得意なことは、努力した覚えがないのに褒められるもの

塚田有那氏(以下、塚田):また上木原さんにお聞きしたいのが、何をしたいのかがわからないという高校生がたくさんいらっしゃる中で、彼らはどういうふうにそのプログラムを選んでいくんでしょうか? 先ほどの職業訓練のお話でも、最初はイカ釣りとかまったく興味がなかったわけじゃないですか。

上木原孝伸氏(以下、上木原):そうですね。例えば教員の仕事は変わってきていると思っていて、おそらくもう知識を伝えるという仕事はなくなっていくんだろうなと。いわゆる一流の先生が全員に一番前の席で授業をするということが、ネットを使えば生放送でできてしまうわけです。

そして、教員には「子どもたちに自分が得意なものを見つけさせて、それに対してどういうふうにアプローチするべきか」が言えるような伴走者にならなければならないよ、と伝えています。

子どもたちも「得意なことはなんですか?」と訊かれても、あまりピンとこないことがありますが、そういうときは「あんまり努力した覚えがないのにやたら褒められたことってない?」と訊くんです。それはその子が向いていることなんですよ。努力しないとできないことはあるし、努力することは大事なんですけれども、それは実は得意なことではなかったりします。

でも、絵の勉強をしたこともないのに、絵はすごく褒められたりするようなところに(才能の)種がある。その種を今度は仕事に繋げていくにはどうすればいいか、という話をしていく。先ほどドミニクさんがおっしゃったように、ある仕事に就くということすらナンセンスだなと思っていて。

塚田:そうですよね。

上木原:いわゆる仕事に就くというのは異質だと思っているんですね。それでN校生には、「ある職業に就くことよりも、こういうことを起こしたいという志を一つ持ったほうがいいよ」という話をしています。

ある子は企業とITと音楽を繋げたい。仕事ではなく、そういう志を持って、今いろいろな取り組みをしている子がいたりします。そういう10年先が分からない時代になっているので、「コンパスを持て」というのはちょうどいい言葉をいただいたなと思って(笑)。

時間をかけてやり続けられることも能力の一つ

塚田:本当にそうですよね。あと、得意なことというと、どうしても能力と考えがちだと思うんですけれども、好きだからずっとできることもあるじゃないですか。たぶん時間をかけ続けられることも能力の一つだと思っていて。

(スライドを指して)これは確か日本財団さんもスポンサーをされている、東京大学先端研の異才発掘プロジェクトで「ROCKET」というところがあります。ここはネット上ではないんですけれども、N高の小学生版というか、特殊すぎて学校に行っていない子たちが集まる環境があります。そこの先生にお話を聞いたときに、とにかくキノコが好きな子がいるんだと。

あまりにもキノコが好きすぎて、中学2年生の頃には、とにかくキノコを見たらどのキノコかわかるキノコ博士のようになり始めていて、「次は世界のトリュフを目指す」と言って、トリュフを探しているらしいんです。

何になるかの話をするなんて、ナンセンスじゃないですか。キノコを好きでいられる情熱は何にもならないかもしれないですけれども、それを世界一のレベルまで知ろうとする、その情熱の部分が種だと思うんですよね。

上木原:高校生には、何かに夢中になれることが一番大事なんです。うちのN高生にも、とにかく御朱印帳が大好きな子がいるんですよ。お寺の御朱印帳をずっと集め続けている子。それが何になるのと言われたらなんだけれども、御朱印帳を見れば、ああこのお寺ですねと全部言えちゃう。その情熱というか、何かに夢中になった経験が、圧倒的に高校生には大事だと思う。

ドミニク・チェン氏(以下、ドミニク):そういう子が未来の『ポケモンGO』を作れるかもしれない。

上木原:そうだと思います。(笑)

ドミニク:収集ですからね。

上木原:はい。

罵詈雑言があふれる140字の世界をポジティブに変えるには?

塚田:かつ、先ほどのドミニクさんが、気配を感じるとか、インターネット空間の共同の感覚についてお話しされましたけれど、あの(N高で実施されている)Slackホームルームっていいな、と思っているんです。

要するに、自分が好きだと思ったことが、誰かにちょっと認められるとか、共有できることから増幅していくことがすごくあると思うんですね。ただ一方で、ちょっと違う話を入れると、インターネット空間やテクノロジーを使ってシェアしやすいとおっしゃっていましたけれど、あえてお聞きすると、今は感情の増幅というものがすごくあって、ネガティブな感情も増幅しやすいと思うんです。

とくにTwitterの空間を見ていると、うんざりするほどいっぱいあるじゃないですか。140字の世界は、なんでここまで罵詈雑言があふれてしまうのかということも、やっぱりネットの功罪の一つであると思っています。そこをどうにかしてポジティブ、well-beingな方向に持っていこうと考えた場合、どうしたらいいんですかね?

ドミニク:結局さっきの環世界の話で言うと、ふだんこういうふうに対面で話していたり、もしくはSkypeなどでお互いの身体の映像を見ながら、雰囲気を見ながら話すときには、かなり複雑な情報を交わしているわけですよね。

だけど、Twitterは140字だから、マダニになったような状態(視点)になるわけですよ。なんか虫けらになって人間の言葉を使っているみたいな、非常に貧しいコミニュケーションをやっている。

塚田:はい。

ドミニク:貧しいというのは客観的な言葉で、良い悪いということではないんですね。140字だからこそ言えることもあるし、だから僕自身も、いかにバランスをとるかということに苦心しています。

今のSNSが非常に深刻な問題をもたらし始めていることが、とくにアメリカを中心にいろいろな統計データが出てきています。とくに10代の子たちがSNSを使えば使うほど、精神状態が不安定になることが定量的にわかってきていて、それに対して各種の取り組みが始められています。

だから、是正すべき問題点が非常に多く出てきているのは、そういうことが起こるという想像力なしに、「こうやったらもっと中毒状態になる」「こうやったらもっとみんながどハマりする」というふうにして企業が物づくりをしてきたから。そして、例えば、それを規制する法律があるのかなどという議論が少なかったんです。

だけど、僕はこれは時間をかけていけば解決できることだと思っています。どんなテクノロジーでも、どんな文化にしても、成熟していくフェーズがある。最初の未熟なときに問題が起きたからそれを止めようとか、テクノロジーを一切使わないという話をするんじゃなくて、もっと成熟させるにはどうするかを議論し始められる時期にきているんじゃないかと思っています。

お互いの存在がリアルに感じられれば、炎上を防げる可能性がある

ドミニク:さっきお見せした「Type Trace」という、テキストを再生するようなもの(注:コンピュータ上のタイピングを時間情報とともに記録し、再生できるソフトウェア)。僕のゼミでも全部Slackでやっているんですけど、例えばあれでTwitterみたいなものを作ったり、もしくはSlackでやってみると、なんだか相手がそこにいるという感覚があるんですね。

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