「ワークライフバランス」という言葉への違和感

司会者:今、参加者の方からtwitterを通して質問を投げかけていただいたんですけど。「そこそこでもいいや」って考えるのは、例えば「過労死とか労働問題のニュースを見ると、ワークライフバランスをワークに振り切るのって、リスキーかもしれない」といったイメージがあるからです。そのあたりについて、どう思いますか?」ということなんですけど。

いわゆる労働問題があったりすると、「そこそこが、自分に合ってるかもな」と思ったりもするということですけど。だから、トムさんは「ワークライフバランス」という言葉自体に、インタビューの時に違和感をもっているんですよね。

トム・ヴィンセント氏(以下、トム):もう、すごい変な言葉だなと思っていて。

鈴木芳雄氏(以下、鈴木):英語じゃないの?

トム:ううん、向こうでも使ってますよ。だから英語は正しいんだけど、ライフとワークを分けちゃいけないでしょう? 自分はこれから働くとなると、一部の女性、もしかして一部の男性もそうなんだけど、いわゆる外でお金が回るような仕事は、子どもを産む時は一時休むか長い間休む。

でも、結局自分が働いてることって人生じゃないですか。だから、ワークライフバランスという言葉を使わないといけないこと自体、ワークがおかしくなってきてると思うんですよね。

「日本仕事百貨」の求人サイトをやってるナカムラケンタくんが、『生きるように働く』という本を出していて。彼はもう10年、小さな小さな求人サービスをやっていて、全国のいろんな人の話を聞いてるだけの本なんだけど、やっぱり同じように、「ライフとワークって同じでしょ?」って言っています。

生きるように働く

ビジネスの現場で削がれてしまっている大切なもの

遠山正道氏(以下、遠山):私はこの間、三菱商事で講演したんですけど、その前の打ち合わせで、「三菱商事とスマイルズと何が違いますか?」と言われたので、違うことだらけなんだけど、「今は、人生っていう言葉を使うようになった」って言ったんですね。

さっきの檸檬ホテルとか、個人で小さなバーを……うちの新規事業の第1号は、6坪くらいの新宿のバーなんですね。もちろん小さなビジネスなんだけれど、彼のセンスやアイデア(が素晴らしい)。毎日朝5時までオープンしてる店なんだけど、それこそさっきの労働問題の話じゃないけど、そんなものはもう関係ないというか。

自分が雇い主だし、自分で働いてるから、自分が楽しいし、一生懸命やっていて。だから、人生みたいな、自分の持てる動機だとか、行動力とか、そういったような喜びみたいな。

私は「形容詞の働き方」なんて言ってるんだけど、「楽しい」とか「キラキラしてる」とか(笑)、「うれしい」とか……そういうところにすごく価値があるのに、ビジネスの場になると、そういう形容詞って削がれちゃうんですよね。数字や具体的なファクトだけでやりとりされちゃうので。

だけど、その形容詞的なところにこそ、価値とかエネルギーが溜まっているので、それを本当に使わない手はないし、会社もそれを大いに活かしたらいいと思うし、そもそも自分自身がそれを活かしたらいいと思うんですよね。トムさんが言うように、その「喜び」みたいな。

だから、それにはなるべく小さい単位のほうが、自分自身の形容詞的な要素を使いやすい。大きくなればなるほど、そういうものがすっ飛んでいっちゃうから。

仕事が「自分ごと」ならバリバリ働くのも楽しい

鈴木:さっきの労働問題の話に戻ると、少なくとも事実として、われわれ若い頃はもうめっちゃ働いてましたよ(笑)。マガジンハウスもひどい。ひどいどころじゃないです。かつてはね(笑)。

でも、それはぜんぜん厭わないというか、楽しかったし。だいたい夜中の12時ぐらいまで普通に仕事してましたよね。そこから飲みに行ったり。

あるいは……私が30代で、うちの部長は優秀な人だったけど、その部長は夜に3回予定を入れてるんです。18時の会食と、21時の会食と、23時半に六本木でみんなで集まる。われわれが23時半に六本木に集まってきて。夜中ですよ。そこでその日に起きたことをみんなで報告しあって、そこからまた議論みたいな(笑)。それが普通で、ずっとやってた。

トム:そうなんだよね、考えてみると。僕は20代はあれだけど、その後の30代はバリバリ働いていて。Web制作会社の役員をやってたから、それこそ広告会社との仕事が多かったんだけど、もう夜中の3時に電話がかかってくるわけ。「明日の9時のプレゼンだけど、青でやってきた部分を全部赤に変えろ」というようなことが、夜中に連絡が来て。マジか~と思いながらも、めっちゃ楽しかったんですよ。

それをやめなさいと言われたら……2時半のメールなんてダメと言われたら、仕事なんかしたくなくなっちゃったと思うよ。これは別に、徹夜がハードというのはぜんぜんどうでもよくて、バリバリやってるのが楽しくて仕方がないんだよね。

遠山:要するに、それがやらされ仕事だと、そういう変な問題になるけども、自分たちが「自分ごと」としてやっている仕事は楽しいし、より成果も出る。だから、管理・監督みたいな話になってくると、なんかややこしいですよね。

トム:それですよね。

遠山:一人ひとりが自分ごとでできていれば……。これは、今のスマイルズの経営者としてはこういう話はちょっとできないんだけど(笑)、かつてはそうだったし、うちは小さい単位の仕事が多いので、それは自分の責任でやってるわけだから。楽しくやってるわけですよね。でも、夫婦がやってるホテルは、そもそも9時〜5時とかではできないし。

日常のつまらない仕事の中にある楽しさの見つけ方

司会者:質問を投稿してくれた人も、楽にゆるく過ごしていきたいというよりは、本当はたぶん、夢中になれるようなことに出会いたいんですよね。だけれども、それがなかなか見つからない。見つけづらいから。

遠山:そういう意味で言うとね、私は「つまんない仕事ほどやりがいがある」って言ってるんです。なんて言うのかな。「大きな夢」みたいなことじゃなくて、日常の中にやりがいってすごくたくさんあって。

もうちょっとわかりやすく、サラリーマンの中でいうと、ハンコのいらない仕事ってあるじゃない。例えば、お客さんが来たら、お茶を出すみたいな。若い頃は、普通にそんなことをやるわけですよ。

普通は麦茶だけど、「先週末に行った鳥取のルイボスティー、めっちゃうまかったなあ」と思ったら、ルイボスティーを買ってきて。麦茶じゃなくてルイボスティーを出しちゃいけないなんてルールはないわけですよ。「ルイボスティーのほうがお客さんに喜んでもらえるな」と思ったら、やればよくて。

それでお茶代が800円かかったら、総務に800円請求しても、たぶんダメって言われない。自分だったらどうするかなっていうことを……簡単に言えば改善みたいな、そういうことが楽しいわけですよ。

うちでは、やれって言われたことをやるのは「作業」と呼んでるのね。お金ももらってるわけだし、当たり前にそれはやるべきこと。でも、それ以上に、何をやったらいいかなということを自分で発見して、行動して、それが会社のためにも自分のためにも社会のためにもなるのが初めて仕事という。ちょっとカッコよく言うとね。でも、それは楽しいわけです。

「ルイボスティー、うまいね!」みたいな話になって、「スマイルズってこんなお茶出すんだ」とか言われたら、もうガッツポーズじゃないですか。そういうことは、もう世の中いくらでもあるわけです。

与えられた環境の中で自分にできることを探す

遠山:それに、変な職場だったら変な職場ほど、その宝庫なわけですね。俺が一番やりたくない仕事は、たぶん今、Appleの本社なんかに呼ばれて、年収2億円とか言われて、「Appleの経営企画に行きなさい」とか言われるのが一番恐怖。何もできなくて(笑)。それよりも、小さい職場はいくらでもやることがあって、めっちゃ楽しいですよ。要するに自分が何をできるかっていうこと。

あとは就職のことでね、よく「1回目の就職はサイコロで決めてもいい」なんて言い方があるんですよね。どの業種じゃなきゃいけないということじゃなくて、まずは与えられた場の中で学んだり、そこでできることをどんどん、手を動かしてやっていくという。

トム:今の言葉、すごく20代で聞きたかったと思います。

(会場笑)

トム:でも実は、遠山さんの言うように、仕事って結局、人。一部は専門的な職種……料理人やプログラマーもそうだけど、すごく技術的な職もあるけど、実はほとんどの仕事はそうじゃなくて、変な話、ある程度経験を積めば誰でもできる。

自分に合わなくても、人と一緒に何かしら動かす。何だっていいから、かたちになっていって、うまくいかない(こともある)……でも、それでいい。今のお茶の出し方の話も、若い頃にわかってたら、たぶんぜんぜん過ごし方が違ったなと思う。

遠山:別に仕事じゃなくても、今、学生時代のクラブ活動でも、ゼミでも、十分できることですよね。例えばね、会社で「この部長の下では働けません」と言って辞めていく人は、次の会社へ行ってもきっと同じようなことを言ってるんですよね。要するに、外に理由を求める人は、どこへ行ってもそうなっちゃうんですよ。

そんな、超絶いい環境なんて世の中にないんだから。与えられた環境の中で「自分だったらどうするかな」ということをやっていく。一人ひとりが自分ごとで(仕事が)できると、(会社)全体にもいいし、精神的にもやりがいがある。それをやるには、そこまで大きい仕事だとややこしくなる。

夢ではなくプロジェクトと思えば、失敗しても次に行ける

遠山:私はね、世の中は全部プロジェクトだと思っています。仕事もさっきのルイボスティーも、自分にとってのプロジェクトだし、仕事ももちろんそのままプロジェクトだし、あるいは個人の恋愛も、結婚も出産もプロジェクトだし、離婚もそうかもしれない。あと将来ね、生きがいを見つけるなんていうのもプロジェクトかもしれない。そう考えると、けっこう気が楽なんですよ。プロジェクト、あるいは企てとかね。

「夢」というとなんだか立派で、1個ぐらいしか持っちゃいけないとか、数個じゃなきゃいけないって思うかもしれないけど、プロジェクトだったら、失敗したらまた次のプロジェクトをやればいいし。

だけど、放っておいたらプロジェクトは1個もできないから、自分で産まないと。自分でプロジェクトだと思って、それを1個1個、黒を白に変えていくとか、そういうことを楽しめるようになると、人生や仕事が楽しくなってくる。

鈴木:いい話もある一方で……ちょっといいですか? でもね、遠山さん自体、就職だって勝ってるわけじゃないですか、三菱商事なんて。人気ナンバー1、ナンバー2みたいな会社へ。

自分は勝ってるから、そういうふうに言っちゃうのはどうかなって思うんだけど。みんな思ってるかもしれないよ。「遠山さんは、気がついたら小学校から慶應に入ってて、それで三菱商事へ入って」って(笑)。

遠山:うーん……。

鈴木:だから、経験したから言えることもあるし、さっきも言っちゃってるかもしれないけど、僕たちの頃って、新卒一括採用で、転職が不利になるみたいな状況だったけど、今は状況が違うから、そこまでガチガチじゃないにしてもというのはあるけど。

遠山:今のは、たぶんグレードの話だと思うんですよね。一般的に言うヒエラルキーみたいな。でも、銀行や食品とか、いろいろあって。三菱商事も確かに人気はあるけど、別に商社っていうものをよくわかって入ってたわけじゃないし。

じゃあ私が、銀行へ入ってたら……ちょっと銀行はまた違うかもしれないけど、別の職種についていても、たどり着くところはあんまり変わらないかもしれないですね。

鈴木:うんうん。それだったらわかる。

遠山:グレードの話になるとどうなのかな、ちょっとわからないです。