2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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安藤昭子氏:こんばんは。このイベントは「編集工学シリーズ」と呼んでいまして、2回目からログミーさんで記事化していただいていますので、もしかするとそこでご覧になって、今日初めていらしてくださった方もいらっしゃるのかもしれませんね。
編集工学シリーズも4回目ということにはなっておりますが、とくになにか続きものになっているというわけではなく、ふわっとテーマが連なっているというものですので、今日が初めてのご参加である方も大丈夫です。ちなみに、今日初めて来ましたという方は?
(会場挙手)
けっこういらっしゃいますね。ありがとうございます。今日は「個と組織を強くする物語という方法」ということで、Narrative Approachというようにサブタイトルをつけているように、「方法としての物語」についてのお話をしていきたいと思います。
初めての方もたくさんいらっしゃいましたので、簡単に自己紹介を。私どもは編集工学研究所と申します。
豪徳寺にあるオフィスに本楼(ほんろう)と呼んでいる空間がありまして、壁中が本棚になっています。ここでもたまにイベントをしておりますので、ぜひ機会があれば遊びにいらしてください。
「編集工学」というのは、弊所の所長である松岡正剛が30年前に創始したもので、ここで言う「編集」は、出版社や映像の編集といったいわゆる職業としての編集ではなく、広い意味でとらえております。
私たちは身の回りにある情報を常に編集しながら生活をしています。わたしたちの営みすべてに編集という行為が関わっているということができるわけですね。その「編集」の仕組みを紐解いて、かつ社会に適用できる技術にしようというものが「編集工学」です。
編集工学研究所は日々、この編集工学というメソッドを用いながら、さまざまな企業や自治体、学校などのお手伝いをしている集団です。こちらでお送りしている「編集工学シリーズ」は、わたしたちが行っている活動や仕事の方法論を少しずつみなさんに共有させていただくことで、編集工学という考え方に親しんでいただこうというものです。
せっかくですので、これまでの4回分について、ざーっと5分くらいでなにをしてきたかということだけをおさらいしようと思います。
7月の第1回目では、いきなり読書をテーマにしました。
探求型読書、Quest Readingと名付けています。ビジネス思考力を鍛える探求型読書のすすめといった内容でしたね。
そのQuest Readingをすることによって、頭の中にいろんなつながりが生まれてくる。ワークショップを中心にそうした効果を体感していただいたのが第1回目でした。
第2回目は「アナロジカルシンキング」でした。
アナロジーとは言ってみれば、すでに知っている情報からまだわかっていないこと、もしくは説明したいことを、考えたいことに向かって類推していく思考のからくりのことを言っています。
今、みなさんも頭の中で思い浮かべていただきたいのですが、次の事柄を5歳のこどもにわかるように説明してみてください。“なんとかのようなもの”という表現をうまく使って。
例えば、5歳の子どもにインスタを説明しなければいけないときに、どう説明をするか。インスタぐらいならまだいいのですが、「営業」とか「売り手市場」とかになると、難しいですよね。
5歳のこどもにわかるように定義をしようとするとほとんど不可能だと思いますが、なんとかのようなもんだよというように、たとえ話なら説明できるでしょう。これがアナロジーの力です、と、そんなお話をしました。
アナロジーに必要な要素としては、自分自身の経験と体験、それに外側にある知識ですね、一般常識とも教養ともいいますが、それと考える力。これらの3つがぐるぐる動きながら、アナロジーというものは、私たちの中で動いていますよというお話でした。
アナロジーとは結局、なにかとなにかが関係あるということ、なにかとなにかが似ているという発想からスタートする思考の力なので、ものごとの間に関係線をひくという行為なのです。それがアナロジーの力でもあり、ほぼイコール「編集力」でもあります。
ビジネス思考力としての編集力として、ロジカルシンキングとアナロジカルシンキングを並べていますが、論理的思考だけではまかなえないところが必ずでてくる、そのときにアナロジーの力が必要になる、というお話をしました。
ロジカルシンキングとアナロジカルシンキング、どちらもかわるがわる、つなぎながら使っていくというものが編集的思考であり、これができることによって、直感を自分でマネージメントすることもできるし、詰めていく方向の論理をどこか必要なときがくればジャンプさせることもできる。
つまりは、イノベーションを起こせる土壌のことですよね。これからの時代は、益々こういったロジカルだけではない、それ以外のところも取り扱える思考力が必要ですというお話でした。
そのほか、柔らかな思考エンジン「3A」として、アナロジーに加えてアフォーダンスやアブダクションといった方法をご紹介しました。この回はログミーでアップされていますので、興味を持たれた方は、ログミーの記事をご覧になってみてください。
その後、第3回目として「アブダクション」というものをやったんですね。仮説的推論と呼ばれているものです。
演繹法でも帰納法でもないもうひとつの推論の方法ということで、仮説的推論、アブダクション、これがどういったものかということをみていきました。
最後の結論のスライドだけ持ってきましたが、イノベーションドライバーとしてのアブダクションということで、アブダクションという推論方法を使うと、複雑で不可解な状況にも一足飛びに理解がえられるといったことを、いろいろな事例を交えてお話させていただきました。
前置きが長くなりましたが、ここから第4回目の「物語という方法」を見ていきたいと思います。
物語編集のワークショップをいろいろとやりたいと思っているのですが、そこに入っていく前に「そもそも物語とはなんだろう?」というところをみなさんと考えたいと思います。
そもそも、人はどうして物語を必要とするのでしょう? 人がこの世に生まれてきて、世の中を把握していく中で、この世界というのはなにもなければ非常に茫漠としたつかみどころのない情報ですよね。
そのつかみどころのない世界を、なんとか把握するための仕組みのひとつとして人類は物語という方法を使ってきたのだと思います。前々回の「アナロジー」も世界を把握するための大切な方法です。人はアナロジーや物語といった思考の枠組みを用いて世界を捉えているはずなのです。
たとえば、昨日1日の出来事を思い出すようなことをやってみても、あまりバラバラな情報で頭の中に思い浮かぶことはないと思うんですよ。朝起きて、会社にいって、なんとかして……なんとなく順番がそこにあって、ズルズルッと情報は引き出されてきます。それもいってみればなにか一つの時間軸があって、出来事が組み合わさっている物語の箱の中に入って思い出されているという状態なのだと思います。
今日お話していく物語とは、いわゆる小説や絵本というところの物語よりも広い意味というか、根本的な意味のところをみなさんと考えていくと思ってください。
ロラン・バルトという人が、『物語の構造分析』という本でこのようにいっているんですね。「物語はまさに人類の歴史とともに始まるのだ。物語を持たない民族は、どこにも存在せず、また決して存在しなかった。物語は人生と同じように、民族を越え、歴史を越え、文化を越えて存在するのである。」ということですが、この前書きから始めて、ロランバルトは物語というものは、どのような構造を持っているのだろうか? ということを書いていくんですね。
60年代に、構造主義という考え方出てきたときに、その中にはレヴィ=ストロースやフーコーといった文化人類学者や哲学者がいましたが、いろいろなものを構造として捉えて見てみようという潮流がありました。その時に、このロラン・バルトという人は、物語を構造としてとらえたんですね。
ロラン・バルト曰く、まさに物語というのは人類とともに始まっていると。人が世界をなにかしらの方法で把握しようとするその装置が物語であるならば、人類の歴史とともに物語の歴史もはじまっている、ということですね。考えてみると、歴史の「history」という言葉にも、「story」という単語がはいっていますよね。そういった形で、人類の歴史とともに物語が始まったともいえるし、物語とともに人類の歴史が始まったとも言えると思います。
それぐらい、今日お話しする物語というのは、私たちの根本のところに絡みついているものだと思ってください。
もう一つ、情報コミュニケーションのモデルは、大体この「物語という装置」から開発されてきたというようにみていいと思います。
後ろに描いてあるこのおじいさんは、職業はなにかわかりますか? 道具が出ているのでわかると思いますが、琵琶法師ですね。
この琵琶法師の人たちというのは、琵琶をはじきながら音に乗せて、口頭で物語を人に伝えていった人たちです。かつて日本人がまだ文字を持つ前は、こうやって大切なことを語り伝えていた。
今はこうして文字にして、みなさんに資料を配布したりして、私が思っていることや、みなさんにお伝えしたいことを伝達することができますが、日本では文字がない時代が長かったんですよね。
『平家物語』や『太平記』といった現代にまで伝わっている物語は、世の中にこんなことがありましたということを伝える語り部として琵琶法師たちが紡いできたのです。日本のみならず、まだ文字がなかったヨーロッパでも、劇場で演劇を通して物語を伝えるというようなことをしていました。
口頭で意図や意味を伝えようとしてきた話し言葉から、文字ができたことによって書き言葉になっていくわけなのですが、これをオラリティとリテラシーというような言い方をします。
『声の文化と文字の文化』という本を書いたオングという人がいるのですが、この人がオラリティとリテラシーをいったりきたりしながら、物語を伝えてきた人間たちの営みを、いろいろと考えていくんですね。
そのことをまとめているのがこの本なのですが、その中で、語りというのは人間の経験を時間の軸に沿って表現する言葉の技術であるというように言っています。言い換えれば、物語という技術といってもいいと思いますが、こういった形で、私たちは文字がなかった頃、なんとか世代を継いで、もしくは昨日のことを明日に伝えるために、物語という装置や技術を使って、情報を伝えようとしてきたわけですね。
ですから、物語というのは、単に娯楽的な意味だけではなく、情報保存のための様式といってもいいと思います。言葉があるから物語ができたのではなく、物語という情報様式が次の世代の言語を作っていったという構造だったわけです。言葉の始まりは物語の始まりというところまでさかのぼって考えてみると、こういうことが見えてきます。
後ろの写真は古代ローマの劇場ですね。今も残っている遺跡ですが、ヨーロッパのほうではこういったところで演劇がなされて、『ホメロス』『オデュッセイア』といったような、私たちが今でもタイトルは聞いたことがあるような劇が、決まり文句や決まったリズムに則ってセリフが運んでいく「六脚韻」という様式で演じられていました。
なぜそんなことをしていたかというと、聞く人たちが覚えやすいようにしていたのです。そういった環境の中で、英語という言語システムができていくということですね。
先ほどの琵琶法師も一緒です。琵琶法師が物語を語り継いでいく中で、日本語というものができてきた。人類の歴史としてみれば、言語が物語を作ったのではなく、物語が言語を作ってきたと、というのはつまりそういうこです。
先ほどご案内した松岡正剛の「千夜千冊」で、フレッド・イングリス『メディアの理論』を取り上げている中で、松岡はこんなふうに書いています。「文化とは、われわれが自分自身をめぐって自分自身に語る物語の総体である」と。
「このように“文化”を定義したのはクリフォード・ギアーツだった。そうだとすれば、物語を語れなくなっているとき、その人の文化、あるいはその共同体の文化はいちじるしく衰退していることになる」というように書いてあります。
後半の「物語を語れなくなっているとき、その人の文化、あるいはその共同体の文化がいちじるしく衰退している」というあたりが、恐ろしいなと思うところですが、今日のテーマは、このあたりのことを後半に向かって考えていく日でもあるかもしれません。
ここまでお話してきたことというのは、どちらかというと、人類、文明、文化というような見方で考えたときに、物語というものは果たしてなんだったのか。どんな機能を持ってきたのかということを、ザーッといろんな角度から見ていただきました。
ただ、その物語というのは、必ずしも文明や文化や集団の中だけにあるものではなく、私たち一人ひとりのすごく個人的な頭や心の中に、すでにしてあるものなんですね。私たちの日常には物語回路、narrative clircuitというように書いていますが、それが動いていると。今までの文明論のようなお話から、ギューッと私たちの中に入っていきます。
可愛らしい手が文字を書いていますが、例えば子どもが言葉を覚えていくときに、最初は“ワンワン”、“ブーブー”というように断片的に意味を覚えていくわけですよね。それがだんだんつながって、あるときブワーッと物語を語り始める。“今日◯◯ちゃんと遊んで、なにがあって、どこどこで転んで”というような、時系列に沿った話が、あるとき突然できるようになるんですね。
私たちの頭の中には、物語の回路というものがおそらくあるのではないか。それが通ったときに、人はいろんなものをつなげて考えることができるのではないか、というように言われています。
これは認知科学の話ですが、私もこのnarrative clircuitという言葉を初めて知った時は、物語回路というものが頭の中にあるのかと分かって「ハーッ」と思いました。そのときに思い出したのが、娘がはじめて言葉をしゃべったときのことなんですけれど。うちの娘が2歳ちょっとのときに、私が台所に立っていたら、隣に走ってきて、突然コンロの前で全身の力を振り絞るように「イーーーーッ!」と言うんですよ。
ひきつけかな? と、救急車かと思って、どうした? と言ったら、コンロの上を見て「やかん!」と言うんですね。それがたぶん、うちの娘が初めて意味のある言葉を発した瞬間でした。後からわかったのですが、やかんが湯気をふいてピーッと鳴りますよね? あれのマネをしに来たようなのです。
やかんの音マネをして、やかんを見て、やかん、と言った。ヘレン・ケラーの話の中にもありましたよね。水を触って、突然ウォーターといった。これがウォーターだということがいうのが、言葉をともなって突然わかるという。
あのように、なにか忽然と世界がわかって、そこから言葉が発せられる体験を、みんな通り過ぎてきているわけですが、おそらく物語回路というのは、そうやって自分と世界がつながっていく過程で、私たちの中に蓄えられたさまざまな知識や理解が通っていくサーキットなんだと思います。
今のお話は、先ほどの文明論から、一気に個人の頭の中に入ってくる話だと言いましたが、私たち編集工学研究所もこうした見方、類と個、という見方をします。類というのは、いってみれば、人類や文明というマクロな視点です。自然の摂理として、類で起こっていることは、個でも起こっているというようにみるんですね。
逆も言えるんです。個の中で起こっていることは、類の中でも起こっている。今日はタイトルを「個と組織を強くする物語という方法」と名づけていますが、そこにも言えることだと思います。この類と個のあいだにある自己相似的な関係を、フランスの数学者であるマンデルブロは「フラクタル」という言葉で表しました。
フラクタルとは、例えば木の葉っぱにギザギザの形があったときに、それをどこまで小さな単位にしていっても、同じ形をしているものがある。あと、例えばリアス式海岸やフィヨルドといった複雑な海岸線がありますよね? あの地形がズームバックして見ても、近くまでによって見ても、同じ形が現れてくる、ということがあります。私たちが住んでいる世界の中は、大きな視点でみたときと、ものすごく小さな視点でみたときに、同じ形をしているものがけっこうあるんですよね。
今の類と個の話というのは、まさにそのことを言っています。ちょっと話がそれますが、今のフラクタルや類の話でいうと、三木成夫さんという方が『胎児の世界』という本で興味深いことを書かれています。胎児がお母さんのお腹の中で大きくなっていく過程の生物としての様子が、生命が陸にあがってきて人間になっていく過程の様子と類似している、というのです。
人類の大きな歴史の中で起こっていることが、個人の成長の中でもフラクタルに起こっているというのが、いろいろな現象としてあるんですね。今日の物語の話もそのように思ってみていただくといいと思います。
私たちの非常にプライベートで個人的な話だけではなく、自分の心の中や頭の中で起こっていること、心の中、頭の中で物語が私たちに機能するというのは、それは組織の中でもそうだろうし、集団の中でもそうだろうしというように、いったん思っていただくといいかと思います。
『知の編集工学』という本の中で松岡は、「頭の中に定着したいくつかの物語回路を編集することで、必要に応じたアウトプットとしての物語を作っている」と書いています。その我々がもともと持っている物語を編集するという能力を、個人と組織の中でいかに活用していくか、というのが今日のお話になります。
ここまで、いったんみなさんに物語というものに対してすでにお持ちのイメージをグラッと崩していただきたいと思い、少々ややこしい話なども含めて、さまざまな角度から話をしてみました。その状態で、ここから先は個人の頭を使っていただくワークショップに入ります。少し編集工学や編集術の話もしながら、進めていきたいと思います。
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