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What's the Most Bitter Chemical?(全1記事)

Nintendo Switchのゲームソフトは苦い? 驚異の苦味成分「デナトニウム」の真実

苦味というものは本来、人間が不快感を抱く味覚成分です。この苦味、意外にもさまざまなシーンに活用されることがわかりました。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、もっとも苦いと言われる「デナトニウム」の効能を紹介しています。

とんでもなく苦い「デナトニウム」の不思議

オリビア・ゴードン氏:生のブロッコリーやケールなどをかじって、苦いと驚いたことはありませんか? そのような苦味を何倍も何十倍も強くした時の味が、人類が知る中でもっとも苦い物質「デナトニウム」の味です。しかも、この物質は偶然発見されたのです。

1958年、あるスコットランドの製薬会社の研究者たちが局所麻酔薬リドカインの実験をしていました。この薬剤は日焼けによる痛みを抑えるためのジェルにも含まれていますので、みなさんも聞いたことがあるかもしれません。

またこの薬剤は医者や歯医者によく使われます。なぜならこの薬剤をちょっと注入するだけで局部麻酔がしっかりかかるからです。この薬剤は神経中にあるナトリウムイオンが行き来するチャンネルを止めることができます。このナトリウムチャンネルが正しく開閉できなくなると、神経は痛みの信号を脳へ送ることができなくなってしまいます。でも、そのおかげで、親知らずを抜く時に一体何が起きているのかを知らずに済むのです。

リドカインが非常に便利なので、研究者たちはこれに似た物質でもっとよく効くものがないかと探してきました。しかしこの物質に「ベンジル系」の物質を加えたところ、「デナトニウム」という全く異なる物質になったのです。

これは麻酔に使えるより良い物質ではありませんが、異なる種類のタンパク質と結合する上で、リドカインよりも良い働きをしました。このタンパク質とは「味覚受容体」のことです。特にデナトニウムは「TAS2R」と呼ばれ、苦い味を受容する「苦味受容体」と結合します。

人間は40以上の異なる「苦味受容体」を持っていますが、その中でもいくつかがデナトニウムと結合します。しかしそれが苦味の原因であるとは言い切れません。

科学者たちはデナトニウムがリドカインのような働きを維持し、イオンチャンネルをブロックするので、非常に苦い味を作り出すのだと考えています。しかしそれもはっきりとしていません。はっきりとわかっているのは、これがとんでもないほど苦いということです。

ゲームソフトにも苦味成分が使用された理由

デナトニウムから「ビトレックス」という商品が作られ、半世紀の中で最も苦い物質であるというギネス記録をもらいました。人間はこの物質の入った、数ppmといった非常に濃度の低い溶液でも苦味を感じることができます。角砂糖一粒サイズのデナトニウムがオリンピックサイズの競泳プールにはった水を苦くすることができてしまうのです。

しかもこの物質は、知らないうちにあなたの家の中にもあるかもしれません。これは無味無臭ですので、物の見た目や匂いを変えることはありません。苦いことを除けば、この物質は非反応性、非毒性で、水や他の化学成分で破壊されることもありません。

ですから、人間が飲み込んではいけない物に付けるのにぴったりなのです。もしかしたら、みなさんは2017年に大騒ぎになったニュースを聞いたことがあるかもしれません。Nintendo Switchのゲームソフトを発売した時、そのソフトにデナトニウムで味をつけてあったのですが、多くの人がそのことに気がついたのです。

私には、いい大人が任天堂ゲームを舐めるに至った理由を疑問視しています。また、この物質は爪を噛む癖がある人がそれをやめるように作られた特別なネイルポリッシュにも含まれます。

また、とくに子どこたちが誤飲しないように、液体洗剤や工業用アルコール、不凍液などにも含まれています。ネズミ用の毒エサにも含まれていますが、ネズミの舌はデナトニウムに対して、人間の3万倍反応が鈍いので、ネズミにとってこの物質はなんということはありません。

しかもこの物質の与える影響は舌に限られたわけではありません。人間には内臓にもにたような味覚受容体があり、科学者はデナトニウム溶液を直接胃に注入すると消化のプロセスを遅くすることができ、お腹がいっぱいになったような感覚にし、血糖値を下げることができるのを発見しました。それで彼らはデナトニウムやそれに似た物質が、食べ過ぎや糖尿病の治療に役に立たないかと研究しています。

それに、味覚受容体は気道の平らな筋肉にもあるので、デナトニウムを吸い込むと気管支が拡張し、気道が広がるので空気がよく流れるようになります。それで、デナトニウムのさらなる研究により、呼吸を楽にするのにも用いられないかとも考えられています。

このように、非常に苦い物質にこんなにもたくさんの素晴らしい使い道があったのです。あんなにも不快な物質から、こんなにも良いものが出てくるとは誰が想像できたでしょうか?

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