっ、あるんですね。聴いたことがある人?

(会場挙手)

すごいなぁ。なぜこんなに多いのか聞きたいけれど、時間の関係上……(笑)。とにかく、レコードの時代がありました。レコード会社は、どれだけいいレコードを作っていくか・レコードのクオリティを上げていくかを一生懸命やっていました。

けれど、そのあとCD・DVDが出てきました。今ではほとんどネットで音楽を聴く感じですよね。今でもレコードで音楽を聴いている人はいますか?

(会場挙手)

破壊的創造によって、何が破壊されるのか?

鈴木:すばらしい。それはそれですばらしいと思いますが、音楽を聴くスタイルは大きく変わってきました。大企業など、その時のメジャープレイヤーは、今あるパラダイムを一生懸命ソフィスティケートするので、結果として次の新しい非連続的なパラダイムを作ることに遅れてしまいます。

慎さんは違うかもしれないけれど、僕らはある意味、今のメジャープレイヤーのオールドパラダイムを一生懸命ソフィスティケートしてきたわけですね。僕は5年前にそこから抜けました。

慎さんもそのリーダーですね。君たちの時代は破壊されたのちに、あるいは破壊が進行するのと同時に、新しいものを創造する。君たちはこういうシチュエーションで創造する側です。

今日は「そのときになにが破壊されるのか?」を、パネリストのみなさんからドンと出していただきます。そして「じゃあそれが破壊されたときに、自分たちはこういうものを用意しておくぞ」という話の参考にしていただきたいので、この画用紙に書いていただきました。

さっそくその紹介をしていただきたいと思います。どういう順番でいきましょうか。慎さん大丈夫ですか? 朝雪が降って……。

慎泰俊氏(以下、慎):そうですね。来られてよかったです。

鈴木:来られてよかったです。

アメリカのもとの秩序・民主主義・人権・中流社会が吹き飛ぶ

:みなさま、こんにちは。慎です。希望的には「なくならないでほしいな」と思うものもありますが、「アメリカのもとの秩序」「民主主義」「人権」「中流階級」この4つが吹き飛ぶ恐れがあると思っています。

これから中国が世界で一番豊かでGDPが大きな国になるのは、避けがたいトレンドです。今は貿易戦争などでごちゃごちゃしていますが、中国が世界で最もGDPの大きな国になるというトレンドはもう止めようがありません。

次のスーパーパワーをどうやって相手にするのか。国の位置が近いので、日本への影響は避けられないですね。それが1つ目です。

次は人権です。私は今、東南アジア・南アジアの4ヶ国で働いていますが、アジアではインドと日本を除いて中国の影を感じない国はありません。例えばスリランカのコロンボの港は、借金が返せないため、向こう99年間中国のものになりました。

独裁者もすごく増えています。昔は独裁をすると欧米社会から手痛い制裁を受けました。国の経済が悪くなると民衆が反乱を起こして独裁者も去ることになるため、みんなある程度、欧米社会の価値観である基本的人権を尊重しようというルールを守っていたんです。今は、中国がその独裁者たちのスポンサーになっているように見えなくもありません。

明確には見えませんが、私が働いている国だと、カンボジア・スリランカ・ミャンマーあたりにそういう動きを感じます。「人権とはなんだろう?」と改めて問われる社会が来ている気がします。

ミリオネアよりもビリオネアになるほうが簡単な時代

:民主主義の死も、もしかしたら近いのかもしれません。今、民主主義がハックされているんですね。みなさんもよくご存じのとおり、Cambridge Analyticaがなにをやっていたのか、内部告発によってどんどん明るみに出ています。

我々がソーシャルメディア上でなにをやっているかを見て、思想的に偏りやすい人たちなどを焚き付けて、(その人たちを宣伝役にして社会全体の)論調を変えていくんですね。

そんな中で、「もし民意を操ることが可能ならば、自分で思考できる一部の人以外の大勢の人の意思は操られた結果に過ぎない。そのとき民主主義は本当に成立するんだろうか?」という問題があります。これはけっこう心配です。

最後は中流階級です。スコット・ギャロウェイの言葉ですが、「今はミリオネアになるよりもビリオネアになるほうが簡単な時代」とさえ言われています。技術が進歩して、経済のグローバル化も進んでいく中で、起業するとあっという間に超大金持ちになれる人がいますね。

その反面、「普通に働き続けて、ある程度資産を持って」という生活が極めて難しくなっていく。この4つです。

鈴木:ありがとうございました。いろんな質問も含めて、後でみなさんどんどん質問していただければと思います。では、細野さんお願いします。

アメリカの中国に対する考え方の変化

細野豪志氏(以下、細野):細野です。よろしくお願いします。私は「民主主義とテクノロジーの両立」と書きました。慎さんと問題意識がかなり重なりますね。これはちょっと引っ込めましょう。

10月のペンス副大統領の演説は、トリガーというか方向性をすごく明確に示したと思います。すでに起こっていたことを、明確にアメリカとして示したものという気がするので、みなさんもぜひ読んでもらえれば。

原文で読むのが一番ですが、日本語訳も出ているので、それを読んでもらえればと思います。つまり、中国に対して非常に厳しいことを言ったわけですね。

一番印象的だったのは、「unparalleled surveillance state」になったと。unparalleled(比べるものがない)、つまり「これまでに並ぶものがない監視国家になった」と言ったんです。これはこれからのアメリカの中国に対する考え方を方向づけるものだと思います。

かつてのクリントン政権や、この間死んだブッシュさん(アメリカ第41代大統領)の政権は「中国に一時厳しいことを言って、融和的になる」ということを繰り返してきたので、若干の戻りはあるかもしれない。

ただ、アメリカの対中観は去年の19回の党大会あたりから変わっています。みなさんもご存じだと思いますが、習近平政権がいつまで続くか。下手したらもう死ぬまで続くんじゃないかと言われるようになっています。世代交代はしないと。

情報監視を非常にしっかりして、さらには南シナ海も含めて、明確に中国の権益を守っていく方向を示したわけですね。これは10年前に我々が見ていた中国とはぜんぜん違う。

一番端的な例で言うと、今の外交部長、日本でいう外務大臣は王毅さんという人ですが、よくメディアに出てくるじゃないですか。あの人は日本語がペラペラなんです。日本大使をやっていたため、実はすごく日本通です。

大使をやっていた王毅さんと、当時から私もちょっとお付き合いがありました。本当によく日本でゴルフをやっていて、「中国大使館と付き合うためにはゴルフをしたほうがいい」というくらいでした。

ですが、今の中国大使館の人は絶対ゴルフをやりません。「なにをやっているの?」と聞いたら「卓球をやっている」と言っていました。それどころか、飲み会もほとんどやらない感じです。仲間内の飲み会とか、そこも含めてやらない。

民主主義とテクノロジーの両立は守られるのか?

細野:さらには自由な発言もそうです。10年前の共産党幹部はかなり幅のある発言をしたけど、今はもう政府の公式見解以外は言わない。なぜなら、先ほど慎さんが言ったように、中国の政府はそこを完璧にマネージする仕組みを作ったからです。

これは政府関係者だけじゃなくて、国民に対してもそうなんです。1億台以上の監視カメラがあると言われていて、その監視カメラでどこでなにをやっているかを見ている。いろんな購買活動なんかも見ている。

10年前は「中国も豊かになれば民主化していくだろうし、自由主義が機能していくだろう。徐々にではあるが、そういう国家になるだろう」と思われていましたが、現状は違う。

一方で、国外に対しても、アメリカが「調達をやめる」と言ったファーウェイのあの報道は非常に大きくて。ファーウェイのものは政府の調達をやめると言った瞬間、日本もやめると言いました。

日本とアメリカは情報共有をしなきゃならないから、日本から情報が漏れるのはまずいので、号令一下、すぐ決めたと。

つまり、中国は国内だけじゃなく海外の情報も集めていて、産業などの先端技術を非常にクリームスキミング(いいところ取り)している。研究開発をせずに成果を持っていっているというのが、ペンス演説の1つの中心的なテーマです。「このやり方は中国だけではなくて、おそらくASEANの国もこれから模倣するだろう」と言われているわけです。

世界の中でそういうスキームが非常に跋扈していく中で、日本とアメリカはどうやっていくのか。ヨーロッパは違う道を歩むかもしれないけれど……。先ほど民主主義とテクノロジーの両立が破壊されると言ったけど、本来それは破壊されてはならないものです。

日本の国会は2周も3周も時代遅れ

細野:じゃあ、どうやって民主主義を守りながら、この技術社会を生き抜き、国民の自由を守るのか。ビッグデータやAIで情報がいくらでも管理できる時代にどう生き抜いていくのかが、日本の最大のテーマかなと思います。

今は無所属無所なので、比較的自由に言えますが、我々もチャレンジしようと思っていても、残念ながら日本の国会は、本当に非効率的です。嫌になって辞めた人が右側にいますね。今、いかに効率的かを謳歌している顔です。

今年2月のG1で「国会改革しよう」とずいぶん華々しく宣言しましたね。小泉進次郎なんかもいたし、我々も大勢で集まって「じゃあやろう!」と機運が高まったけれど、進まないんだよね。

安全保障の議論1つ取っても、数年前の安保法制の議論から止まっているからね。そんな時代はとっくに終わっていて、もうサイバーを使ってどうやるかという時代に入っています。

それこそ先制攻撃論も、ミサイル1発ぶっ放す時代から、どう先制的に抑止的にやるか、アファーマティブにやるかという時代に入っているのに、その議論を一切していない。

時代からするともう2周、3周遅れていて、しかもスローな意思決定しかできない国会に、私はすごく焦りを感じています。「なんとかしたいな」と思っている今日この頃の無所属の一議員の声です。以上です。

鈴木:ありがとうございました。森さん、お願いします。

日本人の比率は世界の中で1パーセント台

:はい。無所属の方の国会議員のあとに、与党の国会議員の森まさこでございます。自民党です。国会の議論はまたあとでするとして、まず「破壊されるものとは?」。我々は最初にボードを出してみなさんの議論を喚起しようと言いましたが、破壊されるものはいろいろあると思います。最後の最後に考えて、一応「人口構造」と書きました。

今、日本が世界の人口の中でどのぐらいのシェアを占めているか、ご存じですか? 1パーセント台です。「少ない!」という感じですが、1パーセントのわりにはがんばって存在価値を示しているほうだと思います。

しかし今、世界で最も速く人口減少が進んでいますね。0になる日も遠くはない。0になったら消滅です。3000年には0になると計算上は出ておりますが、50年後ぐらいには1パーセントになってしまうと言われています。

一応中国も一人っ子政策の結果として人口が減少していると言われていますが、日本が1パーセントになったときでも計算上ではまだ20パーセントです。今また人口を増やそうとしています。

ということで、今ご指摘のあった世界の中のパワーバランス、このファクトの1つとして、人口があるわけです。それを1つ示したいと思います。

それから「破壊」というキーワードでいくと、破壊されると新しいスタイルが生まれますよね。破壊はいかにして起きるのか。今みたいに世界のグローバルリズムとナショナリズムが対立して、トランプ旋風が吹き起こって、米中の貿易戦争が起こって……。その影響でさまざまな経済・政治・人口・社会保障などがどんどん破壊されていくのが1つです。

頻発する自然災害や複合災害をどうやって防いでいくか?

:私も受けましたが(注:森まさこ議員は福島県が地元)、福島県の自然的な災害によってものすごい破壊がもたらされました。2011年の東日本大震災と原発事故は、1000年に一度の大災害で、世界で初めての複合災害です。

自然災害に原発事故がドッキングして、多くの方が一度に亡くなりました。多くの子どもたちが一瞬にして遺児・孤児になりました。そういった、もう政治的・行政的なことではまったく助けられない現象が起きました。

その時、私は政治家として本当に無力感を感じました。当時は野党でしたが、野党であるということを超えて無力感を感じました。そういった自然的な災害による破壊が、これからは世界環境の温暖化によって頻発すると言われています。

世界中に同じようなことが、これからもっとひどいことが起きていくかもしれない。自然災害と複合災害。これに対して、どうやってそれを防いでいくか? そして、それをどうやって普及させていくか? そのための創造する力を一人ひとりが身に付けなければいけません。

3つ目の「破壊」は、自分で破壊することです。これは、古いシステムがあって「ダメだ」と思ったら、受け身で破壊されるのではなく、自分でそれを破壊して新しいものを作っていくことです。

「破壊的イノベーション」とも言われますが、そういったことについて今日は議論ができたらなと思っています。

鈴木:ありがとうございました。今年の夏も、本当にいろんな自然災害がありましたからね。

:そうです。この夏にもありました。