「利便性」と「満足度」の両方を満たす食べ方の提案

稲垣昌宏氏:ホットペッパーグルメ外食総研の稲垣です。最後の話者になります。ここまで話を聞いてきてお腹いっぱいかもしれませんが、さらに食べ物の話です。

(会場笑)

ホットペッパーグルメでは、Webサイト、アプリ、そしてフリーペーパーで飲食店情報を提供させていただいております。最近はとくにインターネットで予約できるお店の数が増えております。

2019年の飲食領域のキーワードは「ポータグルメ」です。ポータブルと、グルメをかけ合わせた造語になっています。

これまでカスタマーは、手軽に食べられる中食の「利便性」と、味などの外食の「満足度」を使い分けていました。ここのところ、ライフスタイルや社会の変化によって、コスパに変わってタイムパフォーマンスの重要度が増し、その中で中食が売上を伸ばしてまいりました。

しかし、ここにきて「利便性」と「満足度」のどちらかではなく、両立させる食べ方が提案され始めました。2019年10月から、中食には軽減税率が適用されます。外食各社が、テイクアウトやデリバリーに参入することで、このポータグルメの流れがさらに増していくと考えています。

食事に求めるのは、コストではなく“タイム”パフォーマンス

社会の変化や社会課題は、私たちの食べ方に大きな影響を及ぼします。このところ、個人においては、役割が増加して多忙になり、そして社会においても、労働生産性の向上が叫ばれています。つまり、個人も世の中も時間効率のアップを求めています。

消費者の方に、ここ1年の変化を聞きますと、食費が足りなくなっているという人よりも、時間が足りないと感じている人のほうが多いということです。つまり、コストパフォーマンスよりタイムパフォーマンスの時代になってきているということです。

実際に結果として、この10年でいうと、外食市場の伸びより中食市場の伸びのほうが、顕著に伸びているということになっています。

みなさんの食べ方を、横軸に「満足度」、縦軸に「かかる時間」というふうに、整理してみました。左上は、時間がかかる割には満足度の高くない食べ方。左下は、満足度を犠牲にいたしまして時短を取るという食べ方。右上は、時間をかかり満足度も高いシーンです。そして、これまで右下の食べ方があまりなかったんですが、ここのところいろいろと提案がされ始めております。

我々はこの、「かかる時間が短いけれども、満足度も高い」という、両立させる市場を「ポータグルメ市場」、あるいは「ポータグルメ領域」と呼びたいと思っています。

外食・中食・内食がボーダレス化している

これまでサプライヤー側は、外食事業者・中食事業者・内食事業者ともに、それぞれ本業である商品を提供してまいりました。ところがここのところ、このように提供商品がどんどんクロスしておりまして、垣根が非常にあいまいになっております。その結果、外食・中食・内食がボーダレス化しています。

とくにここ最近は、外食事業者による中食の強化が目立ちます。来年10月から、持ち帰りの場合は軽減税率8パーセントが適用される予定でございます。ですので、飲食店はこれまでどおりの店内での提供に加えて、テイクアウトとデリバリーという、“三刀流”を目指す事業者が増えてきています。

実際に、古くからデリバリーに取り組まれている「すかいらーくグループ」のような大手では、ここ3年におけるデリバリーの売上が7パーセント成長ということで、高成長を遂げています。そして、人気店の「いきなりステーキ」は、2018年6月からデリバリーに参入しまして、10月末時点ですでに23店舗がデリバリーできる状況になっているという状況です。

消費者側にもアンケートを取ってみました。忙しい時でもおいしいものが食べたいと思う人は81.6パーセント。そして、お金をかけてでも“時短”を選ぶ時があるという方が66.5パーセントいらっしゃいます。

コンビニやスーパー、宅配専門店からのデリバリーの代わりに、外食店からのテイクアウトやデリバリーを使ってみたいという人も72.4パーセントいらっしゃいます。そして、それらの方が外食店のテイクアウト・デリバリーに求めることは、安さよりも味やバリエーションなど、クオリティーに期待がかかっています。このことからも、来年以降はポータグルメ領域が非常に伸びていくのではないかと予想されます。

外食企業のデリバリーが加速させる「ポータグルメ」

ポータグルメ活用者の方にインタビューしてまいりました。お一人目は、IT会社を経営されていまして、時間をお金で買うという典型的なタイプの方でございます。ランチで週に2、3回はデリバリーを使われ、カスタムサラダなどを注文するというような方です。

二人目は、小さなお子さんのお母さんで、家で食べれば子どもが騒ぐことを気にせずにゆったりできるということで、月に2、3回ほどママ会みたいなことを家でやるそうです。ピザなどを頼む時、通常は宅配専門店から頼むそうなんですが、こういったパーティーの時にはワンランク上の味を求めて外食店からご注文されるということで、使い分けているそうです。

企業側の参入パターンを見ていきましょう。1つ目はデリバリーです。「MEAT&GREEN 旬熟成」さんは開業と同時に、GINZA SIXに外食店とデリバリー&テイクアウト店をオープンさせております。現在はデリバリーを中心に、売上の約2割から3割ぐらいを稼いでいらっしゃるということで、ランチタイムに汐留のマスコミさんからのオーダーがけっこう多いと聞いています。

そして2つ目は、テイクアウト中心のパターンです。人気店の「ミート矢澤」さんは、大丸東京店の地下に、テイクアウト専門店をオープンさせました。「極味(きわみ)弁当(税込9,980円)」という(商品を販売し)、一度は食べてみたい中食の頂点とも呼べるようなステータスを確立されております。

参入パターン3つ目は、テイクアウトの別形態として、キッチンカーです。通常キッチンカーは、お店をまだ持てていない方が使うケースが多いんですが、コルポ デラ ストレーガ(Colpo della Strega)さんは、お店があるにも関わらずランチをキッチンカーで提供して、売上を伸ばしているという例です。最近はこのような事例も増えてきております。

ということで、2019年の飲食領域のトレンドは、「利便性」と「満足度」を両立させる新しい食べ方として、外食各社のテイクアウト・デリバリーがこれを加速させます。ポータグルメです。

ご清聴ありがとうございました。