日本で医療データが活用されていない本当の理由

平手晴彦氏(以下、平手):今、とくにお2人の話を伺っていると、みなさん「なんか日本の医療の現場大変そうだな」という印象を持たれると思います。

安倍内閣は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジといって、国民皆保険制度、「日本の国民は、誰1人として、保険医療を受けられない人はいません。健康保険証を持っていけば、どこの病院にでも行けます」というのを世界に冠たるシステムとして宣伝をしています。

そういう保険医療システムができていない他の国に持っていってあげよう、教えてあげようというのは、G7やG20という場面でも押し出しているわけですね。

日本の現場が苦労しているというお話をうかがって、一方で、日本はすばらしいシステムを持っているという説明が存在している。そこに実はいろいろからくりがあって、日本は医療データを扱おうとすると、けっこう先進国なんですね。

電子カルテは瀧口さんのところもやられているし、今、薬局の状況を中尾さんのところが見られていて。どういう薬を処方したら患者さんが喜んでいるかとか、あるいは電子カルテを見ていると、どういう薬が処方され、どういう手術され、どういう検査をされたら、よかったか。良い悪いの部分を探ろうとすると、日本はデータはけっこう豊富にあるんです。

ただ、そのデータをしっかり活用する部分が、とくに公官庁側でうまくできていなくて。データは揃えているので、その活用へ踏み込んでほしい。そんな思いがしています。

イノベーションを日本から、あるいはなんとか日本の中で作っていくという意味で、「データをもうちょっと活用しようよ」という切り口で一歩進めさせてもらって、瀧口さんのほうからなにかコメントを(いただけたらと思います)。「自分の企業からこういうことを貢献できるよ」でもいいですし、いかがでしょう?

瀧口浩平氏(以下、瀧口):僕、けっこうプラグマティスト、現実主義者なので、事業はちゃんと積み上げて、酸いも甘いも感じながらやっているという前提ではあるんですけど。なんか、今、僕のキャラ的に、破壊者みたいになっていますけど(笑)。

(一同笑)

平手:そういうつもりはぜんぜんない。

データを活用するには医療業界の文化を変えなければならない

瀧口:本当にデータを使いたいんだったら、業界の文化を変えていく必要があります。

平手:文化?

瀧口:はい。例を挙げると「どのエリアでどの症例がされている」というデータがあるんですが、エクセル形式で提供されていて、データ形式もキレイじゃないので、複数のブックを紐づけて、どこに何があるかをがんばって推測しないと、データを活用することすらできません。

平手:中尾さんはなにか足せるところありますか?

中尾豊氏(以下、中尾):いくつか視点があって。まずデータがある場所はどこかというと、大学病院と基幹病院、クリニックがあって、電カル(電子カルテ)が普及しているのは大きい病院の率が高い。大手さんしか持っていないんですね。

なので、大手さんを否定するわけではないんですけれども、大手さんとしてもコンプライアンスを守るために、情報は閉ざそうとする方向性にいくので、「開示がなされていない」というのがネックとして1個あります。

一方で、データを得るための方法に重要な観点があると思っています。例えばIoTとかアプリとかあるじゃないですか。「このデータを取ったらこんなことができます!」と言ってアプリを開発した場合、そのアプリを使わなければデータが取れないので、そもそもそれが使われる仕組みを作らないといけないと思っているんですね。

薬局っておもしろくて、国民が意識しないで足を運ぶんですね。処方箋をもらった瞬間に、クリニックから出て薬局に行かなきゃと思うので、無意識の動線であそこを通るんですね。

無意識下の動線のなかで、そこで入ってくるデータをちゃんと採れて、お金のためではなくて、日本国民に対して「健康になるためのデータとして利活用する」といった意味では、薬局のプラットフォームって強いなと思っています。

例として、プロダクトをリリースして8ヶ月で、6万店舗ある薬局のうちの8,000店舗ぐらいから、私たちに問い合わせがわーっと来ているんですね。ただ、営業マンが2人しかいないのでまったく打ち返せていない状態ですが。

比較的口コミが多く回っています。「使ってみたら使いやすかったから使わせて」ということは、薬剤師側とか薬局さん側ですごく広まってきて「使いたい」というふうになっています。

例えば、僕らの会社がメドレーさんとかいろいろな大手さんも含めて情報を連携して、「この患者さんはこういう人だからこういうふうにやったらいい」というのを、国もできるだけ管理して、個人情報を守りながら展開していくかたちにしていかないと、もう無理なんじゃないかなと思っています。

医療データと個人情報保護の壁

平手:個人情報保護法はやはり壁になっていますか?

中尾:そうですね。やっぱり患者さんの同意の下じゃないといけないので、そこはちゃんとしっかりやっていこうかなと思っています。

平手:EUはつい最近、GDPR(General Data Protection Regulation/EU一般データ保護規則)といって、個人データを保護するというのを発表して施行されています。

経済産業省で実際に個人データ保護法の法律を書いた方とお話をしたら、「日本の個人データ保護法のほうが進んでいて、やっとEUが追いついてきたんだ。ただ、今度EUはめちゃくちゃ厳しい罰則をくっつけたので、日本の法律とはずいぶん違うんだ」という話なので、日本の法律もけっこう厳しいんだなというのは、その話の中で逆算してわかったんですね。

データを活用しようとすると、電子カルテの中に載っているデータも含めて、どうしても個人のデータに触ってくるし、どなたでも病気になったら病気のデータが出てくるし、データをどう使うかというのは今後のイノベーションの道筋を考える上では避けて通れない部分になるんだろうと、私は思います。

データの扱いでどうしても避けられないのは、ヘルスケアでどういうサービスを提供しても、そのサービスが価値があったかどうかを検証しないといけないんですね。

医療行為であれば、手術をする、検査をする、薬を投薬するということがあります。電子カルテが出している情報もそうです。遠隔診療になると、極端に言えばAIがお医者さんに代わって診断をする。じゃあ、ある程度の正確性があったらそれを使っていいのか。

こうなってくると、AIというのはデータがなければ動きませんので、そのいろいろなデータを「どうバリデート(検証)してどう使うか」と。そのへんに課題があるのだろうと思っています。

長らく欧米でお医者さんをやられた立場から、こういう医療データをどういうふうに料理したらいいと感じますか?

創薬にかかる費用と時間を減らすための方策

藤本利夫氏(以下、藤本):私は外国で手術ばかりしていたので、効果に対してはあとからあまり振り返りたくなかったというのが現実です(笑)。

お二人の話をお聞きしてて、そういうデータが創薬にも活かせるなと改めて考えています。今、とくに再生医療の領域において、つい2~3年前に国が条件付き承認制度というのを導入したんです。

これまで薬、治療というのは、Phase 1・2・3、大きな臨床試験をしてバリデーション(医薬品・医療機器の製造工程や方法に科学的根拠や妥当性があるかを調査する一連の業務)をしてからじゃないと世に出ていなくて、世に出てからはいろいろなかたちで市販のデータを集めていたんです。

ただ、今、1つの薬を世に出すのに2,500億円、平均して15年(かかります)。それで、マーケット自体かなりセグメント化されている。このままでは薬ってペイできないような時代になってきている。

その中で今、再生医療で国がやったのは、本当にパイロット試験みたいな、PoCと言われるコンセプトさえ証明するような(ことです)。efficacy(効能)とsafety(安全性)のサインを見せる。そういったことができれば、小さな試験で市販ができる。売ることができる。

市販後にいろいろなかたちでデータを集めて、もしそれが本当にいいものだったらきっちりそのまま承認していきましょう。そうでなかったらあとで考えましょうという、そういう制度を導入したんです。

これを去年、抗がん剤など重篤な疾患にも当てはめて拡大した「条件付き承認制度」というのが作られましたが、本当にそういう時代になってきたなと思います。臨床試験や開発の期間にかける費用と時間をどんどん少なくして、市販後にデータを採って、それによって薬にリマインドしていこうという時代になってきました。

その意味で、先ほどおっしゃられたファーマシーで自動的にデータが採れる、市販後もデータベースでいろいろな患者さんの情報が採れる、薬の効果とか安全性もここから(データが)採れてきて、それによってどれだけその薬が売れるかも決まってくるのかもしれない。そんな時代になってくるのかなと改めて思いました。

本当に価値のある医療・ヘルスケア以外はムダ

平手:みなさん、いろいろなことを聞かれるといろいろなことを考えてしまうと思うんですけど、日本の医療は今までコンサンプション(消費)ベースと言われて、医療行為をやればやっただけ、保険機構からお金が戻ってくるといったかたちで医療機関にお金が入りますね。

今、 World Economic ForumやG1の中でも議論があって、我々が考えなきゃいけなくなっているのはバリュー・ベースド・ヘルスケア。バリューってなにかというと、先ほど途中に1回(話が)ありましたけれども、医療行為あるいはヘルスケアのサービスの価値があるものは認めるし、価値がないものはもうステージを降りてくださいということなんですね。

途中で中尾さんが「価値」とおっしゃいましたけど、患者さんが「頭が痛い。頭痛がするので、頭痛薬を買いに薬局に行きました」といったときに、頭痛薬を買って飲んで、5~6時間で頭痛が治れば納得感があるじゃないですか。

それが24時間、48時間経っても治らないとなると「あの薬なんだったんだ?」と。1錠100円だったとしたら、「その100円はムダだ」と思っちゃうわけですよね。そうなると「じゃあその100円を返せ」と。「返せますか?」って、今その「返す」なんて仕組みは世の中に、日本の中にないんです。

今それを業界も含めてみんなで議論しているのは、「価値のあるヘルスケアはなんなんだ?」ということです。電子カルテをやっている企業があって、薬局のデータを見つめている企業があるなかで向かおうとしているのは、本当に価値のあるヘルスケアを見極めて、それ以外は医療制度あるいは社会保障費から降りてもらう。要するに「ムダを削れ」ということですね。

日本の医療体制はぜんぜんそれができていないんですね。ですから、こういうベンチャー企業がどんどん活躍することによって、ディスラプティブなテクノロジーとして世の中を改善していく部分が出てくるんだろうと思います。

みなさんからフロアからのご質問をいただきながら、パネリストのほうから違う知見も引っ張り出せるかなと思うので、ご質問いきたいと思います。はい、どうぞ。