人工知能は「食べ物」がわかるのか?
森本佑紀氏(以下、森本):それでは、雄馬さんのお話を聞いて、みなさんが感じられたことや疑問に思われたことがあれば拾っていきたいと思います。こういうときに手を上げてもらえるとうれしいのですが。
松田雄馬氏(以下、松田):わかる、わかるよ(笑)。
森本:あとでありがとうございますと言うので、なにか質問などを放り投げてくれる人はいますか?
(会場で6歳のこどもが挙手)
森本:あ! ありがとうございます。あれ? 質問してくれるの? ……質問してくれる? どんな質問してくれる?
松田:お願いしまーす。
森本:言ってみよう!
質問者1:食べ物。
森本:食べ物!
松田:いやあ、わかるわー(笑)。
(会場笑)
松田:まさにこれですよ。人工知能はなぜ椅子に座れないのかというと、椅子がわからないからなんですよね。人工知能だって食べ物を食べたことがなかったら、それが食べ物かどうかもわかんない。美味しいかどうかもわかんない。そういうことじゃないかな。
人工知能の「モノの覚え方」
森本:まさに今「食べ物」というワードが出てきましたが、たぶんこれって人工知能のプログラミングだったら拾えないと思うんですよ。それを、雄馬さんは食べ物だけ出てきても、なんか大喜利みたいになるという感じで(笑)。それを意味付けするのが、人間の良いところだということですよね。
実は書籍にもそうしたお話があります。折角なので少しだけ付け足して椅子のお話をお願いします。
松田:例えば、今の人工知能がどうやって物を認識しているのかということを、少しだけご説明したいと思います。人工知能がなにかを覚えるためには、やり方は2つあるんですよ。
1つは、例えばこの椅子を認識させようとするなら、「定義する」というやり方があります。「足が4本ある」「背もたれがある」といったように。そうするとなにが起こるというと、必ず例外が出てきます。当然、背もたれがない椅子もありますよねということです。こんなふうに例外がいっぱい出てくるので、これをなんとかしないといけない。
それを解決するのが、ディープラーニング(深層学習)といわれる手法なんですね。どんな方法かというのをすごく簡単に説明すると、データをすごくたくさん与えるんですよ。いろんな椅子の写真を覚えさせます。
そうすると、あらゆる椅子に共通する特徴を機械が自動的に認識してくれるということです。めっちゃ画期的な方法のように聞こえるじゃないですか。確かに技術的にはすごく画期的なのですが、それで椅子がわかるようになるかというと、すでに覚えさせた椅子はわかるけれども、そうじゃない椅子は当然わからない。
身体で感じる人間の判断力
森本:じゃあ人間はというと、例えば山道を歩いていると疲れますよね。すぐそこに切株がありました。座ります。これは椅子なのか? そう思うわけです。ところが機械にやらせると、これは椅子なのか机なのか? えーと、この高さは……などと、わけのわからないことを言い出すわけなのですが、疲れていたらそんなの知ったこっちゃないじゃないですか。もう座れれば椅子ですよ。
そんなふうに、人間であれば自分の体が感じるままに椅子を認識できる。でも機械はというと……? AIは正しいですから、覚えさせたものは覚えるし、そうじゃないものは知ったこっちゃないと。これがまさに、「人工知能はなぜ椅子に座れないのか」ということでございます。
森本:今のやり取りがまさに人間らしいなと思いました。「食べ物」という言葉から意味を拾って、咄嗟にやり取りできるというのはなかなかできないですよね。
松田:なかなかね。いや、アドリブって難しいですよね。
(一同笑)
森本:そこでさらに意味のある話に持っていって、本を買いたくなるような話につなげ、ぜひ最後にこの本を買っていただければ。
松田:ぜひぜひよろしくお願いします(笑)。
AIの限界を知りながら描くビッグピクチャー
森本:それでは手を上げていただいたお父さんにお話を振りたいと思います。お願いします。
質問者2:先生、今日はありがとうございました。 AIなどについてまったく詳しくない素人の質問ですが、先ほどお話で「強いAI」と「弱いAI」というものがありましたよね。結論のところで、シンギュラリティは起きない、完全自動運転はできないということだったと思うのですが、「弱いAI」というのはサポートするのが最終的な限界で、いわゆる「強いAI」というのは存在しないということなんですか?