イノベーションにとって、なぜ「問い」が大事なのか?

安斎勇樹氏(以下、安斎):みなさんこんにちは。今回のトークセッション「問いから始まるイノベーション」のモデレーターを務めさせていただきます安斎と申します。お三方の自己紹介に入る前に、簡単にちょっとセッションの意図と、自己紹介をさせていただこうと思います。

私はふだん、東京大学情報学科でワークショップのデザインやファシリテーションに関して研究をしております。その傍らでミミクリデザインという会社を経営しておりまして、その中で日々、商品開発とか組織開発とか、そういったことに「問い」を重視しながら取り組んでおります。

先ほどご紹介のあったQWS(キューズ)、この施設については、計画段階から「問う」ことを重視した施設として、プログラム開発をずっとお手伝いさせていただいておりました。今日のトークセッションでは、日々実践の中で「問い」やイノベーションに関して重視しながら実践されているお三方にご登壇いただきます。

「問いからはじまるイノベーション」ということで、イノベーションにとってなぜ「問い」が大事なのか、いい「問い」とはなんなのか、「問い」というものとどう向き合って、イノベーションを作っていくことが望ましいのかについてディスカッションしていければと思っております。それでは改めてよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

ありがとうございます。まずはお一人ずつ自己紹介をいただきまして、ふだんどういうことをされているのかを簡単にご説明いただいて、ディスカッションしていければと思っております。ではまず、若林さんお願いします。

未来志向の雑誌を作っていても、未来のことなんてわからない

若林恵氏(以下、若林):こんにちは。僕は、イノベーションとは実はなんの関係もない人でございまして、もともと雑誌の編集者なんですよ。

『WIRED』というちょっと未来志向の(雑誌で)、「イノベーション」なんて(テーマを)扱っていたら……世の中迂闊な人が多くて、「未来をテーマにした雑誌をやっているんだから、未来わかるんだろう」と思う人がいるわけですよ。デベロッパーさんがすごく多いんです。いろんなところから「うちの業界の未来どうなりますか?」なんて(聞かれるわけです)ね。

「知らねーよ」と思うんですけれど、意外と「なんかお金くれようとしているぞ」とか思って、ああでもないこうでもないといろいろ言っていると、だんだん、「ああ、なるほど!」なんていう人がいっぱい出てくるんですよ。というような中で、一種の詐欺行為を何年かずっと続けてきたという。おもしろいんですよ。

とはいえ、僕は意外とまじめな性格なので、「そんなのクソだろう!」とか言います。そのどっかの業界がなくなっても別に僕、困らないですからね。サービスがなくなったら困るんですけれど、業界そのものがなくなっても困らないので、「そんなクソみたいなもの、やめちまえ、死んじまえ」とか言って、立川談志っぽいキャラでやらせていただいていたんですよ。そうすると、おもしろいんですよ。あのね、Mっ気の人が多いんですよ。世の中。いじめると……。

林千晶氏(以下、林):M(笑)。

若林:そう、M。いじめると「もっと言って!」みたいな感じになって、より来るという……。その詐欺が成立しているというような、暴走になっています。

今日もその一環として出ているということでございます。他のまじめな方がいらっしゃるので、私の話は完全に話半分以下で聞いていただいて、「なるほど、(登壇者の)みなさん、千晶ちゃんいいこというなぁ」みたいな感じで、今日はお帰りいただけたらと思っておりますのでよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

安斎:はい、ありがとうございます。続きまして、米良さん、よろしくお願いします。

インターネットの強みは個人のエンパワーメントにある

米良はるか氏(以下、米良):はい。こんにちは。READYFORというクラウドファンディングのサービスをやっている米良と申します。よろしくお願いします。若林さんの後はめっちゃ話しにくいです(笑)。

私たちは、2011年からクラウドファンディング(という)、ネットでいろいろなアイデアに対してお金を集める仕組みをやっています。始めたときは大学院の1年のときで、アメリカに留学してまして、もともとインターネットすごくおもしろいなと思っていたんですよ。

インターネットができることの1つに、個人のエンパワーメントというところがやはりあると思っています。今まではアイデアがあって、「おもしろいことやりたい!」と思っていてもなかなかできなかった。

それに対して、例えば知識とか人とかお金とか、そういったものを繋ぐことができたら、そういったいろんなやりたいことのある人たちが、どんどん挑戦できるんじゃないかなと思っていました。

その中で、いろんな人と会う中で「お金」というものが問題に上がることが多いなというふうに思ったんですね。アメリカに留学しているとき、ちょうどそういったアイデアに対してお金を繋げるものが、クラウドファンディングということでいろんなサービスが出てきているタイミングだったんです。日本にはそういった仕組みがなかったので、日本に戻ってきて作ったのが今のREADYFORというサービスです。

クラウドファンディングの次の役割

米良:今、7年くらい運営をしていて、だいたい1万件ぐらいのいろんな事業をやりたいと思う方々にお金を届けるということをやってきていて、支援者60万人くらいの方がお金を出してくださいました。

最初に始めた時は、クラウドファンディング自体、誰も聞いたことがないという状況だったんです。今、だいたいこういうところにいらっしゃる方は、ほぼクラウンドファンディングというキーワードを聞いたことがあるというふうになってきてると思いますし、そういう個人の小さい活動だけじゃなくて、企業さんとか自治体さんとかの新しい取り組みに繋がっているかなと思います。

そうこうしているうちに、「やっぱり資本主義ってちょっと行き過ぎているよね」とか、そういう議論なんかもどんどん出てきています。そういうものよりも、共感経済とかそういったところが新しい社会の仕組みになっていくんじゃないの? みたいなことと相まって、クラウドファンディングの次の役割がこれから出てくるのかなと感じです。

そういったところに挑戦していきたいなと思っています。よろしくお願いします。

(会場拍手)

安斎:はい。ありがとうございます。では続いて、林さんお願いします。

今ある環境や仕組みは、過去に誰かが作ってくれたもの

:ロフトワークの林といいます。

ロフトワークは、クリエイティブカンパニーということで、世の中で「もっと楽しい」「こうやったら便利だよね」ということを、自分たちでもやるし、企業の人たちともやるし、行政ともやります。でも、その視点はいつも「今の時代に何に向き合って、何を変えていくのかな」というのが原点になっていると思っています。

例えば、(私が今座っている)この椅子は女性にとってみると少し座りにくいですよね。つまり、本当は足が一番きれいに見える高さにあるべきじゃない(でしょうか)? なんか脚がブランブランするんですよ。

こういうのがクリエイティブカンパニー的には許せなくて、つい「美脚椅子があったほうがよくない?」とかそういう発想が出てきます。それはなにかというと、今、私たちが当たり前のように暮らしているものとか環境とか仕組みは、絶対に過去に誰かが作ってくれているんですよ。

私たちがクラウドファンディングで(美脚椅子を)作ったとしたら、もしかすると10年後、カンファレンスには美脚椅子しかないかもしれない。そんなふうに、誰かが今の私たちを支えてくれる仕組みを作っているんだとしたら、今の時代に変えなきゃいけない、あるいは、今の時代に作らなきゃいけないことはなにかな? ということにいつも向き合っています。

特に「問いから始まるイノベーション」というものにも繋がるんですけど、若林さんとも一緒に仕事をすることが多いのは、多くの人が、今ある状態の先、ちょっと進化したかたちでしか未来を描かない。でも現在世の中にあるものは、びっくりするようなことをやった人の結果でしかない気がしているからなんです。

私がすごく思うのは、直島なんかもそうだけど、産業のない不法ゴミ投棄の場所で、鉱山があって山肌も汚くていい景色でもない。でも、そこの景色を変えたいという1人の意思によって、世界中の人が日本で行きたいと思う場所のトップ10の中に必ず入るところになっていく。

計算して儲かりそうだからやった行為じゃなくて、これをやりたいという人の行為が今の状況を作っているんだとしたら、私はいつも「どれが儲かりますか?」じゃなくて、「何がやりたいんですか? それはなぜですか?」ということからしか社会を変えていくことは生まれないのかなと思っているんです。

そういうことをやっていて、今も渋谷の中でQWSの取り組みも安斎さんと一緒にやらせてもらっているという会社です。ありがとうございます。

(会場拍手)

その問いは「本当に解くべき問いなのか」を問う

安斎:はい。どうもありがとうございました。ここからテーマに接近していこうかなと思うんですけれど、実はさっき控え室でも大激論が交わされてですね。しかも、あんまり「問い」の話が出てこない(笑)。

そんなところもありつつ、改めてこの「問い」とイノベーションについて、考えていきたいなと思っています。

そもそも、このQWSという施設では「問い」を大事にしています。いろんなところで問題解決やエリア発想のメソッドがたくさん出てきたり、そういう施設がたくさんある中で、問題って本当に解くべきなんだったっけ、というところを問い直す時間や機会が非常に大切にされてきているんじゃないかなと思うところがあります。

「問い」というのはある種、問題や課題をどういうまなざしで、どういうスコープで捉えるのか、足し算みたいなものだと思うんですけれども、そんな中で、僕のプログラム作りでは、そこから考えるということを大切にしていく施設・プログラムがあったほうがいいんじゃないかということで、今準備しているところです。

改めて、ちょっとお三方にこの施設に対して、今日なにかフィードバックをいただけるといいなと思っています。みなさん自身がこの「問い」という言葉をどう捉えているのか、イノベーションをどう捉えているのか、この言葉の関係性をどう捉えているのか。

若林さんは「問い」の話をしなくてもいいんじゃないかとおっしゃっていましたけれども、改めてちょっとお考えを聞ければなと思います。いかがでしょうか。

結局のところ、日本人のほとんどは現状に満足している

若林:「問い」が生まれるみたいな話ですけど、「問い」って別に作ってもしょうがないわけですよ。「問いを考えましょう」で考えた「問い」って、だいたいろくでもないわけ。「課題解決しないとですよね」で思いつく課題って、どうでもいい課題じゃないですか。そいつ関係ないんだもん。つまり、言われなかったら考えないような課題って、本気になって取り組む気になんのかっていう気がするわけ。

ところが、さっき、それこそ千晶ちゃんが言ったみたいに、「この椅子クソじゃね?」というのをどれくらい強く思えるかというところが、けっこう重要で。今だったら「まあ、とりあえず、こういうふうに座ればなんとかなるか」みたいな感じでやり過ごせるから、そこまで腹立ててないと思うけど、物事によってはけっこう腹立つことってあるじゃない。

:あるある。

若林:だから、やはりそういうものが起点にならないといけない。そういうことで、なにかに怒っているやつって、端から見たらアホみたいなんですよ。すげぇとんちんかんなことで怒っている人っていうのも世の中にはたくさんいる。でも確かに、考慮に値するかもしれない怒りというのはあるはずなんですよ。そういうものって俺はけっこう大事かなと思っているわけ。

そうでない限り、例えば、米良さんが個人(パーソナル)としていいよねと思っているとき、そういうサービスを立ち上げて、それが持続するということは、個人がエンパワーされない世の中はイマイチだと思えているからだと思うわけね。

それがあるからこそ、「これって個人がエンパワーされてない状況じゃん」みたいなことを察知できるんだと思うわけ。やはり、そういう現状を更新していくとか、現状を革新してくためには本当になにが必要(なのか考えなきゃいけない)。ほとんどの人たちが現状にわりと満足しているんだよ。それは日本がそうなんだもん。

日常がストレスだらけだからこそ、イノベーションが起こりやすいアメリカ

:そうなの。だから、アメリカでベンチャーがどんどん生まれるのは、私はすごく理にかなっていると思ってる。なぜかというと、私はMITメディアラボでも働いていて、日本の企業の人が、よく知らずに来るんですよ。

あまりアメリカのリアリティーがなく日本に住んでいると、「アメリカってさぞかし進んでいて、Googleだ、Facebookだ、Uberだ、全部出てきててすごいところなんだろうな」と思ってる。そして現地に行くと、本当にタクシーの質はひどい、ホテルは汚いわりに高い、銀行に行って口座を作りに行こうとするとストレスの塊。要は(アメリカの)日々はストレスとの戦いなんですよ。

「こんなところから、なんであんな企業が生まれるの?」と思うけど、こんなにストレスがあるから「やってらんねー」ということでイノベーションが起こるんですね。日本は暮らしていても、「まぁ便利」「まぁ気持ちいい」があるから、「絶対にこれ変えなきゃいけないよね」というものがない。私、Uberがアメリカから生まれたのは、本当によくわかるの。乗るたびに「どっかに連れ去られちゃうんじゃないか、怖いわー」という気持ちでいたから。

そういうことも含めて、日本は気持ちいいから、不満というかたちでの「問い」も、「なんでこれこうなんだよ」「なんでここでこうやんなきゃならないんだよ!」というネガティブなところから始まるイノベーションは起こりづらい。

でも、それは悪いことかというと……。もし「この心地よい暮らしと引き換えにイノベーションを失っています」と「イノベーションは生むけど、日々の暮らしはすごく悪くなります」の、どっちがいいですか? と問いかけたら、国民は「いやいや、イノベーションはまあまあでいいんで、今のままでいいです」と言うかなって気もするんですよ。

それはお医者さんだってそう。女性起業家の石黒(不二代)さんと電話で話をしていたとき、息子さんが倒れたという話があって。そこで「息子がアメリカで倒れたんだけど、ときどき倒れる癖があって。そのたびに救急車を呼んだりレントゲン撮ったりすると、1回で120万円の請求が来ちゃうから、あれはやるな、これもやるなって指示を出さないと困るんだ」って言ってたんですよ。

「いつの時代の話なの?」と思うけど、いまだにアメリカはそういう世界を生きていて。そういう意味で、日本では「問い」は生まれづらいのかなという若さん(若林氏)の意見には同意ですね。

モバイル決済できる時代に、15時で閉まる銀行窓口の意味

若林:そう。例えば、海外でUberに乗っちゃうと、「これすっげぇ便利じゃん」みたいに思う。俺、日本のタクシーの質は死ぬほど落ちていると思うよ。ひどいから! あんまりなんだよ。俺、頭にきたらタクシーの運転手に「おまえさ」って言うんだけど、「おまえさ、おまえ1回でもこっち座ったことあんのかよ」って言ったら、「ないっすね」って。そういうことよ。

つまり、お客さま目線とかいくら言っても、自分が客になったことないから「おまえの急発進、マジ気持ち悪いんだよ」っていう話がわかんないわけ。それに「おまえ、また道間違えたな」みたいなこともしょっちゅうあるんだよ。俺、マジ頭にきて「1回降ろせ」って(言って)金たたきつけて「釣りなんかいらねーよ!」って(言いました)。江戸っ子なんですよ。嘘ですけど(笑)。

サービス、マジで落ちてるんですよ。本当に。「頼むから早くUberにしてくれ」みたいな気持ちになったりするので、実際にはそういうところから変わっていかなきゃならないフェーズにはきている気はする。今の状況だと、サービスが低下していっちゃうんだよ。本当に。

つまり、オルナタティブがないときはそれしかなかったからよかったんだけど、「モバイルで(決済)できるのに、なんで(金融機関の)窓口に9時から15時までの間に来いとか言うわけ?」みたいな話じゃん。でしょ? そういうのが明らかになってきたから、それを変えないとねというふうな話。

いきなり世界を変えようとしなくていい

米良:Readyforはけっこう社会問題みたいなものに取り組むプロジェクトがすごく多いんですけど、お金が集まりやすいプロジェクトって、テーマが崇高なものなわけじゃないんですよ。やっている人がどれくらいそれに対して熱量があるかみたいなものは、けっこうプロジェクトの中身を読んでいるだけで伝わるんですよね。

課題解決は、正直インパクトレベルだと小さいんだけれど、例えば、「10人の子供たちを」とかでも、その人がそれに対して強い熱量を持ってやっているものには、応援者がすごく集まるし、お金もすごく集まる。そのお金や応援を得て、その人はまた次のステージに行くんです。

その「問い」が、私もニュアンスがあまりフィットしないなと思っているんです。「社会問題は今どれくらいあって」みたいなもの(について)、それを「みんなで考えましょう」みたいに言われても、「そんな急に水の問題とか言われてもわかんないよなぁ」と思ってしまうんですよね。

若林さんがさっきおっしゃったように、本当に自分が「これを変えたいよね」とか、「この人のためにはこうしたいよね」とか、その強い気持ちからアクションが生まれていく。それは「世界を変えたい!」みたいに大きな話じゃなくてもいいと思うんです。

もっと小さいことから始まっても、応援してくれる人とかが見つかってきて、だんだん自分が「このためにだったら自分の人生を費やしてもおもしろいかもしれないな」と思っていく。

そうすると、「あ、そうか。社会の問題とこれは繋がっていたのか」というようなことがわかって、「じゃあ、この問題に対して自分は問題解決をしていこう」というような人の方が、なんかいいなぁというのがありますね。

ビル・ゲイツも個人としてエンパワーされた1人でしかない

若林:「社会問題解決します」みたいなものは、一番上のレイヤーでいくと、ビル&メリンダ・ゲイツファウンデーション(財団)とかがあるじゃない。それってしょうがないじゃない、ゲイツ、お金いっぱい持っちゃってるから。

それをどうにかしないと税金を持っていかれるし、もったいないから、ファウンデーションを作って、ちゃんと本当にグローバルなニーズの問題とか飢餓の問題とか(に向き合う)。それはそれだけの金とスケールとネットワークがあればできるよねっていう話。

重要なのは、そういうヤツがいっぱい増えることではなくて。個人がエンパワーされるというのは、「10人の子どもをなんとか救いたいんですよ。そのためには30万円が必要なんですよ」と言ってる人たちとゲイツは同じだよね、と考えられるような仕組みなわけじゃない? クラウドファンディングはそうですよね。

それを逆にいうと、ビル・ゲイツはそういうことによってエンパワーされている1人でしかないという考え方も成り立つわけで。そこの「いろいろいたっていいじゃん」ということに対して、どういうふうにいられるのかが大事かな、という気がするんだけどね。

:確かに。渋谷の1つの特徴で、性別だけじゃなくて、収入だったり、やっている仕事だったり、本当に違うバックグラウンドで違う価値観で生きている人がいる。この「問いからはじまるイノベーション」が、もちろんそういう社会の課題を変えることもあるかもしれない。

でも日本の多くの会社は、ミッションとして「家族は夫婦と子ども2人でいつまでも仲良くしていくのを支えます」みたいなかたちなんですね。

そのときの私的「問い」は、「子どもを産まないとダメなんですか?」というものなんです。つまり、その描いている未来がすでに自分とは距離があって、なんで子どもを産むことが前提になっているのかとか、なんで夫婦が100年時代になってもずっと変わらないことが前提になっているのかだったりするんです。

あなたの前提は、私の前提ではないんですけど?

:あるいは、「そんなにいつも笑ってなきゃいけないんだっけ?」とかですね。私的にはいっぱいクエスチョンがあるんだけど、いわゆる日本の企業の多くは、「夫婦と子どもが1人か2人で、いつまでも家族仲良く暮らしましたとさ」を前提としている。もちろん、それはそれで価値があるんだけど、そうじゃない生き方をしている人がすでにいっぱい世の中にいるわけです。

もういろんなことの仕組みが、現状をぜんぜん表していないから。渋谷はそういう意味で、すごくその多様性がある。そこに、女の人だったら当然のように「お子さんをいつ産むんですか」という「問い」の前に、「なんで産まなきゃいけないんですか?」ということや、「女同士がなぜ子どもを持っちゃいけないんですか?」という「問い」を本質的に通っていかないといけない。

そこを埋めていく行為自体も、違う人間だからこそ「あなたが前提としていることは、実はこっちの前提じゃないですけど」という質問から生まれてくるのかなという気がしているんだけど、安斎さん的にはどうですか?

安斎:みなさんの話を聞いて、最初の出発点としての「問い」や、今の前提の中で埋め込まれているところから、ちょっと外に出てなにかを問うというところ、それは他人事の社会問題とか課題とかじゃなくて、自分から立ち上がる違和感みたいなものが、やがて未来を見るスコープのようになっていく。そこが大事なのかなと思いました。

今日、お話を聞いていると、千晶さんは座った瞬間に椅子にある「問い」を立てたり、若林さんはタクシーでキレたり、そういうある種の「問い」の感性がありますよね。それはこの施設のキーワードになっていると思うんですけど、それが鈍くなっていってしまっているのが、1つの課題なのかなと思ったりもしました。

この施設もそうですし、今、イノベーションにおいてそういうタイプの「問い」が大事だとしたときに、そこが問えない。問える人が増えたほうがいいのか、増えた方がいいといったときに、どのようにして問いの感性みたいなものを活発にしていくのか。この気持ちいい日本の中でというところが課題なのか、課題じゃないのか。そのあたりについて、みなさんにご意見をうかがいたいなと思い始めました。

自由になりたくなくても、強制的に自由にさせられる世の中

若林:例えば、クラウドファンディングみたいな話は、現状において、立ち上がった頃から今もずっとそうかもしれないけれど、基本的にはやりたいことがあるというか、よくない言い方をすると、「ある種の意識高い人たちがそういうものを利用している」ということとして認識されている。

でも、これからインターネットやモバイルみたいなものは、より生活の中にどんどん入っていく。それによって起きてくることはどういうことかというと、「基本的に俺は自由になんかなりたくないんだけれど、自由にさせられちゃう」ってことが起きてくる世の中だと思ってるわけ。

働き方改革みたいな話も、基本的にあれは働き方改革じゃなくて、働かせ方改革だと思う。売上が伸びてなくて慢性的に人手が足りてないんだけど、会社で人をずっと抱えてることができないというわけだよね。日本の企業は、それまでは「家族丸ごと一生面倒みますよ」っていう構成の中でやってきたけど、ある時点から切り離し始めているわけじゃない。

働き手っていうのは僕らだよね。そういうかたちで、僕らは望もうと望むまいと自由にさせられていく。これまでは3つか4つのテレビチャンネルを見てりゃあよかったんだよ。みんなと話も合ったし、世の中に参加できている感じだったんだけど、今はもう無数のチャンネルの中から「どうぞ好きなものを見てください」って言われるわけ。

「それで、どうするんだっけ?」というような状況になる。それはあらゆる局面でそうなっていく。そのときに、いろいろ危険が待っているように思うわけですよ。

ある種のセーフティネットとして機能することに価値がある

若林:クラウドファンディングみたいなのは、今のところ「意識高い俺は、こういう社会問題を解決しないといけないと思っているんだけど」ってものだと思われてる。

だけど、突然クビになったりした人たちがこれからどうやって生きていくんだとなったときに、例えばUberみたいなプラットフォームはさ、とりあえず車を持ってりゃ仕事が始められる。そういうのが重要なわけ。

あるいは、「俺、こういうスキルあるんだけど」ってときに、オンラインで自分のスキルを買ってくれる人が見つかるみたいなこと。それも一種のセーフティネットなわけですよ。クラウドファンディングみたいなもので、「なんかわかんないけどさ、俺って意外と料理うまいから、弁当を作って1日50食くらい売れりゃあ、なんとかとりあえず日々暮らせるかも」みたいなできるようになった。

そこで「最初の資金が必要だ」「フードトラックを買うことが必要だ」みたいなことになったときに、そういったサービスは必要になってくるんだろうっていう気がしてる。

なんの話をしようと思ったんだっけ、俺。なんの話しようと思った? ちょっと引き取ってもらっていい?

(一同笑)