アクセシブル・ツーリズムは誰にでも始められる

篠塚恭一氏(以下、篠塚):みなさん、こんにちは。ご紹介いただきました篠塚です。今日は40分でお話しなければいけないので、テンポよく進めないといけないなと思っています。

今日は、いろんな方々にご参加いただいているということを主催の方から聞いていますけれども、一般の旅行会社、あるいは個人的に関心があって、「アクセシブル・ツーリズムを使いたい」ということで今日ここに来られた方はどれくらいいらっしゃいますか? 

では、今度は逆に、「アクセシブル・ツーリズムを、ご自身のお仕事や事業など、そういった担い手側と言うんでしょうか、受け皿側として、これから検討しようという方はどれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

けっこういらっしゃいますね。旅行会社のみなさんも何人かいらっしゃると思いますけれども、今日私がお話をさせていただくことに関しましては、いくつかポイントがあります。「どんな方でも取り組むことができる、取り組み始めることができますよ」というようなお話ですね。

みなさんへの(この講演の)ご案内には、「初めの1歩、どうしたらいいか?」「誰に対して、どんなサービスを提供していこうと思うのか?」であったり、「逆に、(アクセシブル・ツーリズムを)使うのであれば、どういうことが必要なのか?」「それを実現するためには、どういう組み立て、組み合わせを考えていく必要があるのか?」といったことが書かれていたかと思います。

本格化する高齢社会にどう対応していくか

自己紹介のほうは簡単に済まさせていただきます。この分野に関しましては、四半世紀ぐらい、25年ぐらい取り組んでいます。私は旅行業、観光人材の育成から始めた人間ですけれども、30数年の内の25年以上は、この観光の人材を育成するというところを続けてやってきました。

今日のお話の中でも、これまで登壇されたみなさんお話で、いくつかポイントがあったと思います。「高齢社会の人口がこれからどうなっていくのか?」については、東京都もそうですけれども、日本のほぼ決まった未来として、高齢社会がもう20~30年は続いていくと。そういう中で、人口減少、あるいは、地方をどういうふうに元気づけていくかということです。

私は旅行の仕事をしていますから、地方もずいぶん行かせていただくんですが、元気じゃないわけではないです(笑)。東京ももちろんすばらしいんですけれども、地方は食べ物がおいしいし、すごく健康的な生活をされているし、時間もゆっくり過ぎていて、実のあるところがたくさんあります。むしろ、大変なのは首都圏でしょうかね、東京も含めて。

これから後期高齢者がどんどん増えていく。これはほぼ決まった未来なわけですから、ここを中心に、あるいは、東名阪といったような大都市を中心に、本格化する高齢社会にどう対応していくか。そのヒントを、今日いらしていただいた障がいを持っているみなさんへの取り組みから(得られればと思います)。

私も、90年代からさまざまな障がいを持つ人たち、あるいは友人たちと旅をしてきました。本当に、秘密兵器がたくさんあってですね(笑)。「あ、こんな道具があったらいい」「あんな道具を教えてあげたらいい」といったかたちで、いろんなことを思ってきたわけです。

そういう人たちの旅の工夫などを参考にしながら、いまは日本トラベルヘルパー協会というところで人材の育成をしつつ、片方で介護付きの旅行サービスを斡旋したりしています。あるいは、トラベルヘルパーという介護技術を持っている……とくに旅行ですから、(障がい者)移動の際にいろいろな約束事があるわけです。

ハードとソフトとヒューマンの3要素

先ほど東京都からもご案内がありましたとおり、公共交通を使って移動するわけですが、移動の対象となってきた人たちは、健常で元気な人たちで、自立した移動ができる方たちでした。そこからルールを少し考え直さなければいけない、オペレーションを変えていかなければいけないということを感じています。

なぜこういうことに取り組み始めたかといいますと、いいサービスをしたい、いい旅行を提供したいとずっと考えてきたからです。先ほど帝国ホテルの方が発表されていましたけれども、いいサービスをするには、ハードとソフトとヒューマンの3つの要素が大事で、そこがうまくいって初めていいサービスが提供できるということでした。

これは、まったく同じですね。産業として、あるいはサービス業としていいホスピタリティサービスを提供しようと思ったときに、いいハードがあって、そこで(温かい)心を持った、あるいは(高い)技術を持った人がいて、それをきちんとソフトとして、仕組みで回していく。この3つが(あって)初めて要素として成り立ち、いいサービスができていきます。

旅行会社は、自分ではあまりモノを持っていませんから、間をつなぐ役割です。代理店、エージェントはそういう役割になるわけです。

2000年に介護保険が始まりました。その年の暮れに、交通バリアフリー法が制定されました。ですから、20年弱、こういった公的制度、あるいは、そういった支援の後押しを行い、街も移動も含めて、ハードの状態はずいぶんよくなってきています。そこに人が入っていったり、あるいはAIやITなどの新しい、使える技術が入ってきています。

(会場の画面の)下に字幕が出ていますけど、富士通さんのLiveTalkです。昔はこういう技術がなかったですよね。(会場の)後ろでは(リアルタイムで文字を起こすために)一生懸命パソコンのキーボードを叩いてくれています。あるいは、こうして手話をやってくださっています。あるいは、口述筆記を速記のようにやってくださっています。かなり速いペースで話しているんですけれども、その後追い……これは大変なことだったんですが、技術の後押しで助けてもらえている。こういうものを使わない手はないだろうということです。

介護の必要な人とスキルを持つ人とのマッチングサービス

ただ、私たちのベースにありますのは、旅行先あるいは外出先で、(介護が)必要な人たちを、介護のスキルを持った人がアテンドするようなマッチングサービスを中心に行っています。

今日、車椅子を使われている方も何人かいらっしゃいますが、ここまで来られる方というのは、やっぱり自分で来たいんですね。そのためにどういうハードを必要とするか。電動の車椅子を使っていらっしゃる人もいれば、自分で車椅子をこいで来られる方もいらっしゃいます。

私たちが旅行・観光の人材育成をしたきっかけというのは、それまで長い間旅行を続けていた人たちが、ある程度年を取ったとき……だいたい分岐点は75歳なんですけれども、いわゆる後期高齢者と呼ばれるようになったときに、(仲間が)1人欠け、2人欠けしていき、その数が増えていくんですね。ですから、なんとかその人たちに旅を楽しみ続けてもらえないだろうかというのがきっかけです。

高齢な方ですから、スタート当初から平均年齢は70代半ばで、70歳超えの方たち(がほとんど)だったんですね。自分で車椅子をこいで外に出ることができない。そうすると、必ずご家族や介護事業者の方、あるいは、我々のような専門職の人間が、介助をしながら移動をサポートします。こういうことが必要なので、人手があれば出かけられる、旅行したいという人たちのサポートをさせてもらっています。

利用の目的はさまざまです。アクセシブル・ツーリズムというと、観光旅行、温泉宿泊といったことを考えられるかと思います。そういうニーズは根強いですし、多いです。しかしながら、(スライドを指して)ここに挙げられていますように、ふるさとに帰りたい、お墓参りをしたい、縁遠くなってしまっている兄弟(に会いたいといったニーズもあります)。

外出できる平均距離は30メートル

先ほど「あ・える倶楽部」での旅行者の平均年齢を出しましたけど、83歳ぐらいなんですね。最高齢では104歳の方がいらっしゃいます。この10年ぐらいで利用者そのものが、高齢化していまして、いまは平均年齢が83歳で、介護認定を受けている方が99パーセント。介護度は3.3とけっこう重く、わりと重度の方もいらっしゃいます。

そういう方たちは、なかなかふるさとに帰れていないんですね。だから、施設やホームに入っていらっしゃるような方々は、お家にも帰れていない。最初は、自宅に帰りたいと。ホームと自宅が同じ街の中にあるんですよ。でも、それ(帰ること)ができないんです。人手がないとか、どうしていいかわからないとか、いろんな理由がありますけれども、そういうところで困っているんです。ある意味、日常生活の範囲で困っていますよね。

東京都がアクセシブル・ツーリズムで先進の街になるとするならば、東京の街に住んでいる障がいを持つ方や介護を受けている高齢の方は、どれぐらい街に出かけられているかを考えると、まだまだ少ない気がします。(しかし)これから、もっともっとそういう(障がい者や高齢の)人たちが増えていくだろうと思います。

そういう人たちも「孫の結婚式に行きたい」「法事に参加したい」「いやいや、そんなことじゃない。ちょっと喫茶店まで、お茶をしに行きたい」と考えています。

私たちが(サービスを)始めたとき、最初に障がいを持った友達と話したことは何かというと、「家から出たら30メートルぐらいしか動けないんだよ。そこから先は、だいたいギブアップです」と。他の人も外出して出かけられる平均の距離を聞いたら、「30メートル」だと言っていました。

「何しに外に行きたいの?」と聞くと「いや、お茶飲みしたいんだ」と。生まれたときから障がいのある人はそうした欲求に気づかぬ人もいましたが、中途からで病気や事故に遭ったりして、いろいろな障がいがある人たちは、「たった1杯、コーヒーを飲みに行くのもできないの?」と、そういう素朴な疑問があったんですが、実はそういうことに難儀しているんですね。

つまり、生活の中での移動が困難で、旅行は憧れの存在です。 (こうした現状に)「ちょっとおかしいんじゃないのかな」といった憤りみたいなものがあって、「なにがなんでも旅行に連れて行くぞ」というところがきっかけになりました。