コールセンターが完全ロボット化する日

平野未来氏(以下、平野):それでは、次のセッションにいきたいと思います。3~5年後、みなさんの事業はどう変化していると思いますか? 米倉さんからお願いできますでしょうか。

米倉千貴氏(以下、米倉):はい。僕のところはNLPの研究もやっているのですが、そこではコールセンターさんがやっぱり関心が高いので、一部のコールセンターさんのトップセールスマンを完全に真似する対話エンジンをつくりましょうというPoCを、1年半ぐらい前から初めました。だいたい1年ぐらいでPoCが終わって、今、実運用に入っています。

そこの会社さんのなかでセールスをやっていて、当社の対話エンジンを使ったロボットのほうが一般のセールスマンよりもセールスの獲得率が上がっちゃったという成果が出ている。まだ本当に微量で、2パーセントぐらいの差ですが、会社全体としては非常に大きなインパクトでした。

あとはコールセンタースタッフのみなさんが、対話エンジンがどういった回答を出してくるのかということを見ることで、全体的な教育にもつながっている状況になっています。

実はその会社さんはもう、深夜に関してはAIへ完全に移行していて、12時間はそちらが対応する、昼間は人間がメインでAIがそれをサポートするというやり方をされています。今後は昼間に関してもAIに任せていこうというように考えて動いています。

3~5年後というと遠い話のようですが、1、2年で言えば完全ロボット化するサービスがかなり増えてくるんじゃないでしょうか。3~5年後までいくと、ここの部分に関しては「まだ人間がやってるの?」、「まだ残してるの?」というような話が多く出てくると思っています。

人材採用の意思決定までのフローは、AIで最適化されていく

平野:ちなみに、具体的にはどういったサービスが出てくるんじゃないか、またはどういったサービスが完全にロボット化されていくんじゃないかと思われますか?

米倉:僕はもともとこのプロジェクトを始めるときも、HR系の仕事に関しては前の会社ですごくやっていたことがありました。HR系のすごくレベルの高い人は、面接時の肩の位置で採用・不採用を決めるという人がいるんですよ、おもしろいですよね(笑)。

1万人ぐらいの採用をされたという経験の方で、もうパッと見たときの肩の位置でわかるとおっしゃっていて……。

平野:上がっているといいんですか? 下がっているといいんですか?

米倉:下がっているほうがいいらしいんですよね。肩の位置を見るのはすごく重要で、その後その方が入社されたのちも、背後を見るだけでその人の状態がわかると。ですから、声をかけるべきか否かがわかるとおっしゃっていました。

ここまでくると本当にプロフェッショナルのHRですね。しかしその前段の部分での事務的なものなどは、徹底的にスムーズに最適化されていく。

今の現状では、みなさんこの会社でいいの? というようなところであったり、そこで発生するコミュニケーションであったりするところがめんどくさいと思っているものが、すごいスピードで最適化されて、どのように働くべきかも決められてくると思っています。

ロジスティクスの問題を解決するハードウェア

平野:おもしろいですね。ありがとうございます。では、森さん。

森正弥氏(森氏):はい。インターネットサービス事業から出発していたのでデータ系の研究が多かったのですが、ここ数年はみなさんありがたいことにEコマースでドンドン注文してくださるようになったので、配送量がすさまじく増えています。

かつ、ふるさと納税などもありますし、いろんなキャンペーンのようなものもあります。それでペットボトルの箱買いのようなものが一般的になって、配送の現場の負荷を我々Eコマース事業者が増やしていて、申し訳ない事態につながっている。

実は、配送を1回すると、35パーセントの確率で不在という統計もあります。そのとても重い物を持って帰らなきゃいけなかったりする。Eコマース事業者はみずからその問題をなんとかしなきゃいけない。

それゆえ倉庫からの最適な配送マネジメントといった話もありますが、研究テーマもハードウェアの領域にも広がっていて、例えばドローン配送も2016年から始めています。UGV(無人配送車)のようなものもやり始めていて、そうしたハードウェアのほうにどんどんシフトしてきています。これからもっとロボットロボットしていくんじゃないかと思います。ロボットをつくる力がどのぐらいうちにあるのかというのは、チャレンジなテーマです。

ちなみにその関係で、今は配送目的の無人船をつくっています。自律航行船というもので、世界的にも例が少なく、プロトタイプでも建造するのに半年以上かかります。すごい長尺で考えなければならず、減価償却に15年かかったりしますから。

全然違う業界と全然違うロジック、投資回収モデルなので、どれぐらい我々がそこでやれるのかということはあるのですが、どんどんハードウェア、ロボティクスの世界に入っていきながら、世の中への貢献ができればいいと思っています。

ユーザーのアクセスと同時にコンテンツを作るというトレンド

平野:ハードウェアというとかなりハードルが高く感じてしまうのですが、自社でされていらっしゃるんですか?

:今はそうですね。ただ、やっぱりうちはインターネットサービス企業から出発しているので、考え方がインターネットサービスの開発思想にウェイトがあるんですよね。ハードウェアに向いていないところはすごくいっぱいあります。ロボットに関してはPoC(概念実証)というか、ある程度のビジネスの実証のところまでは自社でやれても、そこからはたぶんパートナービジネスになっていくと思います。

平野:ECというとAmazonのレコメンデーションエンジンが古くから有名ではありますが、そういった取り組みなども御社ではされていらっしゃるんですか?

:そうですね、レコメンデーションや、あるいはパーソナライゼーションというのは、それ自体がほぼEコマースと同義のようなものといえるぐらい根幹的な技術です。実は売上の7割以上はレコメンデーション・パーソナライゼーションエンジン経由という数字もあります。ですから、そこには歴史的にすごく力を入れています。

業界のトレンドとしては、実はクリエイティブの方向にちょっと向かっています。レコメンデーションやパーソナライゼーションというのは、基本的にコンテンツ、あるいは商品がすでにあって、それに合うものをおすすめしていくという感じになりますよね。

そうではなくて、ユーザーがアクセスしてきた瞬間と状況に合わせて、そのユーザーの好みのコンテンツをその場で作るという、新しいトレンドが始まりつつあるのです。ここでの競争が今、にわかに始まりつつあります。

Amazonさんもそうした論文をいろいろと出し始めていて、Alibabaさんはもうすごいシステムをつくっています。我々も実は本番実験などを今始めていて、その新しいレコメンデーションやパーソナライゼーションを超えたクリエイティブAIの世界が、今後は主戦場になっていくと思います。

書かざるを得ない論文と、そのセキュリティの問題

平野:論文という言葉で思ったのですが、やはり研究者の方々は論文を出したいという想いがあると思います。一方で企業からすると、そういった新しい独自の技術を外に出したくないという気持ちがあるんじゃないかと思うのですが、そういったところはどう折り合いをつけていらっしゃるんですか?

:うーん、今おっしゃった話はなかなか難しい話だと思います。基本的には論文は書くべきですね。論文を出すことによって自社のレベルを問うこともできますし、またそれによって関連する研究者の方が採用面接を受けに来てくれるんですよ。

論文を出さないと人も来てくれないし、とにかく論文を出すしかないので、そこはやっていきます。ただ、難しいのはセキュリティに関係することなんですよね。

セキュリティに関係することを出しちゃうと、それを読んだ人によって不正な手法というものが開発されちゃう可能性がある。そこにはすごく葛藤がありますね。喧々諤々の議論をして、出すか出さないかを決める必要がありますね。