“正解主義”脳を切り替えるワークショップ

藤原和博氏(以下、藤原):たぶん、今の亀山さんの話をメモして要約してわかったつもりになってる人は、まだ頭が正解主義です。情報処理力偏重で、情報処理脳でやってしまっている。それだと、たぶん自分のものにできないんですよ。

この正解主義頭から切り替えるためにはどうやるかを、今3分ぐらいでやってみせます。いいですか?

せっかくだから、ワークショップみたいな感じでやりましょう。3人から5人で組んでもらえますか? 3人から5人で、バッと組んでください。なにをやってもらうかというと、1分間で世の中にある、白が前例で、白が当たり前のものを20個挙げてください。

白が常識、白が前提、白が最初という商品ですよ。例えばホワイトボード・牛乳・マスクなど。今の3つも入れていいです。いいかな、いくよ! 一番後ろの方までやってくださいね。3、2、1、はいどうぞ!

(会場ワーク中)

はい、あと30秒!

(会場ワーク中)

白だよ白、白い商品だよ! 砂糖もあるし、塩もありますよね!

(3分経過)

はい、じゃあそこまでにしてください。勘のいい人はわかったと思うんだけれど、今みんなが発揮した脳が情報処理脳です。正解主義脳であり処理脳。パターン認識脳、あるいは常識前例モードですね。自分の知っていることだけを早く正確に出したと思うんですよ。知らないことは出さなかったと思うし、混じり合ってもいない。これが処理脳です。

つまり1+2=3とか、コロンブスがアメリカ大陸を発見したのは何年かを「いよー国が見えた」を覚えて、「1492」とすぐ答えられるというものです。学校では、この情報処理脳のほうを徹底的にやらされるわけですね。

「頭がいい」とは、回転が早くて思考が柔らかい人のこと

藤原:ところが、ビジネスになると、情報編集脳が必要になってきます。これはなにかというと、今“処理脳”が力を発揮したでしょう? これに掛け算が必要なんです。

なにかを掛けて、まったく違う付加価値を生み出す。常識前例を踏まえてそれを勉強しないといけないけれど、徹底的にそれを出していって、掛けるαをする。掛け算をして情報編集脳に切り替えていきます。今日はなにをやるかと言うと、黒を掛け算します。これは1分間です。

白が当たり前の商品に黒を掛けると、すごくかっこ良くなったり、高級感が出たり、自分だったら黒の方を買うということもあると思うんですよ。実は世の中にはそうやって成功した商品があるんだけれど、それを当てなさいという話ではないんです。かなりレベルの高い人たちがここに来ていると聞いているので、できれば今まで世の中になかった商品を考えてください。

白が常識なんだけれどそれを黒に変えて、「これはヒットするぜ!」というものを、ぜったいに他のチームが生み出さないようなものを生み出してほしいんです。では1つ、それで成功した商品を言います。綿棒です。綿棒を黒くしたら、「おお、見える!」みたいなね。何が見えるのかとなると、ちょっと気持ち悪いですけれど。

(会場笑)

ということで、綿棒は成功しました。そういうものは、実は10も20もあるんです。でも、それを当てるのではなく、君たちで新しい商品をクリエイトしてほしいんです。では、1分ですからね。激しく脳を繋げてやってみてください。いきましょう! 3、2、1、はい、どうぞ!

(会場ワーク中)

白い商品を黒くしてください! まったく違う価値を持たせましょう。今みんなが発揮しているものが情報編集力です。Imaginative Solutions Skill。その前にやっていた情報処理力、情報処理脳はTextbook Solutions Skillです。Textbook Solutions SkillからImaginative Solutions Skillへ脳がグッと動いていく。

(1分経過)

さあどうですか? はいじゃあそこまでにしましょう。もうわかりましたね。今、みんなはこっち側にいる。要するに頭の回転が早くて、頭が柔らかい側です。頭の回転が早くて頭が柔らかい子のことを「頭がいい子」と言うんです。

というわけで、これから情報編集力をみなさんが鍛えれば、ぜったい次の時代にも通用する人になるんじゃないかと思うんです。処理力は、どんな高度な仕事でもAIのbotがどんどん取っていってしまいます。

電車の中吊り広告を見て思い浮かべるイマジネーション

亀山敬司氏(以下、亀山):すげえ!

藤原:もしも今、本当にすごい案が浮かんだ人は、言わない方がいいですよ(笑)。

(会場笑)

今は言わないで、(商標)登録してから言いふらす。はい、どうぞ。

亀山:これいいじゃない。伊藤さんパクれば。「1分で話せ」じゃなくて「1分で編集」。

(会場笑)

伊藤羊一氏(以下、伊藤):1分で挙げて1分で編集。これ、すごいです。やばい。

藤原:あ、続編書く? どうぞ。

亀山:「ちょっとマージンちょうだい」と言われるよ(笑)。

伊藤:藤原メソッドですね。これはすごいです。やっぱり頭の働き方、違いました? いやぁ。すごい。

亀山:でも、経営者というのはそういうことばっかりやっているんだよ。コンビニでなにか商品を見たら、「これはどうやったら売れるのかな?」とか、「なんで、ドトールのコーヒーが減って、いつの間にやらセブンイレブンのコーヒーが増えているんだ?」とかを自然に考える。

それで、「あ、これはプライベートブランドで、うまいことやって、メーカーを外して利益率を上げて稼ごうと思っているんだな」とか。そんなふうに、一つひとつの出来事に対して「仕事的にどうなっているのかな?」と思考をする。周りにはいろんな情報があるからね。

藤原:電車の中で、ほとんどの人たちはおそらくスマホを眺めて、ゲームをやったりしているでしょう? 電車の中はもっと頭を空白にして、中吊り広告を見て、「あ、こういう商品が出たら、次はこういうのが出るのかな」とか、そういうImaginativeな動きをもっとしたほうがいいと思いますね。

スマホの手が止まった時にこそ思考が働く

亀山:スマホを見る行為は、ずっと情報を処理している。情報を見ている間は、思考が働かないわけ。つまり、スマホをスクロールして手が止まった時にこそ思考が働く。読みっぱなしだと情報が入ってきても、編集力がつかないというのはあるよね。

藤原:処理力をいくらつけても、編集力に変わることはないんです。

亀山:俺にとってはDMMのゲームをやってくれた方が儲かるんだけどね。

(会場笑)

藤原:そりゃそうだわ!(笑)。

亀山:でも、俺はやらないね。そこはやっぱり、ゲーム会社の罠にはまらないように考えないと(笑)。

伊藤:ちゃんと、習慣としてそれを考えることをやらないとダメなんでしょうね。その瞬間だけ「あ、いいね」と思って、今日帰る時は考えてみても、明日になったら忘れているかもしれない。明日も明後日も、この中吊りを見ながら「これから何が言えるだろう」と考える習慣は、どうやったらつくでしょうか?

藤原:機会はたくさんあります。水1つ取っても、「これまで世の中になかった水」という一人ブレストもありなわけだし、それこそエレベーターのすれ違いざまでもトイレ、連れションの時でも、そういうアイデアが交錯するような感じを持つことです。リクルートはそういう会社ですよ。

亀山:せめてトイレに入った時はスマホは出さない。たぶん、座ってスマホを開けちゃうクセがある人は、何人もいるんじゃないかな。その時だけはスマホを見ないで、とにかくボーっと便座を眺めるんだよ。そこに悟りの境地がある。

(会場笑)

藤原:水は本当におもしろいと思います。実は20年、30年ぐらい前まで、僕らの世代にとって、「水」といったら水道水だったんですよ。ペットボトルに入れて売るなんて考えられなかったし、エビアンが最初に水の販売に入ってきた時に、ほとんどの評論家が「絶対売れない」と言ったわけですからね。

メモをとる=情報処理モード

藤原:だから「安全と水は、東京はタダです」という感じだったんです。ところが今はどうですか? 5種類、10種類と出てきて「どれを選びますか?」になっていますよね。そういう世界に僕らは住んでいるんです。水でさえもブレストの対象になるし、コップだってそうです。ほら、(伊藤さんの)得意のシャーペン、文具ならもっとそうですよね。

伊藤:そうですね。例えば亀山さんは、イマジネーションというか、日々どんなことを考えていますか?

亀山:イマジネーション。何も見ない。空を見ながらボケーっとして、思考がどんどん脱線していくね。

伊藤:脱線していくんですね。

亀山:仕事のことを考えていたら、しりとりみたいに、「そういえばプレゼンで女子が良いこと言ってたな」、「でもあの子、可愛かったよな」と、どんどん……。

(会場笑)

伊藤:もう脱線していますね(笑)。  

亀山:違うところに行っちゃうんだけど。

藤原:それはすごく大事です。今、この瞬間でもうすでに情報処理モードに戻っている人がほとんどなんです。なぜなら、人の話を聞こうとした時にメモることは、それを整理するということだから。

伊藤:なるほど。

脳を「常識前例モード」から切り離すワークショップ

藤原:例えば、もう1回やってみせるけれど、こういうことをやるともっと情報編集脳が出てきます。ルンバとかのお掃除ロボットがありますよね。これを自分の家で使っている人はどれぐらいいますか?

(会場挙手)

藤原:けっこう多いですね。どういうものかわかりますよね? 最近は拭くのと同時にやるのも出ていますが、あれが5年後にどこまでになるか。コストと技術を無視して、どこまでになってほしいかを、さっきのチームでブレストしてください。

「自分だったらここまで」とか「自分が開発者だったらここまでやってやる」とか、「こういうのが出たら自分だったら買う」というみたいな感じで、夢みたいなことでいいんです。

この時に、さっきは言いませんでしたが、頭を情報編集モードにガッと移すためには、常識前例を疑わなきゃダメなので、わざと2周ぐらいバカなことだけを言ってみてください。ぜったいに起こりそうもないことです。

例えば空を飛ぶでもいいし、壁を這っていって天井まで掃除してくれるんじゃないか、みたいなものでもいいです。天井を掃除してどんなメリットあるのかはわかりませんけれども。

(会場笑)

とにかく2周、バカなことをわざと言ってください。途中で正解のような意見、まともな意見を言う人がいたらサドンデスです。それで終わり。

(会場笑)

いいですか? 2周バカなことをやっていってください。1分でいきましょう。3、2、1、はいどうぞ!

(ワークショップ中)

バカなことだけですよ! 常識前例モードは、離す必要があるんです。だから、亀山さんが空を見ながらバカなことを考えて脱線していくと言ったのは、情報編集モードに移るということなんです。

仕事は本来、楽しんでやること

伊藤:さっきよりテンションが高いですね。

藤原:会場のみんなの表情がいいです。表情が格段に良くなりました。そのアイデアはぜったい、いいアイデアです。

(1分経過)

はい、じゃあそこまでにしましょう。たぶん、君たちは今の方がやりやすかったと思うし、脳が繋がりやすかったと思うんですよ。

伊藤:みんなの表情がぜんぜん違います。

亀山:いい顔してるね。

藤原:このほうが、ぜったい後半に良いアイデアが出るんです。

亀山:みんな生き生きして、楽しそうに喋っていたけれど、実は仕事はそういうものなんだよ。本当は仕事というのは楽しむものなんだよ。想像的に物事を作って、「こういうことできたらどうだろう?」「できたらいいな」と言いながら、「実際に作ってみよう」と始めるわけです。

作ったものが売れたらそれでお金がもらえるし、「いいね」「ほしいね」なんて言われるんです。自分がやったことが社会のためになったり、自分のにも返ってきたり、自分の評価にもなったりするのはうれしいですよね。

今こうして考えて、みんなでワイワイやっていたら、ただの空想のそういう話をしているだけでもけっこう楽しそうだよね。だから、仕事自体は時間がどうとか、労基的に何時間以内じゃないとダメだかとか以上に、今みたいに楽しめるかどうかが大切。

「拘束されている」「搾取されている」「時間を取られてる」というよりも、自分がどう楽しめるかがけっこう大事なのかなと思いうね。

伊藤:職場があんな感じでワッサワッサしていたら、ものすごく楽しいですよね。

AIに取って代わられる能力を、10年かけて教育している

亀山:最近みんなもフリースタイルで、こういう場所でワイワイやることもあるよね。ヤフーにもそういう場所としてのロッジがあるよね。

伊藤:亀山さんに酷評されましたが(笑)。

亀山:え? 言った?(笑)

伊藤:「ここではイノベーティブなものはなにも生まれそうにない」と(笑)。

(会場笑)

藤原:そこまで言われたの!? そこまで!?

亀山:川邊さんに怒られそうだからやめて(笑)。

前田恵一氏(以下、前田):お話をうかがって、みなさんの表情を見て感じたことは、小学生の子たちはもともとそれが上手ですよね。

伊藤:確かに。

藤原:小学校の低学年ね。

前田:だけどいつしか、10歳から20歳になるまでに完璧に、情報処理脳みたいなものが育ってしまいますよね。

藤原:正解主義で徹底的に教育されますからね。処理脳偏重に持っていかれてしまうわけです。

前田:はい。実はそれは、AIが取って代わるところなんだよ、みたいなお話ですよね。ということは、今から取って代わられる能力を、10年間かけて我々はがんばって身につけてきたという理解でいいのでしょうか。

亀山:それで言うと、例えば今から小学生には戻れないよね。むしろ、脳がそっち(処理脳偏重に)なっているから、失われた20年みたいな感じかな(笑)。でも今更戻れないので、ここからどこまで軌道修正していかなければいけないのか、という話だよね。

ただ、ここにいるの(会場のみなさん)は、みんな同じ世代なんです。同じ世代が同じような教育を受けているから、同じ条件。その中でいかに小学生の頃に返って、あの生き生きさを取り戻して、自分たちが脳のかたちを変えていくか。これは、今から取り戻せるなら少しでもやっておいたほうが得。

基礎学力を7割に落としてでも、情報編集力を鍛えるべき

藤原:そうですね。それと、「早くちゃんといい子に」という正解主義、これは日本の風土としてはすごくいい面もあるんです。(日本人は)ほとんどの人がそういう教育を受けているから、ちゃんとしているんですよ。早くできるし、ちゃんとしていて、いい子なんです。

だから新幹線が300キロも出しながら、ほとんど秒単位で管理されていて遅れないとか、同時同卓の原則というのですが、レストランに行って、6人がぜんぜん違うものを頼んでも、ほとんど同じタイミングで出てくるのは日本だけだと思うんです。日本の、早くちゃんとしたいい子の風土というものは、僕は維持すべきだと思うんですよ。

つまり日本のおもてなし心というのは、フランス人やスペイン人のようなラテン系の演出のような、本当のクリエイティブではないですよね。それとは違うけれど、どこに行っても(注文したものが)早く出るし、正確だし、ちゃんと対応してくれる。そしていい子が多い。

でも、今までは97パーセントがこっち(情報処理脳)で、3パーセントくらいしかクリエイティブじゃなかったけれど、それを7割ぐらいに落としてもいいと思うんです。つまり、基礎学力を7割ぐらいに落としてもいいから、こちら側のimaginativeな、情報編集力の方を鍛えるべきだと思っているんです。

すずかん(鈴木寛氏)は今日来られなかったけれど、アクティブラーニングと言われるもの、主体的で協働的な学びは、先ほどみなさんがやったやつです。それがもっと学校の中に入ればいいと思うし、僕は学校だけじゃなくて、塾にも期待しているんです。

これからは入試が変わるから、大学入試が先ほどのようなことを要求してくるようになります。塾もそれに対応していくので、もしかしたら学校よりは、塾の方がシフトチェンジが早いかもしれませんね。

伊藤:そうですよね。