「お前のせいだ」と言うと、信頼関係は終わってしまう

染谷拓郎氏(以下、染谷):それではそろそろ、今日来ていただいているみなさんにも、いくつか質問をいただけたらと思います。お二人や今日のこの場に質問がある方、いらっしゃいませんでしょうか? はい、どうぞ。

質問者1:1つ目は、工事の期間が長くて、1年くらいあるじゃないですか。そのときに、この人に任せて大丈夫なのかなとか、決済が下りなくて本当に話が進むんだろうかとか、そういう気持ちがあるのかなと。そこでお互いの信頼関係はどうやったら続いていくのかなって。

2つ目は、箱根本箱の建物(日本出版販売株式会社の保養所)はすごく壊しにくかった、というのがあると思うんですけれど、なぜそこを選んだのかなというのがあります。

染谷:1つ目の信頼関係については「プロジェクトをとにかく早く進めたい」というのは、関係者は誰もがそれぞれの立場で、それぞれの目線で思っていたことです。もちろん僕も、とにかくどんどん進めたいなと思っていました。

ただ、それがいろいろな外的要因で進まなくなったときに、たとえば岩佐さんが何かあったらからプロジェクトが遅れたとか、海法さんが何かあったから遅れたとかじゃなくて、いろいろな外的要因が複雑に絡み合って遅れていると。あるいは止まっちゃう。

あとは、日販の社内で進められていない部分があって、止まっちゃったということもあったので、一概に「お前のせいだ!」とはならない状況にあったんですよね。

「お前のせいだ」と言っちゃうと、終わっちゃうじゃないですか。私たちとしては、岩佐さんと海法さんにお願いしてお任せして、どんどん進めていって、僕らも「できることは全部やります」と言っているので。それがどこかで信じられなくなっちゃうと、急に空気も悪くなるし、プロジェクトがストンと終わっちゃうので。

腹の中でどう思ってるかとかは、そのときはいろいろありましたけど、それは置いといて、とにかく事業を進めていくパートナーとして、一緒にがんばっていきましょう、というところでやらないといけない。そこはもう、やるしかないというモードに、自分をモーションさせているところはあったと思います。

岩佐さんとしては、日販のスピードの遅さはどう思いましたか? これは言いづらい部分もあるかもしれませんが。

根底にあるのは「どうやって共にやっていくか」

岩佐十良氏(以下、岩佐):言いづらくはないけど。むしろ、日販はよくうちに任せたと思いますよ。

染谷:それはそうかもしれませんね。

岩佐:日販という巨大流通企業ですよ。それがうちみたいな小さな会社によく任せたなと。もう1つ、日販がすごいなと思ったのは、これは決まる前も後も、決定には時間かかりましたけれども、その決定の前後で、計画に対する大幅な茶々入れがほどんどないんですよ。もちろん最初に若干はありますけど。

大きな会社ですから、いろいろな人のいろいろな意見があって、たぶん役員会とかでも相当な議論がされているのは、だいたい想像がつくわけですよ。それでも、僕が立てた基本的なプランに対して、ほぼほぼ修正はない。時間はかかったけれども。

その後、進み始めてからも「あれやってほしい」「これやってほしい」「こんなことをしてほしい」「こんなのなかったら絶対まずい」というのもない。運営上やプランニング上の話まで、全部任せてもらってるんですね。

そのパートナー関係が極めてよい状態にあって。これが「これを、あれを」とやってると、しっちゃかめっちゃかになる。だいたい、その手のやつでできあがったものは「なんだこれ?」ということになってしまって。

これは出版の取次会社だからこその特性でしょうね。雑誌の仕入れでも「出版社のやろうとしていることをどうやって支援するか」「どうやって共にやっていくか」という考え方が日販の根底にはあるので、一般的な効率やコストばかりを考える流通業とはちょっと違う感じがしますね。

よくわからないものは批判しにくい

質問者2:染谷さんはサラリーマンですよね。(海法さんと岩佐さんの)お二方はサラリーマンじゃないと思うんですけれど、現場の論理と経営の論理は違いますよね。今言われていたのは、会社としてでしょうか? チームとしてのお話でしょうか?

染谷:私を含めてこのメンバー3人のプロジェクトチームで、正社員を含めて5人でやっていて、僕らで受け止めるんです。上の人たちを通すときには、見え方を変える。「こっちから覗くとこうですよね」とか。なにか言われてもいなす。

そこの真ん中にいながら、もちろん会社として上席のみなさんに意見いただいて、調整いただいてというところはあるので、そこはまさに見え方を変える。

言語を変えつつ、うまく通していくところが、すごく時間がかかりましたし、すごく苦労しました。なにかこうダイナミズムというか。「現場で起きてるんじゃないんだ」みたいなね。事件は会議室で起きている(笑)。

(会場笑)

質問者2:最終的に本箱ができあがって、上席の方々が見たときに「よかったね」ってならないと思うんですよ。なったんでしょうか?

染谷:そこはもちろん「こうしたほうがいいよ」といったアドバイスは言ってくださいますけど、茶々入れみたいな感じにはならなかった印象があります。

質問者2:偉い方は最終的に、売り上げや商売として成り立っているかを重視するんじゃないかと思うんです。

染谷:収支で言っても、今はたくさん予約が入っていますけれど、いろいろ投資がかかっていたりして、まだまだ収支で見ると安定しない中で、ムードみたいなところが変わってきたのはなんとなく感じます。今、会社的にそういうふうになっていて。

事業性で見たときに、紙面や数字だけで見るところはもちろんある。でも、飛びぬけすぎというか、人はわからないものになると「とりあえず、よかったじゃん」という印象になる気がするんですよ。

だから、僕のキャラクターも含めて、ある意味はずれ過ぎちゃっているのがよかったのかも。

信頼関係があるからこそ本気でやる

岩佐:この中で出版業界の部決(部数決定)を知っている人って、どれくらいいますか? 

(会場挙手)

けっこういますね。部数って、出版社が取次の仕入れ担当者に掛け合って決めるんですが、出版社側は「今回の特集はこんなところに力を入れたので、多めに書店に並べたいんです」とか言うと、仕入れ担当者は「なるほど、そういう特集は東京や大阪のビジネス街で売れる傾向があるから、そういうところを厚くしましょうか」とか、そういうやりとりを多角的にしているんです。

要はね、日販さんにしてもトーハンさんにしても、出版社の言うことをまず聞くじゃないですか。そしてそんなに言うんだったら(部数を)取ろうか、みたいなところがあるじゃないですか。

今回のプロジェクトをやって、僕は、日販という会社の中に商品に対する信頼度というものはあるんだなと思いました。一般的な流通業って「売れるの? 売れないの?」という話になりますよね。「儲かるの? 儲からないの?」という。

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