消えた10億年以上の地質記録の謎

ハンク・グリーン氏:過去約150年間ほどの間、地質学者は失われた時間のミステリーを解決しようと努力してきました。というのは、いくつかの場所での地質記録が10億年以上も飛ばされているようなのです。この不吉な現象は「大不整合」と呼ばれています。しかし最近になって、ある研究者のチームがこの謎を解くことに成功したかもしれないというのです。

先週、『米国科学アカデミー紀要』の中で発表されたある論文によれば、彼らは、多くの人が「全球凍結(スノーボールアース)」と呼ぶ地球の歴史の期間中、巨大な氷河が1ダース以上の垂直方向の岩石を削り取ったという、かなり信用性の高い証拠を提示しました。

「大不整合」は名前の通り、かなり大きな不整合です。この言葉は地質学の専門用語で、岩の層に刻まれた年代が突然飛んでいる場所を指して使われています。通常は、ゆっくりとした土砂の堆積が磨耗や亀裂により岩に層を作り、穴を深く掘るにつれて土の年齢が高くなっていきます。

しかし、1869年に、ジョン・パウエルという地質学者がグランドキャニオンを巡っていた時、地球の多様な生命の爆発の直前から10億年以上の地質記録が、なぜか完全に失われていることに気がつきました。

この発見は「パウエルの大不整合」として知られるようになり、すぐに地質学者たちはその発見がアメリカ南西部だけではないということを発見したのです。

つまり、合わせて地球の約百億立方キロメートルが失われていたのです。そんなに大量の土砂がなくなっているということは、大きな不整合な時間があった、地球の歴史の約4分の1が失われていたということなのです。この事実は科学者たちがよりいっそう、一体何が起こったのかを明らかにすべく努力する起爆剤となりました。

突然地表が侵食されて地層が消えた?

これには、実際には2つの可能性しかありません。その何千年もの間に新しい堆積物が堆積しなかっただけか、突然非常に大量な侵食が生じたために、地質記録を洗いざらい侵食してしまったのか、という可能性です。

それで、地質学者たちは「不整合」の前後の層を観察することで、何が起きたのかという証拠をつかもうとしました。失われた地層の上部には「テービーツ砂岩」があり、その層は約5億2500万年前のカンブリア紀にできました。そして、下部にあるのは「結晶片岩」として知られる岩で、16億年以上前に形成されました。

その中でも興味深いのは、上部の層が下部の層と比べて単位時間分の量がかなり多いという点です。普通に考えれば、下部の層は上部に比べてかなり長い間、より大きな圧力をかけられているので潰されているはずなのですが、実際のところ、予想以上に潰されていました。

そうなると、「侵食仮説」と一致します。今では失われてしまっている岩の層の重みで押しつぶされたのかもしれません。しかし、その失われた地球の一部がどこに行ってしまったのかを説明できる人はいません。

14kmもの大地が地中に飲み込まれて消えた可能性

そこで、国際的リサーチチームは「ジルコン」という極小のミネラルの結晶を研究しました。これは、溶融した液状の岩、つまりマグマが冷えてきた時に最初に結晶化するミネラルで、とても強いので、他のミネラルが破壊されてしまうような地質的段階が生じた場合でも生き残ることができます。

さらに重要な点として、ジルコンが形成される段階で、周りで生じた地球化学的条件を記録してくれるのです。ですから科学者たちは、さまざまな変種や、放射性元素で腐食するスピードが非常に遅い、ウランの同位体を研究することで、その結晶がいつのものかを知ることができるのです。

この研究でチームはまた、約3万個のジルコンの結晶にある酸素の同位体と、ハフニウムという銀色の金属も分析しました。これらの含有率の割合は、乾いた大地を形成する大陸性地殻と、海底を形成する海洋性地殻において大きく異なり、もしそのどちらかが結晶が形成されたマグマの一部となっていたらすぐにわかります。

その研究結果によれば、14キロメートルにも及ぶ地球の大地が海に落ちて、地中に引き込まれ、沈み込む過程でマグマとして再生されたのかもしれないということです。

地球は約6億5000万年前には“氷の惑星”だった

そうなると、約6億5000万年前に地球全部か、ほとんどが氷で覆われていたという説とつじつまが合います。その仮説は「全球凍結」と呼ばれ、一時期はとんでもない説だと言われていましたが、最近になって、その説を支える証拠がどんどん出てきています。

この研究をした科学者たちも、ある古いクレーターを研究することによりさらなる証拠を提出しました。彼らによれば、巨大な氷のシートが浅いクレーターを削ってしまったはずなので、世界的氷河期が起きた後の方が、そのままのクレーターが残されているはずだと考えました。

カンブリア紀以降にできた衝突の跡地は非常にたくさんありますが、それ以前のものは非常に少なく、そのすべては何キロもの深さがあります。そして、それとジルコン結晶のデータを合わせると、巨大な氷河が約6億5000万年前に地球をえぐり取ってしまったという強力な証拠が出たのです。

もちろん、いくつかの疑問点もあります。例えばその中で最大の問題は、「大不整合」が終わる前の何百万年前に地球が暖められていたはずなので、なぜその時代の地層がないのかがわかりません。

論文の執筆者たちは、氷が侵食可能なものを残さなかった上に、新しい大地が形成されるには時間がかかるのだと考えていますが、この主張を通すのにはさらなるデータが必要になります。

他の科学者たちは、この侵食は「全球凍結」の前に起き、これが全世界が冬の状態になる原因となったのだと考えています。ですから、さらなる研究が必要です。

厳しい冬の時代が「カンブリア爆発」をもたらした

これらの発見の中でも特に興味深いのは、もしこれが本当であったとしたら、そのあとに起きた生命の爆発をどう説明するのかという点です。

少し以前、数名の科学者たちが「カンブリア爆発」として知られる生物多様性の爆発の原因は、侵食による大きな環境の変化だったのかもしれないという仮説を提唱しました。

この論文の研究者たちはまた、水にミネラルが加えられ、それが氷河によるへこみにあふれて肥沃になり、浅い海となって海洋生物が繁殖したと述べています。彼らの研究において、それが本当であると言える証拠は提出されていないので、もちろんこのような仮説は怪しいと思われています。

でも、私は気に入っています! 地球の歴史において一番寒かった、厳しい冬の時代こそが、現代の驚くべき生命の多様性と進化に欠かせないものであったというアイディアは、どこか詩的で素敵だなと思うのです。