我慢の省エネは続かない!
エコの時代には「心地よさ」の再定義が必要かもしれない

シラススタイルー心地よさの基準が変わる #1/2

エコが叫ばれる時代、ひたすら我慢するのか、「心地よさ」の基準を変えてしまうのか--東京に事務所を構える建築家の鈴木亜生氏が、南国・鹿児島県の顧客から受けたのは「エアコンいらずの家に住みたい」という注文。それを可能にしたのは、九州南部に広がるシラスを用いた家造りでした。(TEDxKagoshima University 2014より)

青々とした芝生を育てる"シラス"の力

鈴木亜生氏:皆さんこんにちは。建築家の鈴木亜生です。私は東京に事務所があって、いろんな地域で仕事をしています。今日はこの路面電車に乗って会場に来ました。

軌道敷の芝が青々として街に潤いを与えていて、とても心地いいですよね。皆さんはこの芝の下に何が敷かれているかご存知ですか? 何が敷かれているかご存知の方、手を挙げていただいていいですか?

意外と鹿児島の方も知らない方が多いんですが、実はこのシラスを使ったブロックが敷かれているんです。

シラスの粒の隙間に芝が根を張り、シラスが含んだ水を芝が吸って、青々とした芝が生育できるんです。エコをきっかけにして、こうした新しい心地よさが街に生まれてくるんですね。

昨年、私が鹿児島にこのシラスのブロックを使って作ったエコハウスを通して、今日はエコと新しい心地よさについて皆さんと考えていきたいと思います。

「心地よさ」の基準を変える

こちら今日の主役の方です。この方との出会いは、私が沖縄でリゾートホテルを設計しているときでした。

この方は沖縄の暑い環境でもエアコンを設けず、沖縄の海風に吹かれながら庭にはマンゴーを育てるのを楽しんでいました。そして故郷のこの鹿児島に戻り、同じようにエアコンのない生活を楽しみたい、という要望を私は受けました。

最初はとても驚きました。だって皆さん、よく考えてみてください。建築はまず外部の環境と切り離して、エアコンで人にとっての快適な温度を保つっていうことが前提となっていますよね。そのエアコンの力を借りずして、人に心地よい環境を作り出してくださいという依頼なんです。

私は、これは新しい建築を作り出すチャンスだと思いました。そしてそれによって、新しい心地よさが生まれてくるはずだと考えました。

今、私たちが環境負荷低減の共通した課題を抱える中で、多くの設備機器が新しく急速に開発されています。ただ省エネが要求される中では、低減の負荷はどんどん増すばかりで、その限界はあると思います。

「心地よさ」のこれまでの私たちの基準は、機能性や利便性というものが基準になってきたように思います。ですからそういった設備の効率というものは、どんどん負担になってくるはずです。ただ、この「心地よさの基準」というものが変わっていけば、我慢の省エネというものが続かないのではないか、と考えました。

そして私はこうお客さんに提案したんです。

エコを楽しむ場を作りましょう。これは高い断熱性によって外部と切り離し、省エネの機器を多く搭載したエコハウスではありません。エコを楽しみ、新しい心地よさの場を多く作ろうという提案です。そこでこの家のテーマが決まりました。

技術の進歩がエアコン要らずの家作りを可能にした

シラスによって心地よさの基準を変えるんです。もともとエコはエコロジーの略で、生態系の構造と機能を明らかにするという言葉です。

鹿児島の生態を支えているのはシラスの地質や地形であります。シラスが地形を生み、作り、風を生み食物を育み、人に恵みを与えています。敷地はこのシラス台地の上にある住宅地です。ここにシラスの力を使った家を作りました。

姶良カルデラ一帯に広がるシラスは、量にすると3500立方メートル、東京ドーム約28万杯もの量になると言われています。他の地質にはない多くの特徴を持っています。では、それがなぜ実用化されてこなかったのでしょうか。

コンクリートは砂や砂利を利用し、セメントと水を化学反応させて強度を作っています。その砂や砂利の代わりにシラスを利用するには、シラスが多くの欠点を持っているため、強度を作ることができなかったんです。

ただ、ある鹿児島のブロックメーカーがこれまでの水とセメントを混ぜるのではなく、200トンのプレス機を開発して、シラスが水を含んでいるということを利用して圧縮することで、シラスが含んでいる水がにじみ出るんですね。

そうすると、セメントと圧着することで強度が出ることになったんです。そしてここにあるブロックが完成しました。

これが、皆さんが歩いている天文館に今舗装されています。あるいは、皆さんが利用してる自然の下、芝の下に敷かれている舗装ブロックです。

これを私が、鹿児島に最初に来たときにこの舗装ブロックが建物の内部の断熱性に活きると考え、このブロックメーカーと今回、共同開発して建築材料に応用しエコハウスを作ったわけです。

これがその家の心地よさを作るために、シラスに担ってもらっている機能です。外壁と内壁を2重にして積み上げ、その間には空気層を設け、断熱性能を増しています。屋上には路面電車と同じ芝をひいています。

内壁にはシラスの原石を砕かずそのまま埋め込み、高温多湿な鹿児島で湿気を夏には吸収し冬にはその水分を放出する役割を担っています。こうしてシラスが壁・屋根全体を取り囲み、エアコンのない家において、建物をシラス自体がエアコンディションしてくれるような機能になっています。

ここからが家づくりのスタートです。シラスといっても、鹿児島の方でも身近にする機会はないと思います。大隅半島にあるシラスの採掘場にお客さんと行き、シラスを実際に採掘し、手に触れ、どのような重さ・表情をしているか確認し、この穴に入って温度・湿度を実感してもらいました。

そして洞窟に入って実際にシラスの原石を採掘する作業です。見ていただくと、お父さんが一番楽しそうに掘っているんですね(笑)。

これ、行ったのがクリスマスイブなんですけど、

(会場笑)

なかなかそんな日に行ってくれるご家族はないかもしれないんですけど、こういったシラスの掘り起こす作業ですが、私たち、眠っている心地よさの感覚を掘り起こすような作業でもあったと思います。

その原石を実際にこれから工場でブロックに製造する作業です。

普段は工場のラインで大量生産できることですが、初めてここではひとつひとつ原石をパレットに並べて行く作業です。これだけ大変な手作業ですが、人工石が天然石のような素晴らしいブロックになりました。

実際にできたのがこのブロックです。

シラスの、2万5千年の堆積した時間がこういった、カットされた表情になっています。ここに埋まっているのがシラスの原石です。

これだけ多孔質な表情になっています。そして出来上がった家がこれです。

シラスの台地、崖をイメージした台形型のかたちをしています。地域の方々からは段々に積まれた表情を見て「ピラミッド」という愛称で呼ばれているんですが、

(会場笑)

私が作品名をつける前に、そういう愛称で呼んでいただいています。その土地の堆積岩を使って積み上げているっていう点では「SHIRASU」と「ピラミッド」、同じかもしれません。

革製品のように「深み」が出るシラス建建築

ここから生活が始まります。シラスによって(生まれる)新しい心地よさについて説明していきます。家の生活の中心、リビングですが、

一般的なライフスタイルについて考えていけば普通は、ソファが置かれ、テレビが並び、居場所が決まり、姿勢が決まっていくと思いますが、ここではそういったソファ・テレビが並ばず、床に寝ころび思い思いの場所で生活しています。

この姿勢は、鹿児島産のフローリングを使ってその床に触れているのが心地いいからなんです。左の和室上には屋上に上がるテラスがあって、このリビングから大きな開口を通して空が見えるんですね。満月の夜にはここに家族で布団を並べて、皆で語り合うそうです。

同じリビングではピアノを弾くと、ここが快適な音楽ホールだったことを気づかされます。

この(講演が開催されている)稲盛会館もそうですが、穴あきの吸音ボードという素材で仕上げられています。シラスブロックが多孔質で穴がいくつも開いているように、その吸音ボードの機能に代わる役割を担っています。

壁が二重壁で防音性が高いため、隣の家を気にせず演奏が楽しめると、女の子も喜んでくれています。

右側の写真ではバスケットゴールが取り付けられ、リビングがこのような遊びの場に変わってしまっています(笑)。こういった遊びの場という機能を見つけるのも、このお客さんは得意なんですね。

屋上は雨水を貯めるトレイのような役割を担っていて、その雨水が樋を通して灰やゴミを濾過して庭にある雨水タンクに200リットルまで貯められます。その水は洗車や庭の散水に利用されて、子どもたちは雨が降るのを待ち望んでいます。

壁にはこの小学生の娘さんがボルダリングのようにして上まで登っていってしまうんですが、この壁には、集まってくるのは女の子だけじゃなくて、鹿児島の皆さんにはご存知の通り、桜島の降灰が集まって来てくれるというか(笑)。

そういった迷惑なものが集まってくるっていうのは、壁を汚してしまうものではなくて、壁にとってはお化粧のように、このシラスブロックにとっては仲間のような存在なので、年をとるにつれてシラスブロックの表情に深みを与えてくれる。お化粧やアンチエイジングではなく、エイジングの効果を与えてくれるシラスの心地よさと言っていいかもしれません。

屋上に登ればシラス台地の街並みが広がり、桜島まで一望できます。シラス台地と錦江湾が作りだす、海陸風というこの土地特有の局地風が桜島から吹きあがってくるのが、肌で実感できるんです。この屋根に登れば家の境界線という意識が消え、自然・街と一体であることを実感させてくれます。

エコをきっかけに生まれる再発見

ここまで、新しい心地よさの基準が生まれてくることを見てきましたが、皆さんにとって「心地よさの基準」は何でしょうか? 私は仕事を通して、エコをきっかけに心地よさの基準が少しずつ、確実に変わりつつあることを実感しました。この環境の時代の中でエコをきっかけに様々な分野であらゆる発見ができるかと思います。

これまで陽の目を見てこなかったものや、機能が定められてきてしまったもの、無駄だと思われてきてしまったもの。そういうったものを再評価することで新しい心地よさ、新しい楽しみ方が生まれてくるはずだと考えます。

今日皆さんもこの帰り、市電に乗ってシラスの心地よさに触れながら、皆さんの目指す分野で、ご自分たちが楽しんでみたい、作りだしてみたいと思う中で、どんな心地よさが生まれてくるだろう。そんな思いに触れながら、いろんな考えを生みだしてみてはいかがでしょうか。ご清聴ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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