衛星データをクラウド上で分析できる日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus」

司会者:それでは、あらためましてご紹介させていただきます。早稲田大学文学学術院・表象メディア論系・准教授、ドミニク・チェン様。

(会場拍手)

株式会社SPACE FILMS・代表取締役社長、高松聡様。

高松聡氏(以下、高松):よろしくお願いします。

(会場拍手)

司会者:そして、登壇者およびファシリテータとして、WIRED日本版編集長、松島倫明様。

(会場拍手)

そして、さくらインターネット株式会社、牟田梓。

(会場拍手)

以上のみなさまです。どうぞよろしくお願いいたします。

松島倫明氏(以下、松島):ありがとうございます。では、あらためまして、今日はよろしくお願いいたします。4名で進めていければと思います。

高松:よろしくお願いします。

ドミニク・チェン氏(以下、ドミニク):よろしくお願いします。

牟田梓氏(以下、牟田):よろしくお願いします。

松島:今日は「SPACE xData」ということで、当たり前になる未来の社会の話を進めていきたいと思っています。まず衛星データと「Tellus(テルース)」によってどんなワクワクするような未来がやってくるのか、かなり発想を広げながら、楽しい時間にできればいいなと思っております。

まず、簡単な自己紹介をしていきたいと思っています。最初に私からさせていただきますと、私は『WIRED』というメディアの編集長をしております。『WIRED』は、93年にアメリカで創刊された雑誌なんですけれども、テクノロジーを通して僕らのライフスタイルやカルチャーについて語る雑誌です。ちょうど去年25周年のイベントなどもあったのですが。

『WIRED』って、要するに、90年代のデジタル革命のようなものによって、これまで僕らが思っていた社会がどうやって本当に劇的に変わっていくかをずっと追いかけてきたメディアなのかなと思っています。

今日、このTellusのお話をいただいて、僕らはご一緒させていただいて。みなさんのお手元にあるかと思うんですけれども、こういった冊子も作らせていただきました。

これがすごく『WIRED』的だなと思うのは、やはり、大きく社会を変えていく1つの新しいプラットフォームが生まれている。しかも、それが今回は自由にみなさんがシェアして使えるような、そういったプラットフォームとしてTellusというものが(誕生して)。

なにか25年前にインターネットを見てワクワクしたような、そういったものがこれからまた生まれてくると、本当にちょっと違う未来を見られるのかなと思って。『WIRED』としても、この冊子を作らせていただいたのもそうですし、今日こうやってお話をするのもすごく楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします。

では、続きましてドミニクさんから、自己紹介をよろしくお願いいたします。

ウェルビーイングとデジタルテクノロジーの関係性

ドミニク:よろしくお願いします。私は今、大学の教育者であると同時に研究者をやっているんですけれども。

今一番力を入れているのが、「ウェルビーイング」という用語がありまして、「心が生き生きとしているいい状態は、いったい科学的にどう捉えられるのか?」という議論があるんですけれども、それとデジタルテクノロジーの関係性についてです。

ここ近年の間で、アメリカを中心に非常に議論が進んでいて、良い方向にも働くという研究もあるし、悪い方向にも働くという、両方があるんですね。

私たち自身はかなりテクノロジーに対する愛は深いんですけれども、それと同時に、やっぱり少し冷静な視点を持って接していかなければいけないと。常日頃から、本当に人間だけではなくて、地球環境にもいいと言えるようなテクノロジーを考えていこうと思っているので。

今回は宇宙からの映像・画像というところで、日常ではあまり接することはできないけれども、宇宙から見た視点というものを……。例えば『WIRED』の創設にも関わったスチュアート・ブランドが作った『Whole Earth Catalog』の表紙で、本当に月面から(見た)地球の写真を見ることによって、少し意識が変わったわけです。当時はみんな、まだ見たことがなかったわけですよね。

だから、そういう人間の意識がどう進化していくかにも関わってくる、非常におもしろい技術だなと思っているので、今日は楽しみにしています。

松島:ありがとうございます。宣伝になっちゃうんですけど、今ちょうどドミニクさんには『DIGITAL WELL-BEING』というタイトルの新しい『WIRED』の号でご執筆いただいて、今週校了を迎えている状況でもございます。

ドミニク:ありがとうございます。

松島:なぜ僕ら2人がここにいるんだろう、という。すみません。ありがとうございます。よろしくお願いいたします。続いて、高松さん、よろしくお願いいたします。

宇宙ステーションでテレビCMを作る、世界初の試み

高松:SPACE FILMSという会社をやっています。これは実は十何年も前につくられた会社で、私が電通を退社して自分でクリエイティブエージェンシーの「GROUND」をつくったときに、地球上のコミュニケーションの仕事はGROUNDでやって、宇宙のコミュニケーションの仕事はSPACE FILMSでやろうと、2社同時に設立した会社です。

ちなみに、GROUNDという会社は去年廃業して、もう地上の仕事はやめまして、主に宇宙に。(SPACE)FILMというぐらいですから、動画・静止画、最近ですとVRも含めて、「宇宙で見る景色を地上で見られたらいいな」というようなことをしています。

だいぶ前にカップヌードルで、平和をテーマにした、Mr.Childrenが歌を唄ってくれた「NO BORDER」というキャンペーンをやったりしていました。

僕がなぜこんなに宇宙に興味があるかというと、6歳だった69年にアポロ11号の月面着陸がありまして、衝撃を受けたんですね。もう「宇宙飛行士になりたい。宇宙ってすごい。科学ってすごい。テクノロジーってすごい」と思ったのですが。

22歳の時に、一生懸命宇宙空間で使える半導体の研究などをしていたのですが、願書を取り寄せたら裸眼視力が足りなくて、当時はレーシックもなかったので、宇宙飛行士への道を諦めて、破れかぶれになって電通という会社に入りました。

電気のことをやっているのかなと思ってたら、あんまり電気のことをやっていない会社で、まったく宇宙とも専攻とも関係ない仕事を十何年やってたんですが。

『2001年宇宙の旅』の年に「そうだ、宇宙でCMを作れば、夢が半分叶う」と思いまして。当時「きぼう」はなかったんですけれども、国際宇宙ステーションのロシアのサービスモジュールに、NASDA(宇宙開発事業団/JAXAの前身)とNHKさんが共同でHDカメラを置いていました。

それを使わせていただいて。今回のTellusも近いのですが、官のほうで作っていただいたインフラで、テレビCMを宇宙ステーション内で作るという世界初の試みをさせていただきました。

約800時間の宇宙飛行士訓練を経験

高松:余談ですけど、ワールドカップパブリックビューイングというのを国立競技場でやりまして。ワールドカップというコンテンツはFIFAがコントロールして世界中でやっているんですけれども、それを勝手に活用させていただいて、国立競技場でパブリックビューイングをしたらおもしろいことになるんじゃないかなと。

常に人様が作ったものを利用させていただいて、なにか価値のあるものを作るということをやってきたような気がします。

そのあと、どんどんそれが高じていきまして、2014年にイギリスの歌手のサラ・ブライトマンさんが、ロシアのソユーズロケットで宇宙に行ってISSでコンサートをやるという企画をぶち上げました。そのバックアップクルーとして、ロシアの「星の街」で宇宙飛行士訓練に入ることを決断しました。それで、GROUNDを廃業したんですけれども。

実は一度メディカルテストに落ちたのですが、フィジカルトレーニングをして通過しまして、2015年の1月から、NASAやJAXAの宇宙飛行士とまったく同じ800時間程度の宇宙飛行士訓練をやりました。

現在は、自分自身が宇宙に行って撮影する、ないしは衛星や探査機が撮ってきた画像を使ってアートを制作するようなことを考えております。ちょっと時間がないのでここを飛ばして、自己紹介とさせていただきます。

松島:ありがとうございます。じゃあ高松さんは、宇宙へいつでも行ける状態、スタンバイができているということなんですね。

高松:そうですね。今、ロシアでの宇宙飛行士訓練の卒業のビデオを流そうと思ったのですが、1分半あるのでやめました(笑)。

松島:では、それは休憩の時間に入るときに、ぜひ流していただくということで。ありがとうございます。続いて牟田さん、お願いいたします。

Tellusを使ってどんな社会を作っていくか

牟田:はい。私、さくらインターネットの牟田と申します。今回のこの「Tellus」というプラットフォームの開発に関わっておりまして、データ整備やビジネス開発といったところを担当しております。

私はもともと人工衛星のエンジニアでして、大学でもすごく小さい超小型衛星という衛星を作っていて。それがおもしろくて、会社に入っても、もうちょっと大きい衛星を作っていました。ただ、衛星を作っている間に、「あれ? この衛星、何に使うんだっけ? あまりわかっていないな」と思い始めて、今このTellusに至っております。よろしくお願いいたします。

松島:よろしくお願いいたします。ありがとうございます。

まさに『WIRED』もそうなんですけれども、エンジニアの方々が作り上げていくことで、テクノロジーは本当にもうどんどん発展しています。僕らがいつも大切にしていることは、例えばそれをどうやって社会に実装するのか、そもそもテクノロジーなりサイエンスにどういう文脈なり意味を与えればいいのか。そこを考えて、例えば文章にして落とし込んでいってるんですけれども。

そういう意味では本当にこの場も、このTellusも、DataとSpaceを使って僕らがどういう未来を創っていけるか、かなり発想を膨らませながら話して、それについてのフィジビリティは常に牟田さんにコメントをいただくかたちでやらせていただければと思います。

牟田:責任が重いですね(笑)。

松島:今回は、みなさんのお手元にある(冊子の)中でも、「Tellus、僕ならこう使うね」というページがあります。このTellusという技術を使って、どういう社会(を作るか)、僕だったらどう使うのかを、これからみなさんにお話しいただきたいと思うんですけれども。

まず、ちょうど『WIRED』と一緒に作らせていただいたこちら(の冊子)でも、本当にドミニクさんやWIREDファミリーと言える方々に書いていただいているので、その中からいくつかをご紹介したいと思います。

人間を群れとして観察する

松島:冒頭で寄稿いただいているのがドミニクさんなんですが、その次に、未来を社会に実装するというクリエイティブ集団の「PARTY」の伊藤直樹さんに書いていただいています。この方は、実は『WIRED』のクリエイティブディレクターも務めていただいているんですけれども。

例えば伊藤さんなどは、データを活用することによって、個のモビリティではなくて、集団のモビリティ、集団のアイデンティティを捕捉できるんじゃないかと。彼がおもしろいのは、例えば動物の群れや渡り鳥の編隊と同じように、人間をもう一度群れとして捉え直すと、そこにはなにか、自己同一性といいますか、人間ならではの群れの作り方みたいなものが出てきて。

渋谷のスクランブル交差点って、今は本当に観光名所になっているんですけれども、そのような都市というものと交ぜることによって、たぶん先ほどドミニクさんがおっしゃったのと同じように、新しい人間についてのパーセプションすら生まれるんじゃないか、ということを伊藤さんはおっしゃっています。

こういう人間の群れみたいなものって(Tellusで)撮れるんですかね?

牟田:実際に人間自体を見るのは、30~50センチくらいの解像度の衛星がだいたい世界のトップクラスなんですけど、そうすると人影が見えるぐらいはできるかなと思うのと。

あともう1つ、たぶん人間の群れという意味でいくと、道路や建物などの「人間が営むからこそできるもの」を見ていく分には、おもしろいのかなと思いましたね。衛星画像で見ていると、東京の写真とヨーロッパの写真と言われなくてもわかる。街の作り方が違うので、よく見えたりするとわかる。そういうことはあるのかなと思って、おもしろいなと思っておうかがいしていました。

松島:なるほど。やっぱりここで1つの都市というのはありますよね。

ドミニク:伊藤さんのアイデアを聞いてて、けっこう社会学者っぽい発想だなと思って。

僕もなんかその、人口動態というと都市レベルや関東圏といった、けっこう大きいスケールの話に見えるんですけど。こういう技術がすごくパーソナルにも使えるようになったときに、それこそ社会学者が自分でTellusのAPIを叩いて、気になる箇所を1ヶ月間ずっとウォッチして、それを解析できるようになったら。

例えば過疎地などで、「どういうふうに人が動いているか?」という、外出している頻度とか、そういうことをもとに「もっと、ここは外出したほうがいい」とか。

渋谷のスクランブルエ……スクランブルエッグだって(笑)。

松島:(笑)。

ドミニク:ごめんなさい(笑)。「スクランブル交差点は人が多すぎるから、この時間は違うところに流そう」とか、もうちょっとミクロな視点を持てるのが、すごくおもしろいなと思いましたね。

松島:おもしろいですね。

「都市の時代」を地理的に俯瞰する

高松:あと、一人ひとりのアイデンティフィケーションは難しいかもしれないですけれど、群れの動きがリアルタイムでわかるといいなと思うのは、例えばヨーロッパなどの屋外アートフェスティバルに行くと、あちこちに展示がパラパラあって。

松島:もう街中に。

高松:うん。去年で言えば(ドイツの)ミュンスターの彫刻フェスティバルなど、(彫刻が街の)あちこちにあるんですけれど、「どれが見応えがあるのかな?」とかいうのも、要するに人が群がっているところに行けばいいわけですよね。ないしは、「あそこは今、空いてるな」とか。

松島:ガイドのアプリの中に、もうTellusの画像が入っているような流れって実現できますか?

高松:そういう屋外アートフェスティバルは日本でもどんどん増えてきているので、どこに人がたくさんいるか、あるいは今ここが空いている、あるいは美術館の前の列がこんなに長いとか。Twitterで「今2時間待ち」とかそういう調べ方もありますけど、そういう集団の動きがわかるのはおもしろいかなと思います。

松島:そうですね。地理的に俯瞰して見られるのは、おもしろいかもしれない。

ドミニク:人間の報告がいらなくなるということですよね。Twitterでつぶやかなくても、自動的にそういう状態がわかってくるという。

松島:あと都市ということで思ったのは、今の時代はもうそろそろ「国」というレベルのレイヤーが、なかなか難しいことになっていて。やっぱりよく言われることが、地球全体の問題を考えるには国って小さすぎるんだけれども、一方で、僕らの生活を考えるには国はちょっと大きすぎる、というような言い方をされていて。

やっぱり21世紀は、国よりも都市の時代で。国と国がどうのというよりは、都市と都市でつながっていく。あるいは、自分たちの都市の中で生活圏をもう一度組み立てていく時代になったときに、例えばまさに『Whole Earth Catalog』が地球というものを示したことによって、初めて僕らは「同じ地球に住んでいる人間同士なんだ」と。

そこで、たぶん一発パーセプションが変わるとすると、たぶんこのTellusの解像度で都市ぐらいの大きさで括っていくと、またなにか人間の1つの帰属意識というか、そのパーセプションが大きく変わってくるのかなという。そこと伊藤さんの話は、ちょっとつながっておもしろいなと思いました。

デジタルによって、時間軸を自由に移動できる社会

松島:次は、ライゾマティクスのクリエイティブディレクターをされている齋藤精一さんです。逆に齋藤さんが言っているのは、スマートシティ系の文脈は、これから本当にビジネス文脈で語られていくと思うんですけれども。なので、「ちょっと違うことを言いたい」と。

齋藤さんは、3Dではなく4次元目としての「時間」をその軸の中に入れることによって、1つのアーカイブ機能というものが、ずっと際限なく同じ定点観測で示せるとおっしゃっています。そうしたときに、これから僕らは、デジタル化によって時間を自由に移動できるようになっていく社会へ進んでいるのだとすると、Tellusで時間軸を自由に行き来できるという。これはいけますか?

牟田:いけると思いますね。あと、人工衛星の技術自体はずいぶん前からあるものなので、今の写真だけではなくて、20年前や30年前の写真もあるんですよね。東京の写真なども。そういう意味ではおもしろいのかなと思いますね。

松島:おもしろいですね。オリンピックも、昔のオリンピックと今のオリンピックを重ね合わせたりしたら、おもしろいですよね。

牟田:おもしろいですね。

高松:今のTellusそのままだと、人がこれぐらいの数集まっているということは見られると思うんですけど、自分の個人IDは明かさないまでも、なんらかのごく簡単なものを肩などにつけることによって、同好の士がぐわーっと1ヶ所に集まるようなことをトラックできるんですかね。

牟田:ああ、逆に……。

高松:例えば、「オリンピックに行くよ」というときに、ジャケットなどにそれが内蔵されていたり、シールなどをつけていると、東京中ないしは関東中からぐわーっとスタジアムに集まっていく映像が見られる。

松島:おもしろいですね。