胡蝶蘭サービスをどうして立ち上げたのか

那部智史氏(以下、那部):NPO法人AlonAlonの那部です。よろしくお願いします。

胡蝶蘭のマーケットは日本中で何億円か知っていますか? 楽天さんでも売ってるんですが、実は330億円もあります。しかも、祝い花に関しましては1,000億円です。この1,000億円、330億円のマーケットで約30パーセントの仕事を知的障がい者の方にやってもらうというのが、我々の団体が行っていることです。

「AlonAlonオーキッドガーデン」の温室および事務所は、いま200坪の温室があり、ここで年間1万本の胡蝶蘭を作っていて、全国に配送しています。

我々のメンバーですが、いまは9名の知的障がい者の人たちと一緒に仕事をしております。ちょっと恥ずかしいんですが、私のお話をさせていただきます。実は、私の息子が今日、誕生日なんです。

(会場拍手)

ありがとうございます。息子はもう23歳ぐらいの「おやじ」ですが、スライドの写真は3歳ぐらいです。実は、私は子どもが生まれるまではサラリーマンをやっていました。サラリーマンの中でも、スーパーサラリーマンといわれていまして、営業ですごい成績をあげて、みんなからチヤホヤされていたんですね。

でも、知的障がいを持って息子が生まれた途端に、全員から「かわいそう、かわいそう」といわれるようになっちゃったんですよ。実際「かわいそう」とみんなから言われました。

いままでチヤホヤされていた人間が「かわいそう、かわいそう」といわれると、けっこう心にくるんですよね。本当に自分はかわいそうなんじゃないかと思い始めて、うつ病みたいになっちゃったんです。仕事もできない状態になりました。

それを打破すべく、がんばって考えた私の突破の方法は「そうだ、金持ちになろう!」でした。みんな失笑しているところですよね(笑)。

私は、「自分が羨ましがられるようになったら、自分を取り戻せるんじゃないか?」と考えたんですね。そして、29歳の時に勤めている会社から6,000万円を出資してもらいました。さらに、付き合っている会社さん20社ほどから、2億2,000万円というすごい大きなお金をいただきまして、ベンチャー企業を立ち上げました。

3名で始めた事業なのですが、幸運なことにけっこう大当たりしまして。社員が150人ぐらいになり、意外とお金が入るようになりました。

デパートで外商を引き連れて、触ったものを全部買っていく。あとは、自分の家の窓の前に目障りなホテルがあったので、それを買い取って潰したり、意外とブイブイいわせていたんですよね。

(会場笑)

ただ、そんなことをやっていても、心の穴が埋まらなかったんですよね。「自分はこんなことしてていいのかな?」とずっと思っていたんです。

恥ずかしながら、40歳になるまでは(障がい者である)息子は「NG」だと思っていたんですよ。「Not Good」だと思っていました。だけど、やっとここで気づいたんです。自分の息子が悪いんじゃなくて、自分の息子のような人たちが受け入れられない社会がNGだってことに、やっと気づいたんです。

そして、いまは「あなたはなんで、胡蝶蘭に関するビジネスをやるんですか?」とみんなからいわれていますが、さきほどお話ししたとおり、3人で始めた会社が150人になりました。そうなると、どんどん事務所を移転しなきゃいけないですよね。

移転すると、取引先から山のように胡蝶蘭をもらうんですよ。私の取引先が事務所を変えましたというと、うちも贈るようになる。こんなにおいしい仕事、ほかにないじゃないですか? しかも、祝い事なのでディスカウントしないんですよ。

これを知的障がい者の方たちの仕事にしたら素敵だなと思い、胡蝶蘭を選んだんですね。

知的障がい者の就労問題を解決するために

那部:知的障がい者の方々の現状を説明します。世界的に見て、知的障がい者は2〜3パーセントの発生率といわれています。そうなると、日本には200万〜300万人の知的障がい者がいるんですね。そのうち、障がい者手帳を持っている人は40万人で、就職している人は15万人。残りの25万人で、働く意思を持っている人は福祉作業所で働いています。

この福祉作業所について。スライドに「工賃」と書いてありますが、月額1万5,000円なんですよ。ちょっとひどくないですか? 時給にすると193円なんです。そこで、「胡蝶蘭の栽培を通じて、知的障がい者の方たちをどんどん社会に送り出す」という事業を始めました。

みなさんもご存じのとおり、大企業はその半分以上が、障がい者の法定雇用率を満たしていないんです。例えば、お役所でもそうですよね。「水増し」などといって誤魔化したりしていました。

一方、知的障がい者の方々でも、「中度〜重度」の人たちは、就職なんてまったく眼中になかったんですよね。就職したくてもできない人たちでした。

我々は、さきほどいった福祉作業所を胡蝶蘭の栽培学校に見立てて、一方で企業に対して農園を貸していくんです。そして、「中度〜重度」の障がい者の方たちをどんどん就職させて、企業が使うお花を作ってもらいます。いうなれば、「中度〜重度」の方たちを社員にして、お花代の経費削減、そして知的障がい者の方々の障がい者雇用を実現する事業を展開しております。

AlonAlonの現在がわかるニュースの動画を紹介します。

(映像が流れる)

オープンの時に取材がありました。番組で説明されていますが、当初は出資を募集して、350万円を目標としていたところ、結果的には500万以上の出資金があつまりました。いま(出資は)1,000万円以上集まっています。(また、AlonAlonで育てた花の購入を希望する企業は)いま1,500社います。

(映像終わり)

AlonAlonには、大きな事業が3つあります。さきほど(ニュース動画の中で)苗のオーナーとありましたが、バタフライサポーターです。それから花の法人営業で、1,500社と取引があります。あとは貸し農園ですね。

さきほど動画で見ましたが、詳しく話をしますと、1万円の寄付によって10本の胡蝶蘭を育てます。例えば、1本を母の日にお母さんに届けて、残りの9本を企業に販売して、障がい者の方たちの工賃にします。

2つ目の事業が、その9本の胡蝶蘭を法人に売る事業です。現在、全国1,500社の企業に対して、東京・横浜・名古屋・大阪・福岡の物流センターから配送しまして、約1億円の売上があります。

3つ目の事業が貸し農園の事業ですね。AlonAlonの子会社になるんですが、AlonAlonオーキッドガーデンの中のA&Aという会社が、貸し農園事業をやっていて、いまは2社が農園に入っております。今年1社増えて、3社になります。

我々の活動は、バタフライサポーターの方々によって支えられています。この1,000人のサポーターの約14パーセントの人が、自分が働いている会社の社長さんに、「私、バタフライサポーターになったんだけど、うちの会社でもAlonAlonのお花を使ってよ」と交渉してくれるんですね。これによって、100社の法人取引が成立しました。

そのうちの1社から、「障がい者雇用が足りない」という相談がありまして、貸し農園の事業がスタートしました。ここでまた、我々の利用者が就職するというかたちになっています。

きっかけなんですが、この「1,000人・100社・1社」のかたちを増やして、1,000人を1万人、10万人にしていくと、我々の目標を達成できるんじゃないかなと思っています。この「1,000人・1万人・10万人」という個人を集める力は、おそらく楽天さんにしかないんじゃないかなと思いました。それで、今回のプロジェクトに参加したんです。

では、バトンタッチですね。

ファンをもっと増やしていきたい

早川:楽天のAlonAlonチームのリーダーの早川です。では、ここからは楽天との協働内容についてお話をさせていただきます。

私たちAlonAlonチームは、半年間、10名体制で駆け抜けてきました。行ったことは主にこの3点です。ひと言でいいますと、テクノロジーを使ったマーケティング&ブランディング支援です。1つずつご紹介します。

まず、バタフライサポーターのサービスブランディングです。これまでサポーターのサイトはあったんですが、テキストが多くて、少し理解しづらい構造になっていました。これをシンプルでやさしい雰囲気のデザインにして、初心者の方にもどんどん見ていただけるサイトに作り変えました。

また、楽天といえば楽天市場ということで「AlonAlon楽天市場店」もオープンしまして、より多くの方に見ていただけるサイトを作りました。

2つ目に、アンバサダー制度をリリースしました。アンバサダーとは、AlonAlonでのお花の購入を企業の方に勧めてもらうための広報担当者です。営業資料とWebサイトを作って、アンバサダーになってもらうためにサービスの導線を設計しました。

3つ目に、AlonAlonのファンをもっと増やしていきたいと思いまして、広報動画を作成しました。コンセプトは、AlonAlonの蘭を作る人ともらう人、2つの家族がそれぞれハッピーになるストーリーです。ここでご紹介したいと思います。

(映像が流れる)

これを使って、どんどん広報していきたいと思います。

そして成果なんですが、協働期間中にお手伝いしたことも加味しまして、売上は150パーセント増となっております。

(会場拍手)

サポーターサイトのPV数も順調に増えてきています。また、就職先が決まったスタッフが2名いらっしゃいます。1人目がヤマガタさんで、イオン銀行さんへの就職が決まりました。2人目がヨコヤマさんで、ベルシステム24さんへの就職が決まっております。

このように、半年間でよい成果を出せたと思います。では、那部さんにバトンタッチします。

100年続く事業を目指す

那部:これからベンチャー的な話をします。A&Aの話をしましたが、我々はこれから、この資本を増強しまして……いま、オーキッドガーデンがスライドの真ん中にありますが、周辺の空き家を社宅にして、巡回バスを設置し、家事のサポート・食も提供することで、売上・利益を伸ばしていきたいなと考えております。

また、物流センターが名古屋・大阪・福岡にあるといいましたが、この地域にも展開していきたいと思っています。

今期は1億円の売上を見込んでおります。今後はA&Aの増資で資金調達して、生活インフラ事業に注力しながら、売上・利益を伸ばしていきたいと思っております。

最後に、貸し農園事業のモデルケースを説明したいと思います。

障がい者雇用が達成できていなくて、ペナルティを月20万円払っている企業さんを想定しました。AlonAlonの利用者を2名雇用すると、ペナルティとお花の経費の削減効果が56万円になります。なおかつ、うちは農園使用料を月10万円もらえる。人件費は東京都の最低賃金を適用していますが、苗台使用料や運送費用を含めると、56万円でプラスマイナスゼロ、トントンになります。

ということは、貸し農園で3年以上雇用すると、企業としてプラスになる。障がい者雇用をして収益がプラスになるのは、なかなかないと思うのですが、AlonAlonではこれを実現しております。

最後になります。いろいろとお話ししてきましたが、うちはNPOで、大儲けする事業というのはやっていません。ただ、100年続く事業をこれからもずっと続けていきたいと思っております。

ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

社会に出る試金石にしていきたい

谷中修吾氏(以下、谷中):ありがとうございました。チームのみなさん、どうぞステージにお上がりください。みなさん拍手でお迎えください。

(会場拍手)

AlonAlonチームということですね。どうぞ、お越しください。

さきほどお話がありましたが、テクノロジーを活かしたマーケティング・ブランディングということで、まず那部さんにお聞きしますが、今回はすごく相性がよかった印象です。ひと言いただけますか?

那部:私どもはIT音痴なんですね。AlonAlonには、ITに強い人間が誰もいなかったんです。ガラパゴスなんていわれていましたが、「ITを使うと、こんなに容易にいろんなことができるんだな」と思いました。

本当にすごいですね。びっくりしました。以前経営していた会社がITだったんですが、私はまったく知らなくて。非常に勉強になりました。

谷中:では、今度は早川さん。今回、楽天さんの強みを、うまいかたちで活用されているかなと思いました。メンバーのみなさんは、どうだったんでしょうか?

早川:それぞれ、ふだん取り組んでいる業務の分野がぜんぜん違ったので、いいシナジーをうまく出せたかなと思います。

谷中:さきほど展望の話がありました。今後について那部さんにお聞きします。さらに事業を加速して、もっともっとスケールしていくところで、すごくポテンシャル、手応えを感じていらっしゃると思いますが、今後に向けてひと言お願いします。

那部:このレイヤーは、非常にブルーオーシャンだと思っています。就職したくても、就職することを諦めている知的障がい者の方がたくさんいます。

そういう方々が、ある意味では特殊能力……我々でいえば胡蝶蘭の栽培なんですが、そういうものを身につけることによって社会に参加できる。その1つの試金石にしていきたいなと思っています。

谷中:このあとに、ちょうどブースの交流タイムでいろんな輪を広げていただければ、またここから新しい広がりがあると思います。会場のみなさんから、いま一度大きな拍手をお願いします。チームAlonAlonのみなさんでした。どうもありがとうございました。

(会場拍手)