2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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塚田有那氏(以下、塚田):あともうひとかた、次の方、お願いします。
質問者3:興味深い話をありがとうございました。新聞社でデジタル分野の専門業務をしております。並行して、大学院で女性の悩みをテーマに勉強しております。今日はそういうところでも関心があったテーマなんですけど、非常に良いお話をうかがえたかと思います。ありがとうございました。
少し遅れて来てしまったんですが、教育の意義や情報環世界のお話など、非常に興味深かったです。そのお話にもありましたように、また今、お二人の質問にもありましたように、生活者が抱えている不安や、家族などの一番近しい関係も不安定になっていて、社会に確かなものがない状態の中で、みなさんも揺れ動いているのかな、というところにすごく関心があります。
チェン先生だったと思うんですけど、先ほどの「社会に求められる力が変わってきている」という一言に非常に惹かれました。社会に求められる力が変わってきているのであれば、今どのような力が求められるのでしょうか?
ごく簡単な一言やフレーズのようなかたちでけっこうですので、簡単な言葉で表していただけるとすごく嬉しいなあと思ったんですけれど、みなさんお一人ずつにお願いできますでしょうか。よろしくお願いいたします。
ドミニク・チェン氏(以下、チェン):実は、そういうスライドを用意してございます(笑)。
(会場笑)
「体験ってなんだろう?」と自分でも英語で勉強し直しています。僕は、小中高とフランスで教育を受けた者なので、すぐラテン語源を調べる癖があるんです。
それで「エクスペリエンス(experience)」と、「エクスペリメント(experiment)」って、「体験」「実験」と訳されますけれども、これをラテン語で解体すると、「エクス(ex)」は、「脱する」「脱却する」「外に向かう」という意味で、「ペリエンス(perience)」は「危機」「リスク」、もしくは「何かに習熟する」という意味なんですね。
これを現代の日本語に訳すと、「不確実さを通り抜けていく」ことだと思うんですね。体験とは何か。例えばウィキペディアで調べて年号がわかるということは、3秒で終わってしまうので、それは全然「エクスペリトゥス(experitus)」じゃないんですね。不確実さを通り抜けたものが蓄積されていくことがまさに、それこそ、内野さんのやられている「身体知」としか言いようのない世界の知識だと思います。
当然、全部をそれでまかなえというのは不可能な感じだと思います。これも一種のバランスが大事だという話になると思うんですけど、とにかく「確実さを増やそう」「リスクを減らそう」と。特に企業であったり、最近では大学ですら、そういうことになってきています。東京医科大で女性の点数を減らすというような、最悪なことをやっているわけですけども。
あれも社会の中、医者の世界の中で、離職されたら困るというオーダーがあって、意識的か無意識的かわからないですけれども、大学が(そうしたオーダーに)勝手に答えてしまっている。リスクを減らそうとしている。
それで、そういう本末転倒なことが起こっている。個人もそうですし、組織・企業・大学・社会全体が「不確実さというものを一緒に通り抜けていこう」というメンタリティを構造化して制度化してやっていくことが、今の日本には特に重要なんじゃないかなと思います。
塚田: 締めのような感じになってしまいましたけど(笑)、お一人ずつお願いします。
上木原孝伸氏(以下、上木原):私もちょうど昨日、教員と話していました。文科省の指導要領で、「生きる力」ということがすごく言われています。「生きる力」って、平成10年……20年前に言われ始めていて。今回、平成30年の学習指導要領が変わるんですが、ずっと「生きる力」と言ってるんですね。
私は20年前に教員採用試験を受けて落ちた人間なので、恨みのようなこともあるんですけど(笑)。「なんなんだ、生きる力」って。定義としては、「知=確かな学力が必要です」「徳=豊かな心が必要です」「体=健やかな体が必要です」ということが一応、定義になっているんですね。私はこれが納得いかなくて。
ちょうど先日、教員免許更新講習というものがあったんですよ。その更新講習で英訳された指導要領を見せてもらう機会があって、生きる力がどう訳されているかというと、「ゼストフォーリビング(Zest for linving)」と訳されているんですね。
それで、英英辞典でゼストを調べてみると、いわゆる「エキサイティング(exciting)」とか「インタレスティング(interesting)」とか「エンジョイブル(Enjoyable)」の質を求める、と書いてありました。それでようやく、私は「生きる力」が腑に落ちたんです。
日本語でボヤっと「生きる力って何なんだ」と思っていたんですけれども、「もっと興奮できて、もっと興味をもって、もっと楽しめる」。これからの社会では(興味や好奇心を)ずっと持ち続ける力が重要ですよ、ということを発信していたと思うと、これが、いわゆる「これからの社会で生きる力なんだな」と納得したと。一言でいうと、「ワクワクすることはすごく大事かな」と思っていて、N高生にも、そういうワクワクすることは大事だよ、という話はしています。
内野加奈子氏(以下、内野):今いただいた質問で、先ほどからいろいろお話ししていたことも踏まえて感じたことがあります。不確実性ということでいうと、例えば、カヌーで海に行っているときは、状況として環境として何一つとして確実に約束されているものはないんです。ただ、自分たちが乗っているカヌーは一つの頼れるものではあるんですけれど、そういう(不確実な)世界。
私は日常の中に戻ってきたときに、シンボリックに(その時の体験が)自分に教えてくれていることが一つあるんです。例えば、カヌーに乗っていたときにどうしてもコントロールできないものがあるんです。風や波、雨や天候など。何をどうがんばっても、変えたいと思っても、どうしても変えられないものがあるんです。
でも、そうかといって、私たちは漂流しているわけではなくて、「その風をどう使って、この帆の向きを、どう変えればいいか?」とか、「このカヌーの船体をどっちに向ければ、波の力を逆にエネルギーに変えられるか?」ということを常に考えないと、ただ漂流して風にあおられて、どこか思っても見ないところに行くだけになってしまうんです。
その「どうしてもコントロールできないもの」と、自分の腕の中に「コントロールできるものがある」という、その2つが同時にあります。それの境界線というか、どこまでが自分にできることで、後は任せるしかないというところ、その「コントロールできること」と「できないこと」を見分けていく力というのは、私はすごく大事なんじゃないかなと思ってます。
知恵を育むことが、私(にとって)は、「海で航海する」ことがすごく大事です。例えば、舵が折れたり、帆が破れたりするんですよ。そうするともう進んでいくことができない。自然というのはもう本当に、自分たちの想像をはるかに上回るぐらい、すごく大きな力を持っていて、そこと「戦おう」「変えてやろう」という意識で挑むと、必ず何かうまくいかない。
「どこまでは大丈夫」「どこまでは合っている」「どこまでは自分たちの力で関われることなのか」ということ(を判断するの)はすごく難しくて。でも、経験を積んでいくと、その知恵がどんどん付いていくんです。街に帰ってくるとその境界線が見えにくいんですけれども、海だとわかりやすい。こんな風のときにこんなふうに帆を変えたらすぐ破れる。
(自然の中では)すぐわかるんだけれども、この複雑な社会の中で「ここまでやったら自分がダメになる」とか「ここまでやったらそれが起こる」という、コントロールできることとできないことの境界線がすごくわかりにくくなっていると思います。
内野:でも、やっぱり私たちは日々生きていく中で、そういう知恵を作っていく。「すべてを自分の力でコントロールしようとする」「変えようとする」のではなくて、その境界線、そこの違いを(意識する)。「社会はこうだから」と言って、流されてただ生きていくのではなくて、一人ひとりが「自分の腑に落ちるものを身に付けていく」というか。
もしくは「そういう場を見つけていく」でもいいと思うんですけど。そうした知恵を育んでいく力は、もしかしたら、不確実なのは確かというか、不確実なものは不確実なので、その中で生きていくときに、全部を変えなくてもいいという部分、「自分が変えられるものと変えられないものを見分ける力を持っていく」ということが大事かな、と思います。
塚田:すごく良い締めをいただいたような気がするので、本当にその通りだなと思います。たぶんその境界線は常に変わっていくんですよね。(コントロールできるかどうかも)「自分にとってなのか」「集団になったらできるのか」とか、いろいろな条件によって変わっていくのかな、と。まだまだ話し足りないところでもあるんですけど、実は時間になってしまいました。
手を挙げていただいたのに、私が見逃してるという方はいらっしゃらないですかね。最後に一言ずつ、今日の感想だったり、今後の告知、みなさんに伝えたいことなどあれば、お聞きできればなと思います。今度は内野さんから。
内野:そうですね。今回、「体験とは?」というテーマで、どんな話ができるのか、すごく楽しみでした。今日出たいろいろなテーマは、一つひとつが講義になりそうな(内容でした)。もうちょっとその話を深めて聞きたいとか、深めて話したい、ということがたくさんありました。私はハワイに長く住んでいて、日本に帰ってきたときに「みんながあまり体を使ってないな」と感じることがすごくありました。
そういう身体性を日々の中に取り戻していくようなところは、すごく興味があります。あと、ドミニクさんがおっしゃっていた、共の感覚というか、どこをもってみんな共感したり、「共」というものを持っていくのか、みたいなところは、これからすごく興味があるところだなと思いました。
あと、自分自身にとって、宣伝じゃないですけど、このサンゴの本を紹介させていただいたんですけど。第2弾のこの『サンゴの海のひみつ』という、絵本を出しています。これはさっきお話にも出てきたように、サンゴってすごくおもしろい生態です。
サンゴって動物で、クラゲとかイソギンチャクとかの仲間ですけども、その硬い骨格を持つということになるので、(クラゲやイソギンチャクとは違う)進化してきた動物で、共生のいろいろな藻が中に住んでたりというのも(おもしろい生態です)。これも、日本財団のみなさんの協力を仰ぎながら作りました。
塚田:すごくすてきな絵ですよね。
内野:ありがとうございます。(絵を見せながら)こんな感じで、ひとつのメタファーじゃないけど、メッセージとして、サンゴ自体のおもしろさを伝えたいということももちろんありました。
内野:ですけれど、世界の全体を見て、いま私は何ができるんだと思って、子どもたちがそういう海の話をすると、「じゃあ僕に何ができますか!?」という感じで行き詰まっちゃう。考えすぎて行き詰まっちゃう人たちから、そういう質問を受けることがよくあったので。
その一つ(の答えとして)として、「サンゴはただサンゴであるだけ」なんですよ。サンゴは自分の生命を維持するために、いろいろなシステムを取り入れて、さっきドミニクさんが説明してくださったように、一つのすごく大きなシステムを構築しています。
ただ、サンゴは「他の人のために」「何かのために」やろうとしているというよりは、「自分が自分である」ことを、ただひたすら着々と何万年もかけてやってきた結果、サンゴがあることで海が豊かになるという(ことを)実現している存在だなと思っています。
それを人間に置き換えるのは、ちょっと短絡的ではあるんですけど、「私は何もできない」と考えすぎて動けなくなるぐらいだったら、「自分が自分の周りの世界をどうやって豊かにできるか?」。このサンゴの在り方から、私たちも何かちょっと学ぶことがあるのかなあ、というメッセージも込めつつ作りました。よかったら見ていってください。
塚田:ありがとうございます。じゃあ、内野さんに拍手を。
(会場拍手)
塚田:はい、続いて。
上木原:本日はありがとうございました。この会に出る前に、私も、『「体験」って必要ですか?』というイベントに出ることが、けっこうプレッシャーでした。先日、生徒に「こういうイベントに出るんだけど、リアルとネットってどう違うのかな?」というようなことを生徒に聞いたんですよ。
そうしたら、すごく見下すように、「なぜ大人って、そんなにネット、リアルと言いたがるんですか?」と。「私たちにとってはネットもリアルなんですけど」と、あっさり言われてしまいました。まあその通りなんだろうなと思っています。
じゃあ、このネットの世界とリアルが融合していったときに、子どもたちにとって本当に必要なものは何なのかということは、永遠のテーマなのかなあと思っています。
今日はいろいろな示唆をいただいて、N高がやれることは、まだまだたくさんあるなと感じました。また高校を作っていくことに活かしていきたいなと思います。まだまだできたばかりの学校ですので、N高に対する忌憚ないご意見などありましたら、メッセンジャーでも全然かまいませんので、直接お寄せいただけたら、どんどん新しく作っていきたいと思っております。本日はありがとうございました。
塚田:ありがとうございます。
(会場拍手)
チェン:(上木原氏の顔を覗き込みながら)ネットも充分体験だと思います(笑)。ネットがなかったら、僕は今、こういう仕事ができていなかったと思うし、ネットがあるおかげで世界中に、自分が到達できなかったようなところに連れて行ってもらったということがあります。今日はネットを批判するようなことを多めに言いましたけれども、そこは中立的に「可能性」と「危険性」をちゃんと見極めて、より良いものとしてデザインしていくことを今後もやっていきたいなと思っています。
その上で今日、内野さんと上木原さんのお二人の取り組みから、非常に学ばせていただけたなと思っています。とくにN高さんのさまざまなプログラムは、うちの大学でも真似ようと思っても真似できるものではないと思います。
あと最後に告知をしたいんですけれども。最後に「不確実さを通り抜けろ」とカッコいいことを言ったんですけれども、教員としても、一人の人間としても、近々非常に不確実なことをやらなければいけないという告知です。ナシーム・スレイマンプールさんというイラン人の方で、イラン政府にずっと発禁を受けていた劇作家さんがいます。彼自身の名前を冠した劇が、(2018年)11月にあります。
これは実は、彼自身が出演するんですが、当日まで出演者に台本を一切見せられない、というものに、私が出演することになりました(笑)。
(会場笑)
これほど不確実なことがあるかという(笑)。共演者が非常に豪華でして、私も大好きなナイツさん、あと劇団鹿殺しさん。そして私がいて、最後に森山未來さん。意味のわからない「不確実さ」しかない(笑)。これを生き抜いて、またどこかでご報告できればな、と思っています。もしご興味のある方がいらっしゃいましたら、「不確実な実験」にお付き合いいただければと思います。今日はどうもありがとうございました。
(会場拍手)
塚田:便乗して私も1冊、宣伝してもいいですか? ちなみにドミニクさんから、最近出した本を紹介していただけると、ありがたいな、と。今日、私はベラベラしゃべっているだけで、「何者だおまえは?」という感じもあるかと思うんですけれども、最近1冊本を出しました。アートとサイエンスという、両者異なるものがつながっていくのは、どういうことか。
またはアートサイエンスと呼ばれるような個々のメディアアートだったり、そういったものを紹介しつつ、「不確実さをどう生き抜くか」という話の中でも、1つの領域や業界など、今日のお話でもあった専門職にとらわれずに行き来する。その思考を見つけられないか。またはそれをすでに実践してる方々に、いろいろなコメントをいただいた本です。実はドミニクさんにもご寄稿いただいています。
つい10日前くらいに出まして、もし興味がある方はお手に取っていただければなあと思います。最後に宣伝させていただきました。ありがとうございます。こんな話になるとは当初から全く予想してなかったんですが、すごくおもしろかったです。そしてお付き合いただいたみなさま、すごく良い質問もいただいて、良い会だったんじゃないかと思います。
この場を設けていただいた、日本財団のみなさまもありがとうございます。ではみなさんも、このあとも、不確実なこの都市の中をくぐり抜けながら、楽しく生きていけたらいいなと思います。またどこかでお付き合いできましたら幸いです。みなさま、どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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