発達障害のある人に必要なことは事前情報による予習

橋口亜希子氏(以下、橋口):いまご紹介いただきました、一般社団法人日本発達障害ネットワークで事務局長をしておりました、橋口と申します。第2部は、隣で星加先生や久保さんといった方々がご登壇されている中、このセミナーに来ていただき、本当にありがとうございます 。

ではさっそくですが、「発達障害から考えるアクセシブル・ツーリズム」について考えたいと思います。

まずみなさんに知っていただきたいのは、発達障害のある人やその家族の中には、発達障害の特性から、旅行に行くことを、もっと言うと外出することを、そもそも諦めている方が多くいることを知っていただきたいと思います。

発達障害のある人の特性や困りごとは、実は誰もが持っている部分でもあります。ですので、発達障害を手がかりとすると、私たちが目指すアクセシブル・ツーリズムの実現がグッと近づくといったこともあります。今日この場は、そのアクセシブル・ツーリズムを実現するために、発達障害を通して一緒に考えていただきたいと思います。

(1つ目が)今日の目次にある、「発達障害のある人の困りごとってどんなこと?」。2つ目が「発達障害を手がかりとした移動と安心の連続性とはどういうことか?」。それから「発達障害を手がかりとしたハードとソフト両輪によるバリアフリーとは?」。そして、「諦めが希望に変わるアクセシブル・ツーリズムの実現に向かって」。この4つのテーマで話していきたいと思います。

発達障害のある人たちの困りごとはどんなことなのか、大まかですが、いくつか挙げてみました。まず1つは、「復習が活かせない人たち」ということなんですよね。ここでみなさんにお伝えしたいことは、「発達障害の人たちに必要なのは、復習ではなく、予習」ということです。

先ほどの基調講演で、バリージョシュアさんが、94パーセントのイギリス人が調べてから旅行に行くと言っていましたよね。発達障害の人たちも先の見通しを立てることがとても大事で、事前に情報を得る予習をしないと外出ができない人も多くいます。つまり、事前情報をしっかり予習していくことが大切な人たちです。

発達障害のある人に見られるさまざまな特徴

それから「できないことを隠そうとする」という人たちでもあります。とくにLD(学習障害)の方にこれはよく見られますね。できることとできないことのアンバランスが発達障害の特徴でもあるので、大人になってから発達障害の診断を受ける人たちもいます。

その人たちは、大人になるまで(発達障害があることに)気づけなかった。つまり、まだまだ発達障害が理解されていないということなんですよね。

それから3つ目、「いつも同じことをしたがる」。これはよく「こだわり」というふうに言われてしまいますが、ここでお願いが1点あります。そのこだわりは、その人にとって安心で安全なものなので、奪ってはいけないということです。

だから「これがないと外出できない」という子もたくさんいますね。でも、そういう子たちから、それを奪うんじゃなく、「これも使ってみるとあなたは外出ができるかもしれないよ」と、新たな安心安全となるこだわりを増やしていってあげることも大切です。

それから、どうでしょうね。日本語で「こだわり」というと、どちらかというとネガティブに聞こえてしまいますが、英語にすると、「こだわり」は「routine」なんですよね。だから、英語にするとちょっとかっこよかったりするかもしれません。言い方も大事かなと思っています。

それから「言葉をそのまま受け止めてしまう人たち」がいます。私の知り合いの青年がコンビニでアルバイトをしたんですね。彼はアスペルガー症候群と診断されています。彼がお客さんに「手を貸してください」と言われました。でも、その時に彼は「手は貸せません」と言ってしまったんです。そうしたら、お客さんが怒って「店長を呼べ」ということになったんですね。

でも、私にはよくわかるんです。彼にとっての「手を貸してください」は、「この手を切って貸すことはできません」という、相手の言葉どおりに受け取っただけなんですよね。だから、「手を貸してください」などと言われたとき、その言葉の背景にある意味や暗黙知のルールがわからなくて困ってしまう人たちも多くいるということです。

「困る子」なのではなく「困っている子」という視点

それから「考えたことをそのまま言葉にしてしまう人たち」もいます。内言語が外言語となってしまう。よく会議の中でもぶつぶつしゃべってしまう人がいると思うんですけど、そういう人たちにとっても、とても大切なのは、「心の中でしゃべっていいよ」という、ボリュームゼロの方法を教えてあげることです。

「しゃべっちゃいけないよ」ということは、発達障害の人たちにとっては合理的配慮じゃないんですよね。なぜなら本人が意識してしゃべっているのではなく、気が付いた時にはしゃべっていることが特性だからです。ボリュームゼロの方法を伝え、「口には出さないけれども、心の中でしゃべっていいよ」という許可をすることが大事かもしれませんね。

それから「いろいろな感覚が特別である人たち」です。感覚過敏の人もいれば感覚鈍麻の人もいる、多様であるということです。例えば、今日この会場ですと、聴覚が過敏な人は、エアコンの音、マイクの音、いろいろな音がもうすべて同一音量に聞こえてしまう。

逆に、感覚鈍麻で熱さなどがわからない人は、ストーブの前に座って背中が燃えていても気づかないという人もいます。だからさまざまであるということなんですね。

それから、発達障害の人たちは「情報が入りすぎて困っている人たち」と考えていただくといいと思います。発達障害は、ある意味「情報処理障害」とも言えます。それは視覚や聴覚だけではなく、さまざまな感覚によって情報が入りすぎて困ってしまっている。

今の世の中は、情報過多になってしまっています。先ほど帝国ホテルの人が「過剰にしすぎてしまうと病院のようになってしまう」と言っていましたが、情報も過剰にしすぎてしまうと、情報が取捨選択できなくなって困ってしまう人たちも多くいるということですよね。

以上、ちょっと簡単ですが、発達障害の人たちはこんなことで困っているんですよね。ここでみなさんにお願いしたいのは、発達障害のある子は「困る子」とよく言われてしまいます。でも、それは違うんですね。実は「困っている子」なんです。だから「困る子は実は困っている子」であるという視点がとても大切になります。

アクセシブル・ツーリズムのキーワードは「安心」

では、2つ目の「発達障害を手がかりとした移動と安心の連続性」に関して、お話ししていきたいと思います。先ほども申し上げましたように、心づもりや、見通しを立てられるような事前情報の提供がとても大切です。調べてから行く。事前に情報が提供されることで見通しを立てられる、そういう心づもりが必要な人たちということです。

それから、暗黙知にあるルールや当たり前、常識を見える化してあげること。「わかって当然」とか、忖度とか、場を読むのが苦手な人たちです。それらを具体的に見える化することはとても大事ですね。なので、最近のコンビニはとても行きやすくなっています。レジ待ちの列がわかりやすく、「ここに並ぶ」と足マークなどをつけてくれているところは、もうめちゃくちゃいいですね。

ただ、先日知り合いの方に聞いたら、足マークが1個しかなかったそうなんですね。そこに前の人が並んでいたら、「ここは僕の場所だ!」ってバンッて突き飛ばして、そこに立とうとしちゃったそうです。だから、足マークは3人分ぐらいあったりするともっといいんでしょうね。

それから「部分ではなく全体の支援」。先ほどシンポジウムで言っていましたが、今はけっこう点では充実しているんですね。点での支援が充実していることはたくさんあります。でも、それが線や面にはなっていない。だから、私は部分最適が重なって連続していくことで、全体最適になるような支援がとても大事なのかなと思っています。

そして、部分(最適)で安心を得ながら、その安心を積み重ねていく移動がとても大事だということです。個人的な話ですけれど、私はすごく方向音痴なんです。だから、池袋や新宿の駅がめちゃくちゃ苦手です。なぜかというと、途中で表示が変わってしまったりして、そこに移動ルートがわかっているという安心が連続していないからなんですよね。

だから、部分で安心を得ながら、それを積み重ねて移動できるということが大切なんですよね。それは通勤においても通学においても旅行においても、何においてもそうです。

先ほどのパネルディスカッションで星加先生が、「安心感を持って」という文言や、「それがちゃんと保障されている」と言っていましたよね。これからのアクセシブル・ツーリズムという点では、やはり「安心」はキーワードになると思っています。

「見た目にはわからない困難さ」への配慮

安心において大切なことは「情報とわかりやすい動線がちゃんとバリアフリー化されている」ということです。情報が過多過ぎても困ってしまう。「なんでも乗せ」は困ってしまうわけですね。多機能トイレにもさまざまなピクトグラムが全部貼ってあったりしますが、情報が過多になっていてけっこう混乱しちゃったりするわけですよね。

だから、ちゃんと取捨選択して、必要な情報がきちんとわかりやすく表示されるというのがとても大事でしょうね。それが動線としてバリアフリーになっていることがすごく大事かと思います。

「感覚に配慮した空間」というところでは、今ヨーロッパのデンマークで「Sensory Accessibility Design」というものが研究されています。部分ではなく全体というところで、建築・設計という点で、感覚も取り入れたアクセシブル・デザインを考えましょうということです。

最後に、「見た目にわからない困難さへの配慮」はどうしてもお願いしたいですね。例えば、発達障害のある人たちの中には、通常のトイレに行けない人たちもいます。でも、それが見た目にはわからないから、「一般のトイレはあちらですよ」と言われてしまったりする。だから、この見た目にわからない困難さへの配慮がすごく大事なのかなと。

発達障害というものがまだまだ歴史が浅く、発展途上にある中では致し方がないんですけれども、発達障害を含めて、見た目にわからない障害のある人たちのバリアフリーや、アクセシブル・ツーリズムが実現していくことは切に望むところです。

では、「発達障害の人たちに大切なバリアフリーってどういうこと?」について、ハードとソフトの話をしたいと思います。このたび、バリアフリー法で改正されたところには、「バリアフリーはハードとソフトの両輪が一体となって」と明記されていますね。

バリアフリーのソフト面は、ハードを補填するものだけではないんです。段差があって、車椅子の人が通れない。じゃあ、みんなで車椅子を持ち上げてあげましょう。それはソフトですが、それだけがソフトじゃないんです。ソフトだけを必要とする人もいるということなんです。ハード面を補填する部分もあるけれども、そうしたソフトだけを必要とする人たちもいるという認識が、私はすごく大事かなと思っています。

発達障害とは、情報処理障害でもある

では、ハードとソフト、それぞれの項目についてお話をしていきたいと思います。

まずハードでは、アクセシビリティ・ルートやアクセシブル・ツーリズム、「わかりやすい案内」というものがとても大事かなと思っています。その上でまず1つ、「見通し」です。「発達障害の人にとって大切なことは、復習ではなく、予習」と言いましたね。心づもり、見通しが立っていることが大きな安心になります。

これに(スライド)は「感謝感激」と書いてあるんですけれど、今年の1月14日に、発達障害のある子のために、2回目の空港&搭乗体験ツアーを成田空港さんと全日空さんに開催していただきました。こんなふうに体験できるって、とても大事ですね。

それからピクトグラムです。実はピクトグラムは、視覚優位である発達障害の人たちにはとても有効なんです。ただ、さまざまなピクトグラムが混在しているために混乱してしまっている人もいます。例えば、ピクトグラムが示すものの位置とピクトグラムの位置が一致していないことで混乱しちゃったりする場合があるんです。

信じられないと思うかもしれないんですけれど、例えば、トイレのマークがありますよね。看板では左側に女性のトイレがあります。右側が男性のトイレです。でも、実際にトイレに行くと、女性トイレが右側にあって、左側に男性トイレがある。

でも、彼らにとっては、ピクトグラムはそこに行き着くための重要な手がかりなので、それに気がつかずに、男性が女性トイレに入っちゃうこともあるんです。中に入っている人から「ぎゃー!」と叫ばれたり、不審者と疑われてしまうこともあります。

だから、やっぱりきちんとしたかたちで提示していくことが大事なんでしょうね。

それから、バリージョシュアさんが先ほどおっしゃっていた、表示とバリアフリールートが課題です。大手町の地図のようなものは難しいですね。だから、もうちょっとわかりやすくしてもらっていいのかなと思っています。

それから、発達障害は情報処理障害でもあるので、情報提供というところでは、情報が入りすぎると困ってしまう。どこが重要でどこが必要なのか、情報の取捨選択ができない。例えば、先ほどの成田空港の搭乗体験というところで、空港と飛行機を一連の移動、動線と考えると、スムーズな搭乗には、共通・統一・連続した情報提供が必要だということです。

電車の乗り換えや慣れない空間が苦手

ハードの2つ目は、「スムーズな移動」です。それにはまず、「シームレスであること」がとても大切です。そこには、安心安全、そしてサービスが連続していることが大事なんです。

駅などでもよくあるんですけれども、改札の駅員さんはすごく親切でも、途中で迷ってしまってそこにいるスタッフさんに聞くとわからないと言われてしまう。人が変わってしまうと同じ情報や同じものが伝わらないところがあると思うんです。だから、先ほどの空港で言えば、空港の利用や飛行機の搭乗は非日常であることを前提とした上で、安心安全を見える化してあげることが大切なんです。

2つ目は「動線で混乱してしまう」ということです。点と点の支援は充実していても、それが線としてつながっていないために、動線の途中にある点と点の間で迷子になってしまったり、混乱してしまうわけです。だから、空港と飛行機では、空港の入口から機内までが動線のバリアフリーです。ここが見える化されていて、安心安全が伴っていることがとても大切だと思います。

それから「連携」です。「ある事業主さんは対応がしっかりしているけど、そこから先の事業主さんはぜんぜん対応してくれない」ということだと困っちゃうわけですよね。だから、空港で言うならば、空港や空港内のテナント、それから保安検査や税関など、他の事業所との連携が必要不可欠であるということです。

発達障害のある人たちの困りごとで多いのは、鉄道に例えるとJRと私鉄の切り替えです。切り替えで対応がぜんぜん変わってしまうので混乱してしまう人もいます。そういう意味では、移動の連続性の一部であるというところで、しっかりと連携していくことがとても大事だと思います。

3つ目の「安心できる交通」ということですが、慣れない空間が苦手で不安になってしまう人たちなんですね。初めてのことが苦手。初めての場所が怖くてたまらない人たちもいます。そこには「見えないプライベート空間の確保」も、とても必要です。

みなさんは、こんなことはないでしょうか? 映画などを観に行って、ここの肘掛けはどう考えても自分の肘掛けなのに、隣の人が使ってしまって、なんだかむしゃくしゃする。そういうことってありませんか?

それは、誰がどこを使用するのかを見える化してくれれば、一瞬にして解決できてしまうわけですよね。そういった見えないプライベート空間の確保にも配慮してもらうといいのかなと思っています。

いつもと違うトイレには不安で入れない

それから、トイレが課題となってしまって外出できない人たちがいます。どういうことかというと、レバーの位置がいつもと違うとわからなくて困っちゃう。どう使っていいかわからない。どういう配置になっているかが不安で、トイレに入ることすらできない子もいます。

お子さんの中には、もう小学生だけれども、外出するときは、トイレがネックとなってしまうのでオムツをして外出する子もいます。

ちなみにトイレに関しては、トイレのメーカーのTOTOさんが2月7日にホームページ上で、トイレの困りごとを知ってもらうための情報提供を行う予定です(現状掲載されている記事はこちら)。そこに私も出ているので、見ていただければなと思っています。

トイレに入るのに困っている人がいることを知ってもらうって、すごく大事ですよね。だから、私がすごくお願いしたいのは、先ほどバリージョシュアさんがおっしゃっていたように、公共トイレや宿泊先のトイレの写真がホームページ上に載っているだけで、ぜんぜん(安心感が)違ったりするわけですよね。

ここで1つの情報提供としては、搭乗体験をしていただいた全日空さんのホームページの中で「そらぱすビデオ」というものがあります。

飛行機の中のトイレの水を流す音って、怖いんですよね。ちょっとびっくりしますよね。「ジュボッ、ボ〜」という、なんだかすごい音ですよね。あれでもうびっくりしてしまう子もいるんです。先日の体験ツアーでも、やっぱりあの音が怖くて耳を塞いでしまう子もいました。

だから、「そらぱすビデオ」では、トイレの水を流す音が聞けるようになっていて、事前学習ができる仕組みになっています。そんなふうに、トイレの情報がホームページに載るといいのかなと思っています。

発達障害の人の特徴は高齢者と似ている

それから、カームダウン・クールダウンできる場所です。発達障害のある人たちの中には、初めての場所や慣れないところが不安でパニックになってしまう人たちもいます。パニックというのは、その人の安心安全が脅かされる状態なんですよね。

だから、鉄道やデパートなどのいろいろなところに、パーテーションなどを使ってカームダウン・クールダウンできる場所があったらいいなと思っています。「じゃあ飛行機の中は?」と言ったら、降りることができないので、他の乗客の方の理解も必要としながら、なにかそういうエリアを確保してもらえるといいのかなと思っています。

では、今までの「ハード」に対して、もう片方のタイヤである「ソフト」について説明をします。まず1つ目は、「気づく」ことがとても大切です。発達障害は最近知られるようになってきましたが、見た目ではわからないんですよね。

法律的なことで言うならば、発達障害者支援法が施行されたあと、例えば児童福祉法では、平成22年に発達障害というものが位置づけられました。

だから、今はニュースでもいろいろとお聞きになると思うんですけれども、平成22年の児童福祉法で発達障害が位置付けされるまでは、「放課後等デイサービス」などの福祉サービスを発達障害のある子たちは、受けられなかったんです。たった8年前なんですよね。だから、まだまだわかりづらい誤解や偏見もたくさんある障害だということです。

それから、発達障害のある人たちは、人口の約10パーセントいると言われています。最近の厚労省の研究結果では、発達障害が疑われる子どもについて、1年生から5年生までを連続して推移を測っていったところ、平均12パーセントという数値も出ています。私の感覚では、発達障害の人は15パーセントから20パーセントぐらいはいるんじゃないかと思っています。

先ほどバリージョシュアさんが、高齢者が2020年に29.1パーセントになるとおっしゃっていたんですけれど、実は発達障害の人の困りごとは、高齢者になるとわかるとも言われています。ついうっかりしてしまったり、声のボリューム調整だったり、高齢者と特徴が似ている部分もありますね。

発達障害の人にまず必要なことは環境調整

それから「困っている」ということです。先ほど申し上げましたが、「困る人は、実は困っている人である」という視点がとても大事です。困っていることを自分で伝えられない。自分のことをうまく伝えられない人たちであるということ。

先ほど上原さんというパラリンピックのアイスホッケーの方がおっしゃっていましたが、やっぱりもっともっと知っていただくことがとても大事なんだと思います。

そのためには「知る」ということが大事です。発達障害は多種多様です。言葉の遅れがある人もいれば、ない人もいる。感覚過敏な人もいれば、鈍麻の人もいる。発達障害はさまざまで、重なり合って、スペクトラムであって、多種多様であることを知ってほしいと思います。

(ソフトの)2つ目は「環境調整」です。発達障害のある人に一番必要なことは、医療ではなく、環境調整です。ここはもう一度繰り返します。発達障害のある人に一番に必要なことは、医療ではなく、環境調整です。

これは障害の社会モデル、環境因子が大きく作用するからです。「じゃあ環境調整ってどうするの?」と言ったら、ちょっとした工夫や配慮で解決することもいっぱいあるんですよね。

例えば、メーカーのキングジムさんが出している「デジタル耳栓」をつけると、人の声は聞こえるけど、雑音は一切消えるというものがあります。飛行機の中ではそういうものをうまく使ったりするといいと思います。そんなふうにものを使って、環境を調整してあげることもとても大事です。

それから、知ったことの理解を深めていってほしいと思います。社員の方・事業主の方々への理解促進はもちろんのこと、先ほどの空港や機内につなげて話すならば、周囲の乗客への理解促進も図ってほしいなと。

これ(スライド)はちょっと小さく書いてありますが、国交省さんが出している『発達障害、知的障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック』というものがあります。交通事業主向けに作ったハンドブックなんですが、実はさまざまなところで活用されています。とてもわかりやすいので、使ってみていただければなと思います。

「気づく・知る・見守り・声かけ」が重要

それから、ソフト面の3つ目で大切なことは「見守り」です。そのうちの1つが、「周囲の視線」です。実は、発達障害がある子やその親の外出を妨げている大きな要因は、周囲の冷たい視線だったりするんです。

重度の自閉症のお子さんの中には、困ってしまったり不安になると、めちゃくちゃ笑顔になる子もいます。笑顔になってスキップしてしまう子もいる。そうすると変な人みたいに見られちゃって、それでますますパニックになっちゃったりする。パニックになると、奇声をあげてしまったり挙動不審な動作をしてしまう場合もあるわけです。

私も何回か見たことがありますし、私も息子に対して「うるさい」「黙らせろ」と言われたこともありますが、そんな心ない言葉ではさらにパニックになってしまうこともあるわけですよね。だから、理解ある優しい視線での見守りが大切かなと思っています。

それから、推測してほしいと思っています。何で困っているのか、何で混乱しているのかを推測する。困っている状況をどうやったら解決できるのか。ここにいらっしゃるみなさんは、環境調整をしていただける貴重なキーパーソンの人たちです。だから、その人たちが困っている状況をどうやったら解決できるか、推測する。答えは必ずあなたの経験値の中にあります。

それから「温かな雰囲気」です。落ち着ける温かな雰囲気や、空間と心の居場所がとても大切な人たちです。

今までの気づく・知る・見守りというものに続いて、最後の4つ目が「声かけ」です。私は、勇気を出してぜひ声をかけてほしいと思っています。接し方の正解はわからなくてもいいから、声をかけてほしい。様子を見ながら、笑顔でゆっくり優しい口調で声をかけてほしいなと思っています。

私も当事者の親ですが、100パーセントの対応なんて求めていないんです。それよりも、自分がいる街で、日々の日常生活で必須のアクセシビリティ・ルートという中で、自分たちの味方になってくれる人たちがなによりの安心なんですよね。だから、やっぱり勇気を出して声をかけてほしいなと思っています。

声をかける時のポイント! 相手に恐怖心を与えない立ち位置は斜め

声をかけたり話を聞くときのポイントですが、怖さを感じさせないように斜めに立っていただくといいかなと思っています。私は産業カウンセラーなんですが、目線を合わせすぎないように、ハの字で斜めに立つことはけっこう大事なんですよね。返答に困っていたら、コミュニケーションボードなどを活用していただくといいでしょうね。

コミュニケーションボードの情報提供については、札幌のびっくりドンキーさんでは、一切発語しないでメニューを頼めます。どうなっているかというと、メニューが全部、絵のついたカードになっているんですね。カードを渡せば注文できる。だから、「発語しなくてもコミュニケーションが取れる手段」というものが、このアクセシブル・ツーリズムにあったらもっといいのかなと思っています。

それから、説明です。先ほどの基調講演の大手町のところで「右に行ってなんとかでなんとかで……」と言っていましたが、そういう冗長な説明だと発達障害の人たちにはわからないんですよね。だから、ゆっくり、はっきり、短く、具体的に伝えてあげる。視覚情報の地図を指差しながら、視覚と聴覚の両方で伝えてあげるとわかりやすいと思います。

例えば注意事項を説明するときは、「今から5つのことについて2分で説明をします」とかね。そんなふうに説明をしてあげると、すごく心づもりもできて、聞く体制がしっかりできますので、そんなふうにしていただくといいのかなと思っています。

では、「諦めが希望に変わるアクセシブルツーリズムの実現に向かって」について。(スライドを指して)これは、昨年の1月に実施した、全日空さんの体験ツアーから見えた課題を通して作られたものです。「そらぱすブック」は、昨年の体験ツアーを受けて、課題を盛り込んだかたちで改訂されています。

昨年の体験ツアーの中で、やはり「動画で見たい」という声があったことから、「そらぱす動画」は作成されました。こちらもぜひホームページで見ていただきたいと思います。

諦めを希望とビジネスチャンスに変えていく

(スライドを指して)これは、成田国際空港さんのカームダウン・クールダウンのエリアです。今、日本の公共交通事業主で初めて、こういうものを空港内に2ヶ所設置していただいています。

非日常的な慣れない場所ですごく不安になってしまって、気持ちが焦ってしまったり、パニックになりそうなとき、発達障害の人がこの部屋の中に入ると気持ちを落ちつかせることができます。

ただし、大切なのは「モノ」ではなくて「エリア」であることです。これは、椅子とパーテーションでも作れるんですね。私が鉄道などの公共交通事業主さんにお願いしたいのは、カームダウン・クールダウンというエリアが必要な人たちを知っていただいて、そういうエリアをもっともっと作っていただけるとすごくいいのかなと思っています。

最後に、みなさんにお願いしたいことがあります。事業主としてのみなさんの取り組みやサービス、もしくは個人としての行動や気遣いは、些細なことに思えるかもしれないんですね。

でも、今まで諦めることしかできなかった、私たちのような発達障害のある人やその家族にとって、そうした取り組みやサービスが大きな希望となって、その人の世界を広げるのだと、どうか気づいてほしいんです。

もしよかったら、ぜひご覧になっていただきたいんですが、「橋口 亜希子 個人事務所」で検索していただきますと、私のホームページに「こんな社会になったらいいな」というビジョンストーリーを物語として書いています。その旅行編を読んでいただくとおわかりになると思います。

みなさんにとってはたかが旅行かもしれない。行けて当然のものかもしれない。でも、旅行に行けない人たちがいるということをどうか知ってほしいんです。そもそも旅行に行くことを諦めている人たちも多くいることを知ってほしいんです。その諦めを希望に変えることを、みなさんに何かしていただけないかな、と思っています。

先ほどのパネルディスカッションでも言っていましたが、実は発達障害ってビジネスチャンスです。発達障害のある人たちの困りごとは、ビジネスチャンスの種です。だから、発達障害を手がかりとして、そのビジネスチャンスというものも一緒に考えていただければと思います。

みなさんの貴重な40分の時間を頂戴しましたこと、深く感謝申し上げます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)