今後の「Tellus」に期待すること

小笠原治氏(以下、小笠原):これまではそれぞれ、どうして衛星をテーマとしているのかを話していただきました。今度は「Tellusに期待するところ」を話していきたいなと思います。

4人とも、それぞれ各人でかなり喋れる人たちばっかりだと思います(笑)。本来はお一人で、ある程度ビジネスについて語れるとは思うんですが、まずは夏野さんに、「Tellusに期待すること」という視点で、なにかご意見をいただけないでしょうか。

夏野剛氏(以下、夏野):Tellusというものは、アプリケーションがたくさん乗ってきてこそTellusなので、基礎的なデータのところは、なるべく使いやすいプラットフォームとして整備していく。逆に、そこにどれだけアプリケーションが乗ってくるかが勝負なんですね。

ただし、アプリケーションと言っても、BtoBtoCみたいなものや、BtoBtoEみたいなもの、BtoCなど、いろいろあると思います。そこは供給側があまり限定したり、「典型的にはこうですね」とはしないで、なるべく自由に、いろいろなものが乗ってきてほしい。

少なくとも今は利用料はフリーです。その間になにかビジネス基盤を作ってくれるところまでいくといいなと期待しています。

小笠原:そうですね。わりと強烈なプレッシャーではありつつも、もともと、この事業自体が、3年後には民営化することを前提に始まっています。僕らも必死でビジネスモデルを深掘りしていかないといけないと思っています(笑)。ありがとうございます。福野さん、Tellusに期待するところについてはいかがでしょう。

福野泰介氏(以下、福野):「小学生でも使えるように」ということは、(さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の)田中邦裕社長からもお話しがありました。

私がIchigoJamを作って、子どもたちにプログラムを教えていると、サクッと卒業して、PythonやJavaScriptなどを使い出すんですね。そんな時に、TellusからのAPIがサクッと使える……例えば、自分の周りにはどこに消火栓があるかですが、探してないだけで、消火栓が4,000ヶ所あるんですよ。

小笠原:そんなにあるんですか?

福野:そんなにあるんですよ。その4,000ヶ所の位置情報を、鯖江市はオープンデザインしているんですけど、それを整備するのに10ヶ月かかっているんです、人手で。そういうことは衛星でやろうよと。消火栓っぽいところは赤く見えると思うんですよね。正しくないかもしれませんけど、そういうものをAPI化して、まず出すと。

それを、子どもたちが自分で作った端末を持って、実際にあるとかないとか調べに行って、ちょっとゲームっぽくすると、街がどんどん楽しく便利になるんじゃないかなと思います。そういうところを繋ぐものを作りたいですね。

小笠原:いいですね。やっぱり、難しいとか時間がかかるとか、そういうことを楽しくすることで早く、よりよくするってできますよね、きっと。

福野:はい、そう思います。

小笠原:ありがとうございます。柳原さん、どうでしょう。スライドいきますか。

日本の総力を結集すべき

柳原尚史氏(以下、柳原):私が期待しているものですけど、まず衛星データというものを扱い始めて、ものすごく難易度が高いことを痛感しています。まず、欲しいデータはどの衛星で取れるのかが、けっこう難しいんですね。

今回、Tellusに入っている、「ALOS2」「ASNARO-1」でも、LバンドとXバンドで何が映るか、何が違うのかを理解しないとわからないのは、アンフレンドリーだなと思います。

また、解析難度も高くて、データのフォーマットがバラバラで単純な画像ではなかったりして、価格も非常に高い。そういうふうに、日本でこのリモセン(リモートセンシング)マーケットがうまくいかない原因は、けっこう明確なんじゃないかと思ってます。

一方で海外では何が起きているかというと、DigitalGlobeとGoogleがくっついてGoogleマップを作っています。Planet Labsなどが150基ぐらいのコンステレーションを組んで、さらにOrbital Insightがそれを買って解析事例を作るというふうに、ビッグプレイヤーがものすごいかたちで進出してきているんですよ。これはまずい。

そこで、日本の総力を結集して、衛星を持っている人たちが必要な情報を出し合う。そして、解析できる人たちが1つのプラットフォームに集まって、どんどん事例を作っていく。

そうしたプラットフォームにしたいという中で、私自身もその解析事例を作るところで協力できればと思っています。また、期待しているところとしては、データの数をどんどん増やすことです。種類を増やすのでもいいですし、時系列的に増やすと。そういったかたちで拡張し続けることがキーになってくると思っています。

小笠原:そうですね。僕らもまだまだデータが足りないと思っていますし、委員会でもUIのことはだいぶ言っていただいています。いわゆる開発者目線で「こうだね」ではなく、もっと使いやすいものに変えていきたいです。

政府事業のわりには、アジャイルでの開発をやらせていただけているので、どんどん意見をいただければいいなと思っています。

さくらインターネットが宇宙データの根幹を担う

小笠原:種谷さん、Tellusに期待することはなんでしょうか?

種谷元隆氏(以下、種谷):先ほどもお話ししたんですけど、別の視点で言いますね。小笠原さんが言われたように、3年後にビジネスのラインに乗せていく時のイメージとして、期待することを少しお話しさせていただきます。

レベニューシェアで成り立っていく世界にしていただければなと思います。我々もそういう方向で貢献はさせていただきたいと思っています。

確かに最初は、Tellusを触ってみて「こんなデータがタダでいいんですか?」みたいなイメージがあると思います。延々とトライする分にはタダという世界があって、そこで利益が出た分は還元する仕組みに落とし込めれば、ベストかなと思っています。お金の生々しい話で申し訳ないですけど(笑)。

小笠原:いえいえ、ビジネスですから。

種谷:基本的に、4年後には1年間いくらでライセンス、みたいなものよりは、上がりに対して1回何円になるのか。また、価値を提供したら、その価値をシェアするところまで、この3年で行きつきたい思いがすごくありますし、そういう期待をしています。

小笠原:ありがとうございます。でもやっぱり……ごめんなさい、衛星は関係ないですけど、シャープさんがすごく変わってきたんですよね(笑)。

(会場笑)

今みたいな話が出てくるということ自体がすごいというか。

種谷:すいません、私が宇宙人なのかもしれないですね。

小笠原:いやいや(笑)。本当にビジネスモデル……これは勝負をかけないといけないですよね。先ほど「ビッグプレイヤーが」という話があったんですけど、BtoBのビッグプレイヤーの方々も、いまは一部で儲かっているぐらいで、まだまだ彼らでさえ、ビジネスモデルがしっかりできあがっていないと思っています。

さくらインターネットというデータセンター事業者が、こういう衛星データの事業に入っていく。データを解析するには絶対にコンピューティングが必要ですから、我々は今までどおり、コンピューティングを提供していきながら、こういった衛星データを利活用していただこうと思っています。

もしかしたら、僕らもモデルを変えて、例えばデータは全部無料なんだけど、コンピューティングを使っていただいた料金の一部はデータの保有者にお戻ししたり、もしくはアルゴリズムを出してくれた方にお戻しすることも考えられると思っています。ありがとうございます。

会場からも質問を受け付けたいなと思うんですが、どうですかね。何か質問したいことがある方はいますか? こういう時は、なかなか手を挙げる人がいないんですけど(笑)。

(会場挙手)

……おっ。

「sakura.io」の可能性と利活用

質問者1:いろいろとお話をありがとうございます。私もお金のことがすごく気になっていて。一元的なお金の仕組みじゃないと思うんですが、具体的にはどのような……データが生まれてくる部分の費用と、それをどうやって還元したらいいかといったバランスについても、お話を聞かせていただけるとありがたいなと思っています。

小笠原:今、バランスを決められているわけではないんですが、開発を1年間やってみて、データの取得コストはかなりかかることをすごく感じています。なので、我々Tellusとしても、地上空間のデータを独自でも集める仕組みを、来年実証していきたいなと思っています。

具体的にいうと、我々は「sakura.io(サクラアイオー)」というLTEの通信網を持っています。これに、アメダスじゃないですが、各種センサーなどを付ける。我々がデータを持って、逆にデータを出すことで、データを交換して、さまざまなデータをいただくことなどが挙げられると思います。極力、収集コストを下げつつ、コンピューティングのコストだけでそういうことがやっていける世界は考えているところですね。

質問者1:ありがとうございます。私もさっき言われたように、今までみたいに1個ずつ、お金を直接やり取りするんじゃなくて、トータルで計算していくことがものすごくいいなと思っています。さくらのIoTの部分も、ものすごく期待している部分です。

小笠原:ありがとうございます。

福野:sakura.io、あります。

(会場笑)

小笠原:あっ、そうだ。そこにも(笑)。IchigoJamだったり、福野さんが作られてるBasicが走る1,500円のマイコンには、sakura.ioというLTEの通信モジュールをつけることができます。そういう製品もあるので、例えば小学生がBasicで、TellusのAPIから衛星データを引っ張りつつ、LTEで通信して何かを作ることも、これから可能にはなるのかなと思っています。

福野:水位センサーに関して、福井県では、1基2,000万円くらいかけています。

小笠原:2,000万円?

福野:2000万円ですよ、1基で。

小笠原:そんなに?(笑)。

福野:そんなに。このIchigoSodaなら3万円で作れてしまう。

さまざまな業界の人材を巻き込むべし

福野:こうしてどんどんデータを取れるんですけど、その3万円でデータを取れるようにして、それをビジネスにするにはどうするかが悩ましいです。夏野さん、どうやって売ったらいいですかね。

(会場笑)

小笠原:社長!(笑)。

夏野:受け手、利用側にとっての価値に、どれだけチューンできるかに尽きると思うんですよね。だいたいこういうことをやると「こんなデータがあるから、これもいけるんじゃないの?」という、データありきの考え方になるんですけど、やはり利用側が重要です。

難しいところは前例がない市場なので、利用側の人も本当にそれができるかどうかよくわかってない。とくに日本のように、産業間の人材の流動性が限定的な社会で、本当にわからない産業界だと、そんなことをぜんぜん気にしないし、ずっと穴倉の中にいる感覚になりますよね。とくに流通や商業、不動産などもひどいんですけど。

だから、そこへ切り込んでいくためには、自分がどれくらい、その産業側の人間の気持ちになれるかはすごく大事かなと思ってます。

福野:なるほど。

小笠原:インターネット産業が急速に立ち上がったことは、初期に他の産業からたくさん人が来たからだと思っていて。それこそ、僕が夏野さんに初めてお会いしたのはたぶん1999年で、iモード立ち上げ時期ぐらいだと思います。あの時は出身がバラバラの人で仕事をしていましたよね。僕ももともと建築の設計士だったので、ぜんぜん違う業界から来ています。

夏野:俺も最初、ガス会社だもんね。

小笠原:ですよね(笑)。

夏野:有り得ないよね。

福野:そういう意味では、最近、火災報知器屋さんがIchigoSodaでIoT火災報知機を作ったんですね。すでに商品になっていて、商流もできている。夏野さんの言うように、いろいろな業界の人に食い込んでいくのが大事で、宇宙オープンデータも活用すべきです。

夏野:誰もいなかったら、自分でやっちゃうんだよ。セキュリティ業界もいいと思うよ。ぜんぜん動いていないから、もういっちゃおう、やっちゃおう、みたいな。

福野:切り込んでいくのはいいですね。

小笠原:いいですね。

Tellusが提示するソリューション

柳原:宇宙の方に話を戻そうと思うんですが、ユーザーが何ができるかがものすごく重要なのは同じだと思っています。例えば、SAA(南大西洋異常域)で、オイルスリック(注:海面に浮かぶ油膜)が見つかったことなどは、新しく聞く人も多いと思います。

SAAでおもしろいなと思うのは、地盤の沈下みたいなものも見つけることができるんですね。そうすると「ここらへんの道路沿いがヘコんでいる」ということも、実は衛星画像からわかったりするらしいです。ただ、今の衛星画像がうまく回らないのは、ユーザーに何に使えるかを訴求できていないところがネックになっているからです。

それが顕著なのが衛星なんじゃないかなと思っていますので、今ある衛星データから何が見つかるのかを、一般の利用者の人たちにしっかりと喚起すると、自然とエコサイクルが回るんじゃないかと思っています。ぜひ、ユーザーのニーズを喚起していきましょう。

福野:いいですね。いろいろな人に使ってもらうイベントをやりたいなと思います。

小笠原:そうですね。

種谷:いま、お話しいただいて私も感じたんですけど、結局、夏野さんの言われるように、業界ごとにタテで割られていて、隣のことはよくわからない。でも、外から見たら「こういうことに困ってるんじゃないかな」ということは、なんとなくはわかる。でも、「困ってるんです」とは言ってきてくれない世界です。

扉を叩いて「もしかしておたく、こういうことで困ってませんか」といったことを、Tellusを使ったソリューションを軽く作って、見せに行く。「実は、そういうことで困っていたんです」ということをいかに掘り起こすか。この3年の中の1年半ぐらいが、たぶん、そのフェーズなのかなと思っています。

我々も8K関係で同じような話があります。放送しか使わないと思っていたのが、実はインフラ関係で引き合いがあったり、土木関係で引き合いがあったり。それも、向こうからおっしゃっていただいたんじゃなくて、我々が仮説を立てて「こんなことで困ってるんじゃないかな」と思って行きました。

すると、さすがに仮説なのでズバリそのものではないんですけど(笑)、「こんなことはできますか」と言ってもらえるようになります。そういう場が、Tellusの中で立ち上げていければ、さらに広がると思います。

小笠原:そうですね。今のはいい意味でTellusの営業チームのプレッシャーにしたいなと思います(笑)。

種谷:申し訳ありません、いろいろな方々(笑)。

小笠原:いろいろなところを回っていただこうかなと(笑)。時間的に、あとお一人ぐらいは質問を受けられると思いますが、どうでしょう?

(会場挙手)

省庁の壁を破るきっかけになる?

質問者2:どうもありがとうございます。大変興味深い話を聞かせていただきました。先ほど、消化栓の位置のお話をお聞きしたんですけれども、例えばこのTellus自体が省庁の壁を破るきっかけになるんじゃないかと思いました。そういうことを言っちゃいけないのかもしれないんですが(笑)。

小笠原:大丈夫ですよ(笑)。

質問者2:例えば危険物は、総務省、消防庁の管轄ですが、全国のどこに危険物があるかはわからない状況です。

そういうことを考えますと、例えばそれがデータベースの中に入ることによって、いざ災害の時にも役に立ちますし、インフラというかたちにもなる。そういった類のデータが非常にたくさんあるのではないかと考えます。

そのようなかたちでTellusが、いろいろなデータをどんどん取り込むようになっていくことを非常に期待しています。よろしくお願いいたします。

小笠原:ありがとうございます。いろいろなデータという意味で、省庁の壁の意味合いではないんですけれども、民間からのデータというのも重要です。例えば、変わったところでは、今、レシートの写真を集めるアプリがあったと思います。ああいう時系列での購買情報、店舗情報のようなものがわかるデータも検討しています。

どちらかというと、「こういうデータが欲しいな」というリクエストをどんどんTellusに投げていただけると、僕らも検討しやすくなると思います。よろしくお願いします。

質問者2:どうもありがとうございます。

日本中のデータをTellusに集めたい

小笠原:みなさんから、Tellusへの期待は先ほどお話しいただきましたので、逆に「こういうことになるなよ」みたいな、厳しめのご意見をいただきつつ(笑)、この会を終わりたいと思います。種谷さんから順番にお願いできますか。

種谷:「なるなよ」という意味では、ならないとは思うんですけれども、何事も「YES」から入っていただいて、否定のない会にしていただけたらと思っています。

小笠原:ありがとうございます。否定から入らないというのは、すごく大事なことですよね。じゃあ、柳原さん。

柳原:箱物にならないで、その中のコンテンツをどんどん作っていく。そのコンテンツのよさをビジュアリゼーションなどでちゃんと伝えていく。そういうサイクルがきちんと成り立つことを阻害しないようにしながら、箱物にならないでほしいなと思っています。

小笠原:ありがとうございます。今もまだ、ぜんぜん完成したとは思っていません。この時代にバージョン1とか言っているぐらいなので(笑)。ここからどうブラッシュアップしていって、しっかり成長し続けられるかは気をつけたいと思います。ありがとうございます。福野さん、いいですか。

福野:「ガラパゴスにならない」。実はオープンデータの標準化は、もう五つ星オープンデータがWebで決まっているんですよね。その標準形式をうまく作って取り入れて、むしろその世界標準の先端を行くぐらいになってほしいと思います。「いいものだけど、日本でしか流行らないよね」みたいなかたちで終わらない、世界標準になっていくことをぜひ期待したいと思います。

小笠原:わかりました。そのへんは、具体的にご相談させていただければと思います(笑)。

福野:はい、ぜひ(笑)。

小笠原:よろしくお願いします。じゃあ最後に夏野さんから、ひと言お願いします。

夏野:画像データの中でも、極めて重い画像データをここに集約して持っています。他のプラットフォームとの連携を深めて、もしかしたらTellusが日本全部の、こういうデータのベースになるぐらいのところまで見据えてほしいなと思います。

RESAS(地域経済分析システム)とか、すごくいい試みをしているなと思っているんですけど、その試みも一緒に連携して、Tellusだけじゃない、日本全体のデータプラットフォームになってほしいと思います。

小笠原:わかりました。そこを目指して、民営化後「日本中のデータがここに集まったね」と夏野さんに言っていただけるように、がんばりたいなと思います。本日はありがとうございました。

司会者:みなさま、ありがとうございました。

(会場拍手)