ダイバーシティ実現の契機となる東京オリンピック

藤田裕司氏(以下、藤田):みなさま、こんにちは。ただいまご紹介いただきました、東京都産業労働局長の藤田と申します。

本日はお忙しい中、「アクセシブル・ツーリズム推進シンポジウム」にご参加を賜りまして、誠にありがとうございます。また、日頃より東京都の観光振興施策にご理解とご協力を賜っておりますことを、重ねて御礼申し上げる次第でございます。

東京都には、2017年の1年間で、海外から1,377万人、また国内から5億2,000万人を超える旅行者が訪れています。開催まで2年を切りました東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けまして、東京は、国内外からさらに多数かつ多様な旅行者をお迎えすることとなります。

東京都は、世界で初めて2度目の夏季パラリンピックを開催する都市でございます。これは、ダイバーシティの実現に向けた大きな契機となる大会となります。

東京都はこれまでも、競技会場・観光施設周辺の都道や宿泊施設のバリアフリー化、鉄道駅のホームドアやエレベーターの設置などを進めてまいりました。世界中からあらゆる人々が集う東京2020大会を控え、より一層のバリアフリー化を推進していく必要があると考えております。

特に、宿泊施設のバリアフリー化につきましては、障害者・高齢者など、より多くの方々が快適に利用できる宿泊環境を整えるため、日本で初めて、車いす使用者用客室以外の一般客室を対象にしたバリアフリー基準を条例化するとともに、改修などの補助の拡充も実施していく予定です。

すべての人が平等に参加できる社会環境の実現

藤田:こうした取り組みを国内外に広く知っていただくために、「OPEN STAY TOKYO 全ての人に快適な宿泊を」と題しまして、「OPEN STAY TOKYO」というスローガンの下、皆様と協力して宿泊施設のバリアフリー化の機運を醸成してまいりたいと考えております。

世界の有名な観光地では、車いすで自由に移動して楽しめるところが数多く出てきております。都内の公共施設や交通機関等のバリアフリー化は着実に進んできておりますけれども、全ての方が平等に参加できる社会や環境について考え、行動する、いわゆる「心のバリアフリー」をさらに進めていくなど、障害のある方、あるいはご高齢の方も、誰もが気兼ねなく旅を楽しみ、自由に行動し、訪れる方をおもてなしできる、そういう街に東京を変えていく必要があると考えております。

そのためには、観光業界の皆様や都民の皆様一人ひとりが、高齢者や障害者の観光に対して、主体的にサポートする機運を高めていくことが大事です。

本日のシンポジウムでは、こうした機運を盛り上げますとともに、皆様の行動の参考となる様々な取り組みをお知らせしてまいりたいと考えております。

まず、グリズデイル・バリージョシュア様から、「海外出身の電動車いすユーザーから見た日本のアクセシブル・ツーリズム」につきまして、基調講演をいただく予定としております。 パネルディスカッションとミニセミナーでは、アクセシブル・ツーリズムに精通しているみなさまから、さまざまなご意見をいただくことになっております。

また、「バリアフリー化の取り組み事例」や「サポート機器などの展示」、「バリアフリー、旅行の専門家による相談」などの企画もご用意しておりますので、ツアー旅行の企画や受入環境整備の参考として、ご活用いただければと思っております。

結びになりますが、本日のシンポジウムをきっかけに、高齢者や障害者など、誰もが安心して快適に都内観光を楽しめる環境整備が一層進みますとともに、オリンピック・パラリンピック競技大会を通じた価値あるレガシーとして「世界一のおもてなし都市・東京」の実現に向けて、皆様方のお力添えをお願い申し上げまして、挨拶とさせていただきます。

本日は、よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:藤田局長、どうもありがとうございました。それでは本日の講演を始めさせていただきます。基調講演を「海外出身の電動車いすユーザーから見た日本のアクセシブル・ツーリズム」と題しまして、ACCESSIBLE JAPAN運営者のグリズデイル・バリージョシュア様よりご講演をいただきます。

グリズデイル様は、生後半年で病により手足に障がいが残り、4歳から電動車いすでの生活を送ってこられました。高校卒業時に日本を訪れた際、地下鉄の駅で、自分が乗ったおよそ130キロの電動車いすを駅員が6人がかりで持ち上げてくれた経験から、「日本は住みやすい国」という印象を持ち、「いつか日本に住んでみたい」と思うようになったそうです。

現在は、日本で生活しながら、海外の障がい者に向けた日本観光の英語情報サイト「ACCESSIBLE JAPAN」を運営されております。

それでは、グリズデイル様、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

1日の最初と最後に出会うのはヘルパーさん

グリズデイル・バリージョシュア氏:Hello everybody. I’m really excited to talk about……あっ、ちょっとすみません、(同時通訳機器の)日本語のスイッチが入ってませんでした。

(会場笑)

私を見ると、すぐにわかることが2つあると思います。1つ目は、私が日本出身ではないということです。私は東京に似ているところで生まれました。まぁ、(そうは言っても)ちょっと東京と違いますよね。カナダにあるトロントの小さな村の、近くにある牧場で育てられました。

2つ目は、私が障がいを持っていることです。私の障がいは「脳性麻痺」といいます。脳性麻痺とは、どういう障がいでしょうか? それは、脳へのダメージです。(ただ)普通の脳のダメージと違って、生まれたときになにかトラブルがあり、それが成長にも関わっています。

(人によって)それぞれの症状があると思います。ちょっとだけ歩くのが大変な人もいますけど、私の場合は両手と両足で、手はうまく使えないし、歩くこともできません。(スライドを指して)その証拠の写真があります。電動車いす(での生活)は4歳からです。あとは……すごくかわいかったですね(笑)。(ほかに)なにがあったかな? わからないですけど。

私の日常生活には、たくさんの手伝いが必要です。朝に最初に会う人と、夜に最後に会う人がヘルパーさんですね。ヘルパーさんのおかげであちこちへ行けて、いろいろなことができます。朝のシャワーとか仕事の支度とか、あとは夜の掃除とか食事の準備とか。ヘルパーさんのおかげで、毎日生きています。

日本好きな日本語教師からの影響

おでかけするときにいろいろな手間があると思います。(例えば)交通では、普通にGoogle Mapの(案内の)通りには行けないことがけっこうあります。乗り換えがあると、その「2分で乗り換え」は「ちょっと嘘だ」と思って、いつも20分ぐらいを(想定に)入れています。

(スライドを指して)たぶんみなさんもご存じだと思いますけど、日本の交通路はこういう感じで、鉄道はこういう感じですね。スロープを出していただいて、行き先で誰かが待ってくれているんですね。私の(故郷の)トロントの地下鉄には、こういうサービスがありませんので、それ(があること)を日本は本当に誇りに思っていただきたいと思います。

でも、残念なところは、レストランとかに行くときに大きな敵がいることです。それは、段差ですね。日本は本当に「段差の王国」だと思っていて、どうしてこんなに段差が好きかわかりませんけど。けっこう、毎日ぶつかっている敵ですね。とくにショッピングセンターとかで(ほかの部分が)完全にバリアフリーの建物なのに、わざと雰囲気のために段差を作っているのが、本当に不思議なことですけど。

さて、どうして私は、大自然に恵まれているカナダから日本に来たのでしょうか? ド田舎のカナダですが、高校には日本語の授業がありました。当時の私は、「ITの仕事をしたいな」と思っていました。まだバブル時代でしたから、日本のソニーとか任天堂とか、そういうところで働けたらいいなと。「もしかして、日本語もしゃべれたら役に立つかな?」と思って、すごく勝手な理由で日本語の勉強を始めて。

その(日本語の)先生は日本人ではなく、日本に住んでいた外国人で、勉強よりも日本の話が好きでした。文化とか日本の映画とか、いろいろとなんでも教えてくれたんですね。それで、だんだん日本に行ってみたいなと思うようになりました。「でも、どうかな。行けるかな?」とけっこう悩みました。

両親がいつも教えてくれたのは、「夢を追いかけてほしい」ということでした。「もしかしたら、健常な人と(比べると)もっと時間がかかるかもしれないし、やり方は違うかもしれない。それでも、やってみてほしい」と教えてくれました。

それでも(私の懸念としては)「日本に行けるかな?」ということだったんですね。まだけっこう情報不足でしたから、「どうかな?」(という懸念がありました)。それでも、お父さんと「そういう言葉(想像するだけで不安に思うこと)だけじゃなくて、現実に一緒に行きましょう」と話し合って、2000年に初めて日本に来ました。

もうびっくりしたのは、(一度来日してからは)逆に「行ける」と思ったんですね。何度も何度も遊びに来て、2007年に住むようになったんです。逆に、もう(カナダへ)戻らない。カナダの国籍を捨てて、2年前に帰化して、日本の国籍を得ました。

車いすでも乗れるエスカレーターに感動

また証拠写真があります。(先ほどご覧いただいた)かわいい子はどう(成長)したかな? というと、こうなりました。高校の日本語の授業です。

そして、2000年に(日本へ)来ました。日本の駅は、こういう感じでしたね。その時は法律が変わったばかりで、まだエレベーターのない駅がすごく多かったんです。

(それでも)日本の工夫を見て、けっこう感動しました。例えば、このエスカレーターは3段分の段差が(平らな)台になって、「あ、車いすでも乗れる」と思いました。「やっぱりすばらしい国だな」「住んでみたいな」と思って、日本に来ました。

日本でいろいろな良い経験があって、「いただくばかりで悪いかな、恩返ししたいな」と思ったんですね。ただ、それよりも、日本に対する愛がありました。今もあります。

例えば、恋人が見つかってすごくすてきな人だったら、「この人は、すばらしいよ!」と、たくさんの人に伝えたいですよね。同じように、私は日本を愛していて、たくさんの人に日本のことを好きになってほしい。とくに、障がいを持っている方に日本を好きになってもらって、ちょっとチャレンジして日本に来て(もらい)、日本のファンになってほしいですね。

でも、やっぱり段差のように(障がい者にとって、改善すべき)ニーズがあるかなと思います。

正座しないと和食は食べられない、というイメージ

1つ目は、イメージの問題です。(スライドを指して)この94パーセントという数字をご覧ください。これは、イギリスで行われた調査です。障がいを持っている方の94パーセントが、おでかけをする前に行き先の情報を調べます。「大丈夫かな、行けるかな?」と心配ですよね。私も心配性で、いつもあちこちで調べています。

そして54パーセント。(これは何かと言うと)同じ調査で、半分以上の方が(行き先の)情報がなければ、そこへ行くことをやめて、別のところへ行きます。これは街中の話ですけど、さらに旅行だったら……お金や時間をかけて遠くまで行くのに、その情報がなかったら? (「それでも行こう」と思うような)勇気を持っている人は、たぶんそんなにいないですね。

「イメージの問題」というのは(何かと言うと)、たぶんみなさんもご存じのように、日本に対する(海外の)ニュースでは、けっこう極端なことが発信されているでしょう? 「日本はこんなもんです」と大げさなものが、海外のメディアでピックアップされたりとか、Twitterでリツイートされていたりとか。

たぶん(その極端なニュースを見た、海外の)みなさんのイメージは「日本は、まぁこういう感じかな」「電車に乗るとき、いつもこういう(自力では乗れない)感じでしょう。あの駅員さんが(車いすを)押してくれないと、絶対に電車に乗れない。(それでも)車いすでも行けるのかな?」と思う人が、いっぱいいます。ほかにも、「買い物をしたいときに、全部の店がこういう(車いすでは入店しにくい)感じで、買い物は(思い通りに)できないんでしょう?」と思う人がいるんじゃないでしょうか。

あとは、もちろん観光に行きたいでしょ? 文化的な観光をしたいとしても、「でも、そういうところだと、長い背のある段差があって(車いすでは)行けないんじゃないか?」。せっかく和食を食べたいと思っても、やっぱり(イメージでは、お店に)段差と畳しかないんですね。「正座をしないと食べられないんですね」と思ってしまう。(正しい)情報がないと、日本に行けないと思ってしまうんですね。

わかりづらいバリアフリールートの問題

2つ目は、インフラの問題ですね。日本の電車とか鉄道はすごく進化していて、自分の(故郷の)トロントよりもぜんぜんバリアフリーになっていると思います。でも、まだちょっと表示やバリアフリールートの問題があります。

(スライドを指して)これは、大手町の駅ですね。すごくわかりやすいですよね。(みなさんからすれば、この表示で)大丈夫でしょう。みなさんが普通に乗り換えをするときに、天井を見れば看板があって、普通に行ける。(案内図の通りに)あちらのほうへ行けば大丈夫ですが、車いすの場合、簡単に乗り換えできないことがすごく多いんです。

実は先週、大手町で乗り換えをしようとしました。電車が地下に入って、普通の丸ノ内線の看板を見ていて、いきなり階段にぶつかりあったんです。ここのエレベーターのマークが見えていなかったので「どうしようかな?」と思って、警備員さんを見つけて「エレベーターはどこですか?」と聞きました。

「1回建物を出て、2つ目の建物の中の右側に小さなエレベーターあって、それで(いったん)降りて、もう1回戻って……」みたいな感じで説明されたんですけど、「いや、やっぱり難しいな」と。私は日本語がわかりますから大丈夫ですけど、日本語がわからない人だったら? そして、警備員さんが英語をしゃべれなかったら? けっこう、みんなが迷っちゃいますよね。

福祉用具のレンタル需要と供給のバランス

あと、インフラの問題として福祉用具のレンタルがあります。私はホームページを始めた時に、「レンタルはいらないでしょ」と思っていて。私があちこちへ行く場合は、絶対に自分の車いすに乗って行きますが、けっこうレンタルの依頼・問い合わせが多いんですね。びっくりしました。

(スライドを指して)例えば、こういう移動リフトみたいなもの。私よりもっと重い障がいがある方は、ヘルパーさんだけでは移動できないときがあります。例えばベッドや車いすなどの移動にはこういうものが必要ですけど、日本で短期でレンタルすることは、ものすごく難しいんです。

レンタル会社から区役所に1回問い合わせをして、手帳をもらう。そのあとで紹介されて、車いすをレンタルして、区が1ヶ月単位で(料金のうち、介護保険給付分の)9割を払ってくれるとか。

でも、車いすを1週間だけ借りたいとなると、なかなかできないんですね。たくさんの会社が「ちょっと、外国人にレンタルするのは……。壊れちゃったらどうしよう?」とか「けっこう高いものだし、(そのまま)逃げられちゃったらどうしよう?」と心配するので、貸したい会社は少ないんですね。

あとは、日本だけじゃなくて、世界中でも高齢者社会になっています。「お母さんと一緒に旅行をしたいんですけど、やっぱり長く歩くのが大変ですから、車いすを借りたいんです」という問い合わせがけっこう多くて。そういうニーズがあるけど、そういう(レンタル)会社は、海外の旅行者(のニーズ)をあんまり考えていないかなと思います。

バリアフリーの状況がわからないホテルには行きづらい

それにホテルですね。一般の人だと、普通にオンラインで予約して、ホテルの日にちとかを決めて(宿泊料金を)計算して終わりですけど、障がいを持っている方だったら、直接ホテルに予約の連絡をしなきゃいけないんです。ただ、基本的にホテルはメールアドレスなどを載せていないので、直接電話しなければいけません。

でも、ニューヨークに住んでいる人だったらどうでしょう? 時差が(日本と)真逆になっています。また、真夜中に電話するとして、その受付の方が英語をしゃべれるでしょうか? さらに、自分のニーズを説明するときに、相手がわかってくれるでしょうか? そういういろいろな問題があって、ちょっとホテル(側の対応)が大変です。

そして、情報の問題もあると思います。観光スポットのホームページを見ると、例えばこのように、日本語のページには「よくある質問」のところにバリアフリーに関する情報もたくさん書いてあるんです。丁寧に「ここまで行けます」「トイレがあります」「貸し出し車いすがあります」と。なので、94パーセントの障がい者が(旅行へ)行く前に(行き先の情報を正しく)調べたら、「行こう」と思う(ことができる)んですけど。

でも、同じ観光スポットの英語のページを見ると、「よくある質問」のところには、バリアフリーについてなにも書いてありません。だから、1週間しか日本にいないとしても「あそこへ行きたいな」と思い、「でも、バリアフリーじゃないかな?」と考えて、「いや、(やっぱり、バリアフリーの)情報がある(別の)ところへ行きます」という人がいっぱいいると思います。

同じように、ホテルのホームページでも、日本語のページには「ユニバーサルツインなどのユニバーサルの部屋がありますよ」と書いてあるんです。でも(観光スポットのホームページと)同じように、英語のページにはなにも書いていないんですね。それで、宿泊(先)を探している外国人が見て、「ここにはバリアフリーの部屋がない」と思って、別のところに行きます。ここで、この会社はビジネスチャンスを失ったんですね。

障がいを持つ人を取り巻く30億人の市場

そうですね、ビジネスチャンス。みなさんは、けっこう「バリアフリーにするには、手間やお金がかかる。少ない人のために、そんなにがんばらなくてもいいか」と思ってしまうんですけど、でも逆に言いたいのは、バリアフリーにするとチャンスになります。その問題を(逆手に)とって、儲けるチャンスになると思います。

世界中では、13億人が障がいを持っています。そして、家族やヘルパーさんなどを含めると、30億人になります。それは、小さな数字ではありません。

また、日本だけで考えてみます。これから高齢者(社会)になっていって、来年は(人口の)29.1パーセントが65歳以上の高齢者の方になっていきます。最初はたぶん元気ですけど、だんだん歳をとると、障がい者のように(体の)動きの問題が出てくるとか、「やっぱりバリアフリーの部屋がいい」とか、「スロープや特別な風呂がある温泉がいい」という方が増えてくるんですね。だから(29.1パーセントという)数字は、少なくないんです。

ほかのイギリスの調査では、(障がいのある方は、日本での)滞在時間が一般の人よりも長い(とされています)。だって、行くのが大変ですし、いっぱいお金を使って(移動や宿泊などにも)手間がかかりますから、「長くいたいな」と思う人がいますので、一般の人よりも長く日本にいる。

あとは、グループの人数も大きいですね。私は、1人ではどこにも行けないですね。この間、実家に帰りました。普通(みなさんが)実家に帰るときは、1人で行くでしょう? 私の場合にはヘルパーさんが必要でしたので、ヘルパーさんと一緒に飛行機に乗り、航空券(の料金)が2倍になりました。帰る時には、お土産を大量に買いました。数百ドルぐらい買いましたから、数万円ぐらいかかりました。私が(実家に)行っただけで、お金がいっぱい動きました。

旅行に使う費用は年間1.7兆円

あとは、口コミですね。障がい者は口コミが上手だと思います。(一般的に、口コミには)悪い面があるかもしれません。でも、障がいを持っている人だと「行けない」とか「できない」とかが、けっこうあるんですよね。一方で、「行けた」とか「できた」だったら、たくさんの人に伝えたくなります。そして、それを聞いている人も障がい者だったら? 「ああ、障がい者の方でもそういうことを言うのなら、信頼できます」と思うのではないでしょうか。

またイギリスの調査ですけど、障がい者の方は、1年間で1.7兆円を旅行に使っています。本当に、小さいマーケットではないんですね。

それを(知って)私は「なにかやりたいな」「たくさんの人に(日本へ)来てもらいたいな」と思って、「ACCESSIBLE JAPAN」というホームページを始めました。

このホームページには(旅行するにあたって、必要な)基本情報などを載せています。例えば、「どうすれば電車に乗れるか」。友達に、障がいを持った息子さんがいるのですが、(乗車時に、車いす用の)スロープを出してくれることを半年ぐらい知らなかったんですね。それで、お母さんががんばって1人で乗せていたんです。やっぱり、誰も伝えないと知らないことかなと思って(ホームページに載せています)。

あとは、例えば「(国外の)薬を飲んでいる方が、日本で薬を持っていても大丈夫か?」とか、「それを、どうやってチェックすればいいか?」とか。そういう基本情報を載せています。

実は基準がないホテルのバリアフリールーム

他にも、ホテルの(選択に関する問題の)解決のために、どこのホテルに、バリアフリーの部屋があるかのデータベースを作りました。でも、その(バリアフリーの有無の)データベースだけじゃなくて、できるだけたくさんの情報を載せています。

「どういう感じのホテルか?」とかも、ちょっと見せたいですね。たまに、ベッドの写真だけを載せているホテルがあります。私だったら、ベッドよりもトイレのほうにもっと興味があるんですけど。それで、たくさんの情報を載せていますね。

日本のホテルのバリアフリールームにはあまり基準がなくて、「バリアフリーの部屋」と言っていても、だいぶ差があります。例えば、ある部屋はちょっと手すりがついているだけで「バリアフリー」と呼ばれていますけど、「なにがバリアフリーなのかな?」と思ったりして。一方で、ものすごくいろいろなものがついていて、ある意味福祉施設みたいなところに泊まるときもあります。

でも、両方とも「バリアフリーの部屋」となっています。(どういう感じの部屋なのかの)情報がないと、どういう宿泊(先)になるのか心配する人が多いと思います。

この情報には、私が「これはいいですね」と判断(したもの)じゃなくて……「これはバリアフリーです」「これはバリアフリーじゃないです」「良いです」「悪いです」とかじゃなくて、なるべく(さまざまな)情報を載せます。みなさんの障がいのニーズにはいろいろなものがあるので、情報を見せて、自分で判断していただくというかたちですね。

例えば、ある人にとっては、このトイレはすてきなトイレです。私にとって(どうかと言うと)……今はドアの位置から写真を撮っていますが、トイレに移動したいんだったら、180度回らなければいけません。それをヘルパーさんとやると、すごく大変ですよね。でも、この人にとっては大丈夫です。そのため、この情報を載せています。

車いすで使えるお風呂はとても少ない

あとは、お風呂です。日本には、ユニットバスがものすごく多い。ユニットバスにはいいところがけっこういっぱいありますけど、たぶん海外の人は「roll-in shower」(車いすで入れるシャワー室)という別のシャワーに慣れているので、そういう(施設だといいなという)思いがあります。日本のホテルには、そういう設備があるところがすごく少ないので、けっこう困っている人がいます。

あとは、間取りとか。「18平米」と(日本語で)言っても、想像できますか? 「『18平米』って、どういう感じかな?」と思う人が、いっぱいいると思います。そして、その設備の場所などによって、その「18平米」を広いと感じるときもあるけど、狭いと感じるときもあります。そのため、一応その情報を載せておいて、あとはみなさんに自分のニーズに合うホテルを選んでいただきます。

そして宿泊(先)が決まったら、もちろん「観光したいな」と思う人がいます。そこで、東京や日本のあちこちへ行って、リポートを書いています。「日本の観光スポットって、どういう感じですか?」と考えている人は多いので。

また(ホテルの情報と)同じように、「ここはバリアフリーです」「ここはバリアフリーじゃないです」「行かないほうがいいです」「行ったほうがいいですよ」じゃなくて、一応情報(としては)、その「見たことを伝えるだけ」のスタンスでやっています。

バリアフリーよりもアクセシブルという言葉を使う理由

そして、たくさんの問い合わせのおかげで、私も視野を広げています。障がい者には電動車いす(に乗られている方)だけじゃなくて、いろいろな障がいをお持ちの方がいらっしゃいます。「そういう(方々に向けた)情報も載せなきゃいけないな」と思って、いろいろと載せています。

説明だけじゃなくて、たくさんの写真が大事かなと思っています。例えば、エレベーターがあるとしても、自分では操作盤に届かないエレベーターがいっぱいあります。海外の電動車いすがぎりぎり入るエレベーターもけっこう多いので、そういう情報も載せています。

あとは、もちろんいいところも載せています。(スライドを指して)例えば、この庭園では、車いすのルートを丁寧に教えてくれている。そして、「危険なスポット」や「気をつけたほうがいいよ」というところも載せてくれているので、そういういいところもいっぱい伝えたいなと思います。

ほかには、みなさんの誰もが困るお手洗いのことです。とくに障がいの(ある)方も、けっこう心配する人が多いと思います。「誰でもトイレ」は、ホテルほどはあまり基準が決まっていなくて……「一応、車いすが回れるぐらいのスペースが必要」というくらいで書いてあるので、ものすごく差があります。すごくいい設備のものがあったり、ただ広いだけというところもあったりしますから、一応その情報を載せています。また、「これ(を使うことは、お持ちの障がいによって)は大変かもしれないですから、近くの駅(の設備)が使える場合(もあります)」ということも、いろいろと書いています。

また言語の問題もあります。このシンポジウムで「アクセシブル」と書いてあるところは、けっこういいことだと思います。実は「バリアフリー」という言葉は、海外ではあまり使われていないんです。「バリアフリー」では、誰もたぶん検索しない。だから、(ホテルのホームページに)英語で「barrier-free hotel」と書いてあるとしても、たぶんみなさんは「accessible hotel」などで探すので、その(前者のワードでは)ヒットしないですね。

それだけじゃなくて、障がい者に対する言葉も、みなさんが覚えたほうがいいと思います。たぶんみなさんは、中学校までは英語を勉強していたかもしれません。でも、「聴覚障がい者」や「てんかん」という言葉を勉強していないから、(日本人と外国人で)お互いに通じないことがあると思います。(日本の方は)英語がわからないけど、逆に海外の方も日本語がわからないから(障がいに関する話が)通じ合わないときがけっこうあるので、辞書も作りました。

英語版「日本のバリアフリーガイドブック」の制作

あとは、「これからは、もっと研修やコンサルとかもしなきゃいけないな」と思って、ツアーガイドと連携しています。一緒に東京を回っていて、その人の研修をやっています。(障がい者向けの旅行サポートを)やりたい会社がありますけど、「どうすればいいか、ちょっとわからない」「悩んでいる」とか。そして(車いすの人の)電車の乗り方とかがわかっていても、「実際(に同行)しないと、本当に自信がない」とか「できるかな?」とか。

そこで(私と)一緒に観光スポットを見て回って、例えばトイレの場所や電車の乗り方とかを覚えてもらう。それで、次の外国の車いすユーザーが(日本へ)行ったら、(ツアーガイドの方は)安心して自信を持って(旅行サポートを)できるようになります。

おそらく初の英語の「日本のバリアフリーガイドブック」を作りました。今(2019年1月31日時点で)Amazonの障がいツアーのランキングで8位になっていますけど、そんなに(競合が)いないから大丈夫です。そんなにすごいことじゃないけど。まぁ、英語がわからなくても、みなさんもぜひ買ってください。

あと気づいたことがあって。それは、コミュニケーションやコミュニティが大事ということです。私のホームページには(規模などが)大きいところだけを載せているんですけど、やっぱりみなさんは、小さいところにも興味があります。例えば、小さいレストランとか。

また、あまりメジャーじゃない街に行きたい人がいるので、問い合わせが簡単にできるところを作りました。掲示板になっているので、みなさんが質問して、私があとで調べられる。でも、それに(一度)載せたら、次にGoogle検索する人もそういう情報が見つけられますように(と考えて作りました)。また、日本に行ったことがあるほかの障がい者の方にも参加していただいているので、私が行ったことがないところ(の質問)に答えられるので、すごく感動したことが何度もありました。

車いすでも乗れる人力車

みなさんに伝えたいことがあります。それは、ちょっとした工夫で、誰かの人生を変えられることです。例えば、こんな会社が(あります)。もともと福祉タクシーをやっている会社ですけど、ここのお客さまのニーズを聞いて、いろいろなアイデアが生まれました。

例えば、野球を見に行きたい場合。普通に車いすのスポットを借りたいなら、3ヶ月前ぐらいに電話して、名前を言って……という、仮予約みたいなものが必要です。ただ、「日本の滞在期間は1〜2週間とかだから、その電話ができない」とか、「その電話は日本語じゃないとダメだ(から、話が通じない)」というところがあります。

その(もともと福祉タクシーをやっていた会社の)人が先に電話してくれて、その仮予約をしてくれました。あとは、その(観戦にあたって)車いすが必要な方もいるので、すぐに車いすを買って……(など)「なにかできることをやりたいな」と思いました。

(スライドを指して)次は私と松岡修造のデートの写真です。これは、ちょっとあまり(私が)写っていない(ので、例として少しわかりにくい)です。ごめんなさい、松岡修造をメインにしました。これは、車いすでも乗れる人力車です。人力車がバリアフリーになっているんじゃなくて、乗り場にスロープがあります。

「その会社は、どうして始まったの?」と聞いたら、高齢者には人力車に乗りたい人が多いけど、(車いすに乗られている場合は)段差とかがものすごく大変なので、なにかちょっと(工夫をして)高齢者でも乗れるようにしたいなと思ったそうです。そこで、「スロープを作ったら、車いすのままでも乗れるかな?」と思って、スロープを作った。車いすのままでスロープを上がって移動して、(人力車に乗った)あとでスロープを分解して、普通に走る。

「(障がい者は)口コミが上手」と言ったように、私もこのことですごく感動したので、今みなさんの前で伝えているということですよね。だから、(誰かの人生を変えられる、ちょっとした)工夫が大事ですね。

もう1つの工夫の例は、(スライドを指して)この着物屋さんです。オーナーさんが「もう一度、おばあさんに着物を着させたいな」と思って、「なにができるかな?」(と考えました)。でも、ずっと車いす生活なので、着物を着るのが大変ですね。そこで、車いすのままで着物を着られることを発明しました。そのおばあさんだけではなく、障がいを持っている方の成人式や結婚式など、いろいろな場で着物を着られるようにしてくれました。海外のみなさんには、着物を着て浅草をうろうろしたい人もいるので、宅急便で(着物を)送るサービスも始めているんですね。

バリアフリーのツーリズムは「みんなのためのもの」

まとめとして伝えたいのは、バリアフリーのツーリズムは、「みんな」のためのものですね。みなさんは「障がい者のためだ」と思っているだけなんですが。

実際に今日(ここへ)来る時に、エレベーターに2〜3回ぐらい乗りました。私の前に、高齢者の方が並んでいました。エレベーターが設置できたことで、その高齢者の方々が出かけられるようになりました。もっと楽に、遠くへ行き来できるようになりましたから。

誰もがみんな、歳をとって高齢者になるんですよね。みなさんに思ってほしいのは、「バリアフリーにすることが、自分の将来への投資になっている」ということです。

あとは、ベビーカーを押している家族や、怪我をしたばかりでギプスで(固定されていて)あまり階段(で移動が)できない人も(います)。たくさんの人が、エレベーターを作るときに「(それでも、移動なんてとても)できないできない」と言うけど、作ったら、もうみんなが喜ぶんですね。

あとは、今は(バリアフリー領域は)ビジネスチャンスですね。マーケットは、小さくありません。たくさんのお金が回っています。だから、最初に先へ進んだ会社は(手探りだとしても、それが)逆にチャンスになると思います。そして、その会社に(とって)も(いい)投資になっているとも思います。エレベーターを入れたり、工夫して車いすでも行けるようにしたりしてくれたら、(それが)その会社のビジネスチャンスとなって、リーダーになる可能性があります。

そして、アジアから世界に(向けて)、日本にバリアフリーのリーダーになってほしいなと思います。みなさんと一緒に、日本のおもてなしと工夫で、日本のファンを増やしたいなと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)