裏声で歌うには、高い身体能力が必要

ステファン・チン氏:プリンスやサム・スミス、アリアナ・グランデのような, 人々に愛される歌手と聞いて思い浮かぶのは、その見事な高音ボイスではないでしょうか。

彼らはかん高く歌い上げる方法である、裏声の名手として良く知られています。

裏声は歌に複雑さを与えますが、同時に裏声で歌おうとするには大変な努力を要しますので、それは身体能力とも言えるのです。物理学的なことは言うまでもありませんね。

声が発することができるメカニズム

あなたが話したり、歌ったり出来るのは、声帯から押し出される空気による働きによります。

首の器官の上に水平に並んでいる2対の薄膜があるのですが、あなたが声を出す時にそれらはこごもったり、長さを変えたりして声の調子を変えるのです。

その役割を担っているのが声帯を縮める役割のある甲状腺腫様筋肉と伸ばす役割のある輪状甲状筋です。

歌を歌う時、これらの筋肉は相互に作用し合い、声帯メカニズムと言われる4つの全く異なる音をつくり出します。最も低い音はガラガラ音のボーカルフライで、最も高い音は歌手のマライア・キャリーが出せることで有名なホイッスルボイスです。

裏声のプロを目指すために必要な2つの音

もしあなたが裏声のプロになりたいのなら、中間の2音をものにしなければいけません。

まず、甲状腺腫様筋肉の働きが主な、胸で音を大きくして共鳴させた、低音領域である胸声です。

歌姫のアレサ・フランクリンの歌のように力強い歌は、大抵胸声によるものと言えます。

それから、頭で共鳴する高周波音域である、頭声。これは輪状甲状筋によって制御されています。

裏声は頭声の仲間ですが、完全に裏声を習得するには、ボーカルモードに入るだけでは不十分なのです。

他の方法として、発声によって声色をつくり出す、という方法があるのですが、それはあなたの声帯の働きにかかっていて、機能的なこととはまた別の話です。

例えば、声帯を緊張させたまま空気を抑えるようにすれば、頭声と言われる声色は出せるのです。かん高くはありますが、力強い音。チャーリー・プースというよりは、フレディ・マーキュリー寄りの音ですね。

フルートのような裏声、気息音質の頭声を出すには、声帯を緊張させず、空気を抑えないようにすることです。

高音域を出せる声幅と、たゆまぬ訓練が裏声を成す

多くの声音指導者が言っていることと反しますが、ここ何十年かに渡る調査によると、どんな性別の者でも頭声と裏声の両方を出すことができるのだとか。

それには音声分析と、そして訓練がなにより大事なのです。

裏声で歌うには、誰もが出せるわけではないという、高音域を出せる声幅を持っていないといけません。また、十分な声幅を持っていたとしても、十分に空気を取り入れられないと意味を成しません。さらには、声帯を正しく震わせる術がないといけません。それには体力が要りますし、訓練に次ぐ訓練が必要なのです。

それらのことを念頭に置いたうえで、気息音のない裏声にしたいなら「パッサージオ」と言われる方法がよいでしょう。

声帯を操って、使う筋肉を変える方法なのですが、悪名高い難易度の高さで知られています。喉の筋肉を操る術を習得するのは並大抵のものではないのですから。

ひっくるめると、「裏声で歌う」と言うのは相当な離れ業ということになりますね。音楽を製作するのは芸術的であると言えますが、科学だってなかなかのものですよ。