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新しい働き方(全5記事)

北野唯我氏「良質な問いに、最高の知性は集まる」 ビジネスパーソンに必要なのは、アートとサイエンスの素養

2018年12月8日、合同会社DMM.comにて「前田塾5周年記念パーティー」が開催されました。大学1年生〜20代前半のメンバーが2,500名以上参加する前田塾が創立5周年を記念して開いたこのイベントには、DMM.comの亀山敬司氏、教育改革実践家の藤原和博氏、Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏など多数の豪華なゲストが招かれ、「教育」「働き方」「経済圏」をテーマにトークセッションが行われました。今回は2つ目のセッション「新しい働き方」の模様を5回に分けて公開します。本記事では、「AI時代に人がすべきことはなにか」を中心にゲストが語ったパートをお送りします。

人事業務にRPAが導入されたら、世界はどう変わる?

北野唯我氏(以下、北野):ぜんぜん関係ない質問していいですか?

(会場笑)

高橋さんに聞きたかったんですけど……RPAの高橋さんがやってるビジネス、知ってる人っています?

(会場挙手)

あ、みなさんけっこう知ってるんですね。すみません、僕はぜんぜん知らなくて。さっき人事の方に見せていただいたんですけど、すごいんですよ。我々は採用のコンサルとかやってるんですけど、人事って面接の連絡とかめっちゃ細かいことを日々やってたりするんですよ。通過・落選のメール送信とか。それを、御社のサービス使うと全部自動でやってくれるみたいな。そういうことをやられてますよね。

高橋知道氏(以下、高橋):はい、そうですね。

北野:僕が聞きたかったのは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)っていうものが、もし日本の上場企業とかに導入されたら、そういったオペレーションの業務みたいなのはなくなるのかということです。なくなった後どういう世界になっていくか、どういう働き方をするのか。想像されてるところでどういう……たぶん見えてるところがあると思うんですよ。どう見ているんですか?

たった2年で現金が消えた中国の決済事情

高橋:まさにおっしゃるとおり、オペレーション的なものってどんどんなくなるんですよね。ソフトバンクさん一緒に協業してますけど、通信会社としてのソフトバンクにAI・RPAを使うと、4割削減できると。4,000人です。

北野:ほう、ほう。

高橋:4,000ですよ、4割で。この人たちに新しい事業、まさにAIとかそういうものを作る、より高度な問題解決にあたってもらう。今、PayPayっていう決済サービスがありますよね。……けっこうあれ、イイよね(笑)。

(会場笑)

20パーセント還元ですから(笑)。ちょっとさもしいのでアレですが……僕、調子に乗ってビックカメラ行っちゃって、よく考えたら買うものもないのに加湿器買っちゃったんですね。

北野:言っていいですか? もうマーケティングされてるじゃないですか!

(会場笑)

バシバシに狙われてるじゃないですかそれ(笑)。

高橋:加湿器買っちゃいましてね(笑)。家に帰ってみると、加湿器はすでに2台ありました(笑)。

(会場笑)

北野:まんまとハマってますね(笑)。

高橋:はい(笑)。そんなPayPayですけど、たぶんこれからものすごい勢いで普及するんですね。実は僕、中国でもかなり深くビジネスをやってるんですけど、たった2年で現金がなくなっちゃったんですよね。孫さんはね、あれをマネします。Alibabaっていう会社がお年玉配ったんですよ、猛烈な勢いで。これは日本ではできないと思うんですけど。紅包(ホンバオ)っていうお年玉があるんですけど、それで一気に配りました。

北野:どれくらい配ったんですか、金額的には。

高橋:金額はちょっと覚えてないですけど、かなりの金額です。何千億かはいったんじゃないですかね。たぶん、孫さんも3,000億円くらいは配ると思います。なぜなら日本版のAlipayで何兆円かのバリューを持つと思うので。

北野:そうですよね、バリューが付きますよね。

Alipay、PayPayが作り出す新しい金融の世界

高橋:はい。Alipayの世界で今何が起こってるかって言うと、まさにデジタライゼーションです。お金の問題解決について1個ヒントで、みなさんにも知っておいてほしんですけど。今金融商品の概念が変わるようなサービスをやっていまして、1つはMMF(公社債投信)で、毎日金利付くんですよね。毎日3パーセントとか。

北野:3パーセントも付くんですか!?

高橋:はい。

北野:毎日!? ヤバいっスね。

(会場笑)

高橋:毎日付きます。要するにこれ、Alibabaからしたら金融情報って大した情報じゃないので、お金を取らないんです。運用して稼いだお金をそのまま客に戻してるっていう世界ですね。

これは画期的ですね。AlipayやPayPayでどんどん決済すると、その人がいつぐらいに給料がどれくらい入ってきて、何にいくら使っているか。いい加減な人なのかちゃんとした人なのかって、Alibabaにはわかってるわけですね。今度は貸すほうです、貸すほう。これも日払いの金利で貸すっていうサービスを始めてます。

北野:何パーセントくらいなんですか?

高橋:これも非常に低金利です。信用が良ければすごく低金利になる。スプレッドがないので、基本的には。

これで何が起こるかですけど、例えば「今日はこれ買いたいな」って思って、さっきの加湿器についているQRコードかなんかにスマホをかざすと、自分の口座に15,000円しかなくて、9,000円足りなかったとします。

そしたらAlipayが何をやってくるかというと、「9,000円足りません。あなたは信用スコアが◯◯です」と。で、給料が入ってくる日がわかってるんで、「なので、10日間金利2パーで不足分を貸します」となる。9,000円の金利2パーセントなんで、めちゃくちゃ安いわけですよ。こういう世界がやってくるんですね。これ、まったく新しいタイプの仕事のデザインって言うんですかね。

人材エージェントは「占い化」「ブティック化」「VC 2.0」に分かれていく

北野:僕はHRマーケットにいるので、よく「AIが導入されたら人材エージェントのあるべき姿ってどうなるんですか」ってやっぱり聞かれるんですよ。僕がその時言ってるのは、「3つの方向に進むと思います」ということで。

1つ目が、「占い化」、2つ目が「ブティック化」、3つ目が「VC 2.0」。そういう世界になると思いますと言っているんですね。人材エージェントのビジネスモデルって、「転職したい人がいて、A社からB社に移動したら報酬の35パーセントもらう」みたいなものだけど、だいたいそのマッチングって、そんなに付加価値の高くない面もあるんで。

データが貯まっていって全部自動化されたら、それって全部いらなくなるんじゃないですか、っていう意図の質問なんですけど。僕はそういった時には「3つの方向性ができます」みたいに話してて。

1つ目が「占い化」って言ってるんですけど、結局どれだけAIが進んでも、やっぱり「自分のキャリアを人に相談したい」みたいなエモーショナルな部分って残ります。それはもはや占いみたいな。答えはわかってるんだけど、「あなたはこうです」って言ってあげること自体に意味がある、みたいな。これは、いわゆる感情労働がどれだけ進んでも残り続けるということで。よくわかりやすいのはキャバクラの例だと思うんですけど。

(会場笑)

「キャバクラってなくなりますか?」って言うと、やっぱなくならないんじゃないかと。それがすごく生産性が高いかどうかっていうのは置いといて、それが1個目です。

2つ目が「ブティック化」。これはフリークアウトって会社の佐藤裕介さんっていう方と話したときに、AIの1番良いところと言うか活用しやすいフィールドって、変数がたくさんあってデータ量がたくさん集まるところに関しては、やっぱりAIのほうが確かに精度が高い。

だけど、変数がすごく少なくて、貯まるようなデータ量も少ないところに関しては、まだ人間の感覚と言うか、直観的な経験に基づくもののほうが精度が高いんじゃないかみたいな話してて。それは人材エージェントも一緒かなと思ってて。すごくニッチな領域のもののマッチングに関しては、まだ人間が残り続けるんじゃないか、みたいな話が2つ目です。

3つ目が「VC 2.0」って僕は言ってるんですけど。人材エージェントって、これまで1つの会社を成長させるために人を送り込むって言うか、優秀な人とか適切な人を紹介するっていうモデルだった。でも、それだけだとあんまり価値がないんで、それに対して例えばエクイティを入れるとか、ファイナンスの面でサポートしたりとか、PRとかメディアを付けるとか。そういうところも含めて人材エージェントの次の姿になるんじゃないですか、みたいな話をしています。

この3つのフレームワークって、けっこうどの領域にも当てはまるのかなという気がしていて。さっき「ソフトバンクでも4割カットってヤバくない!?」って思ったんですけど、どの産業もさっき言ったようなエモーショナルな、いわゆる感情労働的なものと、すごくニッチな超特化型のもの、3つ目がバクっとした総合型のソリューション、そういう3つに分類されていくんじゃないかと推測しています。専門家の方はどう思いますか?

人にしかできないことは、まだたくさんある

高橋:あ、いいですか。まさにその最後、人のところって、絶対もっともっと付加価値高まっていくんですよね。ずっとそういう歴史だったと思うんですけど、人でしかできないところって、まさにおっしゃっている3点の他にもたぶんあると思うんですよね。

これだけIT化が進んでいっても使いこなせてないとかね。あとはとくに地方。それから老人なんかも含めて、ラストワンマイルを埋めていくことの付加価値ってどんどん高まっていくと思ってて。それこそまさに、若いみなさんのように生まれた時からデジタルネイティブの方が埋めていけるところの価値だと思うんですよね。

前田恵一氏(以下、前田):ちなみに、決済ビジネス側の信用スコアのお話だったり、あとHR側のほうの「エージェントが取得できる情報の限界」みたいな話の共通項は、「どれだけデータをちゃんと集めることができるか」といったところですよね。そこに対してAIが効きやすくなる、みたいなところが、たぶんポイントになってきそうです。

とくにディープラーニングに関しては、教師データがどれだけ集まるか、みたいなところに限るところがあるわけで。先ほど石川さんもデータ経営みたいなことの重要性をかなりふだんから語ってらっしゃいますし、その究極型がたぶん斉藤さんのお話だと思うんですけど。

データをとにかく集めていくということが、おそらくAIにせよなんにせよ、自動化をする上で重要で。じゃあどんなデータを集めればいいのかとか、いわゆるデータ経営の重要性、みたいな話にたぶん触れ始めてる気がするんですよね。そういう観点で何か、今経験されてらっしゃることがもしあれば、おうかがいしたいと思ってるんですが。何かございますでしょうか。

斉藤賢爾氏(以下、斉藤):……私ではないでしょう。

(会場笑)

時給1500円払えばなんでもできる、人間というもののすごさ

石川:じゃあ、ちょっといいですか。おっしゃるとおりだと思っています。ディープラーニングとか機械学習っていう話をしはじめると難しくなっちゃうので、もうちょっとわかりやすい話でいくと……やっぱりデータをベースに意思決定できるようになる人っていうのは、すごく強いなという印象はあります。

ただ結局、データをどういう軸で分析するのかっていう、分析軸。つまり、何に注目すべきかっていう仮説。これはやっぱり人間が作っていかなきゃいけないところだし、そこのどういう面で切り取ってデータを見るのかっていう切り取り方って、ものすごく人のスキルが出るんじゃないかなって思うんですよね。

なので、僕が最近思ってるのって、人って時給1,000円とか1,500円払えば雇えるじゃないですか。これってものすごいことだなと思ってて、つまり時給1,500円払えば、人間って配膳もできるし、寝ることもできるし、パソコンの簡単な入力もできるし。ものすごく多機能なんですよね。今のAIとかロボットでそれを作ろうと思うと、何兆円もかかるわけですよ。人間って本当にすごいなぁって(笑)。

(会場笑)

そういった人間のすごさがとくに見えるところは、やっぱり仮説出しで。「自分はこうなんじゃないかな?」っていう、1番最初の種。これを見つけるところって、その中でもより価値の高い部分だなと感じています。

もちろん分析スキルとか、プログラミングによってとか、機械学習によって、いろいろ自動化されるっていうトレンドは絶対あると思いますけど。やっぱりそれで、何をそもそも自動化すべきなんだっけ、どういうネタ集めるんだっけ……といった仮説は、実は人間にしか絶対できないところなので。そういったことを最近、感じています。

良質な問いに、最高の知性は集まる

斉藤:ちょっと、反論いいですか?

石川:はい。

斉藤:たぶん「仮説を立てる」みたいなところも、自動化が入ってこれるところかなと思っていて。科学の世界では、仮説検証の自動化みたいなところがどんどん進んでいるんですね。

とくに薬学みたいなところで今起きてることなんですが、大量の論文をガーっと読んで、そこから仮説を抽出して、こういうふうに薬を作れるんじゃないか……みたいなことは、わりと自動化することが始まりつつあります。

なので、人間がいらないという話じゃないんですけども、仮説からもう1つ上位のところが人間が必要とされるところで。「何を解きたいか」みたいなところがかなり重要になってくるのかな、というふうに思ってるんですね。

北野:いいですか? 僕この前『世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか? 経営における『アート』と『サイエンス』』の山口周さんって方と対談した時に、山口周さんって最近『劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるのか』って本も出されていて、その中にわかりやすく「一流、二流、三流」って書かれていたんですよ。

その時にディスカッションしたのが、「じゃあ一流の人と二流の人と三流の人で対峙した時に、僕たちはどういうふうに接したらいいと思います?」ということで。我々はたぶん、みんな経営する側だと思うんですが、やっぱりそのレベルには多少差があるじゃないですか。

そういう話をする時に僕がいつも思ってるのは、一流と言うかトップの人にとって1番重要なのは、「良質な問い」だと思ってて。なぜかと言うと、良質な問いに最高の知性は集まる、って僕はけっこう思ってて。

優れた人はアートとサイエンス、両方の素養を持っている

北野:一定水準の頭脳とか知恵を持ってる人って、どこ行ってもそれなりには稼げますよね。じゃあ1番の報酬はなんなのかと言うと、良質な問いっていうのを用意していくことだなと思って。

僕はこれまで、世界で活躍するアスリートとか、世界で恐らくもっとも出世したであろう元Google日本法人の名誉会長の村上さんたちと対談した時に、1番重要なのはやっぱり良質な問いを持っていくっていうことで。その良質な問いを当てた時に、彼らはキラキラして楽しんでくれる、みたいな。

それはやっぱりすごいクリエイティブだし、最高の知性を集めるための手段だと思ってて。実はそれって、ビジネスフィールドでも最近そうだと思っています。これは「あたらしい経済」っていうブロックチェーンとか仮想通貨をやっているメディアのヘッドの人と喋った時に言っていたんですが、今Ethereumとか作ってる社長とかも、別に自分でプログラミングしないと。むしろプロジェクトを立てて、おもしろい問いを投げる。そうすると、それがおもしろいからめちゃくちゃ優秀な人がどんどん集まってくる、みたいな。

振り返ってみると、実はFacebookもそうで。Facebookもそうやって作ってるんです。だから、一流の人たちを率いるのってたぶん人間にしかできないと思うんですけど、それのキーポイントは「良質な問いを立てる」っていうことかなって思ったりしてるんですよ。

じゃあ「問い」って何から生まれるのかと言うと、これはコンサルっぽいんですけど、あるべき姿と現状っていうものをきちんと認識して、その差からしか問いって生まれないじゃないですか。それが僕はアートとサイエンスかなと思っていて。

あるべき姿って、けっこう意思とか、自分がこういうものを美しいとかって思う、アートの部分だと思ってて。だけどそのアートの部分だけだと、良質な問いって絶対生まれなくて。現実は今どういう状態なのかっていうのを正しく認識するのは、サイエンスの役割だと思います。

だから、優秀な人とかビジネスフィールドの中でトップフィールドを走る人っていうのは、アートとサイエンスの両方の要素を持ってる人なんだなっていうのは、僕は最近思うことだったりしますね。

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