ラグビー日本代表、元主将のマネジメント論

金亨哲氏(以下、金):みなさんに1本簡単な動画をご覧にいれたいと思います。

(動画が流れる)

ラグビーワールドカップ2015で南アフリカに勝ったという話がどれだけすごいかご存知の方、どれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

やばい話ですよね。ジャイアントキリングです。そのとき監督をされていたエディー・ジョーンズさんが一番最初にキャプテンに指名して、常に「今までで1番のキャプテンだ」とおっしゃっているのが、今から紹介する廣瀬さんです。

廣瀬さんのお話の中ではキャプテンシーという話がすごく出てきます。この動画は南アフリカ戦の4日前で、この場面はそこでインタビューを受けながらお話しされている廣瀬さんです。けっこういい感じのかっこいい動画で、実はラグビー協会の公式のものです。ぜひお暇があるときにご覧ください。

(動画が終わる)

今年ワールドカップがあることをご存知の方はどのくらいいらっしゃいます?

(会場挙手)

ありがとうございます。毎回ちゃんと手を上げてくださって(笑)。

(会場笑)

あらためて今日のゲストをご紹介します。元ラグビー日本代表キャプテン、今はラグビートップリーグの東芝ブレイブブルーパスのバックスコーチで、一般社団法人キャプテン塾の代表理事、本年開かれるラグビーワールドカップ2019のアンバサダーも務めておられます。廣瀬さんです。よろしくお願いします。

(会場拍手)

では廣瀬さんから10分ほどプレゼンテーションをいただこうと思います。よろしくお願いします。

史上稀に見る大金星の裏側を振り返る

廣瀬俊朗氏(以下、廣瀬):ご紹介ありがとうございます。みなさんこんばんは。

参加者一同:こんばんは。

廣瀬:廣瀬俊朗と申します。今日は寒い中、お集まりいただきましてありがとうございます。カメラに残るということはしゃべられないなと思って。

(会場笑)

(しゃべる内容を)半分くらいにしようかなと思っているんですが……嘘です(笑)。

ワールドカップ2015年は勝利することができたんですが、事前の勝率はこんな感じだったんですね。日本のチームは24年間勝ったことがなくて、唯一の1勝は自分たちより弱いジンバブエという国でした。ワールドカップの中で南アフリカの成績は一番高かったんです。86.2パーセント。一番高い国と一番弱い国が戦って勝ったというのが、2015年のワールドカップです。

24年間勝ったことがなかったチームなので、正直チームが最初に集まった2012年は、みんな日本代表といっても誇りを持っていたわけでもないし、憧れの存在でもありませんでした。

この間(全国大学選手権で)明治大学が優勝しましたけど、あのとき明治のファンの人たちが大泣きしているんですよね。あの人たちが日本代表の試合に来るかと言ったら、あまり来ない。日本の中のラグビーの位置付けというのは、自分の大学が好きとか、自分の高校は好きだけど、日本代表のことはあまり興味ないみたいな、そんな環境でした。

本来、日本代表というのは、日本のラグビーファンの一番の憧れのチームであるはずなんですが、そうではない状況で、それは選手も感じていました。だからみんな日本代表に選ばれたと聞いても、「めっちゃうれしい!」という人もいましたが、「行くのどうしようかな……」と思うくらいの人もいる、実はそんなチームだったんです。

そんな状況の中でエディー・ジョーンズという方が監督になって、僕をキャプテンに選んでいただきました。僕自身チームを作るにあたって何を大事にしているかというと、まさに心理的安全性に近いところかなと思います。

チームのことをみんなが好きになること。そこから始めないと「僕が何を言ったとしても聞いてくれないな」と思ったので、最初は「家族みたいな軍団」という雰囲気をすごく意識して作りました。その4年間の積み重ねが、(スライドを指して)この写真に集約されるのかなと思います。4年間かけてこんなに仲良い家族みたいなチームができたんです。

ニックネームで呼ぶ効果

廣瀬:一番最初に何をやったかと言いますと、まずはニックネームで呼ぶこと。みなさん人それぞれの名前がありますが、苗字で呼ばれるより下の名前で呼ばれるほうが好きなのかなと思います。下の名前は自分の両親が思いを持ってつけてくれている名前なので。

朝会ったときに、「おはよう」だと無視もできますね。(考えられる挨拶として)例えば、何も言わない、「おはよう」だけ。「おはよう、広瀬」「おはよう、トシ」「おはよう、トシ。何してたん?」。5つ選べると思うんですけど、なるべく一番下の「おはよう、トシ。何してたん?」と言うようにしたんです。

そうすることで、向こうも名前を呼ばれるのがうれしいし、ちょっとしたことをお互い言ったり聞いたりすることによって、心理的安全性とは違うんですけど、信頼感みたいなものがどんどん培われていったかなと思います。これが個人的にやってきたことの1つです。そんな感じで仲良くなっていきました。

3つやってきたんですけど、2つ目はいろいろな場を作っていったんです。それはどんな場でもいいんですけど。この場面は国歌斉唱の練習をしています。ラグビー日本代表というのは、まさに今の日本の状況に似てるのかなと思いますけど、多国籍の集まりなんです。

彼らからしたら、「俺ラグビーは好きだけど、アジアの国を背負うって、どうなるんだろう」と不安になっている中で、僕らが一歩寄り添って「日本の国歌を一緒に練習しよう」「みんなが大事にしていることは何?」みたいなことを聞く場を作っていくことで、相手も「認めてもらえるんだな」と思って、「このチームのために力を発揮しよう」と思ってくれるんじゃないかなと思って。

こういう国歌の練習をしたり、チームソングを作ったり。それも別に僕がやれと言ったわけじゃなくて、ある人が考えてくれて。あとはロッカールームを掃除するとか、ボーリング大会するとか。そういう場を作って、チームのロイヤリティを高めるようなことをやってきました。

3つ目にやってきたことは権限移譲で、例えば、2012年からチームがスタートしたんですが、2011年に東日本大震災があったので、その被災者の子どもたちを招待したいなと思って。そのプロジェクトを作ろうとなったときに、誰かに全部お任せしたら、その人が喜んでやってくれて。

それで子どもたちを招待して試合をやったら、その人はめっちゃうれしく思って、またこのチームのために何かやりたいなと思ってくれるんです。居場所を作ると言ってるんですけど、そういうことをやっていって、だんだんチームに対する愛情が深まってきたかなと思います。

チームの「夢」「WHY」を全員で掲げる

廣瀬:もう一方で(この3つとは別に)すごく大事にしてきたことが、「なんのために勝つのか」ということです。仲良い集団になっていって「俺らええチームやん!」となったら、「じゃあ、俺らで何かしたいな」となってくるんですよね。そのときに掲げたのが、「なんのために勝とうか」です。

僕らは24年間勝ったことがなくて、2019年に日本にラグビーのワールドカップを持っていきたいなと思っているのに、その段階で盛り上がらなかったらさみしいなと思って。俺らの大義は憧れの存在になりたいということだったので、そのためには勝とうと言いました。

みなさんの会社で言ったら、「売上を上げるため」じゃなくて、「売上を上げたあとの世界ってどんなんだろうね?」ということで。「これを一緒に獲得したい」という「夢」「WHY」をみんなで掲げて、「そのためにどういうことをしていこうか?」とすごく考えてやったのがよかったです。

僕らは勝つためにラグビーをするんじゃなくて、「憧れの存在になるために勝とう」と考えました。「日本のラグビーを変えるために勝とう」と掲げたのが、すごくよかったのかなと思います。

何がよかったかと言うと、(スライドを指して)例えば僕はこの写真の2列目にいるんですが、1列目のマイケル・リーチとか大野さんとかは、みんな試合出て活躍した人なんですけど、2列目にいる僕と僕の右側の人は、試合に1分も出なかったんです。

ラグビー選手にとっての一番の居場所はグラウンドなんです。そこに出て直接勝ちに貢献できたら一番うれしいんです。でも僕らの大義・目的は「憧れの存在になること」だったので、「憧れの存在になるために何ができるか?」「2列目の僕は何ができるか」と考えると、後ろにいる子どもたちにサインするだけでも、憧れの存在に近づきますよね。

それは何かと言うと、居場所ができるんです。そうすることでこのチームに対する愛着とか、目的に向かっていく自分だけの居場所ができる。これをすごく大事にしてやってきたので、僕らはワールドカップで歴史的な勝利を収められたのかなと思います。心理的安全性を最初に作ったうえで、大義を作ったのがよかったかなとすごく思っているところです。

言えないことはいろいろあります(笑)。心理的安全性を損なわれるようなことはいろいろと起きました。(カメラを指差して)撮らないでほしいですけど(笑)。

(会場笑)

それはとんでもないことを言われて、「もうこのチームは崩壊や」ということもありました。それでもどこに安全性があったかと考えると、僕らはチームメイトだと思ってます。

居場所とか場を作ることで、選手の結束はすごく高くなったんです。みんなお互いのことをすごく大事にしたので、練習中は辛くてもみんなで温泉に行っていろいろな話をして、「また明日からもがんばろうな」「俺らも頑張ろう」という言葉が出て、それでがんばれたのかなと思います。

いかにチームの「心理的安全性」を保つか

廣瀬:人間関係がギスギスしていたら、おそらく監督からのプレッシャーがあると、チームメイトに対して「お前何してんねん!」となります。俺も「自分のせいや」となったと思います。でも、僕らの人間関係がすごくよかったので、こういう心理的安全性を損うようにプレシャーをかけてくる監督の中でもやってこれたのかなと思います。

この2年間、僕は東芝のブレイブルーパスというチームでコーチをさせていただきました。実はこのチームも……またカットしてもらうことになるかもしれませんが、心理的安全性が少し足りていない感じがあって。

シーズンが終わったから言えるところもありますけど、監督が勝つことや売上を上げることにめっちゃこだわっていたんです。監督自身もすごいプレッシャーの中で、「なんで上げたいのか」「なんで勝ちたいのか」というところがないまま、結果だけを追い求めてしまったのではないかと思います。

だからチームも勝ち負けだけで評価されるような空気になって、居心地が悪くなってしまって、「ミスったら怖い」とか「負けたら怖い」となって、本来自分たちが持っているパフォーマンスを出せないまま、ずっとやってきた。それはチームにとって苦しかったと思います。

僕はコーチとして自分の仕事をしながら、監督に言うこともありました。「僕らは何のためにやるんですか?」「どんな世界を作りたいんですかね?」とか「ワクワクしたくないですか?」と。そうしたら、咋シーズン終わってから、「俺がもっと早く気づけたらよかった」と言っていただいて。

「やっぱり目的を考えながらチームを作っていったほうが、本当にみんなも主体的になって生き生きするし、よかったなと思う」と言っていただいたので、自分自身がチームでキャプテンをやってきた経験は間違ってなかったのかなと、今思っているところです。

こういう経験を踏まえて、今後自分自身としてやっていきたいことが1つあります。スポーツチームで言えば、プレイヤーとコーチ・監督の間にリーダーシップグループがあるというのが最近の流行りなんですけれど、ここに対する教育とかアプローチはあまりされていないのが現状かなと思っていて。

高校3年生や大学4年生になって、いきなり「キャプテンやれ」「リーダーやれ」と言われても、どうしたらいいかわからないんですよね。一生懸命やるんですけど、周りには弱音を吐きたくない。「俺、どうしたらいいのかわからないし、キャプテンとして自信がない」なんて言えないから、グッと1人で悩んじゃうんです。

そこに、サードオピニオンみたいに、僕とか元キャプテン経験者とか入っていくとか。もしくは同じように悩んでいるキャプテン同士が学べるプラットフォームができれば、すごく意味があるのかなと考えています。キャプテンがよくなったらチームがよくなるのは間違いないので。

キャプテンやリーダー自身がチームを動かすみたいな、こういうマネジメントを作っていけると、チームはよくなるのかなと思って。こういう仕組みを作りたいと考えています。

僕はこれをスポーツだけでなく、ビジネスのフィールドでも同じようにキャプテン学みたいなノウハウの仕組みを作りたいと思っています。ビジネスでいうと、プレイングマネージャーさんか課長さんか、ちょっとした現場のリーダーになった人でしょうか。

いきなりリーダーになってしまうと、彼らもどうしたらいいのかと悩みます。「リーダーの経験なんてないのに……」「うぅ……」と自分らしくなくなって失敗する。でも、苦しいのは自分だと思っていたら、実は周りのほうが苦しくなっていて、「あのリーダーじゃ僕たちはやっていけない!」となってしまう。

こんなふうに変なスパイラルに陥ってしまうのはよくないと思うので、そこに対して第三者がアプローチして、みんなでリーダーについて学んでいけるようにする。

そうすると生産性が上がっていく。そして大きなことを言えば、日本が豊かになることにつながって、自分が本当にやりたい見返りのないことができる。まさに僕は、見返りのないことができるということが幸せな人生だと思うので、今後そういうことをやっていきたいなと思っています。だいたい10分ぐらいですか。

:ありがとうございます。