“ミニマル思考”から生まれた、単機能の練習用ギターアンプ
多機能すぎる「なんでもできるプロダクト」の弊害

ミニマル思考のモノ創り〜「欲しくない」というニーズにどう向き合うか

2018年7月7日、株式会社フリークアウト にて「プロダクトオーナー祭り 2018 Summer ~プロダクトマネジメントが世界をツナぐ~」が開催されました。IT関連企業に所属するソフトウェア開発のプロダクトマネージャーやプロダクトオーナーを中心に、それぞれが携わるプロダクトの価値や、マネージャーとしての体験談など、幅広い観点からライトニングトークが繰り広げられました。本記事では、株式会社コルグ 技術開発部 マネージャー 河村裕司氏によるLT「ミニマル思考のモノ創り〜「欲しくない」というニーズにどう向き合うか」の模様をお送りします。

「ミニマル思考によるモノ創り」の考え方

河村裕司氏:こんにちは、株式会社コルグの河村裕司と申します。コルグっていう会社をご存知の方いらっしゃいます?

(会場挙手)

あ、意外にけっこういらっしゃる。コルグは電子ピアノやPA機器など電子音楽機器のメーカーです。ギターアンプやシンセサイザーをつくったり、あとパソコンやタブレット、スマートフォンのアプリケーションなどもつくってます。

僕はそこで、プロダクトプランナーおよび開発チームのマネージャーをしており、中小企業診断士として外の企業さまに対して経営コンサルティングをしたりもします。

今日お話しする「ミニマル思考のモノ創り」とは、モノづくりの話です。ハードウェアの事例を挙げさせてもらいますけど、ソフトウェアとかアプリケーション開発ともオーバーラップしてくる話です。

まず、メーカーを取り巻く環境を1回おさらいしたいと思います。大きく3つ特徴がありまして、まず「限界費用の低減」。限界費用をご存知の方もいらっしゃると思いますけど、なにかモノを追加するときに、追加的に発生する費用のことですね。この限界費用が低減しています。

それはメモリーが低価格化していったりとか、マイコンやDSP(digital signal processor)が高速化していっていて、複数の重い処理も容易に扱うことができるようになったことが関係しています。さらに、液晶モジュールが低価格化しているので、増えた機能に対してメニューの階層を足せば、機能を足しても部品代はかからないんですね。そうやってハードウェアも、ソフトウェア的な進化をすることが可能になってきました。

次が「ソリューションの多様化」。これは今までの積み重ねもありますけど、多用かつ複雑な技術が実用化されています。さらには最先端の技術ですらオープンソース化されていたり、それらをプロトタイプでを検証するといった、精度の高いモノづくりが今日では可能となってます。

続いてが「ニーズの多様化」。情報化社会といわれて久しいですけど、たいがいの情報が国外から入ってきます。その情報は、現在ではコミュニティを経由して、細かなニーズへと分散していきます。

進化しすぎてパソコンを必要としはじめたエフェクター

結果、高度なモノが簡単につくれるようになり、お客さんもいろんなモノが欲しいと言ってる中で、作り手にとってやっかいなのが「なんでもできる、みんなのためのプロダクト」っていう誘惑なんですよね。

多くのメーカーが、「なんでもできる、みんなのためのプロダクト」に取り組んできました。これがやっかいです。実際に便利になってるのかを考えたときに、例えば家にあるテレビのリモコンを考えてみてください。スイッチがいっぱいありますが、実際は2割ぐらいしか使っていない。例えばなんでもつくれるオーブンレンジ。自分の奥さんがどんな料理につかっているか知っていますか? 実は晩ごはんあっためてるだけだったりしませんか?

僕たち楽器業界も多分にもれず、壁にぶち当たっています。僕もいっぱい失敗しましたし、幸いその壁を乗り越えて成功した製品もあります。そういった経験をふまえながら、今日は「ミニマル思考のモノ創り」と、それに有効な考え方を紹介できるかなと思いました。

楽器業界には、なんでもできるエフェクターというものがあります。なんでもできるって、実は皮肉っているんですけど(笑)。エフェクターっていうのは、音を加工する機械です。残響音を加えたり、山びこ返しをしたり、低音を持ち上げて重みのある音にしたり、そういったことをする音響機器です。

いろいろな種類のエフェクターが世界中にありまして、そういったものがプログラミングで再現できて、いい素材がいっぱい入っています。あらゆる効果(エフェクト)が膨大に入っているにも関わらず、さらに自分好みにカスタマイズできますし、マイクすらつながる。

そうして、いろんな種類のエフェクトも同時に立ち上げることができるようになりました。(スライドを指しながら)でも、複雑になったので、パソコンを使わなければいけません。パソコン用エディターが付属しているんです。それを使うと録音もできます。エフェクターなのに。

なんでもできるギターアンプというのもあるんですが、似たようなものです。さらに極めつけは、アップデート。継続的なファームウェアアップデートができて、進化に終わりがないことを示唆しています。

「なんでもできるプロダクト」はどうやって生まれるのか

(スライドを指しながら)「なんでもできるプロダクト」がどうやって生まれるのか、そのメカニズムでひも解いていきます。この図は、有名な「イノベーションのジレンマ」です。

この図が指しているのは、技術によって実現可能な性能の水準と、ユーザーが要求する性能の水準が、ステージへの導入期から成熟期以降で逆転しますよってことですね。

(図を指しながら)ここから逆転します。前半の導入期は、実現可能な技術がユーザーの要求に追いついていない。だから、どんどんどんどん機能を足していく。それでいいんです。例えば、AI関連製品とか自動運転は、まだまだこのフェイズなのかなと思います。

そして後半は逆転します。ユーザーの要求が頭打ちといった状態ですね。この段階においてどんどん機能を足していくとどうなるかというと、いわゆるオーバースペックという状態です。楽器だと、例えば、アコースティックピアノとかウクレレなんかもこういったフェイズにありますね。スマホ本体もこの辺に入り始めていっていわれてますかね。

ここで何をするかというと、考え方をシフトさせる。前半は「マキシマム思考」って私は呼んでいるんですけど、後半では「ミニマル思考」が活きてきます。そういう考え方でモノをつくってます。

このステージでは機能を足すだけではなく、補完サービスに目を向けてホールプロダクトのあり方を考え直したり、ユーザーを再定義するといった違った視点で、機能に代表される定量的価値から、感情や情緒など定性的的な価値をより深く考えるようにシフトします。

なんでもできるのは、なんにもできないのと同じ

ここで重要なのが、提供すべき技術は直線的じゃないんですね。マキシマム思考からミニマル思考に入っていくところで逓減している。ここは結構大事です。

じゃあ、なぜなんでもできるプロダクトをつくってしまうのか? プランナーの行動に着目しましょう。まず「イノベーションは茨の道」。何か新しいことをしようとすると、既存の価値観を壊そうとするので、必ず反発が来るんですね。それは大変です。

競合比較表はまだまだいろんな会社で使われてますけど、データの積み重ねですから安心なんですね。データには信頼され続けてきた長い歴史があるから。だからプランナーはデータで示したいし、示された人も安心する。

でもそのデータって、よく考えてみるとベンチマークの対象は結局人が選んだものです。項目が増えるのと減るの、どっちがいいのかはわからない。項目毎の重み付けも不明。やっぱりよく分からないんです。

そしてプランナー自身、こういう調査をやるので自信がなくなっていきます。組織にいる人には理解しやすいかもしれないですけど、短期的な成果を得たい。だから結局イノベーションを諦めて、競合比較表をつくって合意を得て、それで終わり。

じゃあ、なんでもできるプロダクトの弊害はなんなのか? 「なんでもできるは、なんにもできない」ってウチの会長がよく言ってるんですけど、まさにその通りで、商品コンセプトが希釈化すると、誰のための製品なのかわからなくなります。ユーザーがモノを選ぶときに、それが本当に自分のためのものなのかが分からなくなります。

「なんでもできるプロダクト」の弊害

いろんな機能がいっぱい搭載されれば、ユーザーが行動を起こすたびにそれらを比較して、選択して、それらを使う手順を考える。行動を起こすたびに強いられることでストレスが溜まって、UXが低下します。

その製品の評価項目も総花的になって、不良率は増大します。それによって開発期間も伸びる。これがなんでもできるプロダクトの弊害です。では、ミニマルフェイズにおいてはどういった視点を持つべきか。

マキシマムフェイズのニーズの源泉は、何かが「欲しい」。それを捉えるべきプランナーの視点は、プロダクトとは何が「できるべき」なのか。これがミニマルフェイズに入ったときに、ニーズは一変します。

なくてもいい、やりたいんじゃなくてやらずに済ませたいといった具合に変わります。プロダクトの価値っていうのは、「やらなくていい」ことだったりします。やらないで機能を少なくし、簡単にしようという視点でのモノづくりが価値を帯びたりもします。

それで僕が考えた商品が、ミニマルフェイズ期における『mini-KP(mini kaoss pad)』っていう指一本で操作できるエフェクターです。これをつくるときに、ルールを決めたんです。

液晶ディスプレイはやめる。スイッチは3つまで。ノブも1個まで。この極端な制約の中でエフェクターつくれないかなと。これはタッチパッドが便利で、XとYの軸で2つのパラメーターを視覚的に、しかも同時に動かせるんですね。タッチパッドなので、「押す」「離す」のパラメーターも検出できる。合計3つのパラメーターを同時に一つのパッドで検出できる。この使い勝手がいいんです。

先ほどエフェクターは裏方の装置っていいましたが、このmini-KP以降、ミュージシャンがステージ上で曲に合わせて残響音をコントロールしたり、ギタリストがギターに貼り付ける方が現れたりもしました。こうしてミュージシャンのための楽器的なエフェクターとして評価いただけました。

次の例は「amPlug」です。これは「なんでもできるギターアンプはやめましょう」というものです。練習しかできないギターアンプでいいんじゃないってことで、スピーカーもなくしちゃったんです。スピーカーキャビネットもなくして、ギターの入力端子すらありません。この製品をギターの出力ジャックに差し込むんです。そしてヘッドフォンで音を聞く。そういったギターアンプです。

これは類をみないもので、ライブでの使い勝手が良いものではないし、録音にも使えない。でも、練習するのにこれほど便利なものはない。ポケットに入れて持ち運べばいいわけなんですから。

マキシマム思考からミニマル思考へ

最後におさらいです。マキシマム思考からミニマル思考に移るフェーズにおいて、取るべき行動とはなにか。まず、市場調査によるデータに頼るだけでなく、ユーザー調査で人を見ましょうということです。

そして、ビッグデータを使ったサンプル数の重視ではなく、一人ひとりの「人間」を徹底的に深度重視で追及していくこと。「この人は誰と生活しているのか?」「いくら予算もってるのか?」「何を見てこの商品を買うのか?」「なんでその情報を信頼しようと思ったのか?」といったことです。 

そして「分析主義」から「経験主義」へ。分析するのも大事なんですけど、自分の経験とかユーザーの経験をより大事にする。「咄嗟的」ではなくて「文脈的」。ユーザーのストーリーボードみたいなもんですね。

「Not To Doリスト」というか、何をやるかと同じぐらい、最初から何をやらないかを決めておく必要があります。

以上が僕のプレゼンテーションでした。このあともここにいますので、何かありましたらお声掛けください。ありがとうございました。

(会場拍手)

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