アート作品は「非常に投資効率がいい」
芸術のプロたちが語る、美術館の価値

パネルディスカッション #3/3

2018年11月30日、文化庁が主催するシンポジウム「芸術資産『評価』による次世代への継承─美術館に期待される役割─」が開催されました。人口減少と超高齢化社会が進行する日本では、美術品などの芸術資産の活用と次世代への継承が極めて重要になってきています。そこで、文化・芸術資産の活用の重要性、価値評価を高めていくための方策、今後の美術館の在り方などを議論するシンポジウムが行われました。パネルディスカッションでは、アートコレクター岩崎かおり氏、東京大学大学院 准教授・加治屋健司氏、建築家・田根剛氏、彫刻家・名和晃平氏、京都大学大学院 准教授・柴山桂太氏らが日本のアート市場の問題点を議論します。(撮影:古澤龍)

提供:文化庁

展示品をネット公開することで起きる変化

加治屋健司氏(以下、加治屋):少し話が変わりますが、パブリックドメインの話がありました。最近、ニュースで非常にいい話だなと思ったのですが、愛知県美術館が所蔵作品のうち、パブリックドメインに入った1,200点以上の画像をネット公開しました。

こういう動きが広まっていくと、研究するほうもやりやすくなると思うんですね。MoMAは、1929年開館から最近までの展覧会カタログをPDFにして、オンラインで公開しているじゃないですか。

それまで、研究者はカタログをいちいち買って、海外から送ってもらっていたので、すごく時間がかかっていましたが、それがすごく簡単になる。プレスリリースや関連資料もPDFになっている。

イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館の中に国立美術図書館があって、そこに行くとコピーではなくブックスキャンができるようになっていて、USBを持って行けば、無料でPDFにできるんですね。

美術館や図書館が研究をすごくサポートしているので、(芸術資産の評価には)さまざまなものが関わっているという印象が強いですね。

青柳正規氏(以下、青柳):おっしゃるとおり、今日本でネックになっているのは、例えば東京国立博物館の100パーセント近くの展示品は著作権が切れているわけですよね。作られたのがだいたい、一番新しいものでも明治時代くらいですから。

それだと著作権がないわけだから、パブリックドメインにしようと思えば全部できるわけです。ところが東京国立博物館は大日本印刷と組んで、誰かが「写真を使いたい」と言うと「特別観覧」ということで、5,000円や7,500円といった一定の料金を取るわけです。

今は知りませんけど、それを始めた約7、8年前のときに、初年度でだいたい7,500万円入ったというんです。これが東京国立博物館にとっては大きな財源になってしまったので、今でもなかなかパブリックドメインにしていかないんですね。

日本の美術館でのトップにいるところがそういう状況なので、なかなか広がっていかないんですよね。しかも法隆寺や東大寺などは著作隣接権(を有しているかのように振る舞っていて)で、もう著作権はないんだけど所有しているということでの力関係で撮影料を取るわけですね。

いいものがいい状態で、つまり超高精細などで広がることを絶っているんですよね。これをどうにかしなくちゃいけない。いろいろな議論が出てきていますが、そういう著作権に関するようなことと、パブリックドメインなども大いに議論していかないと、マーケットの拡大にはつながらないことが、今までのお話でも言える気がしています。

例えば、国立歴史民俗博物館が、20年くらい前にすばらしい洛中洛外図を手に入れました。だけど千葉県の佐倉まで行くのは大変なので、インターネットで見てみようと思ったら、(画質が)モヤモヤのものしか出てこないんです。「どうしてちゃんと高精細で出してくれないのか?」と言ったら、「自分たちの研究が終わって、ちゃんと全部調べることが終わったら高精細で出す」と言うんですね。

これはまったくの誤りです! 今は双方向で一般の方々が「これを見たんだけど、ここのところはこう解釈しているけど違うじゃないか」なんて意見が入ってくると、それを研究にまた使えるんですよね。そういう双方向のアクティブでダイナミックなやりとりが日本の知的な、あるいは美術などの世界では非常に欠けているんじゃないかと思っています。

投資対象としてのアートの価値

青柳:そろそろ時間なので、最後にみなさんから一言ずつ、なんでも言いたいことを言ってくださってけっこうです。すみませんが、柴山さんから2、3分ずつよろしくお願いします。

柴山桂太氏(以下、柴山):私はしゃべったので付け加えることはないんですけど(笑)。議論を聞いていると、名和さんがおっしゃった、日本の重要な作品が残らないことはけっこう深刻な問題なんじゃないかなと思って。市場原理を導入すると、下手をすればますます残らないんじゃないかという気もするんですよね(笑)。どんどん向こうのほうが持っていますからね。

そうすると、単純に市場の仕組みを導入すれば、真に日本に残すべき財産が残るわけでもない。もしかすると市場原理が導入されると、日本の優秀なアーティストはどんどん海外に行っちゃうかもしれないジレンマがあるのかなという気がして。

もっと市場の動きを活発にするなど、評価軸を作ることも挙げられますね。これは政府がやるべきなのかわかりませんが、一定の保護の仕組みも同時に考えなきゃいけないと(いうことを)、ちょっと発見というか気づきとして得ました。

岩崎:美術館のところでなにも言えなかったので、美術館の件なんですけれども。おっしゃっていたように、美術館ももっと積極的に経営として考えるべきだと思っています。

プロモーションから考えて、どうすれば国内外のパブリックの方に伝達ができて認知されて、それだけではなく来てくれた方に対してどういう反応であったか、またリピートしたいと思ったかまでアンケート等を取って、顧客視点でどう改善していくか、PDCAを回して、いい状態にする努力も必要だと思っています。

「国内外から絶対に行きたい日本の美術館はここ」という場所があれば、観光収益にもつながりますし、その末は美術館は単なるコストだけがかかるものという意識が薄れ、将来の日本の国力や観光収益源、日本のブランディングに繋がるという意識にも変わってくるのではないかと思います。。そういう新しい美術館を作っていくべきかなと思っています。

あとは、みなさんもよかったらアートを買いませんか?(笑)。ちょっと意識を変えてみて、アートは見て楽しめるだけでなく、投資効率も実はすごくいいんです。沢山の作品を見て、ある程度の作品を間違いなく買うことによって、目利きをすることによって、(価値が)上がっていく作品がありますので。美術館に見に行くことも良いことですが、好きな作品を身近に感じながら資産としても魅力あるものと、ちょっと考え方を変えてみませんか? というのが最後の一言です。ありがとうございます。

加治屋:先ほど名和さんからインスタレーションの購入というお話がありましたが、今英米の美術館だとパフォーマンス作品も購入対象になっているんですね。

従来だったらアーティストがパフォーマンスを行っていたのに対して、最近は第三者が行うパフォーマンスが主流になってきている。そうすると指示書、インストラクションがあれば美術館は購入できるようになっているんですね。

また、いわゆるメディアアートは実は収蔵が難しい。パーツを入れ替えて動態保存していかないと、メディアアートは動かなくなるんですね。例えば、MoMAに古橋悌二さんの「LOVERS」という作品があって、それに私も少し関わっていたんですけれども、数年前に大幅に機材をリプレイスしています。

東京国立近代美術館は、最近再制作の作品を購入するようになりました。美術作品に対する考え方が変わってきたと思います。絵画も彫刻も重要なんですが、それ以外のものもますます重要になっていくと思いますので、そうしたもの(の評価や収蔵)にも目を向ける必要があるんのではないかと思いました。

それからもう1点。みなさんもご承知だと思いますが、東大(生協)が宇佐美圭司さんの作品(『きずな』)を廃棄したというニュースがあったので、このシンポジウムのタイトル「芸術資産『評価』による次世代への継承」を見たとき、これは「東大のことじゃないか」と思ったんですね(笑)。

これ(芸術資産の継承)は、美術館だけではなくて、大学やアーカイブ、批評や研究、コレクターやマーケットなど、さまざまなものが関わる問題ですので、そうした複合的な状況に対する政策が望ましいのではないかと思っております。

能力ある若手のアーティスト発掘を

田根剛氏(以下、田根):こちらは若手で怒っているというような話ばかりだったんですけど(笑)。なんとなく言い方が難しいですけど、日本の経済としてはお金があるんだけど、なんでここに使えないかと言うと、すごく貧乏くさいんじゃないかと結論づけちゃいけないんですが(笑)。

使い方として、「投資をしたら返ってこなきゃいけない」「使った分だけ、これがいくらの価値があるか」というように、そこの数字ばかりを気にしていて。先ほどちょっと立ち話していたときも、作品を買うことは自分の満足度だったり、喜びがまず前提にあって、「それがいくらする」「その価値がどうだ」ということでもないところに前提があるんじゃないかと。

それが時間を経ることによって財産になっていくし、もしかしたら経済的な価値があるんじゃないかというところを大事にしなきゃいけないんじゃないか。研究においてもどんどん研究されるからこそ、そのものが前提なので信用としての価値だったり、その研究によって文脈が付いたり、歴史に残ったりすることによって、それが信頼に変わっていくところが(あると思います)。

(そうした研究を)するべき美術館もやはり職員が少ないです。展覧会の会場構成をすることもたまにあるんですが、学芸員の方1人に対して、新聞社さんがいるんですけど、新聞社さんの方のほうがぜんぜん多いとか(笑)。

そうすると、研究をする方が美術館にいるのに、事務職員のように事務作業ばかりしていて。研究や価値を高めていったり発信していかなきゃいけないという、美術館の本来あるべき役割が、逆に処理していくほうに向かってしまうというところもすごく大きいんじゃないかと思っていまして。

それはこの仕組み自体を見直さなければいけないというタイミングかもしれないし、もっと発掘すべき若手がすばらしいチャンスを得るべきです。建築でもすごく若手がいるんですが、今チャンスがほとんどない。

そこも若い人に対して心配してリスクばかりを気にしてしまう現状に対して、もっと大胆になること。そういった思いを取り返していかないと、たぶんかなり厳しいということを感じています。

「50年・100年先の未来」を考えるべき

名和晃平氏(以下、名和):僕も言いたいことがありすぎて終われないんですけど(笑)。こういう議論が起こることはすごく大事で、具体的に変わってほしいですね。本当にインフラから変えるチャンスだと思うんですよ。

これだけいろいろな問題点が同時に出て来てしまって、みんなが「それが問題だ」と実際にリアリティとして感じている状況なので、今が本当に「チャンスかな」と思うんですね。

美術館で言うと、この国立新美術館もそうですけど、今ある美術館がちゃんと美術館になるということを、まずすべきかなと思います。

もしこれから新しい美術館を作るとしたら、ちゃんとした美術のアーカイブという機能と、コレクションしてギャラリーともちゃんと手を組み、ギャラリーはアーティストをちゃんと抱えて。

そういうふうに全体がつながったオーガニックな意味でのシステムができあがるような、都市の中に芸術というものを根付かせるための仕組みを、ちゃんと考えてやるべきかなと思うんですね。

箱だけを作る予算組みをするから、その予算を安全に使おうする役所的な発想でソフトランディングに終わってしまうんですけど、箱だけを作るのではなく、「50年・100年先の未来をどう変えるか」という発想でやっていただきたいと思うんです。

去年、上海で個展をしたんですけど、10年くらい前は、現代美術だったら北京がアートの中心だったんですね。今は上海に移っているんです。

その理由は、ウエストバンドというエリアを中国の政府が50年計画で芸術の中心にしようということで、そこに10個くらい美術館をいっぺんに作っているからなんですね。そのくらい大きな都市計画としてやっていかないと、抜本的には変わらないんじゃないかなと思います。

冒頭にも言ったように、僕が美大生のころからずっとみんなが同じことでブツブツ文句を言っていて(笑)。だけど、美術作家は自分の作品に集中しないといけないから黙って作品を作るんですけど、作品のことを考えるとやはり黙っていられないなと思います(笑)。なので、ぜひみなさんよろしくお願いします。

美術も「シームレスな社会」を目指す

青柳:ありがとうございます。もうみなさんのご意見を聞いたので、私がまとめる必要もないと思うんですが。

我々の美術界が、端的には市場が大きくなるような、もっと充実したような、もっと一般の方々が美術を楽しめる機会を増やすようにするにはどうしたらいいのかというときに、やはり鑑定や評価をしっかりしていくこと。

それから広報というか、その中できちっとした価値付けとしての美術品、あるいは美術評論家たちがしかるべき活躍をしてもらうということ。

それからシステムとしては、例えばJリーグが地域おこしとしてのサッカーというシステムを作っているように、やはり日本の美術館も国立、県立、市立、私立がありますが、ネットワークをどう持ったり、どう連携するか。そして、それが地域おこしとどう関連するか。あるいは国立であればもっと先導的な、主導的な、美術そのものをどう提示していくか。

これらをそれぞれの特質において、仕事を分けて棲み分けをしてやっていくかを全部ひっくるめると、現代社会がその前の社会と……例えば昭和と平成がどう違うのかと言ったらどんどん、どんどんシームレスな社会になっていっています。

シームレスは何かと言うと、例えば3.11のときもそうですが、神戸(阪神大震災)のときもかなりありましたが、以前は罹災者と罹災していない人がはっきり分かれていたわけです。ところが、この中間にボランティアが入るようになって、罹災者と罹災していない人がつながるようになった。

それから、絶対的に分かれている男女というセックスも、以前は男と女しかなかったのに、今はLGBTということでつながりだしているんです。あらゆるところがつながっている。それから健常者と身障者、障害がある方が分かれているが、一般の人間で健常者でも80、90になると年齢として身障者のほうになっていくんです。

すべてがシームレスになりつつある。おそらく100年後には昭和と平成が違うのはシームレスな社会が実現したからじゃないかというようなことが評価されるんじゃないかと。

美術館も、美術の中にいる人も外にいる人もどんどんつながっているし。作る人と鑑賞する人、コレクターもいろいろな人が出てくることによってつながりが出てくるんじゃないか。

そういうシームレスな社会に仕上げていけば、みんなで同じ方向に向かっていく。そうすれば美術という世界ももっと活気があり、規模も大きな充実したものになるのではないかと思います。まずいまとめで申し訳ございません。今日は本当にありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:ご登壇者のみなさま、ありがとうございました。お時間となりましたので、以上をもちましてパネルディスカッションを終了させていただきます。

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