2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
プレゼンテーション(Takram 田川氏)(全1記事)
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田川欣哉氏:みなさん、こんばんは。今日は本当に、僕もこの場にいることをうれしく思っています。
後で特許庁の宗像長官もご登壇されますが、今日は経営者の方々もすごく多いことから、“デザイン経営”というキーワードをみなさんとシェアして、ディスカッションができることを楽しみにしています。よろしくお願いします。
僕の方は簡単に自己紹介をさせていただいた後に、デザイン経営宣言の概略のところだけ、5分くらいでさらっていきたいと思います。
僕はTakramというデザインファームの経営をしています。デザイナーたちが40人くらいいて、いろんな仕事をやっています。ソフトウェアやハードウェアの仕事。サービスやビジネスモデルを考える仕事。基本的には新規特化型で、新しいプロダクトやサービス・事業などを垂直的に立ち上げるということをやっている、ちょっと変わったデザインファームです。
今日はもう時間がないので、事例の詳細はお話ししません。ビジュアルでこんなことをやっているということを、なんとなく掴んでいただければ良いかと思います。
最近出たものでは、もうご覧になっていただけた方もいるかもしれませんが、メルカリのリブランディングもやっています。
実は“デザイン経営宣言”が出た直後ぐらいから、メルカリの山田くんから相談をされました。メルカリのデザイン組織をキチッとしたいということで、僕の方から組織設計のアイディアを言ったら、それでいこうという話になって。現在は、メルカリのデザインチームの家庭教師のような役割で、毎週行って打ち合わせしてます。メルカリの人たちと一緒に、世界最強のデザインチームになるぞという意気込みでやっています。
そのチームの最初のアウトプットが、メルカリのリブランドです。これはメルカリがフリマアプリから、よりオープンにプラットフォーム化していくときに、昔は蓋付きの箱だったシンボル自体を抽象化して、それが車になったり、お金になったり、服になったりと展開性を帯びるというストーリーで行いました。
後で少し出てくるかもしれませんが、デザインと言ったときには3つがあります。昔からのデザインであるクラシカルデザインと、ビジネスとデザインを繋ぐビジネスデザインと、テクノロジーとデザインを繋ぐデザインエンジニアリングの3つ。ビジネス・デザイン・テクノロジーの3つが協力して仕事をすると、良い仕事になるよというダイアグラムで、BTCトライアングルと言うこともあります。
では、自己紹介はこれぐらいにしておいて、デザイン経営のPDFのファイルが経済産業省にあるので、ぜひ興味がある方はダウンロードしていただけると、うれしいです。Googleで調べてもらえれば、PDFが出てきます。
いろんなフィールドのデザイナーと、経済産業省と特許庁の方々が集まって、デザインが企業経営に対してどのような影響力を持ち得るのかということを、1年くらいかけてディスカッションをしてきた中で、デザイン経営という言葉が出てきました。
今、世界の潮流は、第四次産業革命に入っています。平たく言えば、インターネットテクノロジーが、物理世界に染み出し始めて、いろんなものがインターネット型のビジネスにシフトしていっている時代です。こうした中で、産業自体がシフトして行くべきキーワードがいくつかあるんですね。
1つは、当然「デジタル化」がきますよね。ただ、デジタル化しただけだと、この時代で戦っていけるようなプロダクトサービスにはならない。そこには大事な観点があって、それがデザインじゃないかと。
そこで、できるだけたくさんの経営者の方にデザインの役割というものをわかりやすく伝えていきたいということで、デザインと経営をつなぐため、インターフェースする言葉として2つの言葉をこのレポートの中では挙げています。
その1つが「ブランド」ですね。先ほどのメルカリの事例は、メルカリのブランドをデザインの力で上げることによって、企業とその顧客の間がよりよい関係になるということなんですが、こうしたことにデザインは非常に効きますよというのが1つ目。
2つ目は、「イノベーション」ということですね。これは、プロダクトやサービスというものが、ユーザーにできるだけきちんと使われることを実現するためには、ヒューマンファクターとも言いますが、人間がどういった感情を持っているのかを見ていくこと。
例えば、ターゲットとする顧客、ユーザーが、例えば自宅でどのような生活をしているのか、その生活にどういった文脈があるのか、例えば子どもがいるのか、介護をしているのか。そういういったことを詳しく見ていくことで、本当に求められているものを掴み出すという観察の力や、プロトタイプを実際のユーザーにあててみて、現場現物できちんと考えていく。
こういったデザインプロセスをテクノロジーの現場に入れていくことで、イノベーションの確度が上がっていくのではないかと思います。
デザイン経営の効果とここに書いてありますが、効果は2つに分かれます。1つはブランド力が上がること、2つ目がイノベーションの力が上がること。ここに、ベン図で赤の円と青の円が書いてありますが、企業によって、この円の大きさ、赤の円が大きい会社、青の方が大きい会社、あと重なり具合も様々です。
ですから、デザイン資源をイノベーションの方に統括するのか、ブランドの方に統括するのかということは、企業のキャラクターでいろいろと出てきます。
みなさんがよくご存知の無印良品という会社がありますよね。無印良品はこの赤の輪っかの方が大きい会社です。ほとんどプロダクトイノベーションがありませんが、デザイン駆動型でブランドというものをグローバルブランドというところまで育て上げています。
それで、これは海外の調査でいくつかあるんですが、このページはできるだけファクトとして、デザインを使ったときに、どのような企業がパフォーマンスを上げているのかということを示したものです。
真ん中のグラフが、これはアメリカのS&P500の株価パフォーマンスです。10年間追いかけていったときに、デザインを重視する企業の株価と、そうではない一般の会社を比べてみたときに、10年間で200%。なんと2倍の差が出てきています。
みなさんから見て右側のグラフがヨーロッパのグラフです。これも同じような感じですね。デザインに注力している会社と一般平均を比べると、2倍の開きがある。
欧と米と全然違った調査なのですが、ほぼ同じ割合、つまり2倍ぐらいと出てきているところが、似ていますね。
左側の4倍の利益と書いてあるところ、これはイギリス国内の調査です。1のデザインの投資に対して、営業利益ベースで、1のインプットに対して4倍の営業利益が出てきている。そういった調査も出てきています。
そういったことから、実は効きが良いのですよということ。ここら辺はまだ経営の方々にとっては、知らされていない情報なのです。これを見て、あぁそうなの!? と思われる方もけっこういらっしゃるようなことになっています。
そこからのデザイン経営ですね。デザインを活用した経営をどんどんやっていくときに、このレポートの中では2つ、デザイン経営と呼ぶための必要条件を定めています。
1つがこちらで、「経営チームの中にデザイン責任者がいること」。これは役員でも、執行役員でも良いのですが、いわゆる意思決定をするチームの中に、デザインについてきちんと責任を果たせる人がいるということ。
デザイナーがデザイン責任者を担うこともありますが、例えばビジネスパーソンやテクノロジー系の方がデザインを統括する場合もあります。ですからデザイナーとは書いてありませんが、デザインの責任者がきちんといること。
2つ目は、事業の創造、もしくは戦略構築の一番上流のところから、デザインチームがきちんと関与していること。形式的なことではありますが、この2つを備えている企業を、デザイン経営が成立している企業と呼んでいこうとしています。
デザイン経営の実践。実は企業によっていろんな取り組みがなされています。例えば、ユーザーインサイトと呼ばれる、現場で何が起こっているのかということを、デザインの手法で観察して拾ってくることもあります。アイデアを作っていく局面ですね。そこにスケッチを入れたり、プロトタイプを入れたりすることで、仮説検証のプロセスをハイスピードで回すことであったり。
例えばブランド作りと言うと、メディアの上でCMを流すことという感じもありますが、そういったところにデザイナーがきちんと入って、プロダクトサービスが持っている提供の価値をきちんとコミュニケーションの方にも齟齬なく合わせてもっていくような、そういったところを活動としてやっているところがいろいろとあります。
規制については、実はこのレポートは3つのドキュメントが合わさって1つの宣言になっています。先行事例として、いろんな会社の取り組みも紹介されています。興味がある方は経済産業省からダウンロードできますので、やってみていただくと良いでしょう。
これは政府が出した宣言ですので、いくつか政策的な提言が書かれています。政策については、この研究会からの提言という位置付けになっています。例えば政府の中に、デザイン戦略をきちんと作って推進できるようなチームを作っていこうということなどです。
デザイン経営を目指す企業がどんどん出てくると、どうしても人材が必要になってきますので、どうすればこうした事ができる人材の育成ができるのかということや、海外の人をどうすれば取ってくることができるのか。そんなことが書かれています。
後は、行政による実践ということで、財務的な話ですね。これは、後ほど特許庁の宗像長官からお話があると思いますが、この宣言がベースとなり、特許庁が政府で初めて、チーフデザインオフィサーが庁内におかれました。
これは、日本政府の中では、初めての例だと思います。今後はいろんな行政サービスの使い勝手が良くなることが必要だと思います。きちんとデザインオフィサーをおくことが、ヒューマンファクターを行政サービスに取り込んでいく流れとして、こういったことをきっかけにして起こってくれば良いと思っています。
僕の方はちょうど10分になりました。ここからは、土屋さんと増田さんとで、具体的な取り組みを紹介していただけると思います。今日はみなさん、これからよろしくお願いします。
(会場拍手)
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