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世界を変える日本発のヘルスイノベーション(全4記事)

「薬局は薬をもらう場所」と考える人は損? 薬剤師の知られざる職能

2018年6月17日、起業家を中心に、ベンチャー経営に関わる学者・政治家・官僚・メディアなどの第一線で活躍するリーダーたちが集う「G1ベンチャー2018」が開催されました。本パートでは、第6部分科会「世界を変える日本発のヘルスイノベーション」と題して、湘南ヘルスイノベーションパークの藤本氏、メドレーの瀧口氏、カケハシの中尾氏が登壇。大企業が有するノウハウとスタートアップの革新性や技術力を結びつけることで、ヘルスケアにおけるイノベーションはどこまで加速化できるのか。人材不足を改善するアイデアや、医療・ヘルスケアの価値を向上させる取り組みについて語りました。

ベンチャーの創業は、本当に優秀な人と組まないと自殺行為

質問者2:多摩大でベンチャーを教えています。先ほども人材の問題というのがあって、とくに中尾さんと瀧口さんに(お聞きしたいのですが)。

中尾さんは武田(薬品工業株式会社)出身でもいらっしゃいますし、人材不足を改善するにはいったい(どうしたらいいのでしょうか)。なんでもアイデアを聞かせていただければなと思います。先ほどの経営者人材とメンバーの人材と2つのレイヤーがあると思うのですが、どちらでも。

中尾豊氏(以下、中尾):ベンチャーとしてですか?

質問者2:はい。ベンチャーとしての人材不足を解消するアイデアというんですかね。それは、大企業がやればいい施策かもしれないし、あるいは国がやればいい施策でもいいんですけれども。

中尾:今経営をしていて、個人的に感じていることは、本当に優秀な人はスタートアップに流れ込んでくる時代だなと感じています。

前職でいえば、ほどよく活躍していた人はそこでずっと。大企業だと年収もいいので。福利厚生もいいので、僕は武田薬品がすごく大好きだったんですけど(笑)。そこにやっぱり居座るんですね。

でも、もっとずば抜けたいという人しか出てこないケースがあるので、そこの層がスタートアップに流れ込んでいて、人が足りない。人を採用しづらいかと言われたら、最近になってすごく人の流れが来ているので、いい時代だなとは感じています。

創業時の経営者レベルという点から考えると、これに関しては運などもあると思っています。僕は、本当に優秀な人と手を組まないと自殺行為だと思っているんですね。たまたまマッキンゼーのとても優秀なメンバーと出会えて、彼と一緒にやっているんですけれども、それは本当に運に近いです。

そういう人と出会いたいと思った強い意思を(持って)、それに対してもう24時間かけ続けて、探し続けて、「彼を惹きつけることがどうやったらできるのか?」ということも考えながら、きりきりと毎日過ごしているか、プラスアルファで運がないと難しいかなと思っています。

平手晴彦氏(以下、平手):人材関係、瀧口さんにもご質問ありましたけど。

会社の成長と社員の目線を合わせていく必要性

瀧口浩平氏(以下、瀧口):人材ですか……。社内の人材ということだと、僕はこの会社を1人で始めて、フェーズによってCTOも3回ぐらい変わってということもやっていっているんですけれど。やっぱり、会社のステージごとに必要なスキルセットが違うなと思っています。

経営者としては、今いる社員に対して、「会社が次のフェーズにいくためには、あなたはこういう感じになっていないとダメだと思うんだよね」ということを早めに伝えていく必要があるのかなと思っていますね。

採用という意味では、ビズリーチさんをはじめ、いい会社がいくつもあるので大丈夫だと思っています(笑)。

質問者2:G1でこうやって登壇されている方は、運も実力も兼ね備えた方がいらっしゃると思うんですけれども。先ほど、いいアカデミックの研究があっても経営人材がいないので、ボストンエリアと日本でえらいギャップがありますよ、と。そういうものをご覧になって、それを解決するアイデアがもしもあれば。

中尾:それに関しては、社内応募が一番いいのかなと思いますけどね。外からだと情報格差が激しすぎるので、武田薬品の中にいる、そういったアントレプレナーシップを持っている人たちが、「いいシーズを見つけてください」と各大学でぼーんと投げて、「英語ができる人は海外に」というふうにやっちゃったほうが早いかなと思います。

平手:本庶(佑)先生のほうがお答えをお持ちかもしれない(笑)。

質問者2:これはミリオンダラークエスチョンなので、たぶん1つ答えでファイナルショットというのはないと思っていまして。アイデアが欲しいなと思って。

平手:なるほど。はい。ほかのご質問いかがですか?

質問者3:ありがとうございました。飲食店をやっています。いろいろなプロデュースをやっているなかで、僕の今後の仕事としては、業態開発をいろいろやってきたんですけど、ウェルビーイングに特化した業態しか作らないと決めてやっています。

食とヘルスケアみたいなことがつながればいいなと思っていて、みなさんから見て、なにか食に期待していることというか、あるいは将来的にこんなことが一緒にできたらいいな、というアイデアがあれば教えてください。

平手:じゃあもう1問、回答をまとめていきます。

医療機関の電子カルテの普及率は約35パーセント

質問者4:瀧口さんに、1つ単純なご質問なんですけれど、電カル(電子カルテ)の今の普及率(について)。新しい先生はたぶんもうほとんど100パーセントなのかもしれないのですが、全体の医療機関の中での電カルの普及率ってどれぐらいなんですか、という質問です。

もう1つは、例えば先ほど情報の話で課題提起されていたのですが、我々のような小売流通というのは、良いか悪いかは別として、POSというもので、世の中でどういう価格でどんなものがいつ売れているかがだいたい標準的にわかるような仕組みになっているんですね。

だから、このヘルスケアの業界において、個人情報は特定しないまでも、そういった国立感染研さんなどがよくああやって出されてはいるのですが。もうちょっと細かい、医師や看護師、医療従事者の方々に対してオープンになるようなものがあるとすごくいいんじゃないかな、と個人的には思っています。そんなようなものを作っていこうという動きがありやなしやとか、そんなことをお聞きしたいなと。

平手:じゃあ瀧口さんから。お二人のご質問に答えられる内容から。「じゃあ私はここから」でも、けっこうです。

瀧口:電子カルテの普及率はだいたい35パーセントぐらいですね。

平手:ああ、まだ低いですね。

瀧口:はい。

中尾:薬歴は5~6割ですね。薬局のほうがチェーン化しているので、普及率はちょっと高いんですけれども。

質問者4:我々、薬局も診療所もお客様なので、今は一般企業さんの9割がインターネット経由でご注文されるんですよ。ただ、やっぱり医療機関はいまだに4割ぐらいで、残り6割がFAXでご注文が来るんです。

だからインフラですね。先生方は絶対もうネットリテラシーは高いと思うんですね。むしろめちゃくちゃ高い。Appleなんか大好きなので。でも、医療機関としてのそういったインフラ整備みたいなものは、実はまだまだなのかなと感じています。

平手:はい。じゃあ、あとは次のご質問あれば。

遺伝子情報があれば、病気の予測や予防が可能な時代

中尾:あと、さっきの食についてなんですけれども、薬剤師って意外に薬を減らす方向性にエンゲージされていまして、「薬を飲めばいいよ」ではなくて、薬を減らしたしたほうが美徳というような文化があるんですね。そういったときに、「この疾患であればこういう食事のほうがいいんじゃないか?」という志向性は高いということが1つと。

あとは、例えばワカメが何かに効果があるとしたときに、効果がない人にワカメを勧めてもあまり意味がないので、その人がどういう状態かということをわかった上での食との連携が必要かな、という意味では、情報連携が必要な世界だとは思っています。

藤本利夫氏(以下、藤本):私も付け足しで。先日、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの方とお話した時に、今投資している会社の1つが……アメリカはもうかなり安く遺伝子情報が手に入って、それがデータベース化されていて。そのアプリ会社なんですけれども。

個人のデータベースやその遺伝子情報があれば、「どういう病気にかかりやすくて、それを防ぐにはこういう食事がいいんですよ」というアプリケーションを提供する。そんな会社にかなり多額に出資されていました。

平手:そういうところは日本も遅れたくないですね。2000年ぐらいのミレニアムプロジェクトで、我々一人ひとりの自分の遺伝子のhuman genomeを読もうとすると、10億円ぐらいかかりました。今はおそらく1,000万円かからないんじゃないですかね。

だから、数百万出せば、みなさん一人ひとりの遺伝子情報がおそらくDVD-ROMに入ってくるような時代ですので、おそらくわかっている先生がそれを読めば「〇〇さん、あなたは75歳でアルツハイマーを50パーセントの確率で発症するね」と言われちゃう、そんな時代になってきているので。

そういったデータを活用するというのも、日本からやっぱりヘルスケアのイノベーションが出ていくという意味では大事な場面になってくるんだろうと思います。out of box(常識破り)と言うんですかね。発想を変えてヘルスケアに取り組まなきゃいけない。そんな時代になったんだと思います。

ご質問なければ……あ、髙島さん。

今の薬局・薬剤師は本来の力を発揮できていない

質問者5:冒頭で、中尾さんが薬剤師さんとよくお話されているということだったので、おうかがいしたいんですけれども。今度、オンライン診療からオンラインの服薬指導というのを福岡でやるんですよね。薬はだんだんそういう方向になってくると思うんですよ。

中尾:ええ、そうですね。

質問者5:ただ一方で、それだけ薬の知識を持っていて、しかも地域に本当に点在してたくさんの実体の店まで持っているというアセットって、今のような薬を店舗で出す以外にも、薬剤師さんのノウハウって活かせるんだろうなと思っているんですよね。

お話をするなかで、薬剤師さんの持っているアセット、薬局の持っているアセットって、今後、地域の中での(医療を)高齢化に向けてつくっていかなきゃいけないなかで、どういうものが付加価値として使えそうなのか。

中尾:このG1にいる人たちは、もう利便性を求める人たちが多いと思うんですけど。まず、遠隔服薬指導に関しては、おじいちゃんやおばあちゃんは、ポチッとやって(薬が)来るよりも、温かくゆっくり自分のことを話してくれたほうがいい、というぬくもりを求める人が多いので、患者さんのニーズが多様化しています。

温かく人と話すことに関しても、薬剤師の知識というのは本当に深く幅広いものがあります。価値を出すという点での一番の問題は、国民側が薬剤師になにかを聞いたら(答えが)返ってくるという期待値が低いんですね。

(患者さんが)なにかを聞いてあげたら、薬剤師さんはある程度知識があるので、そこに(答えを)返せる能力と知識はあるんです。なにか薬を早くもらえればいいという媒体になってきてしまっているんですけど、そこに対して聞いていいんだと。(薬剤師さんに)「寝られない」という話をしたときに、「この薬の副作用だ」というような話が出てきたりするので。

そこの薬剤師への期待値を高めておかないと、そもそもの価値が出てこないというのは感じています。能力に関してはイエスなのですが、ボトルネックは期待値が低いところかなと個人的に思っていますね。

平手:例えば、福岡市の市長さんがいらっしゃって、薬剤師さんの情報をもっと市とつなぐという話。なんだか、そういうバーが上がっていく、価値を高めるということにつながりますよね。

中尾:はい。そこは私たちのサービスも、けっこうそれに近いところのボトルネックを解消しようとしているサービスなので。実は福岡の案件もすごく多いので、たぶん、なにかコラボできるものは多々あるかなと個人的に思っています。

瀧口:あと、オンライン診療が10年20年かけて普及しても、外来全体の1~2割ぐらいだと思います。今は、薬剤師が2割ぐらい足りていないので、ちょうどいいんじゃないかなと。薬剤師不足問題もオンライン診療が広まれば解決するというところで。最後に勝手に締めさせてもらいました(笑)。

(会場笑)

平手:メドレーさんの出番ということで(笑)。すいません。時間となりました。多岐にわたる議論をまとめるのはちょっと苦労しましたけれども、お楽しみいただけていればと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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