プレゼンは「説明」なのか?

澤円氏(以下、澤):そして、プレゼンテーションというのは、やれと言われたから、「仕方なくやるんだ」「説明をしなきゃいけないんだ」というかもしれないけど。説明って、参加者の期待値と大きくずれていることがけっこうあるんですね。でも、これ楽なんですよ。それをある例でお話したいと思います。

(マクラーレンの横に立つ澤氏が映る写真を見せながら)僕のじゃないからですかね。借りたんです、貸してもらったんです。さっき(三木)アリッサさんがForbesに載っていたと言ってましたけど。Forbesの取材で、1週間これを貸してくれて、SNSにずっとアップするんですよ。

ビジネスパーソンにも手が届く価格帯のものを出したから、もともと1億円以上するやつだったのが、もうちょっと安くなったってことで、「あぁそうなんだ。サラリーマンでも買えるんですね!」って。「ちなみにおいくら?」「2700万? ふざんけんな! それ、マンションの値段だよ」と。

(会場笑)

これがほしくなるって、どういうことかなって考えたんです。たとえば、こういう説明。「2シーターで、570馬力で、61.2キロのトルクがある」。全部事実で正しいんですよ。だから説明したくなっちゃう。

ほとんどの製品説明はスペックの説明です。でもほしくなるかっていうと、もちろんほしくなるかもしれないんですが、これのリスクを1個言っておきましょう。 

これをパッと見せられた時、聞いた人の頭の中には、ポルシェはどうなんだ? フェラーリはどうなんだ? ってことで、ここにはない競合相手が出てきます。全部そのパターンです。製品の説明をする、値段の説明をする、というのだと、同じ値段だったら何があるかなって絶対に考えちゃうんですね。

それを理解しておかないといけません。最終的にはどうなるかっていうと、値段で勝負するか、納期で勝負するかで、無理がかかってきます。これが困る。ましてやローンの説明なんて、うるさいってなるわけ。

(会場笑)

これだけじゃダメなんです。これだって正しい情報です。でも入ってきた途端にローンの説明されて、嬉しくなんてないですよね。なんか足元見られている感ありますよね。これじゃダメなんですね。ということで、どんな話か? これほんとね、スーパーカー乗っている人って、どのくらいいます? 

これすごいんです。40キロ走行が別世界なんです。そのへんをちょっと曲がるのが、ぜんぜんちがうんです。いつも走っている道が本当に別世界なんです。もう体で感じるものもそうだし、その触っているものもそうだし、運転席のパネルもそう。

全部別世界なんですね。高いだけのことはあって、その体験をちゃんと提供してくれる。という話をすると、なんかちがうじゃないですか。

「共感」と「脅迫」が人を動かす

:結局、体験なんです。体験が人を動かす。何かを伝えなきゃいけないと思ったら、体験が何なのか、エクスペリエンスは何なのかなって考えてください。そのエクスペリエンスに時間のパラメーターが入る。それがいつ、どこで体験できるのかというのが、イメージできるように説明する。これがプレゼンテーションだと思ってください。わかりますか?

人を動かすためには、2つのものがあります。「共感」と「脅迫」。この2点ですね。

(会場笑)

この2点は確実ということで、脅迫から行きましょう。一時的には効果絶大です。銃を突きつけて「金を出せ」って言ったらだいたい出しますよね。非常にスムーズにエコシステムが回ります。ですけど、翌日に同じ人が銃を持たずに歩いていたらどうしますか? お金払いますか? 払わないですよね? ぶっとばしますよね?

そういうことです。結果が一時的なんですよ。だけど「共感」。これが大事なんです。手間と時間はかかるけれども、確実なんです。これが関心事そのものなんですね。関心事をどうやってつくっていくか? そしてファンというのは、どういうものかってことなんですけど。何かのファンっていう、歌手でも、俳優でも、作家でも、映画でも、何でもいいですよ。何かのファンだという方、どのくらいいらっしゃいます? じゃあ、何のファンですか?

参加者:田中圭さん。

:田中圭さんのファン。ファンになってくれって頼まれました?

(会場笑)

「呼び鈴をピンポーンって押して、あの田中圭っていいますけど、ファンになってくれますかね?」じゃないですよね? 田中圭さんが載っている雑誌とか買ったことあります? 

参加者:雑誌は買わないです。

:あ、ほんとに? どういうものにお金を払います?

参加者:ドラマとかは観ます。

:ドラマ観る? 頼まれてます? 頼まれていないですよね? 頼まれていないのにやっているんですよね? 物好きですね~って話になるわけです。要するに、これ、けなしているわけでもなんでもなくて、当たり前の話なんです。

つまり、ファンっていうのは行動を自動化するんです。自動的に行動してくれるようになります。だから行動させるというふうに言ってましたけれども、こうしてくださいっていうわけじゃないの。ファンにしてしまえば、勝手に行動してくれる。これがぜんぜんちがうということを覚えておいてください。

ファンにしてしまえば、とりこにしてしまえば、その人が言ったことは全部自動的に相手の行動につながる。相手の行動を具体的に説明したからといって、相手は行動するかというと別にしないわけですね。わかります?

一般論は響かない、人は自分ごとで動く

:子どもの頃に「勉強しなさい」って言われた経験がある方、どれくらいいらっしゃいますか? 「勉強しなさい!」って言われた。ほとんどですよね。それによって「お、『勉強しなさい!』って言われて、よ~し、やる気が出てきた!」って方どれくらいいらっしゃいます? 

(会場笑)

これゼロなんです。「うっせえな、今からやろうと思ったんだよ」ってほとんどの人が思う……。

(会場笑)

(今からやろうとなんて)思ってもいないのに。だけど喜ぶ顔が見たいと思ったら、自動的に勉強したかもしれないですね。そういうことなんです。そのために考えておかないといけないのは、まず、相手を自分ごとにさせるってことなんですね。

すべてのスライドでも、資料でも、しゃべってる言葉でもなんでもいいです。「みなさんが、みなさんに、みなさんを」、というのを主語・主体にできるかどうかなんですね。それによって話をするかどうかによって、これはぜんぜん成否が変わってきます。

じゃあ1個、例を出したいと思います。これ、Windows Helloっていう自動ログオンするための機能なんですけど、このパソコンに備わっているものなんですが、顔を見せるとログインできる。顔や虹彩、指紋でログインできる。これが製品を主語にした説明です。正しいです。これをみなさん、やっちゃうわけです。ついついやっちゃうんです。

会社から渡された資料で、こうやって説明して来いって言われて、だいたいこういう話をするわけです。「フーン」で終わります。だから、もうちょっと踏み込むんですね。

パスワードを忘れた経験のある人、どのくらいいらっしゃいますか? 

(会場挙手)

ダメだな~、みんな。

(会場笑)

ダメなやつらばっかり。僕なんて「パスワード忘れた方」をクリックして、もうデフォルトですよ。ぜんぜん覚えないです。いいんですよ。パスワードなんて覚えなくて。もう顔でログインできますから。顔を忘れることないでしょ? 家に顔を忘れてきましたって方? 

(会場笑)

ないですよね。そんなのアンパンマンくらいです。顔を忘れる可能性があるのは。顔を持っていけばログインできるわけだから。もうこれでいいわけです。ですよね。一般論は響きません。人は自分ごとで動きます。相手のことにする、自分のことじゃない。だから、プレゼンテーションの核って何かっていうと、これはオーディエンスが持って帰って、他の人に言います。また他の人に言います。

プレゼンは伝言ゲームの「先頭」と心得よ

:要するにプレゼンは何かっていうと、伝言ゲーム。伝言ゲームの先頭なんです。聞いた人が他の人に言えるように、その人に伝えるわけですね。

例えば、あいさつだったら、自分が気持ちよくあいさつをしてもらったら、他の人にもしたくなるかもしれないですね。これで非常にポジティブなチェーンができるわけですよ。

これの先頭を取ろうねって話なんですね。悪くない話だと思いません? けっこう気分よくないですか? これをやってほしいんですね。

例えば、この人、信長さん。会ったことはありませんが、この人はたぶんですよ。桶狭間とか長篠の合戦のときに「俺さ、武田さんのところの」。あの、信玄ね……。

(会場笑)

「武田さんのところの陣地とか奪ってさ。俺のところの国とかデカくしようと思うんだけど。どう思う?」とかって、たぶん家臣の方に言うわけですよ。

声が届く範囲の連中に、「どう思う? どう思う?」とか聞くと、家臣の連中が「いいっすね! クールっすよ、信長さん」とか言って「来週のチームミーティングでちょっとシェアしますね」とか「いいですね」とか言って。

こんな軽くないと思いますけど。こうやって言って、「信長さんさ、すんげーんだよ。あの人、マジでさ、ポリシーとかバリバリでさ」「うわ、これ超クールっすね。それロックっすよ」とかって。

だんだん、ずーっとそれが伝わっていって、最後に何が起きるかっていうと、合戦の最前列って、槍とか鉄砲とか刀とかをお互いブスブス刺すわけじゃないですか。楽しくないですよ。痛いし。

だけど、その連中の前を、信長さんが馬でサァーっと通るだけで、「うわっ!! 信長さんが来てくださった! 我々のために来てくださった!」って言って、ものすごく盛り上がって、士気が上がって、「行くぞー!」ってやって、合戦は無敵だったんです。

それぐらいカリスマ性が強くなってたんですね。要するに先頭で、だんだんだんだんカリスマ性が、こうやって上がっていくようになった。だから、最前列は超ウルトラファン。

(会場笑)

だから信長さんのためなら死んでもいいんですよ。だから命かけて戦っちゃうんですよ。これがすごく大事なんですよね。それぐらいにファンにしてしまえば、いろんなことができるようになります。

ファンサービスの精神を持つべし

:あと2分ほど使ってですね。そうだな、もうこれだけやろう。べからず集だけやりましょう。ここだけ話し方の部分になります。ちょっとした話し方の部分になります。まず、非常に多いのがこれ。「背中で語る」。

こうやって写っているものを、プレゼンターがスクリーンの方に振り向いてしゃべるって、これめっちゃ多いですよ。これじゃファンにならないわけですよ。当たり前ですよね、ライブ行って、歌手がずっと後ろを向いて……。

(会場笑)

歌ってたらいやでしょ、音が聞こえたとしても。ドームとかだっためちゃくちゃ小さいですよ。「絶対あいつ後ろ向いてる」と思ったら盛り上がんないですよね。そういうものなんです。顔を見せるって大事なんです。体の正面を見せるっていうのは。

プレゼンテーションっていうのは、ファンサービスなんです。だから、来てる人をどれくらい気持ちよくするかっていうのは、これはプレゼンテーターにとってもっともやんなきゃいけないことなんですね。

アイコンタクトのコツというのは、今日はあんまり時間も短いので、左右に動かなかったですけど、できるかぎり、近くにまでよって左右を見る。実はさっき、ちゃちゃっと僕計ったんですけど、ここに立ってこうやって見ると(体を客席の左側に向ける)、こっち(右側)が死角になるんですね。だから、こういう状態になるんですけれども。

それをこっちに行ったら、ある程度こっちまで近くなるんで、ここはね、今日こちらに立てない。これにかぶっちゃうんで。だから、ここはさっさと通り過ぎて、だいたいここらへんだね。ここだったらかぶらなくて、けっこう見えるなってやって、全体を見る。

たぶんなんですけど、端から端まで、1回は僕と目が合ったかもしれないと思った人がいるんじゃないですか。全部これテクニックでやっています。

これを生業にしている人がいます。これがアイドルなんですね。ジャニーズのコンサートとか行くとですね。あんた、お母ちゃんくらいの歳だよっていう人が「今あたしを見た~!」って「そんなわけあるかい」って思うんですけど……

(会場笑)

だけど、これがアイドルの仕事なんです。そうやってアイコンタクトをすることによって「私はあなたのことを見てますよ」ってすると、相手はやっぱり喜ぶわけですね。これがファンにするということなんです。やっぱりアイコンタクトをしないと、ファンというのはなかなかつかないです。

表情筋と動きの幅に注意を払う

そしてPC画面。例えば、プレゼンに不安を持ってる人だったらPC画面をじーっと見て話したりします。これやめましょう。なるべくオーディエンスの顔を見ましょう。

そしてこれは男性に多いですね。口角が下がる。おっさんっていうのは、だんだんこう重力に負けてきます。

(会場笑)

表情筋というのがあるんです。表情筋を使って。笑顔って筋肉を16本使うんですね。筋トレをしないと衰えるんですよ。おっさんたちは、顔を見る時間が短いんですよ。女の人は若干長いんです。なんでかというと、お化粧するし、髪の毛を乾かしたり、ちょっと長いですよね。僕なんか、髪の毛はこの中でトップレベルで乾かす時間が長いですよ。

(会場笑)

要は顔を観察するという習慣がないので、自分がどういうふうに見えているのか、あんまり意識しないんですね。だから口角を上げるっていうのは、練習しなければなりません。いきなり笑えって言うと、不吉な顔をする人がけっこういますからね。とくに男性は。だから練習をしましょう。

そして、動くときにはステージ上を辿らないでください。どういうことかというと、僕さっき一歩動くんだったら、一歩動いてるんですよ。端まで行くんだったら、端まで動くんですね。アリッサさんもこれをやっていました。時々いるのが、動かなきゃといって「えーっと」って、肩幅くらいしか動かない。これ、ただ漂っているだけですからね。

(会場笑)

トイレに行きたいのかな? ってちょっと心配に……。

(会場笑)

動くんだったら一歩。ちなみにこれ細か〜いテクニックです。別に真似しないで。さっきから僕やっているんですけど、体の正面を向けるんです。体正面を向けると、こうやって歩いているんですね。こうやって歩かない。必ずしゃべりながらしゃべりながら、足は必ずクロスするんです。

そうするとゆっくり動くと、不自然にもならないし。そうすることで、ずっと体の正面を向けながらしゃべれますね。これは細かいテクニックです。

ギャグは非常にリスクが高い

:最後の約束です。絶対に約束をしてください。決死の覚悟でギャグを言わないでください。

(会場笑)

これで僕、何回も事故現場に遭遇しました。

(会場笑)

おっさんに多いです。おっさんが慣れないことを言うわけですよ。アリッサさんもぜんぜん大丈夫ですよ。もう場慣れもしてるし、さまざまないろんなパラメーターあたり組み合わせて、ずれを作れるんですね。

例えばどう見ても日本人なのに、アリッサという名前ってずれるじゃないですか。そこってネタになりやすい。それを理解して言うぶんには、まず滑ることないです。でも慣れないおっさんが、受けを取らなきゃいけないと思って、無理して流行りのギャグで、ちょっとそれが古かったりして。なおかつ噛んじゃったりするわけです。

(会場笑)

まぁもう目も当てられないですよ。そこまでやんないでいいんです。芸人じゃないんですから。だったら、ちょっと「クスっ」くらいでいいですよ。あるいは、少し心がほっこりするようなエピソードで十分です。それぐらいのものを用意しておけばいいんです。

だから決死のギャグは、ここでは言わないようにしてくださいね。ということで、最後になるんですけれども、(澤の書籍の表紙を映しながら)売れてますので買ってくださいね。

(会場笑)

ちなみになんですけど、11月の末に別の本が出ます。

あたりまえを疑え。 自己実現できる働き方のヒント

(会場拍手)

いろんな話をしてますけれども、このスライドにも書いてありますけれども、アンテナを立ててください。それから気にしてください。もう朝から晩までアンテナを立ててください。それも受発信です。受信だけじゃなく、発信もそうです。両方です。やってください。もう本番が始まっています。

別に今日のような、こういった場だけじゃないんです。常に本番なんです。常に。そして、がんばれば、プレゼンテーションがうまくいったら、人生も絶対に成功しますからね。

ということで、みなさんのプレゼンライフが豊かになることを祈って、最後とさせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)