アメリカの田舎町で声に耳を傾ける

出雲氏(以下、出雲):では続けて鈴木さんに、注目しているエリアと主戦場をどこにセットしているのか、というのをお願いできますか?

鈴木健氏(以下、鈴木):そうですね、動機は家入さんの話とすごくかぶると思ってるんですけれども。僕がニュースの事業というものをしているのは、ニュースって民主主義の基盤になると思うんですよね。ただ、今は世界的に「ニュースそのものが、むしろ民主主義を壊している」ということが言われているわけです。ここをなんとかしたいと思っています。

今は、エリアとしてはアメリカで展開しているんですけれども、これが世の中が一般的にイメージする、いわゆるグローバル展開のようなものと少し違うのは、僕が回っているエリアがアメリカのけっこうな田舎町ということです。例えばウィスコンシン州のミシシッピ川の上流のミルク農家の人に会いに行って「なにかヒントが得られないかな?」というようなことを考えています。

というのは、インターネットが20年ぐらい前にブレイクして、世界中を1つのインターネットが覆い尽くすのかなと思ったら、実際には今どんどん国の単位で分断化されていく、ということが起き始めていて。

「これが今後5年10年20年でどういう方向性になってくるのか?」というのが今はちょうど問われていると思っています。「はたしてインターネットが人々の幸せのために役に立ったのか?」というところが世界中で本当に問われているわけですね。

その最も象徴的なケースが、欧米だとBrexitと、それから一昨年の大統領選挙だったわけですけれども、都市部に住んでいるとわからないような、届かない声というものがあって。「そういうものをどう拾って情報として提供していったらいいのか?」ということを一生懸命考えています。

だからそういう意味で言うと、グローバルといっても田舎町に行って声を聞く、みたいなことをしている感じですね。最終的には、テクノロジーの力でこれをスケーラブルにしていかなきゃいけないと思っているので、なんらかの技術的なブレイクスルーで民主主義の基盤というものを立て直したいと思っています。

小さなコミュニティ共同体を作る

出雲:すごくおもしろいんですけれども、さっきスライドでも、インターネットによってアメリカで二極化が進んでいる。フィルターバブルで自分の見たい情報や聞きたい話ばっかりを過剰提供してしまう。それが「民主主義の基盤を作っていたものとうまくマッチしていないんじゃないか?」という。

家入さんは包摂、インクルージョンの話をされていましたが、もちろんニュースとクラウドファンディングで問題意識が違うから、違うビジネスをされていると思うんですけれども、こういう鈴木さんのビジネスは逆に家入さんから見てどうなのか。また、鈴木さんから、家入さんの「日本の地方のチャンスがない人たちに、例えば金融の機会を与える」というのは、アメリカで同じことをできないのか、相互にコメントをいただきたいんですけれども。

家入一真氏(以下、家入):僕は去年『なめらかなお金がめぐる社会。あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。』という本を出したんですけど、その本のタイトルは、もともと鈴木さんが昔に出した『なめらかな社会とその敵』という本を下敷きにさせてもらっています。

お付き合い自体は長いんですけど、すごく感銘を受けて「健さんってすごい人だったんだな」ってそれを読んであらためて知ったというか。なので、そのぐらい思想の根っこは近いんじゃないかな、と僕は勝手に思っています。

一方で、テクノロジーによって、これだけみんながつながってしまって、先ほど言ったように「世界中で国やいろんなものを超えて、さらにどんどんつながっていくという世界」が、僕らはネット黎明期からずっとサービスを提供していて、幸せになれるはずと思ってやってたんだけど「どうもつながってみると、そんなに幸せにはなれていないような気がする」というのが今なんだと思っていて。炎上したり、不用意なひと言で叩かれたり。一方で「#MeToo」もそうですけど、ああやって声をあげることもできるようになったかもしれない。

そんな中で、僕が思うのは「逆に一人ひとりがどういう存在、状況になれると幸せ度が高いのか?」ってことを考えたときに「小さな経済圏を作って、その中でお互いがお互いを支え合っていくようなコミュニティ共同体をたくさん作っていくほうが、実は幸せになれるんじゃないかな?」って。

「わかり合えない」ってことがお互いわかった、という状況が今の状況だと思っていて。じゃあわかり合えない人とはわかり合えない……。もしかしたら「わかり合えるんじゃないか?」という幻想の下で、インターネットというテクノロジーをがんばってやってきたのかな、と思っていて。

なので、なんですかね(笑)、クラウドファンディングもそうですし、例えば、僕は日本中でシェアハウスをやっているんですけど、おしゃれなシェアハウスというよりは、どっちかというと学校からこぼれ落ちちゃった、とか就職したけどうまく働けなかった、とかでうまく社会に馴染めなかったようなやつらが集まって「1人じゃなにもできないかもしれないけど、同じような何人かが集まったら、なにかできるかもしれない」という駆け込み寺って呼んでいるシェハウスをやっていて。

「そういった小さな共同体をいかに作っていくか?」みたいなものは僕の中でここ数年のテーマであって、クラウドファンディングもその1つというふうに捉えている感じです。

経済のグローバル化が引き起こす見捨てられた地方

出雲:家入さんと鈴木さんが「なめらか」つながりという、非常に楽しく新しい発見なんですけれども。お話を聞いて、鈴木さんがアメリカのウィスコンシン州や、いわゆるラストベルトのようなrepublicanの強烈な支持層の人たちに対して、今の家入さんが日本でやっている小さな共同体を作るとか、SmartNewsで適切なニュースを正しい情報をエンパワーメントしていくというのは、なにか親和性があるんじゃないですか?

鈴木:そうですね。基本的に「地方の経済圏がautonomous、自律的に回っていけるかどうか?」ってところが非常に大きいと思っていて。要は都市部の経済システムの中に取り込まれてしまうと、結局依存せざるを得なくなっているんですね。それはもう起きていてしょうがないんだけれども、本質は「なるべくそこで自立的な経済システムで回っていけるかどうか?」ということです。

よく言われる悪いケースというのは、いわゆる補助金行政で、巨大なインフラシステムを地方に作るんだけれども、そのお金で全部経済を維持しちゃう。中央から、つまり東京からお金をボンって入れて、それに経済システムが依存してしまうわけですね。そういったものが自立的な経済システムを破壊してしまう、というのはあると思うんです。

出雲:それはアメリカも同じなんですか?

鈴木:アメリカも基本的には同じだと思います。例えばラストベルトにおいても、比較的自立した経済システムと、デトロイトを中心とした、自動車産業に完全に依存している経済システムがあるんですね。デトロイトって自動車産業の中心部なので、サプライチェーンの中に完全に組み込まれている地域と、組み込まれていない地域があって、それによって投票行動も全部変わってくるんですね。おそらく経済的な影響がぜんぜん違うと思うんです。

経済がつながってしまうこと自体はしょうがないと思っているんですけれども、そこに強い中心性があって依存してしまうと、精神的に依存してしまうわけですよ。そうなってしまうと、もうそこに頼らざるを得ないというふうになって、ある種、人間が持っている生命の強さみたいなものが失われていくと僕は思うんです。

それを持っているかぎり、決して……まぁ人間というのは、動物なので生きていけるわけですよ。それが「自分たちが見捨てられてしまう」と思うのはどういうことかというと、アメリカでは「Forgotten People」といって見捨てられた人と言うんですけれども、そもそも見捨てられるためには、そこにつながれてないといけないわけですよね。

そういったことがアメリカでは起きていて。つまり、経済システムがあまりにもグローバルにつながりすぎてしまったがゆえに、地方の人たちがそこから見捨てられてしまったり、見落とされてしまっている、ということが起きている。ここの自律性というものがどんどんボトムアップで生まれてくる、みたいになっていかないと、最終的に「本当に人々を幸せにしてるのかな?」というのは出てくると思っています。

代弁者がいないことへの絶望感

鈴木:この問題というのを、結局その声を今までは……今アメリカは新聞がどんどん地方で倒産してるわけですね。そうすると、その声を拾って届ける人、もしくは代弁する人というのがいなくなっちゃってるんですよ。その「自分たちが誰からも代弁されない」という怒りみたいなものが、最終的に投票行動になって現れてくるってことが起きるんですね。

なので、僕も大統領選挙を視察しに行ったんですけれども、実際に今回の大統領選挙で起きたことというのは、すごく強固な共和党の支持者の話とかではなくて、もともとリベラルだった民主党の支持者の人たちが、大量に共和党支持者に変わっているわけです。

僕が話を聞くと、まったく政策の話でもないし思想の話でもなくて、ほとんどが「トランプならばなにかを変えてくれる」「ひっくり返してやろう」って感じなんですね。「自分たちは見捨てられているから、ひっくり返さないとこれから20年、30年なにも変わらないだろう」というある種の絶望感みたいなものを感じ取りました。

この「絶望感を持つ」というのが人間にとってまったく幸せじゃない状況で。でも同じような状況であっても、自律的な経済システムを持っていれば、そんなことは起きないと思っています。「どうやったらそれを作れるのか?」というところを家入さんは挑戦されているんだろうなと思って、たいへん共感している次第です。

出雲:そこに共感している。なにに一番共感してるのかって、有り体な言い方ですけれども、自立した地域社会を作るためには、やっぱり人は働いて自分でしっかりした仕事をして稼いでいないといけないわけですよね。だって稼いで立派にいい生活してる人は、デトロイトとつながっていなくても、見捨てられようが自立して生活を続けることができる。

信用データ発展の行方に注目

だから、やっぱり働き方改革。地域でも人が働ける、夢が持てるというのを、家入さんと違う文脈でね。吉田さんはもう何十万人という人にインパクトを与えていて。今の仕事の流通総額はいくらになってるんでしたっけ? 100億円を超えている。その100億円を超える資金を……それは東京から地域に波及してるとか、そういう意味合いはあるんですか?

吉田浩一郎氏(以下、吉田):東京は6割ぐらいですかね。それ以外のユーザーは世界で100ヶ国以上いるので、インターネットを使って誰でも働けるって感じなんですけど、そのマッチングのサービスをやっています。

私は、「信用データがどう発展するのか?」ということに興味があって。

例えばアメリカだと、皆さんご存知のようにGAFAが全部持っています。その証拠に、入国審査にFacebook、Twitter、Instagramのアカウントを登録するようになりました。今は任意ですけど、それを登録していないかを含めて審査をする、ということが始まっています。だからアメリカにおいては個人の信用情報はGAFAが持っていると、国もそういう認識でいるということですね。

一方で中国は、いわゆる国策で企業のデータに国が全部アクセスできるようにして、それによってパスポートの優遇を行うとかビザが無料であるとか、そういった信用情報の位置付け方をしている。

日本は今どうやっているかというと、国と企業は比較的、連携が薄く、企業がグローバル企業にもなっていないという状態だと思っています。

日本の信用データは宙ぶらりん

吉田:そういったなかで最近、MUFGという日本最大の銀行であり、世界6位の銀行とうちが資本・業務提供をして、彼らが我々に出資しました。MUFGのほうが、アメリカのすべての銀行よりも預かり資産が多いんですね。その出資の意図というのは、我々が正社員以外の働き手のデータを持っていて、それを日本最大の銀行がほしいと思ったから、というのが一番の鍵なんです。

トヨタの話ばかりになってしまいますが、今まではトヨタがいて、トヨタを好きな人がいて、その大企業の下に従業員がいて、その従業員のデータというのは全部給与口座なので、日本の銀行が持っています。これが信用情報で、これによって金貸しをして、あるいは不動産ローン、車のローン、教育ローンを組むということをやってたんですけど、今の日本の正社員比率は、50パーセントを切るんですよね。残り50パーセントの信用のデータは、宙ぶらりんなんです。

それを解決するべくMUFGはうちに出資をしたんですけど、我々はまだまだ100億円なんです。日本の全体の給与総額は200兆円あって、それがそのまま消費に転換されるわけですけど、この200兆円のうちの半分の行方に今はすごく興味を持っていますね。

出雲:なるほど。日本だけが誰も信用情報を持っていないんですか?

吉田:非常にバラバラな状態だと思っていて。中国では個人の信用情報というのは、それこそ地下鉄に乗れるか乗れないか、とか、おそらくそういうレベルまでやっているというて記事が出ていますけど、日本だと正社員以外には、単に「信用がない人」ということで、クレジットカードを作れないし、住宅ローンも組めないし、なにもできない「ただの人」みたいな感じなんですよね。信用情報という点において、雇用形態における境界線をなくすということをしていきます。

出雲:これはもう一緒にやらないとダメですよ!

吉田:(笑)。

出雲:ぜひ一緒に。

ドイツでは成長企業を国が支援する

吉田:この「格差が激しすぎる」というのが日本の特徴です。うちは今、Baillie Gifford(ベイリー・ギフォード)というイギリスの機関投資家が入っているんですけど、イギリスだと10人でチームを組むと、10人が契約形態、働き方が違うっていうんですよね。

それから見ると日本は、「正社員は信用できて、それ以外は信用できない」という考え方が根強いと感じます。これは非常に短絡的であり、ダイバーシティでもなんでもないモノカルチャー。移民も受け入れないモノカルチャーというのが、日本だと思うんですが「それはゆくゆく絶対に変わるだろうと思っている」というのがイギリスの投資家の意見で、私もそう思っています。その「多様化したときの社会インフラって、日本はぜんぜん準備できていないよね」っていう。

出雲:その信用データって、ヨーロッパではGDPRがスタートしましたが、もちろんGAFAに取られたくないし、かといって中国のようにトップが民間企業の情報を全部吸い上げる仕組みは作れない、という意味では日本とEUは同じステージ、同じ状態にあるんですか?

信用情報や働き方が、ベイリー・ギフォードで10人中10人契約形態が違うから、働き方の多様性というのは、イギリスやヨーロッパのほうが日本よりもすでにあると思うんですけれども。

吉田:これはGDPRが示すように、ヨーロッパの個人情報を国がデザインできていなかった、というのが事実じゃないかなという。それがゆえに中国のように国に信用情報ができていなくて、GAFAに取られているのでシャットアウトした、ということだと思いますね。

その中でもドイツは、Industry 4.0を出して、伸びている企業をいよいよ国が支援しようというかたちになっているので、例えばSAPみたいな成長企業は、働き方の緩和が行われているんですよね。残業時間の上限も成長企業、IT産業はそこのキャップが上がるんですよ。

それってけっこう重要なテーマだと思っています。日本は今ヨーロッパに習って「フランスみたいに残業時間をどんどん減らす」みたいな方向になっていってるんですけど、日本は今、円高で移民も受け入れずに内需だけで育てよう、としているので「じゃあその中で残業規制とかしたらそれどうなるの?」という疑問が生まれます。

それが1つの手本としてはドイツ。例えば「GDPRも成長産業の働き方の緩和も行う」みたいなことは、参考事例になると思っていますけどね。

インターネット広告が人々を追い回している

出雲:なるほど。家入さん、こういう力強い援軍が今日、台北で見つかったわけですけれども。

家入:(笑)。

吉田:(笑)。では、ヨーロッパでビジネスをされているフリークアウトさんは、広告データの観点から見て、日本、ヨーロッパ、アメリカといろいろ比較しての人々のデータのあり方の違いとか、企業としてどのように取り組んでいらっしゃるかとか、そこらへんどうなんですかね? あ、すいません。いいですか。これでも?

(出雲氏、どうぞの素振り)

吉田:(笑)。

本田謙氏(以下、本田):インターネット広告が人を追い回すような出し方をして、嫌がられることも多々あって「プライバシー的な部分でどうなんだ?」みたいなことは言われるようになりました。昔からマス広告はそういう見られ方をされなかった分、インターネット広告は余計に言われがちなんですけど。

結局、我々みたいなアドテク事業者がどういう広告の出し方をするかで「インターネット広告がどう見られていくか?」が決まってくると思っています。同じデータを持っていたとしても、追い回さなければたぶんそんなに言われなかったはずなのに、なにか追い回すことがよしとされてしまって、それをやっていたらすごく言われるようになってしまった、みたいな部分がひとつあると思います。

自分がやりたいことは、どちらかというと業界や広告主さんのお客様に対して「追い回すのはむしろ正しくなかったんじゃないか?」という啓蒙をやっていきたい。