国が「デザイン経営」を宣言していることの意味

増田真也氏:こんばんは。DeNAの増田です。2018年の4月にデザイン本部を設立してその組織の本部長を務めさせていただいています。

本日はデザイン本部を設立するにあたって、経営陣にどのように説明していったのか、デザイン経営について私はこう理解していますということをライトにお話させていただければと思っております。

簡単に自己紹介です。増田と申します。Mobageというサービスがありまして、そこのデザイナーとして入社して、その後は新規事業をいくつか立ち上げて、今はデザイン本部の本部長をやっております。

早速ですが、「デザイン経営」宣言の自分なりの解釈と背景を考えると、一番最初に「国が発信しているということ」をどのように考えるのかという話になります。日本企業全体において起こっていることへの提案なんじゃないか? と捉えています。

もう1つが、成長してきた日本。その日本が成長してきた背景には、例えばHondaさんのスーパーカブやCanonさんのプリンターなど、世界で成功してきた企業のものづくりにおける概念やフレームワークが、経営コンサルティング会社の躍進もあり広く日本に伝わって成長してきたという実績があるんじゃないかと思います。

正解のコモディティ化が起こっている

とはいえ、平成の30年間の中で起こらなかったことの1つとして、弊社の南場も言っていることですが、世界的に大きな企業やUberやAirbnbのような世界的に多くの人に使われているサービスが日本からは出てこなかったことです。

そのようなことを踏まえて、いったい何が起こっているのかと考えたときに、僕もすごく頭の中がもやっとしていたんですが、山口周さんの本を読んだときに、こうパシッと言語化してくれていた言葉がありました。「正解のコモディティ化」ということが起こっているのではないかと。

僕の解釈の中で簡単に説明すると、市場規模やトレンド、競合や収益性などから優秀な人が「これが良いんじゃないか」と判断すると、結果、似たようなビジネスやサービスが生まれるということです。

つまり、自分たちは気づかないうちに自然とレッドオーシャンの中で戦っているんじゃないかと感じています。

右脳と左脳のリバランスが起こる

先ほど土屋さんからも話がありましたが、現在まで日本企業はどちらかというと左脳的に、ロジカルと効率を重視して伸びてきていると思っておりまして、脳のバランスを考えた時に左側にバランスの重心があるんじゃないかと。

その状態の現在において、右脳型の経営を提案している「デザイン経営」宣言を発信することで、結果的に右脳と左脳のリバランスが起こるんじゃないかと思っています。それが真ん中で揃うのか、ちょっと右側で揃うのか、ちょっと左側で揃うのかは各社のカラーによるところだとは思いますが、このリバランスを行うために、僕は「デザイン経営」宣言というものが発表されたんじゃないかと考えております。

リバランスしていくことの目的というのは、デザインを経営やサービスに取り入れていくことで、世界を魅了しているUberやAirbnbのようなイノベーティブな事業を日本から生み出していくことだと捉えております。

DeNAはどちらかというと左脳的なロジカルシンキングが得意な会社なので、今僕が推し進めているデザイン思考の注入といったものは、まったく一緒でそのリバランスをすることでイノベーティブな事業を生み出していこうというものです。

どちらが欠けても良いという話ではなく、単純にロジカルで判断できることはロジカルで判断すれば良いと思うんですね。ただ、やっぱりユーザーさんを見ていくと、ロジカルには判断できないことがあるということを認める。そういった許容力のようなものが重要なんじゃないかと思います。

Airbnbには40枚以上のストーリーボードがある

ここからは、実際に行なっていることではありますが、サービスのプランニング、リリース、運用というフェーズがあったときに、プランニング時点で、どれだけユーザーさんを観察してプロトタイプを作り、それをユーザーさんに使ってもらい検証できるのか、そのサイクルを高速で回すということに力を入れています。

実際にここでやることは、プロダクトのビジョンを作ったり、ブランディングやマーケティング戦略など、そういうことを考える基盤になります。

リリースして運用してからも、法律や、それに伴い顧客の変化ということが起こったときに、このサイクルに戻ってきて再度検証して、適宜見直してリリースしていくということも行っております。

UberやAirbnbもこの辺りに力を入れていたということが、いろんな記事でも書かれていますが、Airbnbでは、ストーリーボードが40枚以上あると言われていて、どれだけ力を入れていたかがわかります。その結果、Uberは単なるタクシー配車アプリじゃありませんし、Airbnbは単なるホテル予約アプリでもなく、独自性の高いサービスが作れていますよね。

つまり彼らはレッドオーシャンからちょっと逸れたところで戦っている。やっぱりユーザーさんをすごく深く見つめ続けたというところにキーがあると思っていて、ここを強化するために取り組んでおります。

「Anyca」が生んだCtoCカーシェア市場

DeNAで、実際にそれを取り組んで、うまく回しているのが、「Anyca」というサービスです。CtoCのカーシェアのアプリで、インタビューを重ねて、やっぱり車は「かっこいいものに乗りたい」とはいえ、「週末は家族のために大きい方が便利」というような、そうした微妙なユーザーさんの気持ちの機微があるもので、それを的確に捉えられているのだと思っています。

結果としては、まだまだ市場規模は小さいのですが、会員17万人、登録自動車数は6,000台という現状で、国内最大級のCtoCカーシェアアプリに成長することができています。多い月にはユーザーさんと7回も対話する機会があるようで、開発のサイクルにユーザーさんをうまく巻き込んで、開発できているのだと思っています。

やっぱりユーザーさんからすると、車でどこかに移動するということが目的なんですが、状況に合わせた素敵な体験で移動したいというニーズを捉えているので、レンタカーサービスとは差別化できており、良い意味で競合がいないというか、そういう意識で運営できていると思います。

キーマンとなるのはプロダクトマネージャー

今日はデザイナーの方も多いと思いますが、こういったことを自社でもやりたいんだけども、なかなかできないんですよねという話を、結構質問として受けることがあって、僕はそこのキーマンはプロダクトマネージャーだと思っています。

DeNAには数十のプロダクトがあって、数千人の規模で開発しているという会社ですから、会長の南場や、社長の守安が理解を示して、「こうやってやれば良いんだ」と言っても、その数十のプロダクトが一斉にそう動くということは基本的にはありません。

弊社の場合は、事業の責任というのは、その事業責任者やプロダクトマネージャーがちゃんと責任を持ってやってくれという権限の委譲がされている会社です。

ですから、プロダクトの責任者であるプロダクトマネージャーがどれだけデザインに明るいかがすごく求められていて、Anycaでいうと、プロダクトマネージャーの馬場が元々エンジニア出身のプロダクトマネージャーで、その辺りのものづくりの進め方やデザイン的に重要なポイントがスムーズに議論できたので、Anycaというのは良いプロダクトになっているのだと思っております。

現在はデザイン本部としても、プロダクトマネージャーの強化・育成にコミットしています。

デザイン経営にはフォーマットがない

最後になりますが、本日お話したことはとても当たり前のように聞こえると思いますが、やっぱり基礎がないと応用ができないんですよね。地味に見えても、それをしっかりやるということが第一歩だと思っているので、今この辺りから手掛けてやっているという感じです。

そして田川さんもおっしゃっておられましたが、デザイン経営にはフォーマットがなく、各社が今困っていることは何なのかと特定して、それに対して何をするべきなのかを考えていくということを結果的にはやらないといけない。

やっぱり世界的に見ても、デザインを経営に取り入れるというのは当たり前の状況になっているので、何かヒントになれば良いと思いました。本日はありがとうございます。

(会場拍手)