3つのキャリアをかけ合わせると希少性の高い人になれる

藤原和博氏:君たちの中で大学生が多いとすると、ちょっとまだ早いんですけど、情報編集力をこれからどのように仕事や人生に活かしたら良いのかということをお話しして終わりたいと思います。

というのは、今日、一番大事なのは情報編集力を磨きましょうということ。ある種、どうしたら(この力を)磨けるかという、仮説を君たちの中に育めれば、それで100点満点です。ここから先は、それを仕事の人生でどう生かすかというところにちょっとイメージを持ってもらえればと思いますね。

ここに書いてあるのは、3つのキャリアを組み合わせて「3つのキャリアを掛け算して、非常に希少性の高い人材になりましょうね」という話です。

具体的には100万人に一人の希少性を獲得する。そのためにだいたい1万時間くらいかければ、どんな仕事をやっても、100人に一人の営業マンや100人に一人の美容師、100人に一人のタクシードライバーになれます。

1万時間かけて100人に一人になることを3回繰り返せば、100分の1×100分の1×100分の1だと、100万人に一人になれますよね。これが、オリンピックのメダリスト級を意味します。オリンピックのメダリストって、だいたい100万人に一人の確率なんです。ノーベル賞がだいたい1,000万人に一人ですから。

というわけで、これからの時代はある会社に入って、課長部長とか言ってですね、役員になるかわかりませんが、一つのキャリアで60歳くらいになってなんとなく寂しくなって、人生を終えるというパターンでは死にきれないんですよ。

1つの仕事ではとても生ききれませんし、死にきれません。今ここにいる誰にとっても、あと2つとか3つとか、そういう仕事の仕方を掛け算していく必要があります。

わかりますよね? 大学生にはまだちょっと早いかもしれないですが、例えば20代の時に、ここにあるような第一歩、左足の軸足を作って100人に一人になる。例えば僕は、リクルートの営業部署に突っ込まれて、営業とプレゼンについては、5年くらいかけて多分1万時間やりました。なので、100人に一人にはなったと思います。

1日3時間ずつ本当に真剣にやれば、365日で1,000時間ですから、1万時間は10年。1日6時間、徹底的に没入できるんだったら5年ですね。それが経理であろうと受付であろうと、だいたいの大人の人たちは5年から10年くらいで一つの仕事をマスターします。

自分自身をレアカード化せよ

そういうわけで、まず1つの軸を20代のうちに作っちゃいましょうね。できたら30代までに、もう1つ右足の軸ですね。ここが良いという感じで、いろいろピボット(方向転換)してみてもいいですし、これは関連(するもの)でも良いです。経理だったら財務でもいいし、営業で販売でもいいし、宣伝で広報でもいいし、その会社内で異動してもよいです。

とにかく2つの軸を作る。問題はその次です。3つ目は大きく踏み出してほしいわけです。なぜ踏み出してほしいかというと、2つの足の軸が決まったからと、近くにこうやって3本目を踏み出しちゃうと、高さが出ないから、三角形の面積が広がらないですよね。三角形の面積が、イコールみなさんの希少性の大きさなんです。

つまり、希少性を大きくしていかないと、ネット社会ではアクセスされない人間になっちゃいますから。わかりますよね? 君たちはYouTubeなどを見ているとわかると思うんだけど、ネット社会にアクセスされるコンテンツ、あるいはアクセスされる人材は、希少性の高い人材ですよね。

どうしてみんなが、あそこまで落合陽一君のファンになるのかと言ったら、ものすごく希少性が高いからなんですよね。大学の教授で研究室を持っていて、そこで100人、200人の子分を持って、AIの研究をやり、かつ各企業と会社を作って出資してもらって、事業もやっていますよね。それで特許も取っています。論文もすごい出してますよね。

学者としてもすごい一方で、アーティストとしても素晴らしいですよね。アーティストであり、研究者であり、かつ事業家で、それで筑波大学を変えようともしている。だから、あらゆるところに彼の意見がずーっと浸透していきますよね。ホリエモンさんもそういうところがありますよね。というわけで、希少性の高い存在になってほしいわけ。

君たちにわかりやすいワードでいうと、どちらかというと「希少性の高い人材になる」という言い方よりも、ポケモンカードで遊びまくった今時の若者であれば、「レアカードになれ」と言った方がわかりやすいと思うんですよ。違います? 

レアカードって、ヤフーオークションでも高かったでしょ? 中野のまんだらけでも、下手すると数万円とか数十万円したと思うんですよ。それを買った人もいると思うんだけど。つまり、結論は「自分自身をレアカード化しろ」ということ。

1つの仕事でレアな存在になるのはオリンピック選手になるくらい難しい

そうしないと、一生が90年100年の時代になっていますから、もたないんですよ。自分をレアカード化するときに、一つの仕事でレアになるというのは、ものすごく大変。これは言ってしまえば、体操の世界で今から内村(航平)君に挑むような話ですから。今からスケートを始めて、フィギュアの世界で羽生(結弦)君を越えようとしている。

もし(そういう人が)いたとしたら、僕はぜひお友達になりたいと思うんですが、どこか変わっていますよね。もちろん、ちょっと変わった人が起業家になったりするんだけどね。もちろん、すごい研究者になったりもするんだけど。それはやっぱり1,000万人に一人を狙うかですよ。

とにかく、誰がなんと言おうとそれを追いかけていくという人は、ごく稀にいますから1,000万人に一人を目指してくれたら良いと思います。

でも、自分が普通の人、もしくは普通よりちょっと優秀だと思っている人は、3つ掛け算して100万人に一人になる方が、絶対に頭が良い方法です。

そういう意味で、2つ目に行ったら3つ目は試行錯誤していいんだけど、3本目はドンと出て、高さを出してもらって。面積が希少性の大きさですから、このキャリアの大三角形ですごく面積が大きくなるような希少性を出してもらって、人生を勝利してもらったらいいわけです。

当たり前のことをやっていても誰も助けてくれない

これから、これをイメージしながら1分ちょっと議論してもらいたいと思うんです。今写真を撮ってる人、別に撮っててもいいんですよ。あとで出てくる、この本に全部載ってますから。そちらで詳しく見てもらう方が良いと思います。

もしかしたら、いまはまだ1歩目が固まったところかもしれない、そうしたら2歩目をどうすれば良いか。1歩目もまだ固まっていない人は、1歩目をどこへ踏み入れるか。1歩目、2歩目がもうできている人は、3歩目でどこにジャンプすれば良いかですよ。

私の場合だと、2歩目については、リクルートで27歳から10年間やったリクルート流のマネジメントでした。それで三歩目については、リクルートで修行した営業とプレゼンという100分の一の技術。

2つを掛け算したら、両足の軸で一万人に一人にはなれていたと思うんです。僕は40歳の時に会社を辞めているんですが、その後にいろいろと試行錯誤の時期がありました。公教育で、営業プレゼンの技術とマネジメントの技術が活きるか活きないかは勝負でしたと。

勝負したら、それがうまく行っちゃったもんだから、実は3歩目というのは不利なところに行けば行くほど、世の中が助けてくれる。有利なところに行っちゃうと安全なようで、実は誰も助けてくれないという状況が起こるんですよ。だって当たり前のことをやってるから、お友達もびっくりしないし。

そこで、2つの軸が固まったらどーんと危ないことや、ちょっと成功しないかなということ、あるいは友達が反対したりびっくりするようなことやると、意外と世の中は助けてくれるので。

自分一人の力では成功できないことも、たくさんの人が助けてくれる。そうすると成功しちゃうということがあるわけですね。それで、僕は5年間で100人に一人の校長になっちゃったので、この100万人に一人の三角形が完成した。こういう感じなんですね。

ここにいるすべての人たちに、100万人に一人のレアカードになってくれるという願いを込めて、今の自分の状況からこっちに踏み出したらいいかなとか、1歩目はここかなとか、1歩目ができていたら2歩目はここかなとか、3歩目はジャンプしてみたんだけどこうだった、というような話も含めて、ちょっと意見交換をしてみてください。

今この場に高校生もいると思うので、それはもう将来を語ることになったり、60代以上の人もいると思いますが、自分の三角形がどうだったというような語り方でもいいです。

希少性を高めることが、人生100年時代を生き切る鍵になる

最後に、ホリエモンさんの例(を出します)。彼は14歳くらいから久留米の天才プログラマーとして1歩目を踏み出していました。たまたま東大に入っちゃったんだけど、それはあまり関係なくて、「オン・ザ・エッヂ」という会社で、小室さんなどの音楽をやっている人たちのホームページを作るところから、IT起業家の道を走り出しますよね。

IT起業家とプログラマーという2つ(の軸だけ)だったら、今日のように300万人のフォロワーがいて、彼がどういう意見を言うのかをみんなが聞きたくなるような存在にはならなかったと思います。

ただのIT長者で終わったと思うんだけど、不幸な事件があって収監されて、それを積極的に捉えて、彼は徹底的に読書して哲学するんですよ。「人間とは何か」「世の中はこれからどう変わるか」。

それがやっぱり、あの『ゼロ』という著書にものすごく反映されている。僕はあれは哲学書だと思います。僕のデビュー作で『処生術』という本があるんです。「生」は「生きる」っていう字なんだけど、97年の暮れに出た本で、(『ゼロ』と)すごく中身が似通ってるんです。

ゼロ―――なにもない自分に小さなイチを足していく

処生術―生きるチカラが深まる本

というようなことで、ホリエモンさんはそういう三角形を作ったと僕は思っています。ぜひ、君たち自身がどうなのかを語り合ってみてください。1分ちょっとしか時間はあげません。行きましょう、3、2、1、はいどうぞ。

(会場ブレスト)

あと30秒くらい。

(会場ブレスト)

はい、そこまでにしてもらって、そろそろエンディングという感じで終わりますね。この議論は続けてくださいね。いろいろな人と語り合ってほしいと思います。

人生90年、100年の時代を生き切るには、情報編集力において、自分の希少性をどう高めるかが鍵になります。希少性が高まらないで、みんなと一緒の方向性に行ってしまうと価値が失われるばっかりです。

なぜなら、みんなに代替されてしまうから。わかりますね。自分の希少性を磨くことが、90年100年の人生を生きる唯一の方法だと言えます。

掛け算によって自分の付加価値や希少性を上げる

そのためには、情報編集力が鍵になります。掛け算です。どういう掛け算をするかです。とりわけ、1歩目、2歩目は会社で異動しながらこうなった、という結果論ということも多いと思うんですが、3歩目をどこに踏み入れるかは転職してなのか、その会社や組織で実現できるのかはわかりません。

わかりませんが、それをやってみて、掛け算によって自分の付加価値や希少性を上げることは絶対に必要なので、このことだけは忘れないほうがいいと思います。このことが非常に大事だと、ホリエモンさんとキンコンの西野さんがものすごく絶賛してくれて。

(ホリエモンさんの)『多動力』の最初のほうにも出てきますし、キンコンの西野さんの『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』には、6ページにわたってこの解説をしてもらったりしています。そういうわけで、ぜひ希少性を磨くというキーワード、あるいは自分自身をレアカード化することを忘れないようにしていただければと思います。

多動力

魔法のコンパス 道なき道の歩き方

ここに『10年後、君に仕事はあるのか?』という(本を出しましたが)、今日やった前半の部分は、ほとんどここに集約されています。復習するならこちらを見てもらえればいいと思いますし、西野さん絶賛の『必ず食える1パーセントの人になる方法』では、まず100人に1人になりましょうねということが書いてあります。

10年後、君に仕事はあるのか?―――未来を生きるための「雇われる力」

藤原和博の必ず食える1%の人になる方法

今日は先着で(この本を)もらった人もいると思いますが、『45歳の教科書』は、今日やったほとんどすべてのことがかなりきちっと書いてあります。あんまり、20歳とか25歳くらいまでに読む本じゃないような気がするんですよ。これちょっと禁断の書ですよ。

45歳の教科書 戦略的「モードチェンジ」のすすめ

(会場笑)

あんまり若い人とか、高校生とかがこんな本を読んじゃうと、かなり気持ち悪い感じになる。

(会場笑)

やってみて失敗してから読んでほしい本

まずはやってみてから、やってみて失敗してから、こういう本を手に取った方がいいかなと。今日は質問などは取りませんでしたけれど、「よのなかnet」という僕のサイトがあります。そこに「よのなかフォーラム」という、非常に古いタイプの掲示板がありまして、そこでなにか投げかけてくれたら答えます。

あとはポストがあるので、どうしてもメールを送りたい人は、Webマスターからも送れるようになっていますので、質問などは受けられます。ただ、僕は個人のいろいろな個別の相談にはほぼ応じていません。そういう意味で、自分の決意表明、勝手にやる、みたいなものは歓迎しています。

正解を聞きたい、例えば「どっちに転職したらいいですか?」というものは絶対答えませんので。あとは「リクルートに入りたいですがどうしたらいいですか?」も答えませんので、自分の決意表明がいいかなと。

ご存じだと思うのですが、YouTubeで40万回以上視聴されたグロービスの「あすか会議」の「たった一度の人生を変える勉強をしよう」(という動画)を見てくれると、今日の一部のワークは映像でもう一度見られます。『35歳の教科書』、『45歳の教科書』とともに、そのへんで復習していただけるとうれしいかなと思います。今日はどうですか、ちょっとエネルギーが得られたかなと思う方は拍手をしてください。

35歳の教科書 今から始める戦略的人生計画 (幻冬舎文庫)

(会場拍手)

司会者:みなさまありがとうございました。