『東北食べる通信』が持つ、パスポートのような役割

森歩氏(以下、森):私はまさに『東北食べる通信』創刊号の時からの読者だったんですね。この紙面を読んでいて、本当に突き動かされたというか、生産者さんの思いとか、そういったものに触れていって、この人たちに直接「会いたい!」と思ってしまったんです。

直接東京に(生産者の方が)きてくれるイベントもあるんですが、基本やっぱり生産者の方って忙しいですし、その(生産の)場所も見たいという思いがあったので。

私は食べる通信を「パスポート」と呼んでいるんですけれども、これを持っていくと生産者の方は快く受け入れてくれるんですね。ただ何もない人が、「東京からいきなり来たんですけど、畑見せてください」と言ったら怪しいじゃないですか。

宗像淳氏(以下、宗像):それは怪しいですよね。

:それで「私、(『東北食べる通信』の)読者なんです」と言ったとたん、顔が「うわぁーっ」と変わるんですね。それで、これをパスポートと呼んで、会った生産者の方に必ずサインをもらっているという。あっ、ここにも(笑)。必ずサインをもらってます。

古川未鈴氏(以下、古川):本当だ!(笑)

宗像:やっぱり、この生産者の方って、森さんにとってはスターなんですよね。

:本当に私にとってはスターの方たちという気がしてます。現地に行って同じような作業をさせてもらいたいと思っているので。

さっきのホタテもそうなんですけども、一緒に船に乗らせていただいたり、あとこれはちょっと写真ではわかりにくいかもしれないのですが、一緒にワカメの芯取りをしています。ワカメの旬っていつかわかりますか? 

古川:わからない。

:塩蔵ワカメなどが年中あるので、あまり考えたことがないかと思うのですが、実は3月がものすごく繁忙期になっているので、その季節にワカメ漁師さんのお家に行って。これは一緒に芯取り作業をさせてもらっているということですね。

農家や漁師の仕事の価値をもっと知ってほしい

宗像:芯取り作業って言葉が、完全にプロっぽいですよね(笑)。

古川:何か想像できないですよね(笑)。

:今ワカメが頭に浮かんでいるかわからないですけど、ワカメはこうなってますけど、この真ん中がワカメじゃないんですよね。茎、硬いんですね。

:そうですよね。そこからワカメを外さないといけないんですね。これがものすごいプロの技なんですよね。

古川:たぶん普通の人はワカメがどうなっているかも知らないですよね(笑)。

:そうなんですよね。それだけで2時間ぐらいかかると思うので。

古川:(笑)。

宗像:(現地に)行きましょうということですね。

:という感じなのですが、こういう作業を一緒にしていくと、農家さんも漁師さんも、収穫後の作業って本当に多いんですよ。そういったものも含めて、やっぱり私たちの手元に届いているんだというのがあったので。

もっともっとその価値を知ってもらいたいなということで、今は毎月第3土曜日に、高円寺にある「座・高円寺」というところでマルシェ(座の市)が行われているんですが、そこのマルシェで、ここの浜のものを毎月販売します。

先ほど言ったように、ワカメは本当に基本的に年中あるので、ワカメを基本に、ホタテやサンマなどを取り寄せて販売しています。ワカメも季節によっては、めかぶや生ワカメが出せる時期もあるので、そういったことを3年ぐらいやっています。

写真ではちょっとわかりづらいですが、できるだけ誰が作ったワカメですとか、ただのワカメではなく、現地に私たちも行っている様子を一緒に伝えながら販売するようにしています。

ときどき、実際に漁師さんも販売にきてくださることがあるんですね。これもマルシェで(写真の)真ん中のほうにホタテ漁師の方がいらっしゃるんですけども、自分でホタテを焼いて販売するということもしにきてくれています。

「作る人」も「食べる人」もお互いの顔が見えていない現状

:よく「顔の見える生産者」というふうにスーパーなどに書いてあるんですけど、私たちから顔が見えるようにするだけではなくて、実は反対の食べる人の顔も見えてないんですよね。漁師さんも農家さんも食べ物を農協・漁協に出して終わり、誰が食べているか知らないというところがあったので。

さっきのお父さんの言葉じゃないですが、やっぱり、直接「美味しい」という言葉をもらえるのが、本当にやりがいに繋がるみたいなんですね。ですので、現地に直接来てもらうということをときどき行っています。そうするとどちらも誠実になれる気がしています。売る側も「この人たちが食べているんだ」ということで、やっぱりもっともっときちんと作ろうという思いもあるし。

買う側もこういう流れでこういう人が作っているのであれば、やはり正当な金額で買おうというように、どちらも誠実になれるのかなという気がしていますね。

江守敦史氏(以下、江守):この活動、僕はけっこうすごいと思うのが、彼女は漁協の名刺を持っていますけど、さっきの(マルシェで)売るワカメなどを漁協で買っているんです。つまり、ワカメを15キログラムとか仕入れているんですよ。

古川:まずは森さんが買っているんだ。

江守:そう。仲間の家の冷蔵庫に15キログラムのワカメとかが入るんですよ。(もし売れ残ってしまったら)それってリスクじゃないですか。ファンがリスクをもっているんですよ。例えば、でんぱ組.incさんのグッズをファンが全部1回買って、それを誰かに渡す。そういうことをやっているわけなんですけど、ワカメは売り切らないともうダメになっちゃうんですよ。だから「漁師さんと同じリスクを一緒に抱えている仲間だ」と言っているのが、すごく新しいというか。

古川:そのリスクをとってでも、やっぱり届けたいということですよね。

:絶対に売り切る自信があるからですね。

古川:おお、本当にすごい!

宗像:リスクだと思っていないというか。

:やっぱり(リスクだとは)思っていますよ。すごく緊張します(笑)。

(会場笑)

マルシェを3年続けることで、ワカメのおいしさが地元の人々に伝わった

:毎月毎月、今月どうすると言いながら、やっぱり量を考えたりはするんですけど、おかげさまで本当に3年間ですごく定着してきて、最初は15キログラムのワカメを仕入れて3ヶ月で販売していたんですね。それが丸2年経った時に、1ヶ月で15キログラムを完売したんですよ。それは毎月販売していくことで、美味しさが地元の方にも定着してきて。

古川:広まった結果なんですね。

:本当にそうなんですよ。なので、今でも毎回本当に直前まで天気のことを考えたり、そういったことのリスクは考えていますけれど、基本的に私たちが楽しもうというスタンスと伝えたいというところなので、大きく赤字になったりはしないようなベースではやっていますね。

宗像:うーん、なるほどですね。いや、でも、すごいですね。(そのマルシェに行くには)どこに行けばいいですか?

:高円寺の北口徒歩5分の「座・高円寺」というところで、毎月第3土曜日に「座の市」というマルシェが行われてますので。

宗像:北口に行けば。

:旗がずっとマルシェまで繋がってますので。

宗像:1日やっているんですか?

:1日やっています。11時から17時までです。

古川:森さんにも会えるんですか?

:会えます!(笑)。毎月このTシャツを着ていますので、ぜひ来てもらいたいと思います。

宗像:すごいですね。そういう意味ではセカンドペンギンではなくて、ファーストペンギン的な勢いも感じますね。

江守:最初に踊り出す人ですね。

:私は1人で踊ったんじゃなく、仲間と一緒に踊り始めた感じなんですけど。

宗像:やっぱり仲間がいて、という。

:農家さんも、こういうふうにアスパラガスの収穫(をしていて)。これも収穫だけではなくて、その後の選定や長さを揃えたりもしています。みんなが来てくれたらいいなと思っていたら、今年のゴールデンウィークに60人の参加者が集まってくれました。

楽しさだけでなく辛さも共有することで仲間になれる

:やっぱり子どもさんが来てくれるというのはすごくうれしいですが、60人も集まると私も知らない人がけっこういるので、交流は大丈夫かとちょっと心配していたのですが、農家さんや漁師さんの作業って量が多いし、けっこう単純作業だったりするんですね。

それを一緒にやっていくと、改まった自己紹介をするよりも、けっこうみんな打ち解けるというか、楽しさの共有もそうなんですけど、辛さを共有すると、けっこう後から「あの時辛かったよね」とか仲間になりやすいというのもあって。

このゴールデンウィークもちょっと寒かったのですが、みんなで草取りをして作業から戻ってくると、初めましての人同士がすごく仲良くなれた感じがあったので、そういう体験を一緒に共有するということはすごく大切なのかなと思っています。

これも東京に農家さんが来たときの飲み会ですね。そういったものを企画したりしながらしてます。みんなが何となくカードを持っているんですけれど、農家さんが東京に来る途中の新幹線の中で、集まってくれたメンバーの一人ひとりに手紙を書いてきてくれたんですね。

古川:何それ!(笑)

宗像:へえ、すごーい!

:やっぱり「買う人」「食べる人」ということだけじゃなくて、仲間という思いがあるので、そういうことが自然にできたのかなという気がします。このアスパラのカードは後ろにもあるので、よかったら帰りに持っていってください(笑)。

古川:ほしい!(笑)。そう考えると、でんぱ組.incも先日近しいことをやりまして。

宗像:そうかなあと思って聞いていました。

古川:そうなんですよ。「東北でんぱ大作戦!」といって、東北ライブハウス大作戦みたいな企画があるんですけども、震災で流されてしまった後にライブハウスを作って、そこでいろんなアーティストさんがライブをして回るみたいなことをやらせてもらいました。

「東北でんぱ大作戦!」で感じた現地に行くことの意味

古川:その時に、やっぱり現地の美味しいものをたくさん食べようということで全部車移動しまして、三陸のお魚などをたくさんいただきました。

私も道の駅も大好きで、いっぱい寄りました。そういうところって、やっぱり生産者の方がいらっしゃることも多くて、お顔がすごく見えるんです。そういうところでお土産を買ったりすることで、私はただ楽しんでいるだけだけど、もしかしたらちょっとだけでも力になれているのかなと思えたツアーだったので。

宗像:確かに。

:現地に行くと、やっぱり違いますよね。

古川:やっぱり(実際に)見ると刺さるものがあるなというか。

:裏のストーリーが感じられるということもあると思うので。

古川:やっぱり、テレビだけじゃないリアルがそこにはあったなと本当に感じました。

江守:まさに、そういうふうに思っている方を僕らはどんどん増やしたいです。

古川:ファンのみなさんも東北にすごく来てくれたので、もしかしたらそう感じてくれた人もいるんじゃないかなとは思います。

宗像:そうですね。ちょうど話を聞きながら思ったのが、楽しさと辛さの共有というお話があったじゃないですか、僕の実家は福島の本当にど田舎なんですけれども、18歳の時に東京砂漠に来るわけですよね。

そうすると、近所の人との話をあまりしなくなるんですよね。小さい頃は何かちょっとあると噂が広がって「田舎は嫌だな」という、ちょっと若者的な感じになったんですけど。東京に出てくると、そういう辛い経験も楽しい経験も共有する場があまりないというか。そういう意味では、すごく意味があるなあと思いましたね。素敵ですね。

そもそもファンベースとは何か

宗像:続きまして、今日のテーマであるファンベースなんですけれども、「ファンベースってそもそも何?」というと、マーケティングで出てくるような、あるいはSNSで出てくるような考え方です。

昔というのもアレですけど、みなさんがテレビや雑誌を見て「これって流行るのかな?」「こんなおしゃれなものもあるのかなあ」という感じで買って、基本はすごく一方通行だったんですよね。

それがSNSが出てきて双方向にもなりましたし、今日、江守さんとも話していたんですけど、ファン同士の横のつながりがむっちゃできたよね、というところがすごく変わったかなと思いました。

ファンベースという考え方は、元電通の方が本を出されたりしているんですけれども、今までみたいにテレビや新聞にじゃんじゃかお金をかけて、届かないメッセージを届けることをやめて、しっかりと応援してくれるファンを大事にして、今日いらっしゃったような熱量の熱い人たちというのを増やしていくと、すごい勢いを持っているコミュニティなので自然とどんどん広がっていくよね、という考え方です。

ファンベース (ちくま新書)

こちらの図は、ちょっとこういう段階もあるかなというので、ファンベースというのをまとめたものですね。最初は参加する時に、例えば古川さんのツイートを見るだけ(のフォロワー)だった人が、だんだんちょっと関わろうかなとか応援しようかなと、いうことで真ん中(サポーター)に移っていくと。

クラウドファンディングという言葉がありますけど、後ほどクラウドファンディングを経験されたことのある大庭さんに、その辺の話も聞こうかなと思ってます。

大庭啓太氏(以下、大庭):はい。

宗像:あと、そうですね。森さんが完全に右側(ファン)。そういう意味だと、江守さんも右側の(ファンの)側面もあるかもしれないですけれども、支持者でもあり伝道師でもあるという感じですね。何かこれを伝えなきゃということで、どんどん発信していったり、活動を企画していったりという感じですよね。

これがファンベースの考え方という感じで、ちょっと簡単にご紹介させてもらっています。すごくいろんなことが起きやすくなっていると思いますし、自分たちで動きを作り出しやすい世の中なのかなと思っています。