授業時間よりも長い放課後を過ごしている小学生

栗林真由美氏(以下、栗林):放課後NPOアフタースクールの栗林です。

いきなりですが、ここでみなさんにクイズです。小学生の放課後の時間は、1年間でどれぐらいあるでしょうか?

正解は1,600時間。実は、学校の授業よりも長い時間、子どもたちは放課後を過ごしています。これだけの潤沢な時間があるからこそ、思いっきり好きなことができる。そんな可能性に満ちた放課後を、安全で豊かな時間にするために、私たちは取り組んでいます。

自由で伸びやかな放課後の時間。ここに社会課題があることをご存じでしょうか?

親たちの問題、小1の壁、小4の壁。待機児童というと保育園のことを想像される方が多いかと思いますが、実は小学校にもあります。学童保育に入れない。仮に入れたとしても、つまらないから行きたくない。その結果、保護者が働くことをやめる。そんな現実があります。

さらに、子どもを狙った犯罪の約7割が放課後の時間に起きているというデータがあります。子どもが安心して過ごせる場所がなければ、保護者は安心して働くことができません。

そして、子どもたちの問題です。「将来の夢なんてとくにないよ。だって、大人はつまらなそう」。そう口にする子どもがいます。

失われた3つの「間」……時間、空間、仲間。かつては当たり前にあったそんな3つの「間」が、当たり前でなくなっている子どもたちがたくさんいます。そして、そんな大人の背中を見ている日本の子どもたちは、世界の中でも群を抜いて自己肯定感が低いといわれています。

私たちは、子どもたちにとって放課後を伸びやかで自由なゴールデンタイムにしたいと思っています。そのソリューションとして、学校の中の空き教室を活用したアフタースクールを提案しています。そして、そのモデルづくりをしてきました。

未来のあそび場「放課後STEAMラボ」プロジェクト

栗林:アフタースクールは、市民先生がやってくるという特徴があります。地域の人や企業の人がアフタースクールにやってくることで、子どもたちに多様な体験を届けます。

これまで18校のアフタースクールを開校し、たくさんの地域の方や企業の方の協力を得て活動を進めてきました。その成果として、アフタースクールに通っている子どもたちの心の内面、挑戦意欲、自己肯定感などでも成果が出始めています。

そんな私たちが昨年、新しいプロジェクトを始めました。未来のあそび場「放課後STEAMラボ」。

STEAMとは、ScienceやTechnologyなど、5つの言葉の頭文字を取ったもの。テクノロジーの進化でどんどん変化を遂げている時代の中で、未来を生きる力をつけるために必要なスキルだといわれているものです。

私たちは、STEAMを、カリキュラムに沿って学ばなければいけないものではなく、遊びの道具として身近に感じられるように届けたいと思っています。1,600時間というたくさんの時間、そして失敗しても安心して挑戦できる場があるからこそ、試行錯誤をしながらものづくりをする。STEAMで大切な要素を学ぶのに、とても向いていると思います。

そして、ただ場を作るだけでなく、企業の人をオンラインでつなぐことで、子どもたちにリアルな社会を体験するきっかけを届けたいと思っています。

放課後STEAMラボに参画してもらうにはなにが必要か?

栗林:では、実際にどんな場になるか。ここからは楽天の松井さんが作ってくださったラボの絵をもとに説明していきます。

STEAMラボは、アフタースクールの中にあって、誰でも参加することができます。でも、いままでと少しだけ違うのは、そこに3Dプリンターやパソコンなどのデジタルなツール、そしてもちろんアナログなツールもあり、子どもたちが形にしたいと思ったものを、すぐにそこで試せる場があることです。

やりたいこと、そしてやらないことを決めるのも、子ども。大人はそのサポート役です。

学校の中だけでなく、地域の人とも関わることができて、デザイナーやエンジニアといった企業の人たちが、オンラインで子どもたちの活動を応援しています。

人がいない。予算が少ない。そんな公立小学校の放課後でもどこでも、こんなあそび場ができたら……そんな思いで、私たちは楽天のみなさんと一緒に、STEAMラボの第1号モデルを作ってきました。

実際にどんな場所ができたのか。ここからは松井さんにお話ししてもらいます。

プロジェクトを遂行する3つのチーム

松井:ここからは、チームリーダーを務めさせていただきました松井のほうから、楽天ソーシャルアクセラレーターでの協働の内容を紹介させていただきます。

今回のプログラムの目的は、ずばり実証実験です。企業に継続して放課後STEAMラボに参画してもらうには、どういったことが必要かということを、世界に広がるIT企業としての楽天をモデルケースとして検討していくかたちになっております。

プロジェクトを進めるにあたって、3つのチームを作りました。1つはSTEAMラボのイベント検討。テクノロジーに興味を持ってもらって、それをきっかけにSTEAMに興味を持ってもらうような、子どもたちにきっかけを提供する場を作り上げていこうというものです。

2つ目が、「企業のメンバーと子どもたちがコミュニケーションをとるには、どういった環境がふさわしいか?」というような、共有環境を検討するチームです。

3つ目が、継続的な企業参画を実現するためのプロボノの型作りを実現するにはどういったことが必要かを考える、企業参画検討チームです。この3つで進めてまいりました。

今回の実証実験なのですが、都内の公立のアフタースクールをベースに行いました。ここの特徴なのですが、非常にアクティブな高学年の生徒が多数存在しているということです。

とくに「アフタースクール探偵」。これは仮称なんですけれども、月1回、自分たちが興味のあることを新聞にして、それを低学年の人たちに伝えるという活動をしている子どもたちが存在しています。彼らをターゲットユーザーとして、実証実験を行っていくというかたちでやってまいりました。

これがスケジュールですね。まず、楽天とアフタースクールさんの2回のイベントを通じて子どもたちのSTEAMへの興味を醸成します。子どもたちは、それらで学んだことを生かして、同じアフタースクールの他の子どもたちを楽しませるイベントを企画します。そのイベントを実現するところまでを、オンラインでサポートするようなかたちで実証実験が進んでいきました。

子どもの興味を予測することはできない

松井:ここからは、具体的にどのような活動になったのかをご紹介します。

まずはじめに、STEAMラボのイベント検討についてです。こちらは楽天社内の部活「ロボットクラブ」の協力を得ながら、「カメラ付きのロボットカーを使って、ダンボールの迷路の中に隠されたキーワードを探す」というアクティビティをやってもらい、すごく盛り上がりました。

ここでは、MIT(マサチューセッツ工科大学)発祥の子ども向けプログラミングツール「Scratch」をベースに作ったロボットカーを使いました。Scratchからプログラミングに興味を持ってくれると考え、そのような動機づけをしたのですが、彼らがプランニングを経て持ってきたものは「プロジェクションマッピングをやりたい」でした。プログラムじゃなくて、メディアアートにいっちゃったなという感じでした。

実は、共有環境を検討する際に、楽天の中でテック系の人たちを集めて「みなさん、サポートしてくださいね」とお願いしていたんです。ところが「えっ、みんなプロジェクションマッピングはわからないや」という話になっちゃいまして、非常に焦りました(笑)。

ここで得た経験は、「子どもたちの興味を予測することは不可能だな」ということと、「どんどん広がり、変わっていく子どもたちの興味に、あらかじめ1つの企業でなにかをやるのはなかなか難しいな」ということで、大きな気づきとなりました。

そうしたこともあり、「企業としてこういう活動にどう参加していくのがふさわしいのか?」を話し合う会ということで「 STEAMでつながるナイト」というワークショップを開催しました。

この会では、セールスフォースさんやソニーさんといった企業が参画して、「持続可能な企業参画を可能にするには?」といったことを話し合う会となっております。「1社でやるのはしんどいよね。やっぱりみんなで一緒にやらない?」みたいなことが話し合われました。

これらの活動を経て、最終的に、12月25日に子どもたちの作品発表となりました。こちらの作品を見ていただけたらと思います。

(映像が流れる)

子どもたちの作品です。最終的に楽天のメンバーも参加して、リハーサルを見に行きました。よくある話なのですが、プロジェクターとスピーカーの接続に苦戦して、「これが一番時間を取っちゃった」みたいな話があったり、プロ顔負けの準備をしているような状態で……。自分の体にプロジェクションマッピングを投影したりもしていました。