動画を使ったマネジメントプラットフォーム「ClipLine」

金海憲男氏:みなさま、こんにちは。ClipLineの金海と申します。本日はよろしくお願いいたします。

冒頭で簡単に、当社のご紹介をさせていただきたいと思います。当社は、ClipLineという、2013年の7月に設立した会社でございます。

もともと経営コンサルティングに従事していた者と映像制作に携わっていた者、そしてアプリやITシステムを作っていた者。こういったメンバーが集まりまして作った会社です。

2014年の10月に、動画を活用したマネジメントプラットフォーム「ClipLine」という、社名と同じ名前のサービスをリリースし、サービス業のマネジメントや人材教育のご支援を行っています。

私自身は、もともと経営コンサルティングをずっとやっておりました。とくにコンサルティングのスタイルで言うと「ハンズオン」という言い方をするんですけれども、経営者の方と具体的に「どういう施策をやっていきましょうか」と議論させていただいて、それを幹部の方と実際のアクションに落とし込む。

それを現場でやっていく人たちと一緒に、その実行のフォローをする。こういったことをずっと、組織の中に入り込んでやってきました。

なので、私自身が半分お客様の中に入り込んで、当事者の一人として、数万人という方々を動かしていく。そのためにどうすればいいのかを非常に苦労しながらやっている中で、「こういうものがあったらいいな」というものをかたちにしたのが、ClipLineというツールです。

なので、思いつきで作ったものではなく、自分自身が「こういうのがあったらいいな」というところからスタートしているのが、当社の1つの特徴かなと考えています。

本格的な人手不足は、むしろこれからやってくる

金海:2014年の10月にClipLineのリリースをいたしまして、おかげさまで今のところ順調にきています。現在6,000店舗・11万ユーザーの方にご利用いただいています。飲食系の企業様もたくさんありますし、最近ですと介護事業者様ですとか、あるいはコンビニエンスストアなどの小売店様。また、薬局様やフィットネス業界といったヘルスケアの業界でも、たくさんの活用をいただいています。

当社の株主としては、ベンチャーキャピタルであるインキュベイトファンドのほかに、当時、産業革新機構だったINCJさん。そのほか、3メガバンクのベンチャーキャピタルですとか、日本政策投資銀行にも出資をいただいて事業を運営しております。

本題のサービス業のマネジメントに関するお話の前に、サービス業を取り巻く環境について少し、認識合わせのお話をできればなと思っています。

私自身、冒頭でお話ししたとおり、もう10年以上いろいろな企業様のご支援をしているんですけれども、この10年で何が一番変わったかを考えてみると、やはり一番は人手不足。人が圧倒的に足りなくなったということは体感しています。

これは実際に、グラフを見ても明らかです。2005年と2015年で比べると、やっぱり労働者の人数は明らかに減っている。

この先どうなるのかというと、これはもうみなさんもご存知のとおりで、順調に右肩下がり。唯一確かな未来予測が人口動態だと言われていますけれども、こんなふうに減っていくのはもう見えている。

今はどこの企業様におうかがいしても、「うち、人が足りないです」という話って、ほとんどのところからお聞きします。むしろ人手不足はこれからなんじゃないか、というくらいに減っていく。

未来に行ってから、この2019年を過去として振り返ったときに、「あのときってまだ人手不足の入り口だったね」というくらい深刻に人が足りなくなる時代が来るんだろうな、というのが今、感覚として持っているところです。

人手不足でも、求められるサービスレベルは上がる一方

一方で、そのサービスを取り巻く環境として、業務自体は簡単になっているのかというと、むしろそうじゃないよね、というのがここでのお話です。例えば、お店に行って決済します。昔は現金かせいぜいカードだったのが、今や電子決済の手段が何通りもありますし、ポイントカードもたくさんある。お客様との接点だけでも、相当バリエーションが広がっています。

それ以外にも、いろいろな業務のツールがたくさん出てきていて。覚えなきゃいけないことは遥かに多くなっている。ここに出ている以外のお客様に対してのサービスも、いろいろな施策をいろいろな企業がたくさん打って出しています。どんどん幅が広がっていますし、一つひとつの施策の効果の時間も短くなっている、というのが私の体感です。

この人手不足と、業務の複雑化・高難度化。組み合わせるとこういうことかなと思っています。時間の経過に伴って、サービスレベルの目指すところはどんどん上がっていく。でも一方で、現有戦力はそれにちゃんとアラインしているかというと、むしろ現状維持が精一杯。下手をすると人が足りなくて、現状維持すらままならないと。どんどんレベルが下がっていくことすら起きているかもしれない。

これを「ワニの口」と名前をつけたんですけれども、どんどん時間とともに、だーっと口が開いてくるのではなかろうかと感じています。

この状況は働き手からどう見えるか、というと、ひと言で言って「売り手市場」と言えるかと思います。つまり、働き手が働く場所を選ぶ時代が来ていると。これは前からそうですけども、今まさにそうかなと感じています。

そこで選ばれるには、当然ながら「従業員の満足」がキーになってくるんですけれども。例えば、アルバイトで人気のある会社がどういう理由で選ばれているかを見てみます。実はけっこう「接客スキルが身につきそう」とか「英語の勉強ができそう」「店員さんの質が高いから自分も勉強ができそう」というふうに、自分のキャリアステップや自己実現につながるところを選んでいるというのは、1つ見えているところではあります。

実行体制は10年前から変わらない「砂時計モデル」

こういう人手不足の状況の中で最近よく目にする・耳にする動きというのは、「お店を閉めちゃう」と。お店を閉めて従業員の休みを確保して、なんとか辞めないようにしていこうと。こういう事例は、最近たくさん出ています。大変勇気のある決断だと思います。

ただ、事業の目的から見れば、これって明らかに苦渋の決断だと思います。なにも喜んで閉めたいわけじゃなく、そうするべきだ、そうせざるを得ないと思って閉めていると。ほかになにかやり方がないんだっけ、というのは恐らくみなさんが感じているところかと思います。

視点を変えて、この今の状況を組織のあり方の観点で見ると、実は私もいろいろな企業様とずっといろいろなお付き合いをしていますけれども……戦略がどんどん複雑になって、1つの施策の効果はどんどん短くなってどんどん難しくなっている。

それにも関わらず、今ここでは「実行マネジメント」と呼ばせていただきますけれども、組織的に実行する仕掛けは、実はけっこう変わっていない。10年前も今もそんなに変わってないかな、というのが私の体感です。

チェーンビジネスをやっていらっしゃる方だったら、イメージの湧く話だと思うんですけれども、店長さんを全国から1ヶ所に、あるいは数ヶ所に集めて、月1回店長会議をやると。そこで大事な施策を落とす。「こういうことやってね」と。そこから先、お店に帰ったら、「あとは君に任せた、よろしくね」と。

でも、実際はサービスを提供するのは、このお店にいるスタッフさんなんですね。けれども、スタッフさんへのアプローチは直接ではなくて、「あとは店長の君がよろしく」という状態になっているのが実態です。

これを店長の視点で見るとどういう景色になるかというと、右側の絵に描いてあるんですけれども。この現場のミドル層には、本部のあらゆる部署からいろいろな情報が落ちてくる。「あれやりなさい」「これやりなさい」「これはダメだ」「これはやれ」と、こういうものがたくさん落ちてくる。それをお店で働く一人ひとりにちゃんと伝えなきゃいけない。

まさに砂時計のくびれ部分のようにコミュニケーションハブになっているわけですね。ここが太いと情報がだーんと落ちるんですけれども、細いとちょろちょろとしか落ちない。ここが1つ組織運営上のボトルネックになっているというのが、今の状況かなと感じています。

働き手と組織の視点から見る「3つの課題」

今までの話をまとめますと、まず1つ目。ワニの口はどんどん開く。つまり、現場は忙しくて余裕がない。この状況で、「長期的視点だけの教育は実行されない」と書きました。

例えば「挨拶って本当はもっとこうだよね」とか、「もっと丁寧にお辞儀しなさいよ」という話って、わかってはいるんだけども、なかなか「忙しい中、そんなことをやっていられないです」というリアクションが返ってくるんですね。

具体的な成果につながるものじゃないと、今の時代はなかなかやってもらえなくなっている、ということが1つ言えるかと思います。

2つ目めには、働き手の視点で見ると、先ほど申し上げたとおり、働く側が選ぶ時代なので、成長実感、貢献実感をいかに働き手に持たせるか。これがとても大事になります。

3つ目に組織の視点で見ると、ボトルネックはミドル層なので、ここの負担を緩和するような仕掛けじゃないと、今のこの人手不足の、ワニの口が開いている中で生き残るのはなかなか難しいというふうに感じています。

それら3つを満たすのは非常に都合のいい話で、「そんなうまい話あるのか」ということになってくるかと思います。

ここで「ないです」と言うと、この話はここで終わりになっちゃうんですけれども。「そうじゃない」と言うために私はここに立っています。ClipLineというのは、まさにそういうことを解消するために作ったツールです。

ClipLineは個人の成長実感と事業の成果を創出する

よく「動画を使って教育・コミュニケーションをするツールです」と言うと、「あぁ、eラーニングですね」と言われることがあります。我々はそれとはちょっと違う、というふうに言っています。eラーニングというのは、基本的に知識を身につけるものだと思います。ただ、例えば野球やサッカーをeラーニングで勉強する人は、あんまりいないんじゃないかなと思います。

これはなぜかというと、私は、身体動作を伴うからだと考えています。サービス業がどういうことをやっているかというと、やっぱり身体動作なんじゃないか。つまり最終的には、サービスを提供する人が体を動かしてサービスを提供すると。であれば、知識を身につけるだけでは足りないこともあるんじゃないのかな、というのが我々のスタンスです。

「あぁ、動画マニュアルですね」という見られ方をすることもあります。当たっている部分もあるんですけれども、それだけではないというのが我々の特徴です。動画マニュアルは、「正しい姿はこうですよ」ということは教えてくれるんですけれども、だからといって「あなたのここが違うんだ、こういうふうにやるとうまくいくんだよ」ということを教えてくれるわけではない。教材であって教育ではない、というのが動画マニュアルです。

そのほかで言いますと、最近「カメラを使って遠隔で状況把握をします」という仕掛けもたくさん出ています。大変便利なツールだと思うんですけれども、これは動画マニュアルとは逆に、「今こうなってるよ」という現状は伝えてくれます。でも、どうやって良くしたらいいんですか、ということを教えてくれるわけではない。

ということで、「できるようになる」ということに着目すると、(スライドを指して)これらのツールではまだ足りないものがあるんじゃないでしょうか、と。我々ClipLineは、その「できるようになる」というところを1つ、ポイントに置いています。

働く人が「できるようになる」。そうすると成果が出る。成果が出ると、個人の成長実感と、事業としての実際の果実を得ることができます。そういう幸福な関係に持っていくことができますよ、というのが我々が提供させていただいているサービスの、ある意味売りになっている部分です。

企業が永続的に成長するための重要な概念

このClipLineなんですけれども、もともと私がコンサルティングをやっていたときからずっと提供しているサービスとしては、「シックス・シグマ」という経営改革指標がございます。

これは、経営課題に直結するプロジェクトのテーマを選定して、リーダーをアサインして課題解決を行います。この課題解決を行き当たりばったりではなくて、再現可能な型を持たせて実行させる。そうすると、このリーダーが次のリーダーを育てることができるようになります。

そうすることで、これをずーっとぐるぐる回していくと、課題解決力の拡大・再生産が図られるということで、永続的に企業が成長できますよと。こういうことをずっとやっておりました。

ここで1つ注目する概念が、「ばらつきに着目」というところです。これは店舗展開しているビジネスで例えて言うならば、必ずうまいやり方をやっている人はどこかにいるんですよね。そのうまいやり方を抽出して、誰でもできるかたちに再構築して、それを展開する。そういうことをとても大事な概念として、シックス・シグマの中でもやっていました。

これってまさに、野中郁次郎先生がお話しになったSECIモデルにかなり近しいんじゃないかと、我々は勝手に感じていまして。このSECIモデルというものをエッセンスとして、ClipLineというツールを作らせていただきました。

かなりコンセプチュアルな話が続いているので、実物もご覧いただきたいなと思っています。1つ、外国人教育というものをテーマにご紹介したいと思っています。先ほどからずっと繰り返しになっているんですけれども、世の中全体が人手不足という中で、入管法の改正もありまして、外国人の方にいかに活躍いただくかというのは、今けっこう重要なテーマになってきています。

ただ一方で、やはりコミュニケーションの難しさなどもありますので、入れたら勝手に働いてくれるというわけにいかない。そこにはそれなりの準備がないと。成功と失敗には分かれ道がありますよ、という話なので、今さまざまな企業さんで、相当力を入れてやっていらっしゃるかと思います。

このClipLineを使って、外国人をより戦力にしていくということを考えたときに、どんなイメージなのかというのを、実物も交えながらご紹介したいと思います。ここから、遠藤にバトンタッチをさせていただきます。

サービス業界が外国人労働者に寄せる期待の高さ

遠藤倫生氏:遠藤と申します、よろしくお願いいたします。冒頭、高橋からANNニュースの引用がありましたが、先日記者発表会を行いまして。先月、外国人労働者の教育に関する実態調査の結果を発表いたしました。私のパートの前半でご紹介いたします。

先月、全国の100店舗以上のサービス業にお勤めで、現在外国人を指導していらっしゃる正社員の方309名に調査いたしました。お手元の配布資料に主要なポイントをまとめたダイジェストがございます。ぜひご覧ください。

ご覧いただきつつ、今日はぜひみなさんにお伝えしたいことが1つあります。すごくポジティブな回答が得られました。309サンプルの約8割で、「外国人の受け入れに前向きである」と回答をいただきました。一方で、そのうち6割が不安を感じていらっしゃると。恐らくは受け入れ態勢が万全でないですとか、外国人との文化や言語の違いによるコミュニケーションの問題などを憂慮された結果なのかなと思っております。

外国人労働者の良いところについて聞いたところ、「言語力」と「勤務態度」を評価する回答が多く集まりました。これも非常にポジティブだなと思いました。例えば、インバウンド対応に有利な外国語の語学力、あるいは真面目な勤務態度など、外国人のスタッフの方々に対して期待感が大きいことをうかがわせます。

そして、現在外国人スタッフにどのような方法で教育を行っているかを聞きました。依然として現場でのOJTが85パーセント。マニュアルを用いた指導が50パーセント。これは、日本人に対する教育と同じような回答結果になっているんですけども。

一方で、今後取り入れたい方法としては、今申し上げた2項目は減少傾向にあります。システムの導入、そして集合研修といった、現場に頼らない指導が望まれていることがわかります。

外国人の新人が独り立ちするまでに必要な指導時間について、アンケート調査をもとに推計をいたしました。独り立ちまでに平均で、日本人より2割多い時間を使っているという回答が得られました。

日本全体の外国人の教育コストは、年間約1,270億円

以上の調査結果より、外国人1人当たりの教育人件費というものを、約25万円と算出しております。その根拠なんですけど、さっき休憩時間に流した吉野家様のお話で、「OJTというのは教える側と教わる側、人件費が2倍かかってるんだぞ」というものがありましたけれど、この25万円の根拠もそういうかたちです。

外国人の教わっている被教育時間×平均の時給、そして日本人を中心とする、指導層が教える時間×平均の時給。約1,600円と置いています。そして、合算しまして25万円。

こちらを我が国全体の外国人教育コストとして考えてみますと、一人当たり25万円×72万人。内訳は、当社が定義する多店舗展開サービス業に該当する業種で現在働いてらっしゃる外国出身の方に加えて、入管法改正後、同じく当社が定義するサービス業での最大受け入れ枠の21万人を加えまして72万人。そして掛け算して1,800億円。

独り立ちまでの平均期間が1年5ヶ月ですので、それで割って年間1,270億円。OJTを中心にして、それくらい人件費がかかっているのであろうという試算が具体的にできました。調査パートをまとめさせていただきますと、今回私たちの調査は現場、もしくは現場に近いところで、外国出身者を現在指導中の方309サンプルを集めました。

年末年始に類似の調査が出まして、例えば人事部の担当者をサンプルにした調査では、逆の回答結果が出ています。外国人受け入れには消極的、という結果です。最大の違いは、我々は現場に近いところから回答を集めたということかなと思っております。結果として、極めてポジティブな回答が得られました。8割が外国人雇用に前向き。一方で、うち6割が不安を抱えていらっしゃる。

得られる示唆としては、日本人よりも教育に工数がかかることは間違いないのかなと。従って、外国人の早期の立ち上げ、そして定着ができるかどうかが、今後のサービス業の競争優位のポイントになるんじゃないかと我々は考えます。そして、今この時代だからこそ、既存の教育の仕組みを見直して、アップデートする絶好の機会が来ているんじゃないかとも考えております。