空き家になるタイミングは約6割が相続

渡辺昌宏氏(以下、渡辺):気が付いたことの2つめとしては、空き家って使われなくなってしまうと、そのまま空き家になってしまうので、空き家予備軍のタイミングで予防することが最も重要だなということです。

空き家の修理士さんにアンケートをとると、物置として必要とか、とくに困っていないし、将来もしかしたら使うかもしれないということで、結果的に10年経って使われないまま終わってしまう。

では、結果的に空き家になるタイミングがどこなのかというと、6割が相続なんです。ですので、事前に今後どうするかをきっちり話し合いながら進めていくことが、予防につながるんだと思います。

これは余談ですけれども、2015年の死亡者数って129万人いて、2040年には168万人になると言われています。すべてが相続になって、政令指定都市1個分の相続が毎年出てくるくらいなんです。これだけのものに対して、事前にアプローチするのが重要なんだということです。

そして、いろんな事業所と全国を調査した中で、非常にうまく予防にチャレンジされている事業所さんがいます。なにをやっているかというと、きちんと発掘することと、継続的に相談に乗る。そのような空き家の窓口業務を運営されながら、予防されているんです。

どういうことをやっているかというと、まさしく自治体さんとの連携です。まずは、そもそも相談できることをみなさんが知らないので、そこに対して自治体の広報と連携して、相談会があるとか、パンフレットに「空き家のこういう相談に全部答えられます」と掲載する。

もう1つ有効なのが、固定資産税の同封書に対して空き家の情報を入れて、毎年届ける。それとともに連動して継続的に、毎月セミナー活動を開催して相談会を行う。そしてこちらの事業所さんで2年やると、いまインバウンドだけで年間1,500件の相談が入ってくるんです。

それだけみなさんが、実は課題として思っているんです。結果的に所有者さんの状況は、「なにをどうしたらいいかわからない」という相談が8割のようです。

2年間買い手なしの空き家が売れた工夫

渡辺:その中で相談事例として、この窓口が活きた3件をご紹介させてください。(スライドを指して)こちらの空き家は、そのままずっと空き家になっていた物件でしたが、ご友人が窓口業務に携わっていて、そこを紹介されて相談に行ったそうです。ここは空き家になっていて、基本的には物置になっていました。そしてお金もないという状況でした。

そこに対して相談員が今までの経験を踏まえて、そもそも今のお金として火災保険や固定資産税がこのくらいかかっているということ、このくらいの荷物だとこのくらいの経費で全部きれいにできること。また、そうすることで、賃料を設定して賃貸に出すことによって収益化できて、1年間で荷物整理のコストを回収できました、という事例があります。

こちらは売り物件として2年間出していたのに、1件も問い合わせがなくて相談が来ました。移住者のニーズはいろいろあります。移住者さんって、最初から購入するのはハードルが高いんですね。

ですので、まずはお試し賃貸というかたちで貸すということをやってみませんかと。そうしてはじめて、結果的に1年後には賃貸された方が購入して、定住につながっている案件もあります。

次にいきます。こちらは大きな家ですが、2階建てで荷物がたくさんあったんです。いろんな話があって窓口にきて、結果的に2階を倉庫に変えて、荷物を全部そこに置いて、1階スペースだけを賃貸として貸すことにしました。

結果的に、その方はそのまま定住に結びついています。結論から言うと、いろんな経験とノウハウをもって、所有者さんの悩みに寄り添いながら、移住者のニーズに寄り添い、そこをしっかり選別してつなげていくことが、最も重要なんだなと気が付きました。

その中で、僕たちが1つの仕組化として、ワンストップで提供することが最も重要だと気が付きました。空き家というのは、今までみんながバラバラにやってきています。

地方の空き家所有者と移住者をいかにワンストップでつなぐか

渡辺:例えば、相談会や窓口業務で、マッチングや専門家の相談などをやっているのですが、所有者さんがどのような課題を持っていて、移住者さんはどういうニーズを持っているのかを1つずつ把握しながら、最終的にはワンストップでつなげていくかたちが重要なのではないかなと思いました。

それとともに、僕たちはそのナレッジがたまっていっていないなと感じておりまして。どういう相談が来ていて、どういう解決策があるのかをしっかりとシステム化することで、誰もが共有できるようなサービスまで展開していこうと思っています。

そして一番重要なのは、空き家の相談業務には総合的な知識が必要だとわかったことです。そこに合わせて、自治体からも声をいただきまして、育成講座を作ってくれということで、育成もスタートさせようとしています。

次のページにいってください。これはPRじみたところも入っているけど、まさしくこの講師は窓口業務を6年間やってらして、年間1億円くらいの売り上げまで伸ばしています。

その人たちのノウハウをどんどん地域にインストールしていこうということで、毎月こういう講座をスタートさせていただきながら、ワンストップ化とシステム化と育成をセットにした仕組み化に、まさしくいまチャレンジしようとしています。ありがとうございます。

伊藤明子氏(以下、伊藤):ありがとうございました。空き家って難しくて、ほとんどが相続の時に発生するということですが、空き家の相談会をやっても、空き家の所有者はそこにいなかったりします。ですので、終活と同時にやっておかないとしんどいなと思います。

それと併せて移住者などが、全国的なネットワークで空き家を探した時にうまく探せないこともあるので、渡辺さんは情報バンクを国土交通省と協力してやっているようです。

「空き家」は地域コミュニティの問題でもある

伊藤:全体的な空き家の数をどうやって出していくか。そのためには一つひとつの話も丁寧にやる必要があります。空き家法の中では、税の情報を局のほうに出すのはOKとなっていますが、外に出すときには個人情報の問題があるので、きちんと合意を取らないといけません。

だから、公共団体では、固定資産税の同封書に「使いませんか?」というお手紙を入れて、連絡してくださいというやりかたをしています。ただ、もう少し地域に密着した情報の把握の仕方や、活用の仕方もあると思います。

そういう情報をどうやって地域のコミュニティの中で見つけていくか。そして、実際にそれを活かしていくにあたって、自治体がどう関わっていけばいいのか。渡辺さんには不動産関係の専門家として、活用の仕方のような話もお話ししてもらいました。

ですが、勝さんと森さんがおそらく違ったお立場で、地域コミュニティや地域経済をうまく回していくという、現地に密着したやり方をお話ししてくれるのではないかなと思います。ご紹介をお願いします。

勝眞一郎氏(以下、勝):渡辺さんから紹介があったように、空き家は空き家のままにしておくと、「ずっと空き家である」ということはすごく重要で、我々もそれをなくすためにどうやって気が付いていくかが大事です。

空き家って本質的には何かというと、人が住まなくなったお家ですが、それだけではなくて、地域にとっては1つの風景であったりします。よくあるツタが絡まって、誰も住まなくなって荒れるとか、そこにいろんな動物が入りこむとか、地域にとっても価値のある非常に大切な資産なんです。

そこを地域としてどう残すかというので、今回テーマをいただいたときに、不動産の問題ではなくて、地域コミュニティの問題でもあるとお話しさせていただきました。

地元の人と交流できる、奄美大島の宿泊施設「伝宿」

:奄美大島でやっている「伝泊」というのは、渡辺さんが行政を使って、地元の業者も使って、発掘をしていく活動です。奄美でやっているのは、うちの会社のメンバーで、ふだんから地域のコミュニティ活動をしている40から60人くらいの女性たちが地域に行って、「この間、あそこが空いてるって言ってたよね。伝泊とかどうかね?」という話を伝えて、我々はその方から月4万とか5万で借りています。サブリースというかたちですね。

そこでだいたい300~400万円くらいかけて、水回りを完璧にリノベ―ションして、お風呂とトイレとキッチンは新しくします。そして宿泊施設として貸します。

その時に重要なのは、地域とのつながりです。「こんな感じにします」と必ず地域に公開して、地域のみなさんを入れて、地域行事にも使ってもいいというかたちでオープンにして、地域と家のつながりを……。その地域の人って、みんながその家に行ったことがあるんです。

各家をまわるお祭りがあって、懐かしい思い出がある家なので、そこに宿として入ろうと。そして、ゲストの人も来るというふうにします。お客さんとして伝泊に来たときは、地域の人と話をします。よくあるのは、隣のおじさんとお話をして昔の魚の取り方を教わったり、木を細工するやり方をおばさんから聞いたり。

地域の人と触れあうことに、我々は価値があると思うので。箱自体ではなく、地域の人との触れ合いによって、奄美大島の自然を楽しんでもらうことに価値があると思ってやっています。

信用を得られなければ「空き家問題」は解決できない

伊藤:小菅(注:山梨県北都留郡小菅村)は、どんな感じでしょうか?

森弘行氏(以下、森):私からは、2015年に空き家実態調査をしたときの話をします。地域おこし協力隊って、よそから来た人が、空き家の情報整理をしないといけないと思って整理するんです。でも、空き家を持っている人に対して、知らない人が電話してもたぶん受話器を取らない。ちゃんと対応してもらえないでしょうから、まずは役場から話をつけてもらうことにしました。

小菅村役場から、各地区の区長さんにお話をしていただいて、区長さんから「地域おこし協力隊の森君から連絡がいくからね」というふうに、話を通してもらったうえで調査をしています。

僕は住み分けが非常に重要だと思っています。やっぱり信用は自治体にあるので、信用を活かしていくんです。実務は民間のほうがスピードが速いので、ガシガシやってもらい、2ヶ月くらいで111軒の空き家実態調査をやってもらいました。

ちなみに、その時は補助金を少し使わせてもらいました。山梨県の空き家実態調査は補助金が出ていて、県のスタッフが「こういうのがある」と教えてくれたので使わせてもらいました。

伊藤:ありがとうございました。今のところで大事なお話は、公共がやったほうがいいものと、民間がやったほうがいいものがあると。奄美みたいに密着していると、どっちがどっちというのもあまりなく、「あの人がやっているのはいい」というふうに、空き家というのは、どうしても信用がものすごく大事なのかなと思いました。

信用を得て情報を得たあと、事業の構築はどのようにやっているのか、もう少し詳しく教えてください。いま伝泊というのをサラッと言われたんですけど、それでちゃんとうまく回るのかと思ったりもします。

:伝泊自体はウェブサイトでもやっていて、広報が大事になります。伝泊を知っている方? 

(会場挙手)

2人、3人、4人……。このくらいですね。せっかく価値があるものを作っても、知ってもらわないといけないので、うちの会社ではかなり広報に力を入れています。広報をやっていても4人か(笑)。

地域文化と外の人をいかに結びつけるかが重要

:今日は会場に100人くらいいるので、100人に知っていただければと思っています。広報で来ていただいて価値を伝える。そしてビジネスとして、どのくらいでトントンになるかと言いますと、3割くらい入ればなんとかトントンになります。

その3割の中でも、地元の理念を交換するようなものとか、コンシェルジュの方というのは、地元のほうを向いています。そういう意味では、地元の経済に貢献するというビジネスとしては、今のところトントンです。

もう1つ新しい形態で昨年立ち上げたのは、スマートウェルネス事業の「まーぐん広場」というものです。制度設計は伊藤さんがされて、高齢者施設と障がい者施設と宿泊者施設を合わせた、高齢者のデイケアをやっているところと障がい者を受け入れるところ。それと、学童もこれからやろうと思っています。

あとはカフェが1階にあって、2階はホテルになっています。もともとは街の中のスーパーだったのですが、潰れて使っていなくて。街のど真ん中に空き家の状態であったので、なんとかしようと買い上げて、ごちゃ混ぜにするということで、いま運営をがんばっています。

空き家だけじゃなくて、街中の商店やスーパーなども活動を始めていて、ホテルのほうは順調で、高齢者施設はちょこちょことがんばっています。

伊藤:ありがとうございます。小菅村だと、村とNPOはどういう役割分担で回っている状態なのでしょうか?

:村とNPOの役割分担で言うと、うちのNPOは提案型なので、「ここが村の課題だからこうしたほうがいい」とどんどん提案して、村長はスピード決裁なので「やっていいぞ」という話になります。

:今日のテーマである小学校の活用で言うと、その3つの小学校の空いているところをNPOに借りにいったということですよね?

:そうです。物件の持ち主は当然村で、それをNPOが借りていて、そこではいろんな人たちが活動しています。主に大学生で、東京農業大学・中央大学・法政大学など、いろんな活動で学生が来たり、地域のおじいちゃん・おばあちゃんが来るようなコミュニティを作ったり。外にいる人たちをいかに地域の文化と結びつけていくかですね。それこそ伝泊じゃないですけど、そういうところは重要だと思います。