次代を創るフォトグラファー・ヨシダナギ

司会:これより、リクナビNEXT主催、第5回「GOOD ACTIONアワード」第2部トークセッションを開会いたします。本日はご参加いただき、誠にありがとうございます。

それでは、トークセッションを始めさせていただく前に、本日のゲスト、ヨシダナギさまのプロフィールを紹介させていただきます。ヨシダナギさまは、1986年生まれのフォトグラファーです。幼少期からのアフリカ人への強烈な憧れが高じて、2009年より単身でアフリカへ行かれます。

その後、独学で写真を学び、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影して発表。その唯一無二の色彩と生き方が評価され、テレビや雑誌などメディアに多数出演されています。2017年には、日経ビジネス誌「次代を創る100人」、雑誌PEN「Pen CREATOR AWARDS」に選出されています。

同年、講談社出版文化賞「写真賞」も受賞され、写真家として最も注目されているお一人です。それでは、ご登場いただきたいと思います。ヨシダナギさまです。どうぞみなさま、拍手でお迎えください。本日はよろしくお願いいたします。

ヨシダナギ(以下、ヨシダ):お願いします。

司会:それでは引き続き、GOOD ACTIONアワードの審査員のみなさまにもご登場いただきます。学習院大学教授、守島基博さま。SAPジャパン株式会社バイスプレジデント、アキレス美知子さま。慶應義塾大学特任准教授、若新雄純さま。そして司会はここから、リクナビNEXT編集長の藤井に代わります。藤井さん、よろしくお願いします。

ヨシダナギに学ぶ、好きを力にする生き方とは?

藤井薫(以下、藤井):よろしくお願いします。これから1時間ほどいただいて、集まっていただいたみなさんと何を話すのかということなのですが、GOOD ACTIONということで、「働く個人が主人公になってイキイキする職場をつくるには」のヒントを(話せればと思います)。

今回の1部の受賞企業以外にも……いままでGOOD ACTIONアワードを4回にわたって見てきたので、その中からもヒントを得ると。さらに今回特別スペシャルゲストということで、ヨシダナギさんをお迎えしたので、ナギさんとのお話からも、いろいろと見つめていきたいなと。とても貴重な1時間です、みなさんよろしくお願いいたします。

今日はこの1時間の中で、事務局側が詰め詰めに(メニューを)入れましたので、3つもメニューがあります。最後はそんなに時間がないかもしれないですが、まず最初に、こんな話題でいきたいと思っています。

「フォトグラファー ヨシダナギに学ぶ、好きを力にする生き方とは?」というテーマで)。こんなことをナギさんにうかがっていければなと思っています。

このGOOD ACTIONは、先ほど言ったように、個人が思いを持って、その思いから新しい生き方を見つけたり、職場を輝かせていくといった動きです。ヨシダナギさんも、まさに「好きを力にする」ということで、自分が本当に感じた思いそのままに行動されて、少数民族の方々の懐に入っていって、撮影されて、さらにはいろんな方面に発信していくということで道を切り拓いてきた方です。

(スピーカーの)みなさんも、アフリカは行かれたことがないということなので、もしよろしければご質問などもうかがっていただければと思っています。

大人になったらマサイ族のようになれると思っていた

藤井:まずは、(スライドを指して)ここに写っている写真。これは何族と言うんでしょうか。

ヨシダ:この写真の方々は、タンザニアのマサイ族です。

藤井:タンザニアのマサイ族。ナギさんが一番かっこいいなと思っていらっしゃる部族の1つですよね。

ヨシダ:そうですね。私がアフリカに興味を抱くきっかけになった人たちです。

藤井:ナギさんは、この少数民族に心奪われて、いま、そういった活動をされていらっしゃるわけですけれども、いつくらいから心を奪われたんですか?

ヨシダ:私がアフリカに興味を持ったきっかけは、5歳の時にたまたまテレビで観た、交換留学のようなバラエティー番組です。

藤井:それで心を奪われて。その時に、どんなことを思われたんですか?

ヨシダ:マサイ族のフォルムを見て、なんて素敵なんだろうと。頭の形といい、肌の色といい……また、白い歯が美しいなと思って。まだ5歳だった私は、槍を持って飛び跳ねていた彼らを見て、そういう職業が世の中にあると思ってしまって。それで、大きくなったらこれになろうと思ったのが一番最初です。

藤井:子どもの頃に心を奪われてときめくというのは、みんなにも経験があるんだと思いますが、そのあとは実際にアフリカに行かれるんですよね。これにはどんなきっかけがあったんですか? 「よし、行っちゃえ」と体が動いちゃったんですか。

ヨシダ:さすがに最初は「よし、行っちゃえ」とは思えなくて。私が初めてアフリカに行った時は、英語がまったくしゃべれなかったんです。でもアフリカに行きたいなとはずっと思っていました。

でも、行ったところで英語はしゃべれないし、1人で行動するのも得意なほうではないので、ずっとアフリカに行けずにもどかしい思いがありましたので、23歳の時に初めてアフリカに行ったんです。

行きたいけど行けない。好きだけど、その人に好きと言えないような片思いが、ずっと5歳から続いていて。でも、どうせもう駄目な相手なら、早く見切りをつけたいというような気持ちで、行って駄目だったらアフリカを切ろう……ということで、とりあえず行ってから考えようという思いで行きました。

「好き」が死の恐怖を超えることがある

藤井:これは、若新さんがおっしゃっている「トライ&エラー&ラーン(learn)」、つまり「やってから学べ」みたいな感じかと思います。いま、若新さんに振るのはつらいですかね?

若新雄純氏(以下、若新):でも、事前に調べてもわからないですもんね。

藤井:そうですよね。

若新:トライ&エラーというか、試行錯誤には失敗が含まれるわけですけれども、「さすがに、このトライ&エラーは下手したら死ぬかも」みたいな失敗は予感しちゃうじゃないですか。だから、僕も死ぬ以外の失敗はがんばろうと思いますけど、そういう死の恐怖もちょっとはあったんじゃないですか? 

ヨシダ:さすがに、アフリカで「死んじゃうのかな?」と思うことも最初はあったんですけど、いざ行く時には、死んでもいいから行こうと思いました。アフリカで死んでも私は悔いはないと思って行ったんです。

藤井:そこまでの覚悟はなかなか持てないですよね。

若新:僕は『はだしのゲン』を読んで(その影響もあって)、どうせ俺がやってることなんか死にはしないんだからと思ってやっていましたから、レベルが違いますね。僕のは甘々な試行錯誤です。

藤井:僕は趣味でバイクのレースをやっていて、バイクのレースで死ぬんだったらいいかなと思いながら走っているので、「好き」が死の恐怖を超えるというかたちなのかもしれないです。

同じ格好になれば、警戒心が解けるかも

藤井:晴れて23年の思いを遂げられたわけですよね。それで実際に行かれて、少数民族、マサイ族の方に会った時に、最初に思い描いていたことと、実際に会ってみてびっくりしたことは、どんなことだったんですか? 

ヨシダ:初めて会った時は、「なんてビジネスライクな人たちなんだろう」と思いました。まだ私が挨拶もしていないし、カメラを向けてもいないのに、「マニー(Money)」と言われて手を出されて、「わー!すごい」と思いました。初めて会って、まだ会話もしていない人に「お金ちょうだい」なんて言えないから、「すごいなあ」と感心しました。

藤井:何十年の恋が冷めそうにはならなかったですか? 

ヨシダ:ならないですね。「すごいなあ」と思っただけです。

藤井:マネーを渡しながら撮影していって、その後にこのかっこいい自分のヒーローたちと同じような格好をして撮影していくということで、それによって何かが変わっていくという体験をされたんですよね? 

ヨシダ:同じ格好をする前、最初はカメラを向けるまでは普通のかっこいい人たちなのに、カメラを向けた瞬間、眉間にしわが寄るんですよ。そうすると、私の思い描いていたかっこいい人たちじゃなくなってしまうんです。

たぶん彼らは、私を警戒しているか、たぶん壁をつくっているんだなと。でも、5歳で初めてマサイ族をテレビで見た時、私は漠然と、同じ格好をすれば彼らとは仲良くなれると思っていたんです。

でも、「同じ格好がしたい」という英語がしゃべれなかったんです。辞書を引いても、「同じ格好をしたい」という単語は載っていなかった。それで、旅を重ねていくうちに、単語がぜんぶ揃って、ガイドに「同じ格好がしたい」と伝えた時、初めてこういうことが現実になって叶ったんですけど、同じ格好をした瞬間に、どの部族もみんなの表情が180度変わるんですよ。

すごく穏やかな表情を見せてくれるようになったり、嫌な顔もしないで撮影に付き合ってくれるというような変化はありました。

「相手の反応を見てジャッジしない」のが、異文化間コミュニケーションのルール

藤井:アキレスさんに振ってよいでしょうか? グローバルでいろんなお仕事をされていますが、異文化に入っていくのはなかなか難しいと思います。言葉を超えて大事なことはなにかについて、いまのナギさんの話を聞いて、何かお感じになりますか?

アキレス美知子氏(以下、アキレス):まず、ナギさんが先ほどおっしゃっていた、「マニー」と言われた時の反応がすごいなと。普通、予想外のことを言われたら、「えっ、何!? いきなりお金なの!?」みたいに、往々にしてネガティブな反応(になると思うんです)。「(普段は)こういう感じで見えているけど、実はお金が欲しくてやってるの?」みたいに、ネガティブに捉えようと思えばいくらでもいけるものを、ただ「すごいな」と思ったと。

異文化間コミュニケーションでは、「相手の反応を見てジャッジしない」というのが1つの基本原則なんです。「すごいな、こういうふうに言ってくるんだ」と、本当にニュートラルに……どちらかというとポジティブに受け取ったところは、非常に素晴らしい反応だったんじゃないかなと思います。

それから、ぜんぜん違った世界からただ遊びにきているんじゃないかと思われないように同じ服装をされた。これもたぶん、現地の方から見ると、「あっ、同じサイドに立とうとしてくれているんだ」という親近感……こちらに来てくれたよねという気持ちになり、ナギさんの思いが言葉を超えて伝わったのかなと思って聞いておりました。

藤井:ありがとうございます。

アフリカ人のかっこよさを表現できるなら、カメラでなくてもよかった

藤井:ナギさんは、フォトグラファーというお仕事をされていますが、そもそもはカメラをやりたいと思っていたわけではなかったということをインタビューでもおうかがいしました。カメラが好きだったわけではないんですかね?

ヨシダ:カメラが好きだと思ったことは一度もないです。

藤井:カメラが好きだと思ったことが一度もないフォトグラファー。すごい。ではなぜ、カメラを持っていこうと思ったんですか?

ヨシダ:アフリカにカメラを持っていった理由ですが、私が小さい時から、親や周りの人に「アフリカ人、かっこいいでしょう?」と言っていたんですけど、誰も理解してくれなかったんです。「あんな黒い人のどこがいいの?」「あんな怖い人たちのどこがいいの?」と言われて、自分の友達をけなされている感じがして、すごく悲しかったんです。

でも、テレビに映るアフリカの姿というと、どうしても貧困や戦争といった悲しいものが多かった。仕方がないとは思うけれども、私が憧れているアフリカは、その側面だけではないと思って、それを証明したいと思ったんです。

私が絵を描けるならば、もちろん絵でもよかったですし、歌で表現できるなら歌でもよかったんですが、とりあえず何で表現できるかなと思った時に、ボタンを押すだけのカメラ(ならと思いました)。その写真を見せて、「ほら、かっこいいでしょ?」というのが一番早いかなと思って、カメラを持ってアフリカに行ったんです。

藤井:「こう撮ったほうがいい」というのは、自分の中でだんだん磨いていく、学んでいくというかたちですかね。

ヨシダ:そうですね。「どうやったら、かっこよく写せるかな」というよりは、「どうやったら、私の中のヒーロー像を、ほかの人にも同じヒーロー像として届けることができるんだろうか」と考えた結果、いまの作風につながったというかたちです。

スリ族のファッショナブルさをどうしても伝えたい!

藤井:ありがとうございます。もう1枚お写真を用意しているので、みなさんにご紹介したいと思います。ナギさんのお写真はいっぱいあるんですけど、(スライドを指して)こちらは何族ですか? 

ヨシダ:この写真の人たちは、エチオピアの南西部に暮らすスリ族という人たちです。

藤井:世界の中でもファッションセンスがすごい、ナンバーワンの人たちなんですか? 

ヨシダ:そうですね、世界一ファッショナブルな少数民族と呼ばれている人たちで、その時の気分と、その時に身の回りにある植物で装飾をして、おしゃれを楽しむ人たちです。

藤井:彼らのファッショナブルさを、どうしてもみんなに伝えたいという思いで、ナギさんは写真を撮られている。この時も、確か自撮り棒をお渡ししているんでしたよね?

ヨシダ:そうですね、オフショットなんですけど。彼らはいままで出会った少数民族の中でも、かなり原始的な生活をしている人たちで、携帯とかも持っていないんです。でも、(いろいろな)カメラマンが彼らのもとに行くので、携帯で写真が撮れることとかは知っている。ただ、彼らは携帯(のカメラ)から覗いた時は、外側の景色が見えると思っていたんです。

だから、私がインカメラに設定して、自撮り棒を渡した時の一瞬の表情を撮りたいなと思って渡したんです。彼らは私の姿が見えると思って画面を覗いたら、自分たちの顔が映っていたので、驚きと喜び(がすごかったです)。なかなか大きな画面で自分の姿を見ることがない人たちなので、自分が映っているといういい表情を見せてくれた1枚でした。

「好き」の言いにくい世界になりつつある

藤井:その表情を撮っているナギさんの顔も、すごく笑っているのではないかというのが、すごくわかるというか……。今回、「好きを力にする」ということで、職業を超えて、カメラという技術を超えて、異文化の人たちに交ざっていくというか、溶け込んでいったりするのが、GOOD ACTION的に学びがあるのかなと思います。守島先生も、アフリカに行かれたことはなかったですもんね(笑)。

守島基博氏(以下、守島):かなりのところは行ったんですけれども、アフリカはありません。あの大陸だけは行ったことがない……南極とかもないですけれども。

一人ひとりが好きを力にする生き方や、好きを仕事にするみたいなところで、たぶんナギさんの場合は「自分が好きなものって何なの?」ということが、強烈に原体験としておありになるんだと思うんです。

ここで暮らしているアフリカの人たちも、他と触れ合った経験があまりないということもあって、自分の価値基準でしか物事を考えられない。

自分の価値観をものすごく持っているナギさんと、自分の価値基準を強く持っているというか、それしか知らない方々との間でコミュニケーションが成立するというところから、さっきのアキレスさんの言葉を使えば、「異文化間コミュニケーション」が始まるのかなと思います。

最近の私たちの人生の中では、「好き! これがやりたい!」とか「これが好き!」ということが言いにくい世界になってきている気がします。そういう意味では、自分が「好き」ということを原体験として思っている人が、同じような考え方を持っている人と向き合うというのが重要なのかなと思いました。

藤井:なかなか職場で、自分の「好き」を表明することも難しいかもしれないですけど。

今回、司会の秦野さんが、ぜひナギさんにお話をうかがいたいということで……なぜなら、実は彼女は日曜日にFM調布のラジオのパーソナリティ&レポーターをやっていて、ナギさんもラジオのパーソナリティをやっているということで、同じ立場でぜひナギさんに、「好きを力に」に絡めて質問してほしいということで、秦野さんに振りたいなと思います。

ラジオパーソナリティの仕事への誤解

秦野優子氏(以下、秦野):ありがとうございます。そうなんです。私はナギさんと同い年で、1986年生まれです。違う人生を生きている同世代の方に会えるということで、すごく楽しみだったんです。私の「好き」ですが、小さい頃からすごくラジオが大好きで、ラジオがつくるコミュニティや、ラジオが人を繋ぐ力をいまでも信じている一人です。

私もちょっと副業として、先ほどご紹介があったとおり、日曜日はラジオのパーソナリティをさせていただいています。(スライドを指して)あちらの右端に「野生に還ろう」というロゴがありますが、ナギさんも福岡のラジオ局、Love FMで、この冠番組を持たれていらっしゃる。カメラではない新しい表現方法で、自分の言葉を通じて届けるというお仕事を始められていると思うんですが、カメラではなく、言葉でマスの人たちに伝える時に、工夫していることがあれば……ナギさんの新しいチャレンジだったかもしれないんですけど、ぜひ聞きたいなと思っています。

藤井:ラジオパーソナリティ同士の質問でしたね。ナギさん、素で答えて(いただければ)……。

ヨシダ:ラジオをやらせてもらって、もう4ヶ月目くらいになると思うんですけど、何の意識もしたことがなかったです。ただ、ラジオの仕事をいただくまでは、正直を言うと、ラジオの仕事が一番嫌いだったんです。なんてつまらない仕事なんだろうと思って。

(一同笑)

秦野:悲しい(笑)。

ヨシダ:いつもゲストで呼ばれて、同じ質問をされて。パーソナリティの人は聞きたくもないのに、仕方がないから台本として聞いている印象があって、嫌だなあと思っていたんです。

今回、自分がやらせてもらって(思ったのですが)、毎回話が違うんですね。リスナーの方から質問をいただいたり、一緒にコーナーをつくっている感じが、テレビや写真展などにはない(部分だなと思いました)。自分たちが楽しいものというよりは、リスナーの人の希望だったり、一緒にやれるものがあったらいいなと思うようになったんです。

藤井:そうですか(笑)。

秦野:ラジオは、お便りやメールがあってのメディアであり、そういうところがまさにラジオだなと私も思いました。いまはアプリもありますので、ぜひみなさんにも、ナギさんのラジオを聴いていただきたいなと思います。

藤井:Love FMです。ナギさんの声に癒されるんです。あとは、卵ぶっかけごはんとか、おもしろい話もいっぱい(笑)。ナギさんの話もおもしろいですし、少数民族の方のかっこいい生き方などもいっぱい教えてもらえるので、ぜひ聞いていただきたいなと思います。

「好きを力にする仕事」ということで、ナギさんのお話の中に、いろいろとエッセンスがあったのかなと思います。今度はそれを、職場で(活用するため)のヒントにもつなげていきたいと思います。3人の先生にお願いしたいと思いますので、次のテーマにいきたいと思います。

生き生きと働くために必要な「場作り」

藤井:GOOD ACTIONは今年で5回目を迎えました。「歴代の受賞事例にみる職場づくりのヒケツとは?」というお題で、審査員の先生に、いままで象徴的だったものを思い返していただきながら「このあたりは、けっこう大事なところだよね」という部分を、違った角度からご紹介いただければなと思っています。(スライドを指して)最初は守島先生からですかね。

守島:「One Panasonic」の事例について、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

藤井:濱松さんですね。

守島:濱松さんがおやりになった制度で、何をやったかと言うと、ボトムアップで組織内コミュニケーションを高めていこうという努力です。最後は社長まで巻き込んで……というところで、この(GOOD ACTIONの)賞を受賞したんですけれど、ただ、いまはもっと広がりを見せていって、パナソニックという組織を超えて、いろんな会社が集まってコミュニケーションをとるという、新しいことをやる場になっています。

この前のスライドで「職場」という言葉がありましたけれども、「職場」ではなくて「場」なんだと思います。「場」をつくり上げていくことが、働く人を生き生きさせるために非常に重要な(要素の)1つになっていく。「職場」は、ある意味では与えられたものですから、それをよくしていくということもあるけれども、それをよくするだけではなく、もしくはそれに飽き足らない場合は、自分の「場」をつくってしまうということが、いまは重要になってきているのかなと思いました。

藤井:そうですよね。パナソニックは3社統合を経て、日本全国に(展開していますよね)。

マイナー部族のPRタイム

藤井:ナギさんに振っちゃっていいですかね(笑)。パプアニューギニアに、すごく多くの少数民族が集まって踊る「大会」と言うんでしょうか……。

ヨシダ:お祭りみたいなものですかね。

藤井:そのお祭りみたいなもの(と同じよう)に見えます? そんなことないですか(笑)。

ヨシダ:言われたら、そう見えます。

藤井:無理やり言わせちゃった感じがしますが、パプアニューギニアでは、少数民族が集まって、何日かで祭典をするみたいな感じなんですか?

ヨシダ:パプアニューギニアにはいま、240部族ぐらいいると言われています。その中では有名な民族もいるんですけど、マイナーな(部族の)人たちは自分たちの存在を知ってもらうという意味で、4日間をかけたりして、わざわざ山を下って「お披露目会」に来るんです。(その場を)自己紹介をする場所と捉えています。

藤井:さっきの(お写真にあったように)いろんな衣装を持った方がいて、別々の(部族の)いろんな人たちが集まって、1日中踊ったりしながら、お互いを見せ合うと言うか、アピールするんですね。

ヨシダ:そうですね。一般の人や観光客に向けて、「俺たち、いるよ」というかたちですね。

藤井:そんなこともヒントのように見えたりします。

グローバル企業が悩む「組織としての一体感」の欠如

藤井:では、(スライドを)2枚めくっていただいたほうがいいかもしれないですね。(スライドを指して)これは、アキレスさんにとって印象的だった企業の1つですが、千代田化工建設さんを挙げていただきました。

アキレス:ちょっと懐かしい感じもします。

藤井:そうですね。

アキレス:このプロジェクトについてですが、世界各国に千代田化工建設さんの社員の方がいらっしゃるわけです。もちろん、現地で働いている方の中には、現地採用の方もいらっしゃるけれども、日本からはるばる行っている方もいる。

グローバル企業にありがちなのが、本社と各地でなかなか一体感が持てないということ。そうした課題を千代田化工建設さんも非常に強く感じていらして、どうしたら(本社と各地を)つなげることができるだろうかということで、このプロジェクトが始まりました。

簡単に言うと、世界中にいる社員が、写真とメッセージを携えて、「ボイス」というかたちで社内SNSに投稿するんです。それぞれの場所で、一人ひとりにストーリーがあります。今日は「個と向き合う」という話が出ていましたけれども、それをただ単に「会社対個人」で(やるのでは)なく、社員間のSNSで全部共有するんです。

それによって初めて、「こういう人がここにいらして、こんなことをやっていたんだ」というのがみなさんにもわかり、「うちの会社ってこういう会社なんだ。本当にみんなでつなげようとしている、つながっているんだ」ということが実感できる。そういったプラスの効果を生み出していて、大変すばらしいプロジェクトだと思います。

藤井:「声」が大きなキーワードになっているわけですね。

アキレス:そうですね。一人ひとりがストーリーを持っているというのは、まさにGOOD ACTIONのテーマでもあるし、それをいかに独りよがりではなく周りに伝えて、もうちょっと大きなストーリーをつくっていくか、というところに通じているんだと思います。

藤井:ありがとうございます。