お肉博士・本多壮一郎氏のLTがスタート

本多壮一郎氏(以下、本多):それではよろしくお願いいたします。今ご紹介にもありましたが、私は「ホンダソウイチロウ」という名のとおり、ホンダの創業者とまったく同じ名前でして。「もっと壮大になってほしい」ということで、母親が「壮大」の「壮」という漢字をあてたというのが僕のルーツでございます。

ファームノートは、いわゆる農業ITなんですが、現在は酪農、畜産という牛の現場にITを入れるということをやっていて。個人的になんですが、昨年「お肉博士」という資格を取りました。なのでお肉のことに関して、聞きたいことあればなんでも聞いてください。

あと、僕はずっと野球をやっていまして。だからこんなに黒いんですが、大谷くんにすごく触発をされている今日この頃です。……というところで、私の自己紹介とさせていただきます。

ファームノートのビジョンは「世界の農業の頭脳を創る」

僕のバックグラウンドはマーケティングでして、前職も完全にモノ売り(消費財と機械)のプロダクトマネージャーでした。

ファームノートでは、今、執行役員のプロダクト戦略/開発担当として、いわゆるプロダクトマネジメント、UXデザイン、そしてエンジニアのマネジメントをやっています。

今日のイベントはファームノートでスポンサーをさせていただいて、みなさんの資料の中にも少しカタログと、あとシールを貼っているので、よかったら使っていただければと思います。

我々は、「世界の農業の頭脳を創る」というビジョンを掲げて、世界で最も生産データを集めて、誰もが同じ品質で農生産できる世界を目指したいという志をもとに活動しています。

我々は今、3つの製品をプロモーションしています。牛群、牧場を管理するクラウドのシステム「Farmnote」と、人工知能で牛の異常を知らせるIoTセンサー「Farmnote Color」。僕が着ているTシャツも、まさにこのブランドです。

あと、誰でも使えるような牧場の繁殖管理をスマホアプリで提供しようということで、「Farmnote Breed」。3つの製品を今、実際に現場に配信させていただいている状況です。

ファームノートは「2050年の食糧危機に立ち向かう」という大きな志を持って、世界が食糧危機になる上で環境に左右されない農業のあり方を模索しながら、いま現状では「牛」にフォーカスを当てています。世界を見て、我々にできる農業のあり方とはなんなのかというのを、Web技術・ITの力で変えていきたいと。そんな志を持って活動している会社になります。

プロダクトマネージャーとして本質を見抜くためには、なにが必要なのか

それでは本題に入っていきたいと思います。ちょっとB to B的なんですが、「プロダクトマネージャーあるある」ということで。

例えばセールスの人から「ユーザーの〇〇さんから、先日この機能に関してこういうふうにしてほしい、って要望が上がってるんだよね。確かに言っていることが大事だってわかるし、そうしたほうが良いよね」と、言われたとします。

すごくレベルの低い回答かもしれないですが(笑)、「その機能ですね。たしかに言っているとおりですね! そしてお客さんが〇〇さんだったらなお重要ですね」と。「けっこう簡単に変更できるんで、ちゃちゃっと変更して次回リリースに入れちゃいますね!」というような回答をします。

そうなると社内的には、セールスとして「ありがとう!」、プロダクトマネージャーとして「どういたしまして!」と見られます。一見、最高の関係ができたように思われるんですが、これはすごく落とし穴がある回答だと思っていまして。

今日はこうした日々のやりとりから発生する、大きな落とし穴に対する考察と、プロダクトマネージャーとして本質を見抜くためになにが必要なのかを私見から紹介させてください。

自分よりも顧客のほうがすべて正しいと思ってしまう罠

先ほどの会話の1つ目、「たしかに言っているとおり、〇〇さんが言っていることなら重要! ちゃちゃっと変更してやっちゃいましょう!」というのは、要するに課題があやふやになっていて、目の前にポッと出てきた課題を解決することがプロダクトマネージャーとして重要なんだ、といったところにフォーカスがいってしまっていると。僕はそれを「Howフォーカス」という呼び方をしています。

プロダクトマネージャーの立場にいると、そもそも「自分がなんでこの機能をリリースしたのか」「なんでこれをやろうと思ったのか」というのを、わりと見失いがちなのではないかと、自分の経験からもけっこう感じています。

まず「たしかに言っているとおりですね!」というのは、リリースした際の解決したい顧客課題を、もう自分が見失っていると。自分よりも顧客のほうがすべて正しいと思ってしまっています。

我々が顧客を「課題を定義するソース」として活用するという意味では、非常に重要だと思うんですが、そこから出てきた解決策や提案に対しては、アイデアやヒントでしかないということを、よく理解しておかなければいけない。

図に表すと、そもそもたぶん課題はたくさんあるんですよね。最初はなにかの課題を解決しようと思って始めたことなのにも関わらず、セールスに言われたことでポッと頭の中の課題が切り替わってしまって、その解決策に走ってしまうと、けっこう大きな落とし穴があるのではと考えてます。

顧客の定義が曖昧だと、短絡的に判断してしまいがちに

2つ目ですね。お客さんの顔を思い浮かべて「この人が言っていることなら重要だ!」「これくらいの年代の人たちが言っていることなら重要だね!」と思いがちなんですが、1歩留まりたい。戦略方針もそうですが、本当に優先度が高いのかどうか、そのあたりをプロダクトマネージャーとしてある程度理解しているかどうかが大事です。

よくある話だと思うんですが、「顧客」というものの定義がめちゃくちゃ曖昧になってしまっている場合に、そういうかたちですぐ反応してしまったりします。ここを常に説明できる意識を持たないと、プロダクトマネージャーとしてはオーナーシップが発揮できないかな、と自分では感じています。

最後に、「ちゃちゃっと変更して次回リリースに入れます!」というところ。社内の満足度向上のために短絡的に決断してしまう可能性があります。重要ではないとわかっていても、なにかしらの恐怖で「さっさとやってしまったほうがいいや」と思ってしまうとき、その決断の延長には「信頼」につながる部分があるということを意識したほうがいいかなと考えています。なので、「効果的かどうか」というのを考えるべきだと考えています。

セールスの「頼みました!」に対して、プロダクトマネージャーとしてはゴルゴ13みたいな気持ちで「やってみよう」となるんですが、結局売上は上がらない、お客さんの課題は解決できない、というようなジレンマに陥ってしまう。そういうことが自分も経験としてありました。

どれだけ「Wow!」の感情を得られるかを基準に考える

そこで「なぜそれをするのか」を定義づける力が、プロダクトマネージャーとしては必要だと思っています。お客さんの顧客課題、戦略、そしてビジョンというところに加えて、「なぜ今これをやっているのか」をしっかり見極める力が必要だと考えています。

方法論はいっぱいあるんですが、今日は2つの方向性として話をしたいなと思っていて。1つ目は、定量的アプローチですね。とくに(B)to Cの人たちは数字とか細かく見て、お客さんの課題を数値化したり、自分たちがやったことの数値化はできていると思うんですが。我々ファームノートは、牧場から数値を得ることはすごく難しくて。今取り組んでいる方法を、今日は共有します。

定量的アプローチとして、まずカスタマージャーニーマップを作って、そこでお客さんの課題がどこにあるかという仮説を立て、それに対して定量的なヒアリングが行えるように、ヒアリングシートを作ります。結果、僕らが実行したいと思っている解決策の定量的な評価も別途作ります。

要するに、課題と解決策に対するヒアリングを定量的に行うことによって、今お客さんが抱えている課題に対して、僕らがやろうとしている解決策がどれくらい「Wow!」という感情を掴めるをちゃんと掴む必要があって。「どれくらいの『Wow』が得られるんだったらやろうよ」というような基準を作ってやるというのは、非常に重要かなと考えています。

定量化の落とし穴

もちろん時間や回数で数字の事実を集めるんですが、すごく注意しなければならないことがあります。例えば「病気の兆候がある牛を発見する頻度を教えてください」というとき、発見するという行為自体の回数を聞くことはいいと思うんですが、「一日にどれくらい牛を観察していますか?」みたいな質問をしたときの「観察」の定義は、たぶんお客さんごとにぜんぜん変わります。

観察の回数を聞けても、お客さんごとにその定義が違えば、聞けた内容からなにを導き出せるのかはぜんぜん変わってしまうので。「定量化するということにも落とし穴がある」ということは、けっこう意識してやっているところです。

そして最近は、この「定量的評価」を元に判断する会社って増えていると思うんですけど、課題と効果を数値化するのはちゃちゃっとやっちゃいたいのに、時間がかかってしまうケースも少なくありません。僕がプロダクトマネージャーとしてもう1つすごく重要だと感じているのは、「仮説をする力」をどれくらい持っているか、ということですす。

仮説の精度には、いろんなファクターが混ざってくるとは思うんですが、自身が持っているこれまでの経験と情報量というところが、前提になってくるのではないかと思っていて。

この情報量に対して、まず大切なのは1次的な情報収集ですね。自分がお客さんの体験をどれくらいしたことがあるか、もしくはちゃんと理解しているのかというのがけっこう重要だと思っていて。勉強するとかだけでなくて、お客さんの体験をしている、知っているという情報が非常に重要だと思ってます。

情報を知りすぎると解決策が生まれなくなってしまう

僕はまず、北海道で牧場研修をしたり、九州の和牛の農家で牛を追っかけまわしたり、というような、1次的な研修をしました。今も世界を前提に海外の牧場を視察したりと、1次情報収集する作業は続けています。

それ(1次的な情報)に付随した2次的な情報収集(本や文献、他人から集めた情報など)をすることによって、ユーザーに価値が提供できるようになってくると思っています。ただ、やはり情報を知りすぎると解決策は生まれなくなってしまうので、全部知ろうとするわけではなくて、うまくバランスをとることが重要かなと思っています。

そうした情報を収集しても、優れた仮説、いわゆる仮説の精度や期待に応えるのは不十分です。僕はそこにマーケティングの力が必要だと思っています。マーケティングにもさまざまなタイプがあるので一概には言えないのですが。いわゆる調査や定量評価によるサイエンスから導き出すマーケティングができることは素晴らしいのですが、それには専門的人材や経験、そして時間がどうしても必要です。

組織として、すでに仕組み化されていればいいと思いますが、スタートアップであればプロダクトマネージャー自身がどうにかしなければいけないということは多くあると思います。そんな時に有効なのが、持っている情報をいわゆるシンプルなマーケティングフレームワーク(外部環境分析PEST、STP、SWOT、4P)に当てはめてデータを整理し、仮説を立ててみるということです。これはおそらく誰でもできます。

プロダクトの「Why」「What」に責任をもつプロダクトマネージャーがすべきこと

そこからバリュープロポジション、いわゆる提供価値の仮説を立てたり、顧客のインサイトを予想したりと、プロダクトマネージャー自身で仮説を立てていく過程で常に試行錯誤して精度を高めていくってのか理想だと思います。ちょっと時間がないのでここは端折りますが(笑)。

またマーケティング活動は一度やったらおしまいではなく、市場が変わっていく流れで、それぞれを何度も繰り返していく必要があります。それを、無数にある理論にあてはめてたり、情報を集めて実践する。興味がある方はぜひ学んで実践してほしいです。

プロダクトの「Why」「What」に責任をもつプロダクトマネージャーだからこそ、日頃から本質的課題と向き合う姿勢と手法持って、それを社内外に発信していく力を身につけていくことが、結局価値を最大化させることに繋がると思っています。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)