ランサーズ秋好氏はなぜコーチングを始めたのか

――まずは、お二人の出会いから振り返ってもらってもいいですか?

秋好陽介氏(以下、秋好):本多喜久雄さんとの最初の出会いは、2012年3月ですね。当時は「ランサーズ」という名前ではなくて、株式会社リートでした。サービスは急拡大しているが社員数は7名だけと成長と組織実態のギャップがすごくあった時期なんです。

実際に株式会社リートに来た人は、びっくりされることが多くありました。まず本社のオフィスが狭い。一般的な会議室より少し大きいくらい。何十万人の登録者がいて、案件総額が数十億円みたいになっているのに、会社は都内ではなく鎌倉にあるし、雑居ビルの一角にあったオフィスでした。

当時、ネットで検索したら、カヤックの柳澤大輔さんがインタビューに答えている記事を見かけて。「経営コーチングというものがすばらしい」とのことで、なおかつ、コーチングをしている人が偶然にも鎌倉にいるということもわかりました。

また、僕は2008年に起業してから『総務省 事業計画作成とベンチャー経営の手引き』という資料をずっと読んでいたんですが、「アメリカのエグゼクティブは経営コーチングを受けている」というインプットがあったんです。そのインプットが背景にあって、柳澤さんの記事で一気に駆り立てられた。「自分の会社もいよいよ拡大時期だぞ」と思って、2012年2月に問い合わせをしたんですよね。

本多喜久雄氏(以下、本多):なるほど。

秋好:問い合わせたら、即レスがきて。すぐに喜久雄さんから折返し電話があって、「この時間、空いてます?」と。まぁ、偶然空いていたみたいな。

(一同笑)

よくよく聞くと、会社から徒歩5分ぐらいの場所に喜久雄さんの事務所があって、パッと行ってお話をさせてもらって。覚えているのは「株式会社リートのビジョンを見ました。個のエンパワーメント、いいと思います」と言ってくれたんですね。

本多:俺、覚えてない(笑)。たしかに言いそうだけどね。

秋好:「ちゃんとホームページまで見てくれたんだ」って。

本多:ああ、そうだったなぁ。そのあとリートのオフィスに行ったんだけど、本当に狭くて(笑)。

秋好:そんな出会いですね。

すべては1本のメールから始まった

――そんな中でグローバルコーチングに決めた理由を教えていただけますか?

秋好:問い合わせをした時点で、僕はもう「やる」と決めていたんですよね。

本多:僕も「やる」と決めたのは、「力になってあげたいな」と思ったんです。一生懸命さは伝わってきた。あとは……なんか自信なさげだったけど、いいヤツだと思った。

あっきん(秋好氏)とのご縁が明確にあったと思うんですよね。僕もずっと鎌倉にいるわけじゃないから、「このメールが来て会えるということは、何かの導きだよな」とは思った。この縁には乗ろうと思ったんだろうね。

秋好:そこから数珠つなぎで今日に至るわけですね。

本多:そうか、すべてはあの1本のメールから始まったということなんだな。

――秋好さんから見た本多さんの第一印象は、どんな感じだったんですか?

秋好:会う前は、エグゼクティブ・コーチをやっている人は、少し気難しそうだと思っていました。「威厳があるんだろうな」「経営戦略のフレームワークを一個でも知らなかったら、怒られるんだろうな」みたいに恐れていたんですね。

でも、会ってみたら、喜久雄さんは明るい雰囲気だったので、緊張がスッと溶けて。「どうも。本多喜久雄です」と。

本多:フルネームで自己紹介したんだ(笑)。

秋好:受け止められている感じがありましたね。初めて会った時、お互いに「気が合うかな?」みたいな調整が必要じゃないですか。でも喜久雄さんは、何を言っても、いったんは受け取っていただけました。

「あ、こういうものがコーチのスキルなんだな」と思いましたね。正しい・正しくないという基準ではなく、言ったことをいったん全部受け取ってくれた。

そのときに印象深かったのは、喜久雄さんが「僕にもクライアントを選ぶ権利がある」みたいなことを言ったんですよ。「これってビジネスだから、申し込んだら受けれるんじゃないの?」と思っていたんですよね(笑)。

(一同笑)

本多:それは、いまでもそう思っているし、コーチング希望者には言ってますね。

秋好:そうですよね。それは少し驚きましたけど、いいと思っていますよ。お互いに選ばれる関係だから。そういうものだと思います。

本多:よかった、よかった。

秋好:とくにコーチングは相手に向き合わないといけないので、やりたくない人とはできないと思うんですよね。

本多:ちょっと大げさに聞こえるかもしれないけど、僕も命がけですよ。

秋好:その人の人生を左右するかもしれないですからね。

本多:実際に、人生を見させてもらってるね。なにか悪いことをしていたとしたら、共犯者だと思ってる。その感覚はあります。

なので、ウチを選んでいただいて、ありがとうございます。

意思決定のスピードが格段に上がる

――お互いが選び合って、関係が始まっているんですね。コーチングを受けていく上で、秋好さんの中で変わっていったことはありますか?

秋好:クヨクヨ悩んだり、考える時間が、コーチングをすることでキュッと短縮されますよね。本当に何がしたいのか、選択肢は何か、自制できるようになる。コーチングのセッションの中でも、意思決定や判断をすることもありますし、思考のフレームワークに再現性があるので、自分一人でできるようになりました。

会社がものすごく「急速」に成長している時期があって、1年間で一気に50人を採用して、30人の会社が80人になるという経験をしました。鎌倉から渋谷に来て、資金調達をしたこともないのに3億円、10億円と調達した。こういうときに、すごいドラマが起こるんですよ。想像を超える出来事が起こる。いいことだけじゃなくて悪いこともたくさんある。そこで、定点観測の仕組みであるコーチングがあるのがいいですよね。

同じコーチとずっと続けることで価値が生まれるんですよね。ランサーズにはいま200人弱、フリーランスの人を合わせると1,000人くらいいますが、2人で創業して苦労している時の経営状況や背景、時間軸をコーチングを通して一緒にすることで、コーチと言語が揃います。過去のストーリーを知ってくれている安心感はあります。

あと、僕にとっては喜久雄さんが経営者なのがいいんですよね。経営者ではない人に「経営者とは」を語られても、「いや、経営者じゃないでしょ」と正直思ってしまう。「サッカーしたことがない人に、サッカーを教えられても……」となるじゃないですか。サッカーがうまくない名監督がいるのは知っているんですけど、コーチとの間に信頼貯金が貯まるのに時間がかかると思います。

本多:一緒に育った感じがするよね。一緒に育て合えた感じです。俺も成長したなと思うし、その感覚があるなぁ。これは財産だと思う。

秋好:財産ですよね。家族だったら、ずっと一緒にいると(財産に)なるんでしょうけど、役員ですら、それぞれの人生が途中で卒業していくことはあるかもしれない。もちろん、コーチングなので契約や条件はあるんですけど、経済的合理性と家族的なところの中間にある感じがしますよね。

コーチング自体も大きいんですけど、コーチングという経験をともにした仲間との出会いもあるんですよね。喜久雄さんからいろいろ経営者を紹介してもらえます。そこはけっこう大きくて、人から気づかされることはすごく大きいです。

役員全員で“対話”するコーチング

――本多さんとコーチングをするなかで、印象的だった出来事はありますか?

秋好:「グループコーチング」ですね。2~3年前、役員同士で方向性がずれていた時期があるんですよ。「役員4人だけだと時間がかかるな」という状況になり、その時に喜久雄さんに入ってもらって、3ヶ月のプロジェクトで「経営がやりたいことを最速でやるためには、何が課題で、どうなったらいいのか?」ということを一緒に洗い出してもらいました。コンテンツはどのような内容でしたか?

本多:メインは、1ヶ月に1回、お互いに自分の進化を分かち合うヤツだよね。

秋好:それがとてもよかったんです。この1ヶ月、何に気づいたかを話し合う。日頃から接していると仕事の話しかしないので。僕はよく「対話」と「議論」を分けるんですけど、「俺はこういう感じで成長したよ」「私はこう変わったよ」といったことは、議論だけだと気づかないんですよ。その時間をしっかり取って対話することで気づくんですよね。しかも、第三者がいないと、お互いに絶えず圧迫するみたいになってしまう。

(一同笑)

そんなこと、なかなか言わないですよね。仕事にも絡むようなプライベートも含めてシェアすると、「あの時、あんなに厳しいことを言っていたのは、こういう変化があったからなんだね」と気づく。こうすることで、お互いの関係が深まって「どういう座組みでやるのがいいのかな?」というところから始められて、意思決定のスピードが速まりましたね。

いろんな意思決定が生まれましたよ。「じゃあ、ここをグループ化しよう」「会社を分けよう」「こういうビジネスをしよう」「このビジネスはちょっとやめよう」みたいなかたちです。

ランサーズの原点に戻るために

秋好:喜久雄さんとのコーチングは一回、2016年くらいから休息期間を入れています。というのも、コーチングをしていくと自分自身で自分で自制しコーチングできるようになってきているから、自分自身と向き合いながら、自分で自分のコーチングができるんですよ。

それで、自分でコーチングがしてきて、ランサーズが10年目に入り、これまでやってきたビジネスは、このまま伸びてきました。

僕らは「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会を作りたい」と心から思っていて、自分らしく働ける人をもっと増やそうとしたときに、いままでのビジネスだけではダメで、いい意味でさらに進化するべきだと考えました。「進化する」というのは、今のままじゃなくて、意識レベルとして進化ということです。トヨタが「車の会社じゃなくて、モビリティの会社になる」と新年に発信していましたが、そのようなイメージだと思います。

本多:うん、素晴らしい。

秋好:決めたからにはやらないと。「決めたことを正しくする」「決めたことを成果にする」というのが信念なので、やりきりますよ。

本多:すごい。お願いします。応援しています。