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テクノベート時代を生き抜く力とその育て方(全4記事)

「稼ぐ力」は中高生から養える 第一人者と考える、お金に関する教育の是非

グロービスの経営理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を継続的に提供することを目的とした招待制のカンファレンス「あすか会議2018」が、2018年7月7~8日に開催されました。8日に行われた分科会E「テクノベート時代を生き抜く力とその育て方」には、こうゆう 花まる学習会・高濱正伸氏、ライフイズテック・水野雄介氏、リクルート・山口文洋氏、ベネッセ・福武英明氏が登壇。日本の成長のカギを握る教育について、識者たちが語り合いました。

忙しくて子どもと過ごす時間がない

福武英明氏(以下、福武):質疑応答ということで、できるだけ多くの方の質問を受けたいと思います。質問したい方はどれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

多いですね。では、簡潔に質問を言っていただいて、あとは誰に聞いてみたいかも言っていただければと思います。

司会者:では、マイクを順番に回しますので、みなさまお願いします。

福武:みなさん答えたい質問に答えていただくか、指名されたらぜひ答えていただければと思います。

質問者1:ありがとうございます。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

私たちはGLOBISで週末などの空いた時間を使って学びをしています。子どもにいろんな経験をさせることが重要だとわかっているのですが、やっぱり自分が忙しくて子どもと過ごす時間が取れない悩みがあります。大人が時間が取れないことに対してどのようにしていけばいいか、アドバイスがあればお願いします。

福武:ありがとうございます。では、次の方。

質問者2:ありがとうございます。では、手短かに質問させていただきます。昨今、ダイバーシティ・インクルージョンということがあります。一方で、子どもの教育を考えたときに、結局、親よりも外部環境や学校の環境の影響を受ける部分が多いと思うんです。ですが、学校の先生がそういう環境の変化についてこれていないと感じているんです。

それに対して、ここに集まっている志の高いGLOBISの人たちが取れる行動とは何かを考えたのですが、みなさんはどう考えていらっしゃいますでしょうか?

福武:ありがとうございます。この人に聞いてみたいというのがあれば、言っていただければと思います。ありますか?

質問者2:あえて山口さんに。

福武:はい。ありがとうございます。

質問者3:どうもお話ありがとうございます。山口さんか高濱さんにお答えいただきたいのですが、先ほど山口さんのお話の中で「幼年期のうちにwillを育てることが大事だ」ということがありました。それに対して親や周りができることを、もう少し詳しくお聞かせいただきたいなと思いました。よろしくお願いします。

福武:ありがとうございます。

お金に関する教育がタブーとされる現状について

質問者4:私も山口さんに質問です。2011年、2012年、「スタディサプリ」を出されて、すぐに100万人会員になったと思います。当時、高校講座といえば進研ゼミがシェアNo.1でしたが、逆に進研ゼミの会員数が半分に減ってしまった。明らかにデジタルディスラプションを起こされたと思うんです。

ただ、進研ゼミはデジタル化できなかったわけではなくて、デジタル改革しようと思っても、顧客がiPadを使わせたくないとか、そういったかたちでデジタル改革できない状況だったと思います。そこにうまくリクルートさんが入り込まれたと思うのですが、逆に山口さんがベネッセさんの立場だったら、どんな戦略をとられたかをぜひ聞かせていただければと思います。

福武:はい。ありがとうございます。対ベネッセ戦略ということでよろしくお願いします。

(会場笑)

質問者5:高濱さんにお聞きしたいのですが、公立の小中の役割についてです。多様性という意味では、やっぱり公立が一番いいのかなと僕は思っているのですが、一方で先生のなり手がいないなかで、やっぱり先生の質が低いという問題もあります。多様性以外になにを公立に対して求めればいいのか、ぜひお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

福武:ありがとうございます。

質問者6:山口さんにご質問したいと思います。「何をやりたいか」を問われ続けると、なかなかそれがうまく表現できないときにwill(やりたいこと)じゃなくて、ついついmust(やるべきこと)を書きがちになるかと思うんですね。それに対してどのように働きかけるといいのかを教えていただければなと思います。

福武:じゃあ次の方で最後です。

質問者7:お話ありがとうございました。聞きたいテーマがあるので、お得意な方に答えていたければと思います。私、公認会計士をしているのですが、今はお金に関する教育がすごくタブー視されていますよね。拝金主義がダメだとか、稼ぐことがいけないことみたいなことに対して、もっと教育を変えていきたいなと思っているんです。

人生100年時代の中で、私たちが子どもの頃にそういうことを習わなかった中で、どうやってそこを上書き保存していけるような教育ができるでしょうか。そういったアイデアがある方がいらっしゃったら教えてください。お願いします。

福武:ありがとうございます。

現代において「良妻賢母」は幻想だった

福武:じゃあ最初に高濱先生のほうから。

高濱正伸氏(以下、高濱):言えるだけ言いますね。まず、(自分のメモを見て)自分の字が汚くて読めないという壁に……。

(会場笑)

(質問の中で)働くお母さん論的なやつがありましたよね。忙しくて時間がない。確かにGLOBISへ来るお母さんは典型的にそうだと思うのですが、実は働くお母さんだからできることについて、もう1冊書き上げているんです。4〜5年研究したんですよ。

やっぱり我々もまったく良妻賢母幻想、「お母さんは家に待ってて『ただいま。おかえり』って言うべきだ」みたいもので育った人間です。ところが、現実にはまったくそうじゃないということが見えてきたんです。

なにが必要な要件かと調べたのですが、やっぱり時間がない、忙しい、それがどっちも中途半端になっている自分的なところで悩んでいたりするんですね。子どもの言い分を集めると、実はこのことだけに答えると、一生懸命なお母さんであるだけで必ずいいことが起こっています。

「時間がない」というのは、例えば、誰でもいい、ピクスタの古俣(大介)君という社長がいますけれども、彼のお母さんは働くお母さんだったと言っていました。お父さんが1回仕事を失敗したんですね。これは書いてあることなので、言っても大丈夫なことです。

そうすると、お母様が仕事を1つ起こして、毎日夜20時に走って帰ってくるんですね。弟と2人でずっと待ってるんだけれども、帰ってくるお母さんの足音を弟とどっちが最初に聞くか、足音が聞こえたら「お母さんだ!」と言う。その走ってくる足音を聞くたびに「ああ、俺たちのために走って帰ってきてるわ。お母さん」と思う、それがすごい自信になりました、と言うんです。

これは1つどうでしょうか。子どもはそこを見てますよ、ということです。(子どもと接する)時間の総量ではないんですね。

もう1つ言うと、1日5分でいいので、19時50分になったら「お兄ちゃんおいで」と、55分には真ん中の子、20時には下の子みたいにして、スキンシップの時間を、心がけじゃなくて予定にしてくっつく時間をつくってあげる。現場感として、これはけっこう効きます。これは(会場のみなさんへの)おみやげです。

放置された時間で、人間は一番育つ

高濱:それから、幼少期のwillは僕のほうでは答えは出ています。もうまさに「無限キャンバス論」ですけれど、異学年で異性込みで、できれば自由な外遊びですね。自由に外へ出て、ずっと放っておけば、必ず子どもたちは遊びを開発するんですよ。

ところが「次はこれ。次はこれ……」の中で生きていると、やっぱりそれは育たないですよね。ある程度放置された時間で人間は一番育ちます。でも、今はそれをキープするのが難しい時代なんですよね。だからわざわざ都会の子たちを(サマーキャンプなどに)連れていっているんです。

それから公立の小中の役割はシンプルで、いま日本の教育はある程度良いと言われるのは、本当に公文とかベネッセとか駿台があったからなんです。いろんな民間教育がなかったら、塾とか予備校とかがなかったらどんだけ低いんだ、というのが日本の教育なんですよ。

実は民間教育がめちゃめちゃ支えていて、あらゆる細かいところで、ここにニーズがあると思ったら、ダーッと誰かがつくって商品化するんです。うちもその1つだと思いますけれども。

問題は、お金のない子が来られないんですよね。僕はずっとそこに問題意識があって、公立に15年間関わっているのもそのためです。全体の底上げとか、そういう意味でベストな教育をもう1回公立に取り戻すというのが重要だと思います。

お金がなくてもある程度の勝負のところまでは行けて、そこから先は奨学金なりなんなりで行けるんだけれど、その最初の頃の部分はやっぱり公立でカバーするしかないなと思います。

公立小改革のポイントは、今日はこれ以上言えませんけれど、政治マターだと思います。仕組みさえ変えれば今の先生で大丈夫なんですよ。悪い人は1人もいないんです。でも、汲々(きゅうきゅう)として追い込まれて心を病む職業になってしまっているから、そこをちゃんとつくっていければ大丈夫だろうと思っています。

あと、お金教育のことはもう答えは出ています。3年生ぐらいまでは、僕はお小遣いはいらないぐらいだと思っています。つまり、そこまでで重要になるのは動物的な我慢なんです。欲しくても欲しくても手に入らない。「仕方ねえや。お母さんケチだから」と思いながら、明日になったらもう忘れて次の遊びに行くというのが子どもだと思います。

そこの基礎経験としては、我慢経験が重要です。高学年になったらまさにお金教育、金融とかを含めて教え始めてもよいと思っています。というふうに理解しています。以上です。

福武:はい。ありがとうございます。じゃあ、水野さん、答えたい質問をお願いします。

水野雄介氏(以下、水野):あの、でも山口さんのほうが……。

「稼ぐ力」は中高生から養える

福武:じゃあ、最後に山口さんに締めていただきましょう。

水野:ああ、そうですか。僕なんかありましたかね?(笑)。

福武:お金に対する教育はどうでしょうか。

水野:なるほど。じゃあ中高生のところで、お金教育がすごくうまくいっているなと思う事例のことだけお話しさせていただければと思います。自分で稼ぐ経験をしている子は、そこから大学生になったり社会人になったりしたときに、そういう稼ぐ力がついているパターンが多いですね。

例えば、僕らのところだとアプリをつくったりするんですけれど、アプリに最後広告を入れるかどうかで、入れるやつがやっぱりいるんですよね。入れると月1,000円とか500円とか、クリックしてくれる人がいるので、そこで稼いだりできるんですよ。

そういうのを知らない子もいるのですが、でも、教えてあげて、そこで自分のところに口座に500円入っていたりするとうれしいんですよね。しかもそれが1万円とかになって自分のスクール代が稼げたりしたら、親もすごく感謝してくれるし、みたいになるんです。

そういう体験がやれていると、お金を稼ぐことやお金の価値に考えが及びやすくなるので、稼ぐ経験をしていると強いよな、と思います。

福武:ありがとうございます。じゃあ山口さん。

mustの中にwillを持つ重要性

山口文洋氏(以下、山口):僕に質問していただいた方の質問を中心に答えますと、今日、この1時間を通して、自分個人で一番言えるとするならば、僕は未来を考えることに意味はないと思っているんです。不確実なよくわからない未来が待っているんですけど、それより、今を生きるというか、今日1日をどれだけ楽しく生きられる人間になるかが一番大事だと思っています。

それはどういうことかというと、よく「willがない」という人がいますよね。会社にもいっぱいいます。「僕willを持てないんですよ」という人です。じゃあ、僕、山口自身がwill持っているかというと、僕はあんまり自分の人生に興味がないんです。3年後どうしたいとか、5年後どうしたいとか、10年後どうしたいとかを考えることは、実はしていません。

それよりも、直近でいうと、今週どうするかとか、この半年間とか、最大この1年間どうしたいかなというwillの中で生きている。だから、非常に具体的なんですよね。

もしかしたら僕のwillは、実はmustとwillが混同しているのかもしれない。要は、しなければいけない仕事がイコールwillに、ニアリーイコールになっているんです。だから、mustとcan(できること)とwillが違うのではなくて、僕は人生を生きている中で、mustかcanよりも、どちらかというと勝手にwillを持てた。この癖づけが大事かなと思っています。

嫌いな勉強はmust・canだったので、嫌いになりましたよ。でも、実は世界史と日本史は大好きだったんですよ。だから、漫画とかを含めて、それだけはもう夢中にwillが持てましたね。ただ、canとかmustじゃない別の遊びにもwillを持ってしまったんですね。

mustの中にwillを持てるということ。僕は、たまたまですがリクルートに入って教育事業にアサインされたから、今は「教育を変えたい」と夢中になっています。でも、落ちこぼれて、例えば街のトイレ掃除の仕事をしていたとしても、もしかしたら「俺、世界一のトイレ磨きになってやろう!」とがんばっているかもしれないです。だから、置かれた場所で夢中になれちゃうんですよね。

そういう感覚が大事なのかもしれません。あと、今、志高いGLOBIS生の方と共に学校にどう関わっていけるかですね。じゃあこれはアクションしましょうよということです。

今、僕なりに教育にコミットして、ある程度の使命感と役割もあるのかなと思っています。国やいろんな省庁に対して、国もそうなっていますが、より学校が開かれて、先生方だけではなく、民間の僕らの力が学校の中に入っていける。そういうところに提言やアクションを取っていくことに力を使っています。

その法案が決まらなくとも、PTAとか地域社会を含めて、子どもの周囲のコミュニティには僕らはたぶん明日からでもアクションできるはずです。その積み重ねをがんばってやっていくしかないかなと思っています。

学校のアップデートをしていきたい

山口:最後に、この話で締めていいのかわかりませんが、ベネッセさんはすごいですよ。

(会場笑)

いや、本当に。たぶん一時期の進研ゼミさんの会員減は違った理由にあるのかなと思っていて、直近で見ると、実は進研ゼミさんはまた伸びています。

あとは、学校のICT化も、スタディサプリがやっていること以上にベネッセさんも実はすごくがんばっています。僕からすると「やっぱりジャイアント半端ないな」ということで、「もうちょっと福武君、僕に優しくしてくださいよ」と思っています。

今、こういった新参者と、本当に長きにわたって日本の教育を支えていたジャイアントと共に、なにか学校のアップデートをしていければいいなという思いで、先生の裏方でがんばっております。

福武:ありがとうございました。ちょうど時間になりました。みなさん今日はありがとうございました。

今日のお話をうかがって、先ほど日本の教育を民間会社が支えているというお話が高濱先生のほうからも話がありましたけれども、どうせなら「この三社が普通に合併すればいいんじゃないの?」という話もありますね。オイシックス・ラ・大地みたいな。

(会場笑)

「花まルート・テック」みたいなのをやってもらえて、そこにベネッセが出資するという構造です。うちが一番おいしいところ取りみたいな感じだと思うんですが(笑)。

みなさん今日は本当ありがとうございました、最後にお三方にぜひ、また拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

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