採用マーケットの過去と未来

増渕知行氏:みなさま、こんにちは。ご紹介いただきましたジャンプ株式会社の増渕と申します。本日は、とくに人事のみなさまは1年のなかでも忙しい時期だと思いますけれども、大変お忙しいなか、こちらのセミナーにお越しいただきまして、誠にありがとうございます。

これだけたくさんの方にお集まりいただけたということは、みなさまが採用というテーマや、マーケットの変化に、非常に興味・関心が高いということの証明だと思っております。

今日は、このあとにサイバーエージェントさんとニトリさんという、採用マーケットのなかでも非常に先進的な取り組みをされている2社さまのお話も聞けるということで、私も非常に楽しみにしております。

初めての方が多いと思いますけれども、私は、実は採用のマーケットに身を置いてから、早いもので25年近くになりました。そのなかでも、ここ数年の変化はかなり大きいと思っています。

まずはそのあたりからということで、「採用戦略の潮流」というテーマで、ここ数年の採用マーケットにどんな変化が起きているのか、これから先の採用マーケットは、どんな変化が予測されているのかというところのお話をさせていただきたいと思います。

私の持ち時間は15分ぐらいです。資料についてですが、かなり細かい字も多く、スライドだと見えにくいと思いますので、お手元の資料を見ながら話を聞いてください。

採用担当者を取り巻く、3つの環境の変化

まず最初に、「採用担当者を取り巻く環境の変化」ということで、(スライドを指して)こちらの3つのポイントを挙げさせていただきました。

1つは、出会う手段の多様化・複雑化です。みなさんもご存知のとおり、採用マーケットで新しいサービスがどんどん出ております。毎年のように新しいツールやサービスが出て、人事担当者・採用担当者がそれに振り回されやすくなっているのが、ここ数年の変化の1つですね。

それから2つ目は、口コミサイトの影響。求職者の情報源の拡大ということで、口コミサイトを見てから応募する学生や転職者が年々増えています。変な意味ではないですけれど、採用において「ごまかし」は以前より利きにくくなっています。また、これまでは社員しか知らない情報を、応募前に知ることができるというマーケットに変化しています。

3つ目が、採用アイドルタイムの消失ということです。以前であれば、採用活動や新卒採用を行い、振り返りをして、そこから戦略を立てるというPDCAサイクルを回しやすかったんですけれども、いまはややもすると、新卒の採用活動をしながら、次の世代向けのインターンシップを行い、さらにその年に入社した世代の配属と育成もという、3世代を同時に相手にするような人事もいるという状況です。

アイドルタイムがなくなることで、結果的に採用担当者が振り回されやすくなっている部分があると思います。

この先やってくるのは「新卒採用自由化」

時間軸を、もう一度、さっき申し上げた二十数年前まで戻させていただきます。細かい説明はのちほど見ていただければと思うんですが、私が知る限りでも、新卒採用のマーケットは、(スライドを指して)こんな変化を遂げてきました。

ネット就活の普及期から始まって、リクナビの全盛期、リクナビ・マイナビ対決期、それから脱ナビ厳選採用期があって、いまのマーケットは、インターンシップによる採用が主戦場というかたちになっています。

では、一連の流れを受けて、ここから先はどのようなステージが待っているのかというところで、今回のキーワードは「新卒採用自由化期」という名称にさせていただきました。

経団連の意向の変化を受けて、新卒採用がどうなるんだろうというのは、みなさんのテーマのなかにもあると思います。1つ、ほぼ間違いなくいえるのは、一世代を相手にする採用ではなく、学年不問で多世代を相手にした採用活動が、今後普及していくということです。

タレントプール採用の導入が進む理由

それに伴って、いくつか起こりうる変化がありますので、私の考えるマーケットの予測のポイントを6つほど挙げさせていただきます。

1つは、いま申し上げた学年不問採用でいうと、すでに存在しますが、とくに(大学)1、2年生をメインターゲットにした採用支援サービスが、今後ますます増えるだろうということ。

2つ目が、中退採用です。これはどういうことかというと、いままでだったら、卒業を待って入社してもらうという話になると思うんですけれども、「もういいじゃん、うちに入っちゃいなよ」と。卒業しなくてもいいというアプローチをする会社が、実はすでにあるんですけれども、それが一般化するまではいかなくとも、増えていくだろうなと思います。

さらに、卒業支援、奨学金支援をする会社も非常に増えていくだろうと思います。

それから、タレントプール採用の導入が進むということです。学年不問で多世代を相手にするということは、例えば2年生の時に初めて接触した学生を、4年生になった時に再アプローチして入社をうながすということも、どんどん普及していくわけです。

このように、よい人材をプールしながら、適切なタイミングで継続的なコミュニケーションをとってアプローチをしていくタレントプール採用に取り組んでいる企業が年々増えており、ますます普及が進むだろうと予測しています。

大学3年生の3つのシーズン

とはいえ、大多数の大学生は、大学に入学してすぐに企業探しや仕事選びをやるわけではありません。大多数は、いままで同様、3年生の時にいわゆる就職活動をやるわけです。

3年生の動きは、大きくいうと3つのシーズンに分けられると予想しております。学生が動きやすいのは、やはり学校が休みの時期で、1つは夏休みです。

いまだと、夏休みのサマーインターンに来た学生と、翌年の6月ぐらいまでコミュニケーションをとり続けて、やっと(内定)承諾といったかたちで、10ヶ月ぐらいコミュニケーションをとるケースがあると思います。これは、学生にとっても企業にとっても長いということで、夏のインターンに参加した学生が年内に決着するというところが、大きな「池」になるはずです。

2つ目の池が冬休みです。冬のインターンシップに参加した学生が、3月いっぱいで決着するというのが、シーズン2の池になるかなと思います。

3つ目は、そのあとの4月以降から、ゆっくりと就職活動をする学生に向けて、春先ぐらいまでに採用を決着する。この3つが、新卒採用シーズンとして定着していく可能性があると思います。

それから、現場社員の採用協力レベルがますます問われると(スライドに)書きました。学生を相手にする期間がかなり長くなりますので、いろんな社員と会わせることで引っ張り切れる会社と、なかなか現場社員を採用に投入できず、あの手この手で(学生を相手にするも)口説ききれない会社とで、採用力の差がより広がると思います。

業種的に、現場社員の採用協力をあおぎにくい会社もあると思うんですけれども、そういった会社さんは採用の難易度がより上がる可能性があると思います。

カオス化するマーケットには、明確な採用のビジョンを

最後は、育成・処遇体系の再構築が加速するということです。新卒・既卒や、卒業して入社する人と卒業する前に入社する人など、通年でいろんな世代の方が入社するため、そのなかでどんな処遇で入社を決定するのか、どうやって育成して戦力化するのかというところで、いままでは一括でやっていたものを、どんどん多様化する。これは、よくメディアでいわれていることでございます。

この採用マーケットがどうなるのか。これはあくまでも予測なんですけれども、混沌としたマーケットになるだろうということは、ほぼ間違いないと思います。

では、カオスになるマーケットのなかで、採用戦略というものをどのようにとらえていったらいいんだろうというところで、ここからは私が、ジャンプ株式会社の考えをお話しさせていただきます。

結論から先に申し上げると、まず重要なのは、採用のビジョンをちゃんと持ちましょうということです。そして、市場に対するマーケティングをきちんとやりましょうということです。マーケティングに基づいて採用戦略を企画をして、実行推進しましょうということで、事業戦略を考えて実行するのと同じようなレベルで採用戦略を考えて実行する必要性が、ますます高くなっていくと考えています。

市場がどんどん変化して、カオスになるからこそ、自社のぶれない軸をきちんと持って、中長期的に採用力を高めて、採用成果を出し続ける。そんな取り組みをできるかどうかが、大きな分岐点になるかなと思っています。

採用の目的と目標の共通認識化

ここからは、ビジョン、マーケティング、戦略企画、実行推進という4つに関して、簡単にですが、弊社の考えているフレームワークを説明させていただきます。

このフレームワークをもとに、このあとのサイバーエージェントさん、ニトリさんのお話を聞いていただくと、自社の採用にも活かしやすいと思います。

まず、ビジョンメイクのところです。採用のビジョンということで、弊社は採用のご支援や人事向けの研修事業をやっているんですが、採用のビジョンが自社内で明確に言語化されて共通認識になっていない会社が、実はかなり多いと感じています。

考え方としては、事業として、いまの事業と将来目指す事業のギャップはどんなもので、そのギャップを埋めるためにはどんな組織でなければいけないのか……そして(いまの)組織と理想の組織のギャップはどういったもので、そこを埋める手段の1つが採用だということでございます。

ギャップにはいくつか傾向があると思っています。ここに書いた6つ「能力、志向、属性、ニーズ、連携、風土」のどれか、もしくは複数を変革したり高めたりしたいというのが、採用の目的だと考えます。

ですので、あらためて自社の採用は何のために、何を目指してやるのかというビジョンをきちんと言語化して、共通認識にするというのが、重要なファーストステップでございます。

(スライドを指して)ここに書きました、「事業、組織、採用」の順でブレークダウンして、採用の目的と目標を共通認識化するのが重要だと考えております。

採用におけるマーケティング

次が、採用におけるマーケティングです。マーケティングにつきましては、弊社では、採用の世界でいわゆる3C分析を実行するのが重要です。

商業的なマーケティングの3Cで、(スライドの)左下のCは「Customer」のCなんですけれども、採用の3Cにおいては候補者ということで、「Candidate」としております。

いずれにしても、「自社の魅力は何なんだ」「候補者のニーズは何なんだ」と(いうところが重要です)。それから、採用には必ずライバルがいますので、競合は何を強みに、どんなアピールをして採用活動をしているのかをリサーチして、ターゲットとの共感接点や、ライバルとの差別化など、いわゆる「自社の勝ちどころ」はどこなのかを明確化する取り組みが必要になります。

勝ちどころとしては、(スライドの)真ん中に書きましたが、9つのカテゴリーがあると考えています。ターゲットにとってどこが価値なのか、競合との差別化(はどこか)というものを、きちんと考えて戦略に落とし込んでいくのが重要になるということです。

次が、戦略企画のフレームワークです。いま申し上げた、自社ならではの独自価値を発揮する採用戦略を立てましょうということで、自社に見合わない採用戦略は成果が出ませんし、続きません。

中期的にとらえた場合、採用においては、「出会う、つかむ、口説く」だけではなく、入社した社員の(会社への)愛着を高めること(が重要です)。冒頭にも申し上げましたが、口コミサイトの影響を考えると、その愛着が魅力的な認知として広がりやすいマーケットになっているわけです。ですので、採用ブランディングという意味では、社員の愛着を高めることも、実はブランディングになっているということでございます。

採用というものを、この5つの力のスパイラルでとらえて、独自価値を発揮する戦略を立てましょう。これが戦略企画において、外してはいけないポイントです。

人事・現場・経営による三位一体の採用戦略

実行・推進においては、もはや人事だけががんばる採用では、成果を出し続けることは難しいマーケットになっています。さっきも申し上げたように、現場社員の協力レベルが、ますます問われます。

人事だけではなく、現場が採用に協力して成果を出すには、当然ですけれども、経営の理解や応援が必要になります。人事と現場と経営が三位一体となった実行・推進が、採用の成果を出し続けるには大変重要になります。

このフレームワークですが、さっきも申し上げましたけれども、事例を聞いただけでは、なかなか自社に活かしにくいということがあると思います。ぜひこのあとの事例を聞く際にも、参考にしていただけると幸いでございます。

最後に、弊社と(接点を持つのは)初めての方も多いですので、簡単に宣伝といいますか、(弊社の)説明をさせていただいて、私のパートは終了したいと思います。

採用マーケティングという意味では、これまで戦略立案に使えるマーケティング(ツール)はとくになかったんですけれども、弊社が開発した「Only 1 Finder」という採用マーケティングツールを使って、3C分析をシミュレーションすることが可能になっております。

昨年から、採用戦略を企画する「Only 1 Camp」という塾を始め、非常に好評をいただいております。このあとセッションをさせていただくサイバーエージェントさんを含め、非常にすばらしい企業さまが、こちらの導入を進めてくださっています。弊社では、この「Only 1 Camp」を通じて、自社の事業を延ばす採用戦略を立てるご支援をさせていただいております。

その根幹のメソッドになっているのが、弊社のノウハウを活かした(会場で配布した)テキストブックやワークブックでございます。興味のある企業さまは、アンケートでも項目を用意させていただきましたので、ぜひご興味をお持ちの方はチェックを入れていただければと思います。

駆け足でしたが、私の時間は終了になります。このあとのサイバーエージェントさんとニトリさんのお話をご期待ください。ありがとうございました。

(会場拍手)