ノーベル賞を受賞しても金策に苦慮、日本の研究者が抜け出せない「搾取構造」

世界を変える日本発のヘルスイノベーション #2/4

G1ベンチャー2018
に開催

2018年6月17日、起業家を中心に、ベンチャー経営に関わる学者・政治家・官僚・メディアなどの第一線で活躍するリーダーたちが集う「G1ベンチャー2018」が開催されました。本パートでは、第6部分科会「世界を変える日本発のヘルスイノベーション」と題して、湘南ヘルスイノベーションパークの藤本氏、メドレーの瀧口氏、カケハシの中尾氏が登壇。大企業が有するノウハウとスタートアップの革新性や技術力を結びつけることで、ヘルスケアにおけるイノベーションはどこまで加速化できるのか。産官学の連携を阻むさまざまな障害と、それを乗り越えるアイデアについて意見を交わしました。

バイオベンチャーを後押しする大企業の取り組み

平手晴彦氏(以下、平手):藤本さんはそれをまた開放する側へ、まったく正反対の動きをされていると思うんですけど、その辺りをちょっとお願いします。

藤本利夫氏(以下、藤本):ありがとうございます。先ほどから参入障壁という言葉がいくつか出てきて、創薬なんてまさに参入障壁の塊で、初期投資はかなり大掛かりなものがいる。もちろん専門性もかなり高いものです。

今、IT業界でまた起業ブームが起きているんですか? そんなお話をベンチャーキャピタルの方からちょくちょく聞くんですけれども、ヘルスケアの業界ではそれがなかなか起きないというか、まだ波が来ていないようなんです。

その理由をお聞きしてみると、やっぱり額がまったく違うのと、そもそも本当にものになる「サイエンスの種」というか、ライフサイエンスの種を見つけたり、それを育てたりするのが非常に難しく、手を出しにくいというのが現状なようなんです。

今回の湘南アイパークでは、まずその参入障壁というか、創薬のハードルを下げてあげる。(アイパークに)来たら、武田が使っている創薬に関する設備が使い放題です。

それから、なによりも専門性という面で言ったら、例えばサービスの1つとして、来られたバイオベンチャーの方には、武田のサイエンティスト、それも経験のあるディレクタークラスのサイエンティストをメンターとして指名して、その方がいろんなサイエンスのネットワークにつなげてあげる。

そんなかたちで創薬のいろんなアドバイスが受けられて、自分たちの技術が薬につながるようなかたちで、武田が今まで培ってきた技術やいろんな経験を外に開放して、創薬のしきい値を下げてあげるということを今やっています。

平手:大企業がノウハウを開放し始めているというのを聞いてみて、瀧口さん、なにかご感想ありますか?

瀧口浩平氏(以下、瀧口):こうやって大企業の課題感とベンチャーの課題感が一致するケースというのは、すごく幸せなケースだなとは思っていますね。

日本の「大企業とのデスバレー」現象

平手:モデレーターはあんまりしゃべらないようにしますけれども。1つだけ、ディスカッションに課題を差し上げる意味で、アメリカでは「エコシステム」という単語にもう置き換わっている「産官学連携」という単語が、日本で20年来使い古されてきています。相変わらず産官学連携がうまくいかない、あるいはうまくいってこなかった。

そのなかで「ベンチャーのセグメントが育ってこない」というのがもうずいぶん言われているんですけど、ここへ来て少し動きがあるように思うんですね。ベンチャーが少し動き始めた。

その部分を少しヘルスケアの分野で見ると、みなさんがある意味では実例なんです。「産官学が過去にはうまくいかなかった。これからは俺たちがやってやるぞ」というところに、少しコメントありますか?

産官学、ちょっと混ぜ返してしまったかもしれませんけど、産と学が連携しようとしただけでも。アメリカで考えていただくと、 アカデミア(大学とか研究所)、それから大企業があって、真ん中にベンチャーのセグメントがあるんですね。

大学のアカデミアからベンチャーが(種を)拾ってきて、ベンチャーがそれを若葉が出るぐらいまで持ってくるんですね。そこまで育てると、それを大企業がまた大きく持っていくというような、1・2・3の3段跳びぐらいになるんですけど。

日本はベンチャーのセグメントがなかなか育ってこないので、アカデミアの人は論文を出して、学会で発表して終わっちゃうケースが多くて、実用で社会で役立つ製品になるところまでなかなかいかない。「大企業とのデスバレー(死の谷)」とよく言われるぐらい、日本は(そういうケースが)あるんですけれども。

そのなかで、こういうベンチャーが企業が出てくると、今まで埋まらなかった谷間をつないで、大企業とアカデミア、あるいはベンチャーが新しいプレイヤーとして出てきて「こういうところは俺たちに任せてくれたらうまくいくよ。今までとは違うんだ」と。

そのあたりでコメントがあったら欲しいんですけど。少しわかりました?(笑)。

瀧口:ちょっと話むちゃくちゃ……。

平手:ぶっつけ本番でやっていますからね(笑)。

研究者が搾取される日本の学術領域の課題

瀧口:話がすごく変わるのでぜんぜん違う話になるかもしれないですけど。研究者のイノベーションを進めていくようなところでいうと、究極的には、今の論文の流れでは難しいと思っています。

平手:どういうふうに変えるんですか?

瀧口:新たにプラットフォームを作って、そこに論文を出した時点でお金が支払われればいいんじゃないかと思っていて。

今の学術領域は、ユダヤ人が作った搾取構造になっていると思っています。「論文出します。しかもお金を払います。でも、査読者は善意で手伝います。その結果の完成物はジャーナルがお金取って儲けます」みたいな構造だと思っていて。それは良い構造とは呼べないですよね。

その部分でまず「研究者が論文を出せば出すほど、金銭的に報われる」という構造に変えたほうがいいんじゃないかというところがあります。オープンアクセス誌が良い方向に進めばそうなるかと。

それと、その論文を書くまでのデータを採るじゃないですか。そこに一番時間をかけていると思うんですけれども、その生データとかって誰も共有しないですよね。GitHubでソースコードを公開するように、研究の生データが公開されるような構造を国として作っていくことができれば、だいぶいいんじゃないかと思うんですよ。

ぜんぜん雑談なんですけど。最近、個人的に加速器とか中性子実験施設のようなところによく遊びに行っています。使用率が低い施設もあり、「これどうやったら100パーセントにできるのかな?」ということを考えています。そういう領域でも、同じような課題感がありますね。

平手:ヘルスケアの分野というのは、社会的な使命を背負っていて、公的な保険からお金が出ていて、国の税金からお金が出ているというのがあって、ついついお金儲けをするとあまりよろしくないみたいに言われがちだと思うんですけど。今、瀧口さんがおっしゃったのは真逆で、いい話、いい研究をしたらお金をすぐもらえるぐらいにしたほうがいいと。

私も、このG1で活躍されている京都大学の山中先生、iPSのノーベル賞をとられた先生ですけれども、あれがアメリカだったらiPSのノーベル賞とった先生はもうビリオネアですね。悪い意味じゃなくて、ビリオネアですね。

でも、今、京都大学の山中先生は、一生懸命チャリティでマラソンを走って、寄付を集めて、研究の費用を少しでも工面しようとして苦労されているぐらい、お金に苦労されている。

産官学連携も含めて、もう少しがんばってサイエンスのイノベーションが出てきたら、それが報われるような、あるいはそれを支えるような、こういうプラットフォームを提供されているベンチャー企業が出てきたら、(今度は)それがもっと報われるような社会的な仕組みが必要だなと今感じています。

中尾さんはどうですか?

研究と臨床をつなげることで実用的なサービスが生まれる

中尾豊氏(以下、中尾):今話題であがったのは、たぶん「学」に対してのインセンティブをちゃんと与えましょう、という話だと思うんですけど。

僕らが考えているのは「金銭的なインセンティブ」ではなく「学問と臨床の乖離を埋める」ということをやっています。弊社にも研究職出身の薬剤師が多いんですね。なにをやっているかというと、論文ベースというか、研究で出した論文が臨床に届いていない問題があるんです。ただとりあえず出して終わりみたいになっちゃっているので、それをどこまで臨床につなげるかという価値を、私たちの「Musubi」というサービスで出していきます。

例えば、60歳男性が2型糖尿病でこういう生活をしていた場合、「あなたはこの薬を飲んでいたら、こういう生活をしたほうがいいんじゃないか」というのを、論文ベースで患者さんに出すアドバイスを、Musubiがイラストを選抜して提示します。それを薬剤師が自身の知見と掛け合わせて会話するサービスです。つまり研究と臨床をつなげるようなSaaSを展開しているんですね。

一方で、もう1つのポイントが、臨床でそれを使ってみたらどうなったかというアウトカム(成果)ですね。そのアウトカムをデータでどんどん蓄積して、じゃあ、その60歳男性2型糖尿病の人に対して「このコメントをした場合はこういうアウトカム」「これだったらこうだった」ということが採れるようになります。それをまた「学」に戻してあげるとPDCAが回るのかなと思っているんですね。

そこがつながっていなかったというのが、今の現状の日本の医療なのかなとは思っていまして。私たちはそこを変えていこうとやっています。

平手:こういう新しいプラットフォームを提供するベンチャーの企業なんか、湘南に欲しいでしょうね。

藤本:ぜひ来ていただきたいなと思ってるんですけれども(笑)。

でも、先ほど平手さんおっしゃられたように、創薬においてバイオベンチャーが圧倒的に不足していて。その不足の原因というのは、研究者で経営ができるというか、経営者がなかなか育っていない。

先日、ボストンの有名なサイエンスパークの方々とお話する機会があって、実はその時に「なんでアメリカはそうやって教育の中に、経営者になることまで含めて、いい発見やアイデアがある方が、その技術を患者さんの下に届けるために自分たちで起業しようと、そこまでつながってくるのか?」という質問を投げかけてみたんです。

研究者とベンチャーがつながることで日本発のイノベーションを起こす

藤本:そのパークにはMIT出身、ハーバード出身のバイオベンチャーが山ほどいるんですけれども、その方に言われたことが非常におもしろくて。「MITとかハーバードの大学で職を持っている人が、辞めてヘルスケアで起業しようなんてほとんど思わないよ。アメリカだってそれは日本とまったく一緒だ」と。「そうじゃなくって、ボストンには、アイデアがある人材に近づいてくる製薬出身の人材が山ほどいるんだ」と。

要は「30代40代で製薬出身で、ハーバードやMITの技術者たち、教授たちと結びついて、それで会社を起こしてくるような、そういうシリアルアントレプレナーみたいな人材のプールがボストンにはあるんだ。そこが今の日本とアメリカの大きな違いなんじゃないか」ということをおっしゃってたのが非常に印象的で。

平手:一方でサイエンティスト、一方でアントレプレナーシップ、経営マインドを持った人がteam upしているという。

藤本:シナジーを起こしているというのがボストン。

平手:日本発でイノベーションをどんどんつくっていくために、そういう違うexpertise(専門的技術)を持った人たちを結びつけるという意味では、瀧口さんが今おそらくご苦労されている部分でもあるかなと思います。どういう人とどういう人を結びつけたら、ヘルスケアのイノベーションという方向で将来が見えてくるでしょうか?

瀧口:そうですね。ヘルスケア系のベンチャーはすごく増えていて、世の中に応援されるベンチャーも増えてきていると思うので、そういう意味ではすごくいいのかなと。

だから、メドレーが愚直にやり続けてるのを見て、「メドレーができるなら、俺らもできるんじゃない?」みたいな方々が増えてきているというのはすごくいいことだなと思っていますね。

研究者としゃべると、サイエンス側の人もAIの文脈で松尾(豊)先生がお金持ちになられて、「あれやりたい!」って心のどこかで思っている方が多いように感じます。もう事例ができているので、そういうことを一緒にやろうよってベンチャーが研究者を誘えば、研究者が手伝ってくれる土壌みたいなものはもうできているのかなという感覚はありますね。

大学と企業の連携の前に立ちふさがる壁

瀧口:ただ、大学に所属している研究者と一緒にやるというのは、倫理委員会とかも含めて別の問題がありますね。

平手:倫理委員会というのは、本当のピュアな倫理的な面だけじゃなくて、conflict of interest(利益相反)みたいなものも含めてのイメージですかね?

なかなか大学の先生が外の企業と提携して研究しようとすると、プラスアルファの報酬をもらうとなると、教授のルール的に「それはもらっちゃダメ」とか、まだ日本のアカデミアは厳しいんですけれども。

例えばドイツは、ミュンヘン工科大学とすぐ近くのアウディなんかは自動車の研究を(共同で)ものすごくやっていて、研究室を引っ張っている大学の先生は大学の教授の報酬以外にアウディからお金もらってるんですね。それは大学の中でよしとされているんです。

散々議論した上でそういうルールになったそうなんですけど、日本はなかなかそうなっていないので。倫理委員会だけじゃなくて、アカデミアを少し前へ。ベンチャーと組む、ベンチャー化するでもいいし、大学が企業と組むでもいいんですけど、いろんな壁と戦っている張本人として、そこを突破するソリューションみたいなものが見えませんか?

瀧口:短絡的には「大学辞める」というのが話が早いんだと思うんですけど、大学の中での枠組みが増えてきてもいいのかなとは思いますね。

例えば、企業との研究を億単位で毎年集めてきているような先生っていらっしゃるじゃないですか。そういった先生の年収が1,000万以下というケースも少なくありません。「ちょっとありえないでしょ」ってところがあると思っていて。そういうところが社会から見て「当たり前だよね」というレベルの金銭感覚として、大学がやれればいいのかなという気はします。

平手:国立大学も県立大学も市立大学も、だいたい公共のところはなかなか縛りが強くて、先生が独立してうんぬんというかたちにはなってこないのかなと思うんですけど。

中尾さんは、企業に就職して、そこから早い段階で自分の会社を立ち上げたんですけれども。そういう立場からいくと、「大学の先生だってこういうふうに考えたらいいのに」とか、あるいは公官庁のよく情報を持っているお役人の中にも「アイデアがあれば独立してやったらいいのに」とか、「こんなふうに考えたらいいのになぁ」というようなところってあります?

1ベンチャー企業には、医局の文化は変えられない

中尾:そこに関しては思ったこともあるんですけど、それを変えるにはエネルギーが高すぎるなというふうに思いました。僕、4~5年ぐらいずっと、大学病院担当だったのですが、医局という文化があって、教授・部長・医局員がいますと。教授が言ったことに対してあまり否定できない文化がやっぱりあるので。

そこに対しての、彼らの資本金は製薬会社との研究費というケースがあるなかで、そこで自由に外に出たり、「ベンチャーが入り込めるか」と言われたら、大きなエネルギーと文化を作るコストがかかりすぎるなと思ったので、そちらを変えるのは難しいかなというのは個人的な現場感としてはあったんですね。

「じゃあなにを変えるか」と思ったときに、創薬とか製薬会社を起点とした視点ではなくて、患者さんの国民目線で考えたときに、「医療体験で一番ボトルネックになっていて、バッファというか伸びしろがある領域はどこなのか?」という思考に変えたんですよ。

そうしたときには「UX」という言い方もよくないかもしれないですけど、本当につらい患者さんたちが、タクシー・バスに乗って、2時間待って、先生と喋って。10分も喋らないですね。5分喋って、検査を受けて、会計で1時間半待って、目の前の薬局で30分待って、ヘトヘトになってタクシーに乗って帰る。

この医療体験って、「普通に健康な人がカフェに行って15分でアイスコーヒーを飲めている時代に、なんちゅうことだ!」みたいな、その伸びしろがはるかに高いと思います。アンメット・メディカル・ニーズ(未充足な医療需要)の薬を創薬することはすばらしいと思うのですが、それとはまた別に、医療という全体においては患者さんの体験というのが伸びしろは高いなと思ったので。

医師とか医局の文化を変えにいくエネルギーよりも、そっちのサービス領域のほうが国民のためになるかなと思って、そっちに振ったという背景があります。ちょっと答えになっているかわからないですけど。

平手:いえいえ。視点を変えて取り組んだということで。

中尾:そうですね。結論からいうと、「諦めた」に近いですね(笑)。

平手:「諦めた」に近い(笑)。

中尾:医局を変えるのは、1人のベンチャーの人間には無理だと思いました(笑)。

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