テクノロジー×デザインは、いかに経営に生かせるか

梅澤高明氏(以下、梅澤):たいへんお忙しいはずの小泉さんとアイスタイルの吉松さんも駆けつけていただきました。両社ともたいへんデザインマインドの高いことは外から見ても明らかにわかる企業で、かつ、それをテクノロジーと掛け合わせるかたちでここまで進化をしてきた企業、代表銘柄2社ということだと思います。

それから田川さんには、勝手ながら、パネリスト兼モデレーターの役をお願いしたいなと思っています。最近、政府の委員会として「デザイン経営」宣言というのを出したんですが、冒頭に田川さんからその概要を簡単にお話しいただいて、そのあとで議論に入りたいと思います。

最初にひと言だけ申し上げておきますが、ここで言っている「デザイン」というのは、プロダクトの外観をきれいにするという狭い意味でのデザインではなくて、ブランディングを司るとかイノベーションのイネーブラーになるという広い意味でのデザインを指しています。

さらに、G1でずっと言ってきたようにテクノベートの時代なんですが、テクノロジーを起点とするイノベーションがテクノベートだとすると、デザインは顧客を起点とするイノベーションの大事なツールでもある。そういう前提条件でここから先の議論をお聞きいただければと思います。

では田川さん、まず「デザイン経営」宣言って、なにを言おうとしているのか。お願いします。

「デザイン経営」における2つの軸

田川欣哉氏(以下、田川):では、最初5分ほど、少しガイドラインになるような話になるかなと思うんですが。デザイン経営宣言を、経済産業省と特許庁で、1年くらいはやりましたね。

G1からは梅澤さんと林千晶さんもお入りになって、僕も委員で入らせていただいて取りまとめをしてきました。

たぶんここの会場にお集まりのみなさまは、「企業の競争力とデザインはなにか関係あるらしいぞ」という感じを持っていらっしゃるんですが、「はたしていったいそれって何なのか?」ってことを1回きっちり決めてみようということで議論を進めてきました。

先週、経産省のページの上で宣言ということで公開をしたんですが、1つ大きく決めたのは、「デザイン経営」という言葉を今後使っていこうと。これまで「デザイン思考」とか、いわゆる「デザイナー」という話があったのですが、経営の力に直結するという意味でのデザインということで定義をしたところが、新しいキーワードになってくると思います。

例えば「技術経営」とか「○○経営」とよく言われますが、そういった意味合いで経営とデザインを紐付けて考えていくところが一番大きなものです。これは政府から宣言として出したということになるのですが。

じゃあデザイン経営とはどういうことを指しているのか。もう少しブレイクダウンすると、デザインと企業の競争力はどういうことで接続できるのか、これも梅澤さんはじめ委員のみなさんと議論をしているなかで、軸を2つ出しました。

1つは、デザインを一生懸命やっている会社というのはブランドの力が上がるでしょうと。これは比較的わかりやすいですよね。例えば無印良品、Airbnbもそうかもしれないですが、デザインコンシャスな会社というのは非常にブランドイメージが高いです。

2つ目が、イノベーションの力が上がると。イノベーションの力というのは比較的技術と紐付けられて考えられることが多いんですね。

テック・ドリブン・イノベーションとよく言われますが。技術とイノベーションというのはわかりやすいのですが、イノベーションというのは、実は言葉の定義としては、新しいものが生まれるという前半と、ものが生まれた後半でそれが社会浸透するというのがあります。

社会に浸透しなかったイノベーションってけっこういっぱいあるんですよ。例えばGoogle Glassはなんかワクワクしましたよね。「イノベーションだ!」って思ったけど、意外に使われなかった。じゃあなんで意外に使われないのかというと、社会浸透するところで、ユーザーに向き合っていないものだったりするわけですね。

なので、ユーザーの課題を解いていないとか、感じが悪いとか、使い勝手が悪いとか。そういったところがいわゆる摩擦係数を上げることで、技術のポテンシャルというのが意外に社会浸透しなかった例はたくさんあります。

デザインが入るとはどういうことかというと、このユーザー側の問題とか課題とか、いわゆるなにか求めていることをうまく汲み取って技術と接続することで、イノベーションの前段階と後ろ段階をパッケージして世の中に出していくことができるだろうと。これがイノベーションの力です。

なので、デザイン経営=イノベーションの力+ブランドの力ですね。この2つを上げることに寄与するだろうというのが、基本的には方程式になっています。

メルカリのデザイン経営の事例

梅澤:ここで1回、お二方に聞いてみたいんですけど、今言っているようなデザイン経営って、メルカリの場合はどういうふうに起こっていますか?

小泉文明氏(以下、小泉):すごい、田川さんのあと5分ぐらい聞いていたかった感じなんですけれども(笑)。

メルカリはサービスをローンチして5年でして、これまでのデザインであるとかお客さんに届ける考え方をよりシンプルに。これはアプリなので、デザインするというよりは、比較的シンプルにわかりやすく、誰でも使ってもらえるという、こういう構造で考えてきました。なので、比較的、引き算でありますし、余計なことをしないでおこうと。

これからのメルカリでの進歩を考えると、今、隣のセッションでメルペイの青柳さんがセッションに出ていますけれども、1つのサービスの中に複数のアイデアであるとかプロダクトの考え方を入れ込んでいくところでいうと、いわゆる逆の流れをしなければいけないよね、というフェーズに入ってきたかなと思っています。

僕はこのテクノロジー×デザインでいうと、やはり僕らのお客様に対する「こういうものを届けたい」という思いと、お客様がそれを便利だと感じてくれる、もしくは受け入れてくれる、このかけ算のところにどうやってテクノロジーとかデザインを入れていくかという話だと思います。

先ほど言ったように、シンプルから複雑化の流れがあるので。まさしく今までやっていたことは、プロダクトの中にデザイナーがいたんですね。なので、メルカリにデザイナーがいる、メルペイにデザイナーがいる、こういう構造だったんです。

横がまったく連動していなかったので、これを今、横の連動を作るために、CXOというエクスペリエンスのヘッドを作って、そこにデザインの力を集結させて、お客様から見たときにスムーズに馴染んでいけるような、そういう組織にしていこうという流れをし始めたところ。本当、今やり始めたといったところですね。

「R4D」を活用したイノベーション開発組織

梅澤:CXOというのは、大企業でよく使われるC○Oという意味ではなくて、Chief Experience Officerですね。だから、顧客の体験を統括するチームを作ろうと。

小泉:はい。なので、エクスペリエンスからの考え方なので、そこには当然テクノロジーの考え方も入りますし、デザインの概念も入りますし、いろいろな概念をそこに入れていくといった感じですね。

梅澤:ちなみに、今テクノロジーの話が出てきたので、テクノロジーはテクノロジーでも、「R4D」という別の技術を中心とした、たぶんイノベーション開発組織を作られましたよね?

小泉:そうですね。

梅澤:そことの関係はどのように考えていますか?

小泉:僕らR&Dの組織を「R4D」という4つのDで括っていまして、これの1つは当然Designです。次が……なんだ? Design、Development、Deployment、Disruptionかな。このDを取って「R4D」と言ったんですけども。

これは少し先の未来ですね。どちらかというと2〜3年先の未来で、大きく4つの領域AI、IoT、ブロックチェーン、AR/VRという、比較的僕らに近いところの2〜3年先の社会がどうなのかというところからの逆算をしていくというか、未来を創っていくのがR4Dです。

CXOであるとか、会社の中でやっている、どちらかというともう手間ですね、6ヶ月先とか1年先ぐらいのエクスペリエンスをどう設計するのかという。そういう役割分担でやってはいます。

梅澤:今あるプロダクトの改善であり、それから次に出すプロダクトの顧客体験の設計と。このあたり?

小泉:そうですね。はい。

梅澤:わかりました。ありがとうございます。では吉松さん、デザイン経営、アイスタイルにおいて。

アイスタイルは「マーケットデザインカンパニー」

吉松徹郎氏(以下、吉松):はい。アイスタイルにおいてデザイン経営。さっき田川さんの話聞きながら、小泉さんの話もそうですけど、逆に小泉さんが5年と言いましたけど、うち、ちょうど今年で20年目になります。

「@cosme」が20年、いわゆるコミュニティモデルで、僕たちは20年間同じことをやっているようで変わってきていますし、そのコミュニティを維持し続けられるプロセスがもしかしたらデザイン経営に近いのかなと思って聞いてました。

梅澤:マーケットデザインカンパニーと言ってるんですよね?

吉松:そうですね。アイスタイルはマーケットデザインカンパニーと言っているんです。その心にあるのは、僕がコンサルやってた時、やっぱり一企業ずつコンサルしていても変わらないんですよね。やっぱり変えるのはマーケットが大きく……プレイヤーも変わるじゃないですか。だから「僕たちがやっているのはジオラマだ」って僕よく言ってるんですよ。

梅澤:ジオラマ?

吉松:いわゆるプラモデルを作ってそれを少しずつやっているんじゃなくて、そこに並べてくるプレイヤーが変わってくるし、出てくる人たちが変わってくるので。全部を作っているのがアイスタイルということで、「マーケットデザインカンパニー」というすごいイメージを持ってやっています。

梅澤:たぶん「@cosme」はみなさんよくご存じだと思うんだけど、いろんな機能追加とかサービスの拡大とか、さらにはリアルへの展開とか、どういうふうにここまで積み上げてこられたのか、ざっとお話しいただいたほうがイメージ湧きやすいかなと。

吉松:そうですね。

@cosme、1999年からの歩み

吉松:「@cosme」の口コミサイトを最初に作ったのが1999年です。ここからの話でいいんですよね?

梅澤:大丈夫です(笑)。

吉松:すごい昔の話ですね(笑)。99年に「@cosme」を作って、当時はまだマスメディア中心でしたから、Webでのユーザーの声と変わらない。僕たちが最初目標にしていたのは100万人ユーザーを作ることです。当時ですよ。なぜかというと、雑誌ってせいぜい10万とか20万部、まぁ50万部超えたらいいので、その倍以上に絶対いこうと。

ところが、100万人を超え始めても、200万人を超え始めても、「@cosme、人気になっても売れないね」という声を聞くようになったわけですよ。『VoCE』『美的』など、ああいう女性誌の10倍以上になっているのに、広告費も変わらない。

(原因が)2つあって。やっぱりサイトの規模を大きくしようというメンバーもいながら、僕は「なんで売上あがらないんだっけ?」と言って目をつけ始め。その次にやったのは「やっぱりEコマースやってダイレクト販売やらないといけないね」ってなるわけです。

Eコマースを始めたのが2003〜2004年ぐらいからです。実際にはアフィリエイトは2002年から。2002年にやっても、当時はEコマースをやっている会社が少なかったので、自分たちで仕入れてやろうといって2004年。

それでもやっぱり変わらない。なんでだっけというと、実は店頭側で仕入れてくれないから売上あがらないわけですよね。仕入れデータに@cosmeとかWebで人気というのがぜんぜん反映されていなくて。

「 やっぱり何GRP出稿するかでの仕入れだからダメだな」と言って、店頭にトライし始めたのが2004年。2004年で小売店さんに仕入れデータを変えてくださいということで、当時、流通ですね、卸の会社のパルタック社に@cosmeのデータを届け始めて、変わらなくて、僕自身が店頭に立って什器作り始めたのが2005年。

そうすると、「POSデータが違う」「バーコード古い」なんか言われるようになってきたから、「あっ、これは根が深いな」と思って、2007年に「@cosme storeを自分たちで作るか」と言って作り始めたのがもう11年前になっています。という流れです。

@cosme storeを作ってもやっぱりそこで問題になって。いろんな問題が出てくるんですけど、大事にしたのは、例えば、僕たちは売ってない商品も並べるんですね。そうすると、お店からすると「棚が減るから顧客満足度につながらない」とか「売ってない商品が置いてあるというのは品切れと一緒だ」と言うんですよ。

僕は「違う」と。要は「それを試しに来て比較できることが価値だから」ということで、店頭は仕入れ原価と店頭回転……まぁ在庫回転率なんですけど、フリークエンシーとコンバージョンで店頭のKPIを全部変えたんですね。ネットと一緒です。

そうすると、しかも値引きをしないで定価で売ると。それがたぶんブランドにとってもいいんだってやり始めて、おかげさまで、いま日本で一番売ってる化粧品店舗は@cosmeになりました。

というかたちなので、たぶんそのKPIをどんどん変えていくというのは、必ずWebと一緒に。Webでみんなよく言うのが、「@cosmeで人気の商品を売ってるんでしょ?」とか「店頭から店頭への誘導でしょ?」じゃなくて、そのユーザーの声をいかに反映していくかということを徹底的に追求したお店をやりたかったというのが最初ですね。

顧客体験からビジネスモデルを考える

梅澤:そうすると、「@cosme store」はもう徹底的に、顧客が本来、求めているはずの買い場を作ろうとしたという感じなんですか?

吉松:そうです。男性はデパート行って、一番最初はやっぱり「なんで美白の化粧品、資生堂とシャネルとランコム、棚を変わらなきゃいけないの?」って思うじゃないですか。

これを小売店に提案しても、小売店さんは「販促費をもらっていてできない」って感じなんです。「それはできないのはメーカーから販促費をもらっているだけで、もらわなかったらできるんですか?」ということになると「ビジネスが成り立たない」になるので、「じゃあやってみよう」みたいな、たぶんそんな会話でしたね。

梅澤:ちなみにアイスタイルの場合、今みたいな顧客体験から考えての事業の拡張・進化みたいな話というのは、デザインも含めて開発の仕事はどういう体制でリードするんですか?

吉松:けっこうトップダウンに近いかもしれないですね(笑)。例えば、@cosme storeを最初立ち上げた時、取締役会で否決されたんですよ。要は、2006年当時は「ネットビジネスは、アセットを小さくして高収益モデルにしていくんだから」「これから上場に向かっていくのに、店舗というアセットを持つなんてぜんぜんおかしい」というので、いろいろ説得したんですけど、ダメで。

しょうがないので、僕はアイスタイルじゃなく、違う会社(をつくりました)。僕が個人でお金を出して、そこにベンチャーキャピタル連れてきて。1社だけというか、エンジェル投資家にお願いして。別で作って、3年ぐらいして「ほら、うまくいったでしょ?」でくっつけてから上場しました。

だから「これ、コンセンサス取ってると絶対うまくいくわけないな」というのは僕の中で思って、ある意味そこはトップダウンでやりました。

梅澤:なるほど、なるほど。