海外と日本のアクセシブル・ツーリズム

高松正人氏:ご紹介いただきました高松正人です。どうぞよろしくお願いいたします。

今日のお話ですが、このタイトル(「海外と日本のアクセシブル・ツーリズム」)を見て……例えば、カナダのバンクーバーやシンガポール、ロンドンではどんな取り組みをしているかなど、いろいろな取り組みが紹介されるといった内容を期待されている方がいるかもしれませんが、今日は、海外というよりも、グローバルでこの「アクセシブル・ツーリズム」がどのように考えられているか、そこから見たときに、日本のアクセシブル・ツーリズムはどういう現状なのか……どのあたりが進んでいて、どこに課題があるのかといったようなことを、みなさんと一緒に考えていきたいと思っております。

「UNWTO」(国連世界観光機関)という、国連の観光に携わる専門機関が、国連の勧告というかたちで、2013年に文章を出しています。

「アクセシブルであることは、責任ある観光、持続可能な観光政策の中心となる要素である」。先ほど星加先生が「メインストリーム」という言葉を使われましたが、「それは不可欠な人権であるとともに、とても大きなビジネスチャンスでもある。すなわちアクセシブル・ツーリズムは、障がいや特別なニーズを持つ人たちだけでなく、私たちすべての人にとってメリットがあることを認識しなければならない」と述べています。

各国で異なる「アクセシブル・ツーリズム」の定義

私自身、今回の準備をするにあたってこの文章を読んで、「ちょっと考え直さなきゃいけないな」という部分がいくつかございました。

UNWTOは「アクセシブル・ツーリズムに関するガイドライン」というハンドブックを出しています。その中でも「アクセシブル・ツーリズムとは何なのか?」を定義しているのですが、東京都が出しているアクセシブル・ツーリズムの定義と比較してみたいと思います。どっちがよい・悪いではなく、どのあたりが違うのかを見てみるとおもしろいです。

東京都のアクセシブル・ツーリズムの定義は、「アクセシブル・ツーリズムとは、障がい者や高齢者など、移動やコミュニケーションにおける困難さに直面する人々のニーズに応えながら、誰もが旅を楽しめることを目指す取り組みです」とされています。まさに今日、基調講演やパネルディスカッションでもお話をいただいたようなことで、ほとんどがここに圧縮されて入っています。

非常にすばらしい定義だと思いますが、一方で、国連のハンドブックでは「動くこと、見ること、聞くこと、認知することなどのアクセス面でニーズを持つ人々が、ユニバーサルデザインの観光商品やサービス・環境が提供されることを通じて、ひとりで公平さと尊厳を持って旅行ができるよう、観光に関わるさまざまな関係者が力を合わせて実施する観光の形態」と定義しています。

言っていることは大きく変わらないのですが、特徴的なのがこの「ひとりで」という言葉です。

元の英語は「independently」です。「独立して」という意味です。つまり国連が言っていることは、このアクセシブル・ツーリズムが、いろいろな障がいを持った方々が、別に誰に頼ることもなく、自分で自由に、健常の方々と変わらず、ひとりで独立して自分自身で旅行できるようにするということに強調点が置かれています。

もうひとつは「公平さと尊厳を持って」です。何に対する公平かというと、障がいを持たない人たちと公平ということです。「尊厳を持って」というのは、「誰か、すいません、いろいろご迷惑をおかけします」といったものではなく、「いや、それは当然のことでしょ?」という感覚です。

このあたりの言葉遣いが、グローバルでのアクセシブル・ツーリズム……ツーリズムだけではないですね。「アクセシブル・シティ」という考え方もありますけど、この中に必ずその考え方が入っているのです。

非常に大きなビジネスチャンスと捉えるべき

先ほどの文章を見てみますと、この中で特徴的なところが、アクセシブルである、それは不可欠な人権、基本的な人権だというところです。ですから、どこかに移動したり、自由にものを見たり、聞いたりすることは人権であり、基本的人権だから保障していかなければいけない。そのように考えています。

先ほどバリージョシュアさんがお話しくださったこととほぼ同じですが、とにかく障がい者は非常に数が多いです。バリージョシュアさんは、障がい者が13億人いると言っていました。

2050年になると世界の人口の20パーセントが60歳以上で、そのうちの20パーセントが80歳以上になります。

全旅行者のうち、障がいのある人の割合は、オーストラリアでは11パーセント、イギリスでは国内の宿泊旅行をされている方の12パーセントが、障がい者です。それだけ多くの障がいのある人たちが旅行に出ている状況です。その障がいのある人たちの比率が上がっているだけではなく、どんどん出て行っているということが、この数字からもわかります。

マーケットの話でいうと、アメリカの成人の障がい者の年間の旅行における支出の合計は136億ドルで、日本円にすると1.5兆円。これはすごいですね。

いま、インバウンドが注目されていますが、昨年のインバウンドによる経済効果は4.5兆円と言われています。米国では障がい者本人の旅行支出が1.5兆ということですから、家族やヘルパーを含めれば、もっと大きくなることは明らかです。

つまり、これからアクセシブル・ツーリズムは非常に大きなビジネスチャンスだと捉えていく必要がある。むしろ、それに乗り遅れてしまうと、せっかくのチャンスを逃してしまう、ということです。

「障がい」は能力的なものと機能的なものに分かれる

国連が考える「障がい」(disability)という言葉についてよくご存じだと思いますが、日本では「障がい」と1つの言葉で言っていますが、国連では「disability」、「なにかできないことがある」と、「impairment」「機能的にハンデがある」を分けて使っています。

国連は、「障がいとは人権問題であり、個人が生まれつき持つ質の問題というよりも、社会的構造の問題である」と言っています。

例えば、車いすを使っている方、耳の不自由な方、目の不自由な方について、それは個人の問題ではなく、その方々が平等に生活したり活動したりできないような社会の構造が具合悪いと言っています。ですから、建築上の問題であれ、法的な問題であれ、組織的な問題であれ、社会にある障壁を取り除くことに力点が置かれているわけです。このあたりが非常にはっきりしています。

ですから、「能力的障がい(disability)とは、機能的障がい(impairment)を持つ個人が、態度や感覚面での障がい、バリアと関わりを持った結果として生じるもので、その人々が他の人と平等な立場で、有効なかたちでフルに社会参加することを妨げる状態」ということです。

まさに、いろいろなバリアを取り除いて、障がいを持つ人たちの中でも、とくに機能的な障がいを持つ人たちが、健常な人たちとまったく対等な立場で、しかも社会の役に立つかたちでフルに参加できるようにする。国連はこういったことを求めています。

観光においても、旅行や宿泊においても、この平等かつ有効なかたちでフルに社会参加するということができるように、その障壁を取り除く考え方です。

アクセシブル・ツーリズムで大事なことを話します。私たちが日々関わっている障がいのある方々、すなわち恒常的な機能的障がいのある方。足・手・視覚・聴覚・精神・発達などに障がいがある方だけではなく、一時的に能力的障がいがある人、怪我などのために一時的に松葉杖や車いすを使っている方。さらに、高齢者や大きな荷物を持っている人もいます。

とくに今は、インバウンドのお客さまでとんでもなく大きなスーツケースを持って歩いている方がいますが、その方にとっては、まさに街中バリアだらけですね。そういった方が問題なく過ごせるようにするのが大事です。

段差の話が出ていましたが、段差があると大変です。それ以外にも、乳幼児を連れている家族や、日本ではなかなかいないのかもしれないですが、体が極端に大きい方や小さい方……欧米などでは時々すごい方がいらっしゃいますが、そういった方への対応も必要です。

こういったことを考えたときに、情報面でのバリアを持っている外国人旅行者も、ある意味ではアクセシブル・ツーリズムの対象になってくるでしょう。

「能力的障がいによる差別」の“差別”とは

具体論にいきたいと思います。「能力的障がいによる差別」の「差別」とは何かについて、国連の文章は定義しています。

「意図的に、または結果として」の「または結果として」が大事です。「別に差別しているつもりはないけれど、結果として、社会の仕組みがこうなっていないから自分たちが平等に動けないよ」というところも、「差別」に入ります。

「人権、それから政治・経済・社会・文化・公民など、あらゆる分野で基本的な自由を他の人と同様に認知し、享受し、行使することを妨げたりするような区別や除外、制限……」。その中には合理的な配慮をしないことも含まれると書いてありますが、それが「差別」なのです。

差別が生まれないようにやるのはすごく大変なことだなと、読みながら思いました。そして「日本はどこまでできるのだろう? いや、世界はどこまでできるのだろう?」とも思いました。

もう1つの基本的な考え方で、旅行のアクセシブル・ツーリズムは、「アクセシビリティは旅行・観光のサプライチェーン全体を通じて提供されなければならない」という考え方があります。単に、段差がない、スロープがあるだけではない。旅行を計画するときから始まって、行って帰ってくる間の全部を通じて……それが「サプライチェーンを通じて」です。

そうすると、アクセシブル・ツーリズムの対象になってくるのは、まずは観光地そのもののマネジメントです。また、観光地をどういうふうに作っていくか……例えば、受け入れ整備をやっている方もいらっしゃると思いますが、そういった方も入ってきま。

そして、観光情報や宣伝、旅行情報です。「旅行準備をするときに必要な情報や、予約の仕組みも、ある意味でバリアはないですか?」ということです。また、都市や建築物を取り巻く環境は当然ですが、交通機関と駅、宿泊施設、飲食店、会議施設、文化施設、活動、その他にも対象がいろいろあります。

「アクセシブル」の定義は事細かな規定が存在する

まずはマネジメントです。今日は、行政や自治体の方々も来られていると思いますが、やはりマネジメントは、行政や観光協会、DMOなどが責任を持ってやらなければいけません。

それぞれ、観光振興計画や開発計画があると思いますが、その中にアクセシブル・ツーリズムの考え方や原則が入っているかどうか、提供されるサービスにアクセシビリティがあるかを評価しているか、「やっぱりちょっと足りないぞ」と評価された時に、改善する仕組みがあるか、地域全体が交通・観光施設を含めて、アクセシビリティを備えていますかなどです。

そして、(ハンドブックには)こんなことが書かれています。いくらアクセシブルな観光施設があったとしても、そこに行くことが難しければ、それはアクセシブルではない。ハンドブックでは、地域全体でトータルに観光のあり方をマネジメントするのが、自治体や行政やDMOの責任と言っています。

その次、「観光情報や宣伝」は大事ですが、抜けやすいところです。旅行の企画や準備、予約などにもアクセシビリティが保障されていることが重要です。例えば、旅行情報や観光パンフレットで、アクセシブルな観光サービスや施設をわかりやすく表示しているか。これは、日本でもできてきています。

次が「観光プロモーション用の資料などには、可能な限りアクセシブルな連絡方法として、FAX・電子メール等を併せて記載する」です。例えば、問い合わせ先が電話番号だけだと、電話ができない聴覚障がいの人が困ります。

また、「観光地は、障がい者が利用できる支援サービスのリストを提供する」ということがハンドブックに載っています。まだ日本にはないところですが、「ふだん家にいるときに受けているサポートが、旅行先でもできるように、どんなサービスがあるのか」をリストにして提供しなさいというものです。

「義肢の修理や交換、盲導犬・聴導犬用の獣医などを含む」とあって、「なるほど、ここまでやるのか!」と思いました。しかし、そういうハンデを持っている方、あるいはその義肢を使っている方々、あるいは車いすでも壊れたときに、それを直せる人が観光地にいることは、やっぱり平等に行動する・観光することを保障するために必要なものだなと思いました。

「バリアフリー」の定義は各国で分かれる

そしてもう1つが、「旅行の予約システムには、障がい者向けに、掲載されている観光・宿泊施設のアクセシブル対応を明確に記載し、障がい者が適切な施設を利用できるようにする」というもの。

実は、自分自身が車いすの利用者というつもりで架空の旅行を考えまして、ホテルを予約できるかどうか、予約サイトを見てみました。日本と世界の両方で使えるということで「Booking.com」というサイトですが、みなさんもお使いになられたことがあると思います。

設定は「1月23日から1人で1泊する、禁煙かつバリアフリーの部屋」です。日本では札幌、米国ではミルウォーキーを選んでみました。

札幌で選んでみましたら、この条件に当てはまるところが16件出てきました。そのうちの1つを見てみたのですが、ごくごく普通の客室が出てきました。「ちょっと待て。どこがバリアフリーなの?」と思い、ここ(のページ)になにが書いてあるかと見たら「どのフロアもエレベーターで行けます」と書いてありました。

(会場笑)

「それがアクセシビリティなの?」と思いました。部屋の構造を見た時に、「バスルームを見ても、先ほどのバリージョシュアさん話とずいぶん違うな」と思いました。

このホテルのことをもう少し調べてみました。1室だけ「バリアフリールーム」というものがあることがわかりました。ところが、ホテルのサイトで「お部屋の種類」というページがあるのでざっと見てみたのですが、その部屋は出てきません。隠されているのですね。つまり、先ほどの話にあったとおり、一般の人と平等に、オンラインでその部屋を予約することができないのです。

別のホテルも見てみましたが、やはりなにも書いてありませんでした。どうしてこうしたホテルにアクセシビリティのチェックがついているのか、私は不思議で仕方がなかったです。

次に、ミルウォーキーのホテルを検索してみました。札幌よりは小さい町だと思ういますが、条件に合うホテルは43件ありました。

すると、おもしろいことに気がつきました。条件に合ったホテルをいくつかクリックしてみたら……2つの部屋が紹介されています。上の部屋は「King Room - Disability Access」と書いてある。障がい者が使いやすい部屋です。

値段を見てみると、日本円で表示されていて、「9,766円+Tax」です。スタンダードルームも「9,766円」。「その部屋はありますが、プラスいくらですよ」ではなく、スタンダードの部屋も、障がい者向けの部屋も、まったく同じ値段です。

そして、「roll-in shower」が、実際にどんな部屋なのかなと見てみたら、カーテンで、しかもここに座ることができる。ご存じかもしれませんが、アメリカには「ADA(障がいを持つアメリカ人法)」という法律があって、その中では、シャワーの仕様や水栓のハンドルの位置まで全部決められています。

時々、「偽ADAルーム」があって、例えばシャワーの反対側の壁にハンドルがついていたりするようです。障がいのある方がここに座ってシャワー浴びられないためダメとなります。きちんとADAに準拠している部屋は、お部屋の中やトイレもきちんとしていました。

別のサイトで見てみても、「King Bed、Hearing Access、 Nonsmoking」とあり、耳の不自由な方が使いやすいようになっているお部屋があります。また、「Accessible roll-in shower」は、roll-in showerが付いているお部屋です。それらの価格は全部同じでした。もちろんスタンダードの部屋も含めてです。

ここには、いろいろな障がいのある方が使える部屋はあるが、基本的には1ドル単位まで同じ価格です。もちろん高い部屋はありますが、それは部屋の広さで、スタンダードや障がい者用といった違いがあるわけではありません。価格が違うのは部屋が広いことやキッチンがついていることなど、部屋の条件が違った場合だけでした。

アクセシブルな部屋は「1つのチョイス」

それ以外にも、例えば都市や建築物を取り巻く環境。日本ではよくできているなと思います。

もう1つ、いま申し上げましたように、実は国連が言っている中でポイントとなるのが価格や料金です。「身体障がい者の対策を実施するための費用は、全体の施設メンテナンス費用または施設改善費用に含まれる。アクセシブルのサービスを提供するために必要な追加的費用は、障がいを持つ利用者の利用料金に上乗せしてはならない」とあります。

アメリカのサイトでは、1ドル単位まで同じでした。なぜならば国連の勧告がそうだからです。この点、日本でもう少し対策が必要かなと感じております。

それから、交通機関と駅については、日本はいろいろとできていると思います。最近は、いろいろな言語でのアナウンスメントが行われていますし、視覚・聴覚障がい者の両方を意識したような案内ができています。

段差解消についても、バリージョシュアさんは、街の中や食事場所などを例に出していましたが、ずいぶん段差は解消しています。段差のない空港で私が一番すごいなと思うのは、香港空港です。飛行機を降りてから入国審査をして、荷物を持って出て、そこから列車で街まで行く間、一切段差がありません。全部平面でした。

また、高速道路でも必ず多目的トイレを付けなさいということも書いていますが、日本ではずいぶんできているなと思います。

世界では、障がい者が他の人の介助なしに、ひとりで、「independently」に、介助なしで過ごせるアクセシブルな客室が適当数あること。「適当数」という表現にはなっていますが、「10パーセント以上」というのが1つの目安として書かれています。

さらに、その障がい者向けの客室は、非常時の避難誘導がしやすい場所など、いろいろなことがありますが、この考え方は、障がい者が使える部屋というのは、別に特別な部屋じゃない。ごくごく当たり前の部屋ということです。

米国などでは障がい者向けの部屋は特別なものではなく当たり前のものです。ホテルにあるいろいろな部屋の中の1つのチョイスでしかないんです。喫煙・禁煙の部屋を選ぶのと同じようなレベルです。

ですから、高齢になって「やっぱり普通のシャワーはしんどいなぁ」となったら、もうその時点でアクセシブルな部屋を選べます。まさに「1つのチョイス」という考え方ですから、ホテルを作るときも最初からそういった考え方で作っていく。それが世界の、ある意味では先を進んでいるところなのかなと思っています。

世界中で標準化の流れができつつある

また、宿泊施設だけではなくて、飲食店や会議施設、こんなところでもアクセシブルの考え方が大切になります。

飲食店でも、地域全体として適当な数のアクセシブルなレストランがある。これは、先ほどお話しした地域のマネジメントの話で、観光地のマネジメントの中に出てくるわけです。店内のいす・テーブル・カウンターが、車いすの客にも使いやすいとか、メニューの展示や表示が見やすい記載か、または文字に頼らないメニューであったり、糖尿病やグルテンアレルギーの人向けのメニューがあったり。

会議施設でも、車いすの参加者の特別なエリアと同時に、聴覚障がい者用の骨伝導スピーカー……これはけっこう強調されています。国際会議の施設などでは、もういまはあって当たり前です。もちろん、今日も来ていただいていますが、手話通訳というのも必要な要素になっていますね。文化施設で、映画館やシアターでは、骨伝導スピーカーも必要なものとされています。

世界ではこのアクセシブル・ツーリズムを標準化していこうという動きがあります。

現在は、ISOで世界標準として、この「 Accessible Tourism for All」を作っていこうという動きがあります。先ほど紹介しましたUNWTOや、ヨーロッパにある「European Network for Accessible Tourism(ENAT)」などが一緒になって「Tourism for All」の世界標準作りをやっています。あと1〜2年で出てくるのではないかなと思っています。

ENATは、この「Tourism for All」を実践している観光関連事業を、「ここのホテルは、ここの旅行会社は、きちんと『Tourism for All』の考え方を実践してるよ」というかたちで、どんどん認証しています。

これによって、今後どんどん成長するAccessible Tourismのマーケットの中での優位性を保証する考えです。それをインセンティブにして、もっともっと事業者に「Accessible Tourism」を進めてもらおうと考えています。

またEUでは「Access City Award」というものもあります。観光のアクセシビリティというのは、ある意味では街のアクセシビリティと表裏一体だということで、 EUでは毎年Access City大賞を選んでいます。

いままで受賞した都市は、スペインのアビラ、オーストリアのザルツブルク、ドイツのベルリン、スウェーデンのイェーテボリ、ボロース。ここはスウェーデンが2年続きました。そして、ミラノ、チェスター、リヨン、ブレダといった都市がトップですが、必ずファイナルを5つ選んでいます。これ以外にも準優秀都市がほかにもあります。

欧米のインフラに見るアクセシブル事情

これらの活動を支えている法律や考え方があります。先ほど言いましたが、アメリカではみなさんもよくご存じの「ADA」という法律が1990年にできています。イギリスでは「Equality Act」という法律が2010年に、それからオーストラリアでも「Disability Discrimination Act」という障がい者差別解消法が1992年にできています。

日本の場合は、2016年に障がい者差別解消法が施行されています。日本の場合、国連勧告を受けて、法制化を具体的に進めてきました。アメリカやオーストラリアは、20世紀の時代から法制化を具体的に進めています。

そのため、すでにホテルなどのインフラが、きちんと最初からアクセシビリティを取り込んだかたちで設計するようになっているのだと思います。ですから、日本も20年経てば、それが当たり前の世界になってくるかもしれません。いまは、ちょうどそこのレベルにいこうとしている。とくに意識の高い企業さんがどんどん出てきているといった段階だと思います。

そうは言っても、現実はそうではありません。スライドの写真は地下鉄の入り口です。ニューヨークとパリのものです。パリはおしゃれですが、アクセシブルではありません。これに比べたら、日本の地下鉄がどれだけアクセシブルかがわかりますよね。

ロンドンの地下鉄は「Tube」と呼ばれています。あとは、アメリカのシカゴの都市高架鉄道です。いずれも、とてもバリアフルな駅です。

そういった面で、日本は社会全体の中でインフラ整備は進んできていると思います。さきほど言いましたように、アメリカの場合、ホテルは進んでいるんですが、駅のようなところはまだ残っています。

一方で、変化も起こっています。シンガポールのバスとシドニーのバスですが、いずれもかなりアクセシブルな交通体系ができています。それからアメリカのニューヨークの地下鉄は、健常者でもかなりしんどいところがありますが、ワシントンD.C.の地下鉄は、いま全駅を完全バリアフリー化したので、いろいろなところで発表していて、「これだけできるんだ!」と言い出しています。

いずれにせよ、街全体や街の交通インフラをアクセシブルにするという動きは、先ほど言いましたように、全世界的な動きとして進んでいくことは間違いないと思います。

日本のハード面は本当にすばらしい

さて、最後は日本のアクセシブル・ツーリズムについてです。いまお話をしたようなこと、あるいは私自身がこの準備のために下調べしたことなどからまとめてみました。まとめたというよりも、個人で思ったことですけれども。

日本は、ハード面ではある意味で世界のトップに近いぐらい進歩してきました。たぶん、この10年ぐらいでものすごく変わったと思います。一方で、道路や段差、狭い歩道などの一部では、バリアが残ってはいます。

駅や施設での職員のヘルプは海外では考えられません。車いすの方などが電車に乗るときにスロープを持ってきてドアにつけ、しかも「◯◯駅で降りられます」と伝達されます。そしてその駅に行ったら、ドアのところに係員が待っていてスロープを敷く。私も出張で世界のいろいろなところに行きましたが、こんな対応をする地域は見たことがありませんね。

そこは本当にすばらしいです。ただ、冒頭でも言いましたが、日本の場合は、「それって社会の問題で、構造的問題だから社会全体で改善していく」というよりは、ハンデを持った個人が「ご迷惑をおかけして、ご苦労をおかけして」というような、ちょっと引いているところが、まだあるんじゃないかなと思います。

逆に、欧米などで車いすで旅行をされている方々は、本当にほかの人と全然変わらず、普通に楽しんでいます。迷惑をかけているなんて顔はまったくしていない。周りの人も大変そうだし、少しは迷惑をかけているのですから「ありがとうね」くらいの顔をしてもいいんじゃないかなと思います。

ある意味では、障がいを持つ人たちが自由に、平等に旅行できるようにするのは社会の責任だ、という考え方を全体が受け入れているのかなという印象を持っています。

日本の場合は、文化的な面や精神性もありますので、「俺の権利だ!」みたいなことに対して、みなさんが「うん」とうなずくかどうかはわかりませんが、少し時間はかかるにしても、方向としてはそういったところを目指していってもいいのかなと思います。

最後に、繰り返しになりますが、バリージョシュアさんもおっしゃったように、アクセシブル・ツーリズムというのは、本当にやらなければならないことです。しかし「行政などからガイドラインが出たから従わなきゃいけない」というかたちでやっていったら、しんどいですよ。

でも、これをビジネスチャンスだと捉えて、先にやったほうが勝ちだと考えて取り組み、それが実際に観光における集客や事業に繋がっていく……本当は、その姿を見てみたいです。

そういう考え方にチェンジができたら、アクセシブルが、日本でもさらに大きく進歩していくのではないかなと思っております。

簡単ではございますが、世界のアクセシブル・ツーリズムの考え方と日本とを比較してお話をさせていただきました。お立ちの方も含めまして、ご清聴どうもありがとうございました。

(会場拍手)