アジャイルとウォータフォール兼備の会社は強い

梅澤高明氏(以下、梅澤):ちょっとトピックを変えたいんですが、テクノロジーとデザインの協業の仕方というか、バランスのとり方というか。さっき小泉さんがマイクロサービスに移行するチャレンジの話もちょっとされていたんですけど、そのへんもうちょっと突っ込んでお話をいただけますか?

小泉文明氏(以下、小泉):先ほどのアジャイルとウォータフォールの話でいうと、どっちもできる会社が強いんじゃないかなってやっぱり思っていまして。要は、ここがペインで重いんだったら、そこは徹底的にもうウォーターフォールでいこうよと。ただ、日々の改善はアジャイルのほうがやっぱり早いのでという。

その両方をバランスできる会社を作りたいなというところで、今、アジャイルのほうを少しマイクロサービス化してもっと分けていくという感じにやっていこうかなと思っているんですけれども、たぶんコアな機能はかなりウォーターフォールで作る部分も当然あるだろうなという、けっこうフェーズの議論かなと思ってはいますね。

梅澤:その全体構造の最適化を図るのは、もうまさに経営チームの仕事?

小泉:そうですね。そうだと思っていますね。なので、けっこうCXOとかデザインのトップを採ろうとすると、「じゃあデザイナーの人を採ればいいんですか?」みたいな議論になるんですけど、そうじゃないなと思っていまして。

初期においては、やはりエクスペリエンスでいうとかなり幅広いので、ここはやっぱり経営チームがやらざるをえないと思うんですよね。なので、メルカリもずっと僕だったりとか山田(進太郎)だったりがやってきて。

その次のフェーズとして、1個に統一するCXOを採ろうと思っているんですけれども。ただ、経営に非常に近いところにいると思うので、この提言にあるように、そこを経営チームに入れましょうというのはこれまさしくだと思っていますし。

あとは、中国も意外にこの考え方があります。平安(ピンアン)の話をこの前聞いてですね。平安という保険会社なんですけれども、中国でとんでもなく伸びているんですよ。平安はもともと古い保険会社なんですけれども、彼らが成功するきっかけは、考え方をカスタマージャーニーベースに変えたんですよ。金融機関ってそういう考え方絶対しないじゃないですか。

梅澤:なるほど。珍しいですね。

小泉:珍しいですよね。それやったら一気にお客様の体験が変わっていって、提供する商品であるとか、あとはセールスマンの行動が変わっていってという、そこには確かにエクスペリエンスのトップを採用したはずなんですけれども、組織がガラッと変わったんですね。

やはりそれは、「カスタマージャーニー」というものを作っている会社が意外にまだ少ないなと思っていますし、そのピンポイントに対して明確に答えを持っていながらできていない人たちも多いと思うので、これからの起業にとってはここが非常に大事じゃないかなと思っていますね。

「カスタマージャーニー」とは?

梅澤:カスタマージャーニーってわかります? ちょっと田川さん、解説お願いします。

(一同笑)

田川欣哉氏(以下、田川):カスタマージャーニーは、例えば、自社が提供しているサービスが顧客に届くときに、ややもすると、そこで例えばサービスが提供されて、それに対して対価が払われるという、そのいわゆるピンポイントの部分の最適化だけすればいいとなりがちなんですが、それを使っているユーザーはそういう目線では自分自身を見てなくて。

みなさんもそうだと思うけど、例えば、みなさんも朝起きて、歯を磨いて、トイレ行って、ごはん食べて、なんかタクシー乗ったりして、前の(GLOBISの)セッションを聞いて、ここにいらっしゃるわけじゃないですか。これが終わると、このあとまた別のセッションを聞いて。

この流れの中で、今この部分がどう機能しているのかというのを、自社が手がけているサービスの時間レンジよりも広げたところで理解をするというのがカスタマージャーニーの考え方ですね。

もともと空港とかの公共スペースの最適化で導入された考え方なんですけど、最近はIT系のスタートアップでもジャーニーとか。ペルソナという話はよく昔からあったんですけど、それを時間軸方向の拡張したやつが、だいたいジャーニーと言われているやつですね。

梅澤:それをさっきの話に戻して言うと、だから、そこにリアル空間のさまざまな思いどおりに100パーセントのコントロールできないものが組み合わさってくるので、なおさらジャーニーがある意味でやっかいになり、それをより高い精度でマネージできる会社がやっぱりカスタマーエクスペリエンスとして質が上がるよねと。だから、そこまでやりにいきましょうというのが小泉さんの冒頭の話ですよね。

田川:そうですね、うん。

新しいテクノロジーが勢力図を大きく変える

梅澤:テクノロジーとデザイン、この連携あるいは組み合わせというと、アイスタイルはどんな感じですか?

吉松徹郎氏(以下、吉松):今のジャーニーの説明を聞いてて「そうだよな」と思いつつ、これ、たぶん新しいテクノロジーが1個入った瞬間にジャーニーがガラッと変わるんですよね。たぶん検索じゃなくて、ソーシャルが変わるんですよね。昔からやってるからそうなっちゃうんですけど(笑)。例えば、これから動画があって、VRがあって。

そうすると、ジャーニーが複雑になっていくところに対して、よく今まで、単純にキャッチアップして、それに対して新しいプロダクトを提案していくベンチャーはたくさんあったんですけど、逆にそういうベンチャーが出てくる前提に、「@cosmeどうなんだっけ?」という、全体設計を組み直すことを実はものすごく細かくやっています。

梅澤:例えば、すごく簡単にスマホ決済できるようになりましたと。そのタイミングのときに@cosmeはそれにどういう考え方で対応するんだと。そんな話ですよね?

吉松:そういうことです。ペイメントのところがいろんな課題があってまだやっていないですけど……。

例えば簡単に言えば、インスタとかああいうのが出てきたときに必ず言われるのが、「インスタ流行りで@cosme終わったよね」と、みんなに言われるわけですよ(笑)。「いまさらテキストコミュニケーションもクソもなにもないし」みたいな。

でも、やっぱり僕たちは「インスタが増えたことで、@cosmeがいかに増えるか?」というかたちでサイトの設計をもう1回し直すわけですよね。

だからペイメントも同じだと思います。ネットだけじゃなくて店頭でのペイメントが変わったときに、その体験をたぶん一番早く実現できるプレイヤーは、ほかの街のドラッグストアさんより早いだろうという思いがあるので、そこでの研究やトライはけっこうしています。

会社外のスタッフを使う意味

梅澤:ちなみにアイスタイルの場合は、デザインチームというのはあるんですか?

吉松:あります。

梅澤:デザインチームの役割は?

吉松:ただ、どちらかというとクリエイティブチームに近いと思うんですよね。Webのクリエイティブだったり、さっき言った日々のアジャイルで細かく改修をする。

要は改善をしていくチームとしてのクリエイティブというか、デザインチームはいるんですけど、このゴーイングの今のラインじゃない外れたところでデザインを設計するのは、中のメンバーを使うと中のルールだとか定義に引っ張られるので、外(のスタッフ)をわざと使うときがあります。

梅澤:それは、全体最適、顧客視点で非連続な発想を求めているが、中の人だと連続的になってしまう。そういうことですか?

吉松:なっちゃう。例えば「@cosmeってこうだよね」というのが、日々の改善のときには必要なんですよ。「中立が大事だ」とか「こういう表現をしちゃ@cosme……」。その改善があるからある意味任せられるんですよね。要は踏み外さないでいてくれるから。そのメンバーで非連続な議論にしようとすると、新しい人を入れても、その人たちがやっぱり実績があるので、新しい人たちがつぶれちゃうんですよ。

なので、いつも僕は外のメンバーを連れてきて、ある程度完成度が高まるまでは中のデザイナーとかクリエイターには話さないで、「また吉松、勝手にやってるね」と言われながら、ある程度かたちを作ってから、そこからよーいドンで議論させるようにします。

梅澤:じゃあ要は、ぶっとぶプロジェクト担当は全部、吉松さんなんだ?

吉松:僕もやります。僕じゃないのもやっていますけど、既存のメンバーにどうしてもよくありがちなのが、中のメンバーが「もう新しいことやりたいよね」とか、この人たちの成長をベースに考えさせる機会を与えてあげようというベースで新しいことを考えようとすると、けっこうこの20年間やってきたなかでいうと、非連続的なものって生まれにくいなと思うので、それはなるべく1回ぶった切ってからやるようにしています。

メルカリの「R4D」の役割

小泉:僕が最初のR4Dでやろうとしたのはそこに近いですね。既存の延長線上に置かないのをわざと置こうかなと思っていまして。それは技術ベースで社会がどう変わるのかというので1回考えてみようと。メルカリの延長線上じゃないところというのがR4Dがやろうとしてるところです。

しかもこのR4Dは今6個ぐらいの大学の研究室と共同研究しているのかな。例えば、わかりやすい例でいうと、落合(陽一)君とかがやっているんですけれども。なので、外部の力も使ってちょっと先の未来を自分たちから1回学習していくというか、どうチャンスがあるのかを、中のメルカリとまったく違う時間軸で見ようとしています。

でも、むしろ評価のときちょっと迷うんですけどね。「3ヶ月の評価とか、俺、どうしたらいいんだろう?」とかちょっと思いながらも、ただ、長いところも自分たちでやっていこうと。

梅澤:それは時間軸、何年ぐらい先という置き方なんですか?

小泉:なんとなくイメージ2〜3年みたいな感じではあるんですけれども、社会に馴染むのはもっと先かもしれないなと。

もうちょっと先に馴染むもので大きいもの、例えばペイメントはもうメルペイでやっちゃおうみたいな、こういうのは比較的すぐにやっちゃっていいんじゃないかなと思っていますし、そこはもう別会社で、またメルカリとは違う評価というか軸でちゃんと会社を運営していこうみたいな。けっこうそんな多面的に考えている感じですかね。

梅澤:R4Dをどういうチームにしているかももうちょっとご説明いただいたほうが。たぶんご存じじゃない方もいらっしゃると思うので。

小泉:先ほどの技術の4つの領域ですね、IoTとかAIとか4つの領域ですね。ブロックチェーンとか。まず僕らとして、それを決めたという感じです。それを決めた上で、それに合ったハイアリングと、先ほどの大学などのパートナーの選別みたいなことを同時にやり始めています。。

なので、また別のセッションで小笠原さんが話してますけど、小笠原さんは一応うちのR4Dのパートナーになってまして。こういうかたちで、テーマを決めると「IoTならじゃあ小笠原さんいいね」とか言えるので、テーマを決めた上で、自分たちでじゃあIoTを使って、例えば「鍵がスマートロックになったら、それってこういうことできるんじゃないか?」とか、そういうことを自分たちで未来をなんとなく想像してやっているという感じですけどね。

梅澤:だからけっこう重要な研究開発テーマを実は外部の一線級人材にかなり任せて、それをメルカリの経営チームとしてはどうガバナンスをとっているんですか?

小泉:一応、CPOというプロダクトのヘッドはいるんですね。Chief Product Officerがいるので、彼の下にそのチームを置いています。なのでメルカリとちょっと別の時間軸で課題を与えているといった感じです。

R4Dのメンバーは10名以上いて、元メーカーの研究開発とか大学院の研究者とか、そういうメンバーが来ているという感じですね。

なので、かなりゴリゴリの研究開発機関ではあるのですが、その4Dに入れたDeploymentであるとかDevelopmentみたいな、「つくるということはしっかりやろうよ」みたいな、「研究開発だけやったらいいよね」というのはやめようというのはけっこう最初に決めて、「ものづくりのところで社会に実装するところまで一応責任は取ろうよ」といったかたちでやってはいます。

梅澤:ちなみに、そのR4Dの中にもデザインの機能はあるんですか?

小泉:今のところはないですけれども、もう少しかたちになっていったら、たぶんそういう概念が必要になってくるんじゃないかと思っています。

梅澤:あるいは、横串でデザイン的視点を掛け合わせるかみたいな話ですか?

小泉:そうですね。エクスペリエンスという意味のデザインは考えてはいるんですけれども。

梅澤:なるほど。田川さんもなんか絡んでいらっしゃると?

デザインチームを整備する重要性

小泉:あっ、そうそう。田川さんにちょっと絡んでもらっているんですよ。

田川:3週間前からメルカリさんのお手伝いをするようになって(笑)。今、小泉さんがおっしゃってたCXO準備室で、山田君と、CPOの濱田(優貴)さんという人いるんですけど、2人で飯食ってた時に、「ここからメルカリ、組織がすごい増えます」と。5倍とか10倍ぐらいになっていくときに、エンジニアも10倍ぐらいになるんだけど、たぶんデザイナーも10倍ぐらいになるでしょうと。

今、メルカリのデザインチームって20人ぐらいなんですよ。たぶん今ってPMの下にプロダクトのラインがあって、そこにハイアリングされて、けっこう個別になっているんですね。

だから、これってたぶん100人とか超えたときに、目の前の問題として、メルペイとメルカリを、ブランドとかサービス、そのエクスペリエンスとどう合わせるのかという議論が現場ではすごい課題になっているんですよね。それだけだといいけど、たぶんサービスがいっぱい出てくるし。

なので、CXOというものを経営の脇に置きながら、「デザインチームの底上げを1〜2年でやろうぜ」という話で組織されて。なので、メルカリの中にいる未来のCXO候補者を後見人として扱き上げて、2年ぐらいでそいつをCXOにするというのが僕の役目で、今やっています(笑)。

梅澤:そういう意味では、技術起点の中期の研究開発も、それからデザインの部隊づくりみたいなところも、両方実は外部人材に入ってもらってやっていると。そういう話ですね。

<続きは近日公開>