軽視される「弱い核力」

「弱い核力」は、自然界における4つの基本的な力において軽視されています。人々は宇宙をまとめる「重力」に驚嘆しますし、床から抜け落ちないために働く電磁気について詳述します。

挙句の果てに「強い核力」は核をまとめていると称えます。そして「弱い核力」は放射能を発し、溶融する。それだけだ、と言います。

それは実際恥ずべきことです。なぜなら、「弱い核力」は何世紀にもわたり問題を生じさせてきましたし、生物学者が信じてきたことを覆してきたからです。それと同時に、「弱い核力」は人間の存在に関係があるかもしれないのです。

基本的に、「弱い核力」は電子と中性微子を含むレプトンとそれに類似する物質、

それと、陽子や中性子を作るクォークにおいて働きます。

その作用が生じるとき、その内容に変更を加えることにより粒子のアイデンティティーを変えます。しかし他の力も粒子のタイプを変えることができるので、このことが「弱い核力」を特別にしているのではありません。自然の法則ほとんどにおいて「例外」だからです。

空間反転対称性に信ぴょう性がある

1900年頃、トラブルの兆しが見られはじめました。科学者たちは元素の原子が恒存されていると思っていました。例えば、鉛原子はどのように動かしてもくっつけても、鉛分子のままであると考えていました。さらに、他の原子においても同様であると考えました。

しかし、彼らは放射線崩壊を発見しました。それは、一つの元素の原子が、その核からなにかを打ち出すことにより、他の原子になれるということです。その当時はそのことを誰も知りませんでしたが、この錬金術は「弱い核力」によるものだったのです。そして科学の常識を覆すのはそれが最初で最後なわけではありませんでした。

「弱い核力」はまた、物理学者を導く、私たちの「対称性」に対する見方に大きな影響を与えました。これは、結果を変えることなく実験を変えることと関わりがあります。つまり、もし私が実験の前方にいて、あなたが後方にいるとしても、私とあなたの実験結果が異なるわけがありません。物理では、物の動きに焦点を合わせており、左右対称であるかどうかは重要ではありません。

1900年代初頭の物理学者たちも、左と右を入れ替えたり、上下を入れ替えたり、前後を入れ替えたりしても変わりはないということを発見していました。もしこれらすべてが対称であれば、これらすべてを同時に入れ替えても対称であるはずです。このことを俗に「P対称性」、又の名を「空間反転対称性」と言います。それによれば、これら3つの方向を入れ替えたとしても、どの実験も同じ結果になると言えます。実験によれば、重力は同様に働き、電磁気も「強い核力」も「P対称性」の信ぴょう性を証明しています。

「弱い核力」は物質と反物質粒子に対して異なる働きをする唯一の力

しかし「弱い核力」に関しては違います。分子にはスピンと呼ばれる性質があります。ただ分子が回転しているだけという単純な話ではありませんが、今このお話をする上では、そのような考え方で十分です。

「P対称性」の1つの結論には、もしなにかが回転崩壊をすると、分子がそこから様々な方向へ飛び出していく、というものがあります。しかし、1957年に物理学者がコバルト核の崩壊を観察していると、崩壊した分子が飛ぶ方向は、コバルトが時計回りをするか反時計回りをするかによって決まるということがわかったのです。

そして「弱い核力」は崩壊を引き起こすので、結果的に、宇宙の中で「弱い核力」だけが、「P対称性」に反することができるものだと言えるのです。

後の実験では、回転が重要であることがわかりました。「弱い核力」は時計回りをしている物質粒子と反時計回りをする反物質粒子にのみ作用するということがわかったのです。

それにより、「弱い核力」は物質と反物質粒子に対して異なる働きをする唯一の力であるということがわかったのです。これにより、「弱い核力」がもう一つの対称性、「荷電共役変換」とも呼ばれる「C対称性」にも反する唯一の力であるということがわかったのです。しかもこれが、両方の対称性である「CP対称性」に同時に反することもできるのです。

引力、電磁気、強い核力は、時間が逆に流れても変化しない

さらに最近の実験では、「弱い核力」はまた、「T」で表される「時間反転対称性」にも反することがわかっています。考えてみると奇妙ですが、引力、電磁気、強い核力は皆、もし時間が逆に流れても変わることはありません。

分子に「B0中間子」と呼ばれるものがあり、それには妨害する作用があります。そしてその中には「B0」と、「反B0」という二つの種類があります。「弱い核力」は分子をその2種類に自由に変化させることができます。分子を一方から他方へ変化させるのは通常同じことなはずですが、「B0」から「反B0」へ変化させる方が、その逆よりも時間がかかります。

ですから、「弱い核力」の影響は、時間の方向に依存する唯一の力であると言えるのです。現在の物理学者はそれら3つの対称性を合わせた「CPT対称性」の実験にもう一度戻りました。これが失敗すれば、特殊相対性理論と素粒子物理学の基礎といった、人類にが今までにテストした二つの素晴らしいアイデア両方が根底から覆ってしまうのです。

しかし少なくとも今日に至るまで、それに反する結果を出した実験は見受けられていません。

人類が発見した、新しいアイデアを導くのに最も有効な道具

このようなことを聞いて、「だからどうした?」と思われるかもしれません。一つの力が他と異なり、物理学者が作り出した法則に沿わないからといって、なにが問題なんだ、と思われるかもしれません。1つはっきりしているのは、私たちが、すべての力が互いにどのような関係があるのかを知りたいと思っているということです。それこそが素粒子物理学者の仕事なのです。

「対称性」と「恒存の法則」は、人類が発見した、新しいアイデアに導く最も有効な道具のうちの2つなのです。もしその片方がおかしいと、この世界がどのように成り立っているのかを知ることが、もっと難しくなってしまうのです。

このことがあなたに関係するかもしれないもう1つの理由は、「CP対称性の破れ」によりあなたの存在自体が可能となっているかもしれないからです。現在の物理学の大きな問題の一つに、「物質、反物質非対称性」があります。

それはつまり、人類が見ることのできるすべての「反応」には物質と反物質の両方が同量産出されるのですが、「ビッグバン」はそのバランスが同量ではないのです。もし同量であったなら、すべての物質は反物質と衝突してしまうので、結果的に何もなくなってしまうからです。

知る限りでは、宇宙の中で「弱い核力」のみが、物質と反物質を区別する力のようなのです。現代の科学者の中には、「弱い核力」が非対称性を生み出したと考える人もいます。それにより、無限の粒子に対して一つ多い物質粒子によりすべてのものができ上がったという理論です。

それがどのように可能となたのか具体的にまだわかっていませんが、信頼できる実験証拠の中で、「弱い核力」こそがその可能性を持っているということはわかっています。ですから「弱い核力」は比喩的物理学にとっての難題というわけだけではなく、宇宙の始まりのきっかけになったのかもしれないのです。