伊藤羊一 × 藤原和博 × 亀山敬司 による「新しい教育」論
前田恵一氏(以下、前田):それではパネラーの方々をご紹介差し上げたいと思います。まず、(伊藤氏は)ヤフーの企業内大学「ヤフーアカデミア」の学長をされていらっしゃいます。これまでグロービス やその他の場所で、3,000人規模のリーダーシップ開発を行っていらっしゃって、現在は、ヤフーアカデミアの責任者をされています。
もともと興銀で金融支援などをやっていた方なのですが、そこからプラスに転職し、物流系・流通系に入ったご経験をお持ちです。そこから事業全般をされるようになったのが2012年の執行役員の時からで、2015年からヤフーに転職され、ヤフーアカデミアの学長を務められていらっしゃいます。
続きまして、藤原和博さんですね。メディアにもけっこう出ていらっしゃる方なので、ご存知の方も多いかと思います。東大経済学部を出られて、リクルートに入社されております。
有名なのは和田中学校の校長先生をやっていらっしゃったことですね。教育に関するかなりのご知見をお持ちで、「よのなか科」を作ったり、義務教育の改革自体を率先してやったりされていましたので、今回「新しい教育」の中にご招待いたしました。
最後に、亀山会長です。みなさんはまだ、お顔を見られたことがない方もいらっしゃるかもしれませんね。私も先日まではお顔がわからず、「亀山さん、こんな感じの方なんだな」という印象を持たせていただいています。
最近では、非常に教育に関して力を入れていらっしゃっていて、直近でいうとハッシャダイという、いわゆる新卒、第0新卒という会社を推薦している会社さんのご支援もされています。
ということで、今回はこのお三方をさっそくお迎えしまして、今後どういう教育が必要になってくるのかをテーマに、僭越ながらモデレートさせていただきたいと思っております。それでは拍手でお迎えください。
(会場拍手)
これからの時代に求められる教育のかたち
前田:今回お話をさせていただきたいと思っていることは、そもそもまず世の中がどういう教育を必要としているのか。どんな社会になっているのかというところですね。
社会がどういうかたちになっていて、まず必要な素養は何なのか。そこを最初にお話ししていきたいと思っております。
そのあとに、どういう教育が求められるかという話と、お三方は教育に関して実践をされていらっしゃる方々なので、ズバリご自身でどのような教育を今後広げていこうとしていらっしゃるのか、それに関してご示唆いただければなと思っております。今日はよろしくお願いします。
登壇者一同:よろしくお願いします。
前田:早速ですが、どういう教育・教養が求められているかに関して、よろしければまず伊藤さんからお伝えいただけませんか。
伊藤羊一氏(以下、伊藤):はい、どうも。伊藤でございます。ふだん僕は若い人たちと出ることが多いんですよ。今回はベテランのお二人と出るので、1ヶ月前ぐらいからちょっと憂鬱でした。
(会場笑)
ほんとですよ。大先輩で、よく存じ上げているんですけれど、今は頭の中が真っ白なんです。なので、なんでしたっけ!?(笑)。
(会場笑)
あの、真っ白になりますよね!?
亀山敬司氏(以下、亀山):さっき「出した本が20万部いった」とか言って嬉しそうに自慢してたじゃん。
(会場笑)
伊藤:いやいや、雑談するならいいんですよ。このね、(ここに座ると緊張するため)みんな座ってごらんなさいよ! 本当に!
(会場笑)
そういう状況です。(話す内容は)要するに世の中がどうなってくかという感じです。
2010年〜2020年の間に、流通するデータ量は40倍になる
前田:素養については、どういうふうに考えていらっしゃいますか?
伊藤:それはもう、本当に当たり前の話なんですけれど、これからIoTで、世の中のことが全部繋がってきます。そしてデータが溜まってきます。2010年から2020年まで、世の中に流通するデータ量は40倍になると言われているんですよ。
まあそれはそうですよね。今までスクリーンの中だけにあったものが、スクリーンの外に出てくるようになるわけです。例えばこの照明と空調と、僕のこの感覚とマイク、これらが全部インターネットに繋がるということなので、データは増えていきます。
(データが溜まるので)AIが賢くなっていくんですね。AIは(正式には)知能ではないんですけれど、データが溜まっていくと賢くなっていきます。そうするとAIが得意な仕事は、世の中で言われているとおり無くなっていくし、不得意なものは、やっぱり人間がやることになります。それは3つあると思っていて、1つ目は……、今緊張して汗ダラダラです(笑)。
(会場笑)
まともなことを言おうと思ってやっているんですけれど、腹の中で(藤原氏、亀山氏に)笑われながら話をしていると思うと……。
藤原和博氏(以下、藤原):笑ってない。大丈夫。
亀山:俺は笑ってる。
伊藤:まじっすか。
亀山:「なに言ってんの」みたいに(笑)。
(会場笑)
伊藤:そうですよね。要するにAIが賢いことはみなさんも承知だと思います。
人間の強みは、抽象的なこと・曖昧なこと・数式で表せないこと
伊藤:(今日の登壇者の中では)下っ端として改めて申し上げると、ルールが決まっている世界ではAIが強いです。同質なデータがたくさん溜まっていく世界でもAIが強いんです。
それから数式で表せることもAIが強いですよね。それができないところでは人間が強い。つまり、ルールが決まっていない世界では、人間のほうが強いんです。今よく言われていますけれど、「意思を自分で立てられるか」がすごく大事なんです。これが1点目です。
2点目は、ちゃんと正確なデータが溜まっていくということが賢いわけです。AIはこれから賢くなって、相手にわかるような明朗な日本語でのコミュニケーションができるようになっていくわけですが、僕ら(人間ができるのは)明朗なコミュニケーションだけではないんです。
例えば、すれ違いざまに挨拶をしますよね。その時に、「ちーっす」と言う。「ちーっす」だったらまだちゃんとした挨拶なんです。けれどでも、人によっては、僕がそうなんですけれど、会社の人とすれ違いざまにする挨拶が、「スーーー」で終わるんですよ。
(会場笑)
わかります? 「ちーっす」も言わなくて「スーーー」。お互いに「スーーー」。たぶん、AIはこれを挨拶だと認識しないと思います。でも、「スーーー」と言うことによって、「私はあなたを認識していますよ」みたいなことを人間はやっているわけです。そういう曖昧なコミュニケーションでは、やっぱり人間が強いんです。
3点目は数式で表せないことです。当たり前なんですけれど、AIは今この瞬間の僕の心境みたいなものを数式で表せないんですよ。こんな中(大先輩に見られながら)、「チッ」とか「ケケッ」とか思われながら、みなさんの方だけを見つめて(話している)。まだお2二人が話をしていないから、僕が輝けるのは今この瞬間だけなんですよ。
(会場笑)
「この瞬間だけちゃんとしたことを言おう」とか、こういう部分は人間にしかできないことなんです。要は、抽象的なこと・曖昧なこと・数式で表せないことです。
だから、意思を自分で立てること、曖昧なコミュニケーション、そしてアートの世界や抽象化するなどのところは、やっぱり人間にしかできないんです。
でもこれは、よくよく考えてみたら、わりと前々から言われている話なんです。そうすると、やっぱり僕らが考える「人間しかできないよね」「人間が強いよね」というところを鍛えていけばいい。当たり前すぎますが、「人間ならでは」のところを鍛えてくことが重要かなと思います。
曖昧さに効く職種は、経営者とキャバ嬢?
亀山:最後に「1分で話せ」と突っ込まなくていいの?
藤原:けっこう長かったよねえ?
(会場笑)
亀山:1分で話してないよ。今5分だったよね?
伊藤:もう本当にすみません。
(会場笑)
前田:ありがとうございます。データが溜まって、ルール化できるものは基本的にAIに取り替わっていく、という文脈のお話だったと思います。とくに、具体的にどういう職種が曖昧さが非常に効きやすいものなのか、というところが気になります。
一旦、そのあたりの話も含めながら、ご知見があればお話を進めていきたいと思います。あまり堅苦しい感じの場にしたいとは思っていませんので(そういうトーンでお願いします)。