子どもたちが理科の実験で解剖するのは「にぼし」

高橋博之氏(以下、高橋)日本食べる通信リーグの高橋です。最初に、みなさんは子どもの頃に、理科の実験で生き物の解剖をしたと思うんですけど、何を解剖しました?

参加者:カエル。

高橋:でしょ? 僕の時代もカエルだったんですよ。今は何を解剖しているか知っています? この前ある学校の先生から聞いて、僕はアゴが外れそうになったんですけど……にぼし。

(会場笑)

「もう死んでるべ!」って。

(会場笑)

「乾いてるべ!」って。「はーい、みなさんメス持ってー」って切って、ピンセットで開いて、「はい、これが心臓ですね」と、やっているらしいですね。なぜかと聞いたら「生き物を解剖するような残酷なことを子どもにさせるなんてダメだ」と親から苦情が来て、できないんだと。こういう話があったんですね。

あとは去年、ある水産高校の2年生が、海へ行ってイカを釣って、鮮度が良いままで家へ持って帰るために、港で活〆していたんですよ。それを動画で撮ってSNSで発信したら、炎上したんですね。なんで炎上したと思います?……「イカの気持ちになって考えてみろ!」と。

(会場笑)

「残酷じゃないか、動物虐待だ!」という批判。いろいろな意見があるのはいいんだけれど、この批判している人たちに聞きたいんですね。「何を食べて生きているんですか?」と。動物か植物の違いはあっても、僕らが食べているものは、元をただせばすべて動植物の死骸です。生き物の命。

自分に関わりがなければ、どんなに深刻な問題も他人事

高橋:ところが、今はやっぱり食べ物の裏側が見えないんですよ。だから、僕は「工業的な食事」と言っています。まるで車のガソリン給油みたいな食事。僕も相当、工業的食事に頼っていますけれども。

食べるものが流動化し、食べる時間が工業化して、食べる人間がロボット化していくと。こういう食事が今の世の中を席巻し始めているということは、食べ物の裏側が見えなくなっているということなんですね。

人間は見えないものに価値を見出してお金を払うことは難しいので、結果どうなっているかと言うと……僕が生まれるちょっと前に1,000万人くらいの農家の方がいたんですけど、現在は200万人を切って、僕より若い人は、もう12万人しかいない。(グラフを指さして)赤いのが1人、ポツンと。

つまり、日本の一次産業は、年を取った、腰が曲がったじいちゃんが、年金をつぎ込んで百姓をやっていると。これがこの国の農業の現実です。

10年後、誰が我々の子どもたちに国産の食べ物を作っていくのかということが、今の消費社会からはなかなか見えにくくなっていると。今、全国民の中で、農家さんは1.4パーセントしかいません。残り98.6パーセントの消費者が、食べ物をお金で買っている、僕ら消費者なんです。

僕が一番ヤバいと思うのは、この1.4(パーセント)と98.6(パーセント)の間に関わりがないんですよ。関わりがないということは、他人事だということなんです。

例えば、パレスチナ難民のニュースをみなさんが動画などで見た時に、あんな小さな子どもが命からがら海を渡って逃げ惑っている姿を見て、人として心を痛めるでしょう? だけど、動きますか? テレビを消したら他人事でしょう。僕も他人事です。なぜか。僕、パレスチナに知り合いがいないんですよ。

例えば昔、大学のクラスメイトでパレスチナの留学生がいたら、そいつの顔を思い浮かべて安否を気遣って、国際機関に寄付したり、パレスチナ情勢を伝えるニュースをSNSで発信したりします。人は関わりがあると動くんですよ。

一次産業も同じで、98.6(パーセントの消費者)は、もはや1.4(パーセントの生産者)に知り合いがいない。最近ようやく一次産業の苦境を伝えるニュースが出てきましたが、見ている時は「農家って大変だな」と、同情するんですよ。ところが、テレビを消した途端に、どうでもいい他人事になる。

(人間が)スマホみたいに充電して生きているんだったら他人事で済むけれども、僕らは食べなきゃ生きていけないんです。つまり、すべての国民は食の当事者です。なんでこんなに他人事なのか。知り合いがいないからだ、と。

東日本大震災から生まれた、都市と地方の新しいつながり

高橋:ところが、7年半前。もうすぐ8年になりますが、東日本大震災があった時。都市住民が被災地に助けに行ったら、被災されている方の多くが農家と漁師だったんです。それで、知り合いができていったんですよ。そうすると、もはや他人事じゃなくなっていくわけです。

食べ物を作る世界の素晴らしさや美しさ、厳しさ、そして苦しさ。そういう物語に触れて、他人事じゃなくなって共感して、参加していったんですね。動いていったんですよ。例えば販路拡大に協力したり、それこそマーケティングを教えてエンパワーしたり。一次生産者の戦闘能力が上がっていったんです。

それで、逆に助けに行ったはずの都市住民も、助けられて都会に帰っていったんですよ。ある意味で、復興したんです。何が復興したか。生きることの実感、リアリティ。あるいは、心の復興というものですね。

都市生活で、生きがいややりがいをなかなか得られなかったのに、被災地で得ることができた。都市の人と地方の人が、それぞれの強みでそれぞれの弱みを補い合うような関係を築いていくのを見て、僕は「これだ」と思いました。

津波が来た時だけじゃなくて、日常から「これやろうよ」ということで始めたのが、この『東北食べる通信』です。「食べもの付き情報誌」で、生産者の物語を可視化して、ライフストーリーを書いて。それに食べ物をセットで届けるんですが、届けて終わりではなくて、SNSでつながるので、リアルな生産者から「今みなさんのところにお届けしますよ」という報告があったり。

実際お客さんも、牡蠣が届きましたと。殻付きのまま送りますから、自分で実際にむいてみる。手を切ったりなんだりしながら、生き物であることを実感しながら、牡蠣(の殻)をむきます。

「今までは出荷して終わりで、どこの誰が食べてくれているのかわからない」と言っていた漁師が、こうやって実際に「おいしかった」というようなコメントを、子どもからもらったりですね。

そうして、言わばネットだけじゃなくリアルの場での交流会もします。「参加の階段」と言っているんですけれど、まずは読む。さらに共感した人はコメントする。コメントしてさらに共感した人は、実際に漁師と農家が都会に来た時に交流会に出て行くと。

本人に触れてさらに共感した人は、今度は現場に行く。そういうことで、共感すればするほど参加の回路が開き、現場に近づいていくわけです。

都市と地方がつながれば「過疎」という概念はなくなる

高橋:菊地(晃生)君という秋田県の米農家がいます。何年か前に天候不順で、稲刈りの時にコンバインを入れたら、田植えの時くらいにぬかるんでいて(使えなかったので)、嫁さんと娘2人と4人で手で刈っていったんですよ。なかなか終わらなくて、SOSを発信したら、延べ200人の都市住民がわざわざ秋田まで行って、裸足で田んぼに入って、全員で手で刈って、終わっちゃったんですね。

なぜこういうことが起きたかと言うと、『食べる通信』で1回彼のことを特集して、SNS上で交流していたから、もう他人事じゃなかったんですよ。彼のことを知っていたから、彼の想いを知っていたから、彼の上に降りかかった災いを他人事とは思えずに、(都市住民が)飛んで行ったんです。これが共感・参加の力です。

そういうことで言えば、僕は「ふるさと難民」と言っていますけれども、帰るふるさとがない・帰省先がないという都市住民が、すごく増えています。だったら、地縁・血縁がなくても、食べ物を通じてふるさとを作っていけばいいじゃないかと。

ということで『食べる通信』は、「ふるさとを見つけるためのパスポート」だと言っています。「逆参勤交代」と言っていますけれども、週末、都市住民が『食べる通信』で出会った生産者のところに行って援農するという動きが出てきます。

今『食べる通信』は、アジアも含め、全41地域に広がっています。各地にいろいろな編集長がいます。みんな想いのある個人です。

これからは「60歳になって引退したら、ようやく田舎に行って土をいじる」とか、そんなものは古いです。僕らにとって、すべての人にとって、自然は必要なんですよ。なので、現役時代から都会に仕事や暮らしの拠点がある一方で、地方でもう1つの人生を走らせるんです。

もっと(都市と地方を)行ったり来たりするライフスタイル、あるいは国のかたちになっていけば、もはや「過疎」という概念自体がこの社会からなくなってしまうと。

今、台湾や中国、韓国が『食べる通信』に興味を持ってくれているんですけれども、(日本と)同じような構造的な課題を抱えています。日本は課題先進国家ですから、我々がそれを解決する範を示していければ、というふうに思っていて。

0から1、1から40の『食べる通信』。読者も今1万人なんですが、ちょっと壁にぶつかったので(笑)。さらにスケールするために、今回は楽天さんに協働をお願いして、ここまで半年間、お世話になってまいりました。

半年間の楽天との協働から生まれた、さまざまな施策

江守敦史氏(以下、江守):食べる通信リーグの江守です。うちの代表のあと、ちょっとやりにくいんですが(笑)。

(会場笑)

『食べる通信』の見本を見たいという人は、あとでブースにダッシュしてください。

(会場笑)

それではここから、具体的な取り組みについてお話ししていきたいと思います。我々は今回、理解ある消費者を「行動者」と掲げました。つまり無関心ではなくて、自分ごととして感動して共感して、参加する消費者を増やしたい。そういう人が日本全国に増えれば、生産者をもっともっとエンパワーできるんじゃないか、と考えました。

半年間共に戦った、心強い仲間たちは20名以上です。どんどんメンバーが増えてきました。そして650時間以上……これはカウントしている数ですけど、実際はもう朝から晩まで、メッセージがびゅんびゅん飛んでくるような、そんな半年間でした。

そして、60回以上の熱い議論を重ねました。これは協働の最初に描いた図です。『食べる通信』をまだ知らない・購読していない人は、何のハードルがあって購読されていないんだろうということを分解した時に、「認知」・「理解」・「転換」がそれぞれ足りていないんじゃないか、という整理です。

初期段階では「楽天インサイト」を使わせていただきながら、読者予備軍のリサーチも行いました。そうすると一番興味を持ってくれたのが「農ガール」的な、地域とか食とか農に興味のある独身女子。そして食育に関心のあるママさん。そういった方々が非常に関心を持ってくれていることがわかりました。

そこで行った施策は、もうたくさんあるんですけども、そのうちの1つが……「ステッカー施策」と呼んでいて、認知のためにこのスライドに描いているようなステッカーをレストランに貼りました。「食べる通信生産者の食材使ってます」と書かれている、QRコードが付いているステッカーです。

ここからサイトに飛んで『食べる通信』を知ってもらって、ほかのレストランのことも知ってもらう、ということです。これは首都圏で20店舗以上を展開している「四十八漁場」という居酒屋さんです。今、こういった店舗がどんどん増えていっています。ここから実に約9割の新規の方が流入して見てくれていると。

生産者とつながる魅力を「動画コンテスト」でPR

江守:ほかには、動画のコンテストを2ヶ月間行いました。なぜやったかと言うと、『食べる通信』の世界観であったり、生産者とつながる、現地に行く豊かさは、体験した人はわかるんですね。でも、まだやったことがない人にはなかなか伝わらないので、それを動画で伝えようと。2ヶ月間で72本の動画がアップされました。ここから最優秀賞を取った動画が見られます。

本当にたくさんのいろいろな動画をアップしてもらったんですけども、この田舎の良さ、体験の楽しさ、生産者と過ごす時間や現地の空気感を、ものすごく伝えてもらったので……「おかん大爆笑」とかですね。ですので、この方に優秀賞を差し上げました。

そして、楽天といえばということで、やはりテクノロジーの力を使って、我々が成しえなかったWebの改修にも力を注ぎました。詳しくはこの時間の中では説明できないんですけれど、要は我々の旧『食べる通信』の公式サイトは、非常にいろいろな流入経路があって、複雑で、分析や注力がしにくかったと。

それで、トップ画面から商品選択ページに行って、申し込みページに至るまでの流れをシンプルにし、コンバージョンアップを狙ったということです。驚くことに、商品選択ページへの流入が大幅に改善していました。

みなさん、ぜひあとで検索して見ていただきたいんですけど、トップ画面の下に商品選択ページがありまして。そこから気になった地域、通信を押すと……最新号の内容や商品内容が出てくると。そして、下に出ているボタンを押すとすぐに購読ができる、というようなサイトに改修しています。

RSA(「Rakuten Social Accelerator(楽天ソーシャルアクセラレーター)」)は終わってしまいますけれども、お話ししている現在もまだまだ、楽天とのコラボレーションは進行しておりまして。実にさまざまな事業の方々と今、お話をさせていただいております。そして、会場にもまだまだ多くの企業・団体の方々がいらっしゃっていると思います。

冒頭で代表の高橋も話しましたとおり、本当にすごいスピードで生産者がいなくなっているこの世の中で、やっぱり我々だけががんばっても、世の中はぜんぜん変えられないんですね。ですので、みなさんも一緒になって取り組んでいただきたいなと思っています。

あと、2月14日、『カンブリア宮殿』に出ます。

(会場拍手)

『食べる通信』が取り上げられますので、ぜひそちらを見ていただければと思います。そのほか詳しく聞きたい方は、のちほどブースへダッシュでお願いします。以上、ありがとうございました。

(会場拍手)

生産者の物語を読むと、同じ食べ物でも味が変わる

谷中修吾氏(以下、谷中):どうもありがとうございました。チームのみなさんもぜひ、ステージにお上がりいただきたいと思います。みなさん、拍手でお願いいたします。どうぞ。

(会場拍手)

高橋さん、ちょっと今のうちに。今持っていらっしゃるのは何でしょうか。

高橋:『ふくおか食べる通信』で取り上げた、ブラッドオレンジです。

谷中:ちょっとみなさんにも見せていただけますか。

高橋:これは、作った人の物語を直前に読んで食べると、同じ食べ物でもやっぱり(味が)変わるんですよ。おいしさというのは、舌だけじゃなくて脳みそも使って食べるという。

谷中:ありがとうございます。ブースのほうにもたくさん出ていましたけれども、ぜひみなさんにも見ていただきたいなと思いつつ。まずは、今回チームリーダーを務められた奥野さんにちょっと聞いてみたいと思います。すごく熱い空気が伝わってきましたけれど(笑)。チームのみなさんとの熱さで、どんな感じで進んできたか。ちょっと空気感を教えてもらえますか?

奥野:そうですね……高橋さんは見てのとおり、暑苦しいくらいの熱量で。

(会場笑)

こちらの江守さんも、その想いに共感してジョインされているということもあって、『食べる通信』のみなさん、すっごく熱いんですね。なので、まぁだいぶ……ぶつかりましたね(笑)。

(会場笑)

そういういろいろがあったからこその今だと思っています。

谷中:でも逆にその中から、ディスカッションしたからこそ生まれていることもすごくたくさんあるわけですよね。そのあたり、どうですか?

社会を変えるために自らが変わらなければならない

奥野:例えばWebの改善というところは、けっこう最初の段階で『食べる通信』さんも僕らも、「やっぱりやるべきなんじゃないの」というところがあったんです。なんだか「けっこう大変そうだね……」という感じで、ちょっと出しそびれて、ということがあって。それがさんざん議論した結果「やっぱWebだよね」というところにたどり着いて。

谷中:なるほど。

奥野:もう最初っからそこに行っておけばよかったね、というのもあったんですが。

(会場笑)

そういうことも含めて、すごくいい経験になりました。

谷中:先ほど高橋さんのお話にもありましたとおり、今後スケールしていく。もっともっと広げていくという意味では、すごく強力なみなさまだと思うんですけれども。改めてひと言、いかがですか。

高橋:いやあの……別れないでね。この先も続けてほしいよね(笑)。

(会場笑)

谷中:そんな謙虚にならなくても(笑)。

高橋:半年では足りないわぁ……(笑)。

(会場笑)

やっぱり本当に、僕ら(日本食べる通信リーグに)は「社会を変えよう」という想いを持った人が集まってきているんですね。だから、スケールさせるためには、現実の社会に落としていかなきゃいけないわけです。その時に、非常に多くの学びと気づきと、僕ら自身も変わらなきゃいけないということで。まぁ気付いたのが最近なので、もう少し一緒に……。

(会場笑)

谷中:(笑)。江守さん、ひと言お願いします。今後もいろいろなご縁が続くと思いますけども。

江守:さっきも話したんですけれど、個々の人としてのつながりも続けていきたいですし。僕たちはやっぱり事業として、楽天の各事業の方々や、ほかの企業の方たちともっとつながっていきたいなと。そこも本当に進めたいと思っています。

谷中:はい。本当に、ご縁がますますご縁を生むというところがあると思いますけども。みなさんから温かい拍手をお願いしたいと思います。

(会場拍手)

日本食べる通信リーグのみなさんでした、どうもありがとうございました。