2代目社長の苦悩

辻庸介氏(以下、辻):いやー、おもしろいです、ありがとうございます。2つ目のご質問で、まあこういったお考えになられているお二方ですけど、経営者として当然しんどいときも多々あると思うんです。今までで一番しんどかったこととか、そのときに決断して良かったこととか、失敗したこととか。よろしければお聞かせいただければと思うんですけども。では富山社長から。

富山浩樹氏(以下、富山):私はいわゆる2代目社長ということで、父が創業者で今は会長をしています。今はある程度、社内でも1つの方向に向かっていけているかなと思うんですけど、私は途中から入社したので、入ったときに自分の中で「会社をこうしていきたい」と思ったときに、やはり独りぼっちのような状況で。

社内に人脈だとか、共有できる仲間がまだまだ少なかったときに、会長ですとか既存の社員の方とか考え方にギャップがあって、ぶつかったことが非常に多かったんですね。今はもう楽しくやっているので、課題というのも前に進むためのものになってるんですけど。最初のほうはどちらかというと、社内でのチームだとか、共有のあり方だとか、既存の組織との核っていうんですかね。いま思えば、そこがけっこう一番の壁だったかなと思います。

:二代目って、まわりから見ると「ボンボンが来た」みたいな雰囲気に見られてしまうこともあったりするじゃないですか。二代目社長ってどのような感覚で見られているかなと思って。

富山:どう見られてたんでしょうね。よそ者じゃないですけど、よそ者みたいな。

:そんな感じなんですか。しかも先代が会長にいらっしゃって。富山さんの場合は先代がいらっしゃいますが、今は引退されているのですか?

富山:いやいや、まだ元気いっぱい。

:あ、元気いっぱい。

富山:元気いっぱいですけど、主に経営以外のところで元気いっぱいです。

ニトリに倣う、固有名詞でのブランディング

:なるほど。けっこう驚いたのが、リアルで店舗を持っている方が、テクノロジーでこの先変わっていくことを見据えて、新たな決済方法を取り入れたり、AI企業をグループ会社化されたりと、様々なことに取り組まれているじゃないですか。あのような取り組みは、ギャップがあるなかでどうやって進められたんですか?

富山:ドラッグストアとして変わるというのが第1弾のギャップでして、今は第2弾のギャップというか。今はもう組織作りに入ってまして、グループ化してITの会社も入ったりですとか、さっきのマーケティングの会社もあったりして、やっぱり既存の小売業とは違う組織にどんどんなっているんですね。

一応、多様性のある組織作りを掲げてるんですけれども。新しい事業を始めると、新しい価値観の人が入ってくるので、それはすごくいいことだなと思ってまして。そのとき組織上には、わざとじゃないんですけれども、既存の社員と新しく入った方を同じチームにして、交わっていくようなことを繰り返しやっていますね。

:サツドラさんってリブランドされたと思うんですども、あれは、ステップ1、ステップ2と……どういう位置付けでやられてたんですか?

富山:サツドラはもともと「サッポロドラッグストアー」っていう名前だったんです。愛称としてサツドラと呼ばれていたんですけど、そこから改めてサツドラと名前を変えたんですね。それはみなさんご存じのとおりです。

今は本当に、小売業もドラッグストアもコンビニもスーパーマーケットもホームセンターも、全部垣根を超えた競争になってきています。もう業態論で語れなくなってくるだろうなとはすごく感じていて。創業のときは、札幌で一番のドラッグストアってそのまんまなので、ドラッグストアと名乗ることが有利だったと思うんですけれども、ドラッグストアと名乗り続けているともう変われないんじゃないか、ということでこういう名称になりました。

ニトリさんなんかも、創業したときっていうのは「家具卸センター似鳥」でしたし、そのあとホームファッションを日本に持ってくるということで「ホームファッションニトリ」になりましたよね。今はもうニトリとしか書いてないんですよね。我々はまだまだかもしれないですけど、そんなかたちで固有名詞でブランディングをして、それが伝わるようになりたいなという思いを込めて。まあ、ここでも会長の一言二言はあったんですけど(笑)。

:はいはいはい(笑)。ドラッグストアの業態を超えてデジタライゼーションしていく、次のステップに行くって、これからのリアルがテクノロジーによってどう変わるかだと思うんですよ。バーチャルなマーケットの規模が小さくても、リアルはとても大きいので。リアルを変革したほうが、世の中はすごく変わっていきますね。

社内での地道な草の根活動が、会社の土台を作る

:そういう意味で、リアルに軸足があってテクノロジーに詳しい経営者が一番強いんですよ。だから僕、たまに富山社長はずるいなと思うんですよ(笑)。

富山:ありがとうございます(笑)。でも、そういう意味ではけっこうお得だなって言ったら変ですけど。リアルな資産がありながら、確実にテクノロジーがキーの時代が来る。大きな市場なのにも関わらず、入ってくる方々はまだまだ少ない。そこに合わせていけるっていうのは、すごく有利だなって思いますね。

:年齢が上の方で、そういったデジタライゼーションとかが腑に落ちていない経営層とかもいると思うんですけれど、社内のドラッグストアをこれまで牽引されていた方々に「これからはこう変わっていくんですよ」と、これまでを否定するわけではなく、塗り替えていこうとするなかで工夫されたことはありますか?

富山:幸いうちはオーナー企業だったので、「(上が)進むと言ったら進む」っていう部分はあったと思うんですけれども。やっぱり社内説明だとか、そういうのはしつこく繰り返していますし、世の中のテクノロジーの出来事だとかを含めて時事ニュースで起こったことは、毎週自分が解説を入れて発信していっているような感じで。地道な作業かなとは思います。

:なるほど、説明するために全国まわってますよね? 

富山:そうですね、経営方針も年に1回2回は全道まわってやってるかたちで。社内の草の根運動です。

:そうですよね、そういう考え方は言い続けていかないと本当に土台ってできてこないですよね、ありがとうございます。

社長就任後、3期連続の売上低迷

:では、山井さんお願いします。

山井太氏(以下、山井):はい。僕が86年にスノーピークに入って、88年にいま本業になっているオートキャンプの事業を始めていったんですけれども、入社したときの売り上げはすごく小さくて、社員が15人くらいで売り上げ5億円くらい。

:へー。

山井:社内起業みたいなかたちでオートキャンプを立ち上げて、88年から5年後の93年には25.5億円くらい売り上げがあって、そこまででもなかったんですけど年率30パーセントくらい。オートキャンプを成立させたら、日本という社会が要求していた潜在ニーズを満たしたのか、キャンプのブームがきたんですね。さっき850万人とか言いましたけど、当時は1,500万人キャンパーがいました。

主に団塊の世代のお父さんお母さんと、団塊ジュニアのお子さんたち。今日お越しの方々の中にも団塊ジュニアの方たくさんいらっしゃるかなと思って拝見してたんですけど。なので、そこまでは空前のブームだったんで良かったんですけど、そのあと94年から99年まで、6Q(にわたって)売り上げ落としました。

:それは山井社長が社長だったときですか?

山井:ええ、社長ですね。96年に社長になってるので、正確に言うと3年。3期売り上げが落ちている時に社長になり、自分が社長になってから3期売り上げ落としてますね。

:ああーキツイですね……。

山井:ガーッと落ちてる途中で社長になって。ボトムが99年だったんですけども、そこの6年っていうのは売り上げが落ちるだけじゃないですか。今思えば、キャンプってファミリーキャンプが90パーセントくらいを占めるので、お子さんが中学校に上がると行かなくなっちゃうんですね。

一回目ブームになったときは団塊の世代・団塊ジュニアのファミリーだったので、当然次の方々は人口が少しくびれて、絶対数が減ってきます。マーケットも一緒にしぼみました。人口構成比としてはすごく当然のことだと思うんですけど、一回目のブームが激しかったんで、そのあとのリバウンドがすごく大きかったんですね。25.5億円と、まあそれも大した売り上げじゃないんですけど、そこから14.6億くらいまで落ちて。

:うわ……。

山井:キャンプはブームになったけど一過性で、もしかしたら我々スノーピークにも存在理由がないのかしら、みたいな。ぼくも社員も相当能天気なんですけども、そのときはみんなで「俺たちって存在意義があるのかしら」みたいなところまで少し思ってしまって。

ヘビーユーザーも口を揃えて言う「スノーピークは高い」

:そのときの社内の雰囲気ってどんな感じになるんですか?

山井:そうですね、まあ自分たちのできることはとりあえずやってたんですね、マーケットがシュリンクしているので新製品をたくさん開発するとか。当時落ちてるときに作った商品って今だにすごくて、定番になって残ってるんですけど。「新製品を出しても落ちる」って状況だったと思います。開発、新製品を作るってことは10万円でできたんで、そこをやれたのは良かったですね。

富山:やっぱり社内は暗い雰囲気だったんですか?

山井:えー、今が100だとすると、85くらいな感じ。

富山:そんなに暗くないですね。

(一同笑)

:それはあれですね、山井社長がだからそう思っているだけで(笑)。社員とか従業員は(笑)。

山井:まあみんなキャンパーなんで明るい人が多かったけど、もしキャンパーじゃなかったらもっとやばかったかもしれないですね。

実は98年からV字回復をすることになるんですけども、その礎を作ってくれたのがキャンプのイベントです。98年の10月に初めてユーザーさんと一緒にキャンプをさせてもらったんですね。で、『BE-PAL』という全国誌にスノーピークでキャンプをしましょうっていうイベントの広告打ったんですけど、30組しか集まらなくて(笑)。

:30組?(笑)

山井:今は(当選率が)2.5倍くらいの人気のイベントで、応募する人もすごく増えてきてて。年間10回やっても抽選になっちゃったりとか。1回目の『Snow Peak Way』は30組しか集まらなくて、そのときにユーザーさんと初めてご一緒して、直接焚き火を囲んでフィードバックを得たんですけど、30組のみなさん全員が同じことおっしゃいました。1個は、スノーピークの製品はめっちゃ高いってこと。

:めっちゃ高い。

山井:高い。テントはその当時実売で8万円くらいで販売されてました。こんなときに30組集まってる人たちなんで、もう本当にスノーピーク愛のかたまりみたいな人たちなんですけども。そんな実際に買っている人たちが高いっておっしゃったんですね。すごいショックでした。

自らサンドバッグになることで得られる大きなメリット

:でも一応、カスタマーボイスというかテキスト上の情報としては、山井さんにも入ってるわけですよね?

山井:BtoBtoCのビジネスだったんで、問屋さんだったりとか小売の店頭からはフィードバックを受けてたんですけど、生の消費者のフィードバックを受けたっていうのはそこが初めてだったんですね。もう1個が、流通網がダメだと。静岡のお客さまだったんですけども、「今日俺は静岡から来たんです。静岡に販売店4店あるんだけどさ、社長行ったことある? どこにもモノが並んでないよ?」っておっしゃってました。

:高いっていうのと、流通網がぜんぜんダメということですか。

山井:高い、買えないってことですね。

:最悪ですね(笑)。

山井:(笑)。なるほどーそりゃ売り上げも落ちるよねー、みたいに思って。

富山:最初のイベントはお客さまからのダメ出し会だったんですか(笑)。

山井:そう、未だにそうなんですけど、僕がサンドバックになってずっと打たれているのが『Snow Peak Way』というイベントなんですね。

:『Snow Peak Way』のイベントって山井さんが打たれ続けるイベントなんですか?(笑)。

山井:そうです。もうサンドバックのように。

:けっこうキャンプ場で飲みながらみたいな、一緒に輪を囲んで「どうですか?」みたいな……。

山井:もちろん楽しい話もあるんですけれども、その中でやっぱりスノーピークがうまくいかないところは必ずご指摘いただけるんで。年間10回くらいあるので、どこの会場でも言われてってなるんですね。それは例えば僕が社長室にいて、A4のアンケート用紙で「スノーピークの製品にご不満の方が25パーセントいらっしゃいます」みたいに知るのではなく、こうやって「もうぜんぜんダメ!」みたいな感じで言われるんで。

富山:すごいですよね、ストレートに刺さりますもんね。

山井:そうすると、僕は絶対お返ししなきゃいけなくなるでしょ。それが何千人っていう人から同じフィードバック受けると、それだけ会社が変わらないと会社自体がダメじゃないですか。『Snow Peak Way』っていうイベントが良いのは、僕もそこにいるんですけども、うちの幹部社員も全員そこにいるので。同じ空間で経営陣全部がそれを共有できるってところがいいなと思ってます。

キャンパーと同じ気持ちを共有することが、会社の成長につながる

:やっぱりお客さまに直接言われるのが一番つらいんですけど、一番大事じゃないですか。そういうつらいというか、一番直面するものに接していないとだめだなと思って、僕もそのお客さまのもとにお邪魔して、いろいろご意見をいただいて、へこんで帰りますけど。そのへこみを伝えても、現場現場では優先順位がちゃんとあるし、リソースも有限だし、「いやいやそうは言っても……」みたいになるじゃないですか。なんか、いきなり僕の人生相談みたいですね。

(一同笑)

:僕の熱量が足りないのか、いつも反省するんですけど、どうやっているんですか?

山井:まあ申し上げたように、その場で一緒にフィードバックを受けてるので、その問題については全員が瞬時に理解します。しかもキャンプ場で焚き火を囲みながら聞いてますから、自分たちがキャンパーの気持ちになってる時点で共有できているので、その分会社のスピードが早いですね。

SNSでご意見もくるんですけども、うちがプレスリリースを出して間違ったことを発表した場合、我々が改善しない限りは激烈なクレームが続きますから(笑)。2週間延ばしたら、2週間ずーっと、何百通もクレームを受ける。「あ、間違ったな」ってことへの改善が重要になっちゃうんですね。そういうところは、インターネットっていう経緯ですごく瞬時に入るので非常にうれしいなと思いますけど。

スノーピークの価値を守りつつ、いかにしてニーズに答えたか

山井:さっきの話の続きなんですけれども、98年の10月にイベントをやり、スノーピークは2000年のシーズンから問屋さんのお取引を全部止めました。あとは1,000店舗くらいあった販売店を250に絞りました。さっきの静岡の例で言うと、4店舗あったのをスノーピークのすべての商品をおいていただく正規店舗を1店舗おく制度に変えています。

250のお店でしっかりした経路を作り、問屋さんのお取引もやめたので、さっきの80,000円のテントが59,800円とかになったんですよね。それを2000年のシーズンの中でやって、マーケットは半分にシュリンクしたんですけれども、2000年から2010年の10年間、スノーピークの売り上げは2倍になりました。そのお客さまたちからのフィードバックで、今のスノーピークがあるという感じです。

:その過程では、コンセプトとか、こういう世界を作りたいから今までのものを全部否定して「こうやるんだ」っていう、会社としてのビジョンを提げないとメンバーってついてこないじゃないですか。当然ほかにも問屋さんから「お前ふざけるな」みたいな話もあるでしょうし。どんな感じで実行に移されていったんですか?

山井:基本的には、高い・買えないっておっしゃったフィードバックに対しては、満足させる答えを我々がちゃんと実現しなきゃいけなかったんですね。スノーピークの永久保証が良かったり、デザインが良かったり、革新的なプロダクトを作るところがお客さまのニーズに合っていると思っていたので。

流通を同じままにすると、永久保証を外したり、生産基地を全部地方に移したりとか、スノーピークの良さがほとんどなくなってしまうので、答えとしては流通マージンをカットすると。あとは、販売店も車で30分〜1時間移動したら必ず買える状態を作って差し上げなきゃいけないってことで、そういうことを考えてますと。社員は全員反対しましたね(笑)。とくに法人の営業をやっているような営業部署のスタッフは全員反対しました。

:そりゃそうですよね。今やっていることを完全否定されることになりますもんね。

山井:まあそうですね。ですけど僕が社長なので、その乱は社長としてちゃんと決断をしなきゃいけないので、結果的にはやったんですけども。でも、「僕はこういう解決方法がいいと思うんだけど、もし代案があったら出して」「僕の案以外にもっと良い案があったらそっちでもいいし、これがすべてじゃないんで」って言ったんですけど、でも出てこないんですよね、そんなのって。

:なかなか難しいですよね。

施策が失敗したときの、経営者の信頼の落ち方はすさまじい

山井:もしかしたら、僕があんまり社員に尊敬されてなかったからかもしれないんですけど。その立証が良くって、その後10年間売り上げが伸びたんで、その事件のあとで僕の社員に対するプレゼンスが上がりましたね。うちの場合、本当にキャンプとかばっかり行ってるけども、あの時に正しい立証があったから、今の私があると社員も思っていると思います。

:社長やってて思うんですけど、自分が「これだ」と思って始めた施策が失敗したら、社長への信頼の落ち方ってすさまじいですよね。

(一同笑)

富山:そうですね。

:そうなんですよ。みなさん想像してらっしゃらないかもしれないですけど、信頼とかって、獲得したらあとのことがやりやすくなるんですよ。富山さんどうですか?

富山:そうですね、私も新規事業が多いので、外には成功したことばかり言っているんで(笑)。成功したっていうか続いてることを言っているだけで、失敗はたくさんしてます。そういううしろめたさを感じることもあるんですけど、でも逆に言えば、チャレンジして失敗するっていうのを肯定しますよということで、自ら失敗するっていうのは1つあるのかなとは思いますね。

山井:経営者は、小さい失敗なら先にやっておいたほうがいいですよね。大きい失敗はやばいけど。

:失敗っていうとあれなんですけど、アメリカとかではラーニングって言いますよね。成功するために必要なスペックをちゃんと学んでいくってことにすればいいのかなと思います。百発百中って、別に神様になるだけですからね。

BtoCとBtoBの組み合わせにイノベーションの種を見つけた

:取り組んでいるイノベーション事例って、さっきのお話でけっこうお聞きできてることもあるかと思うんですけど、なにかあったりしますか?

富山:そうですね、私も先ほども申し上げたんですけど、やっぱり今までの小売ってだけだと新しい事業っていうのはたくさん出てきていますよね。サツドラっていう小売はBtoC、対お客さまの小売なんで直接なんですけど、それ以外の事業ってほとんどBtoBの事業で。AIの会社もPOSの会社もありますけども、これをサツドラで確実にモノにして、実験や失敗を繰り返しながら試行錯誤したものをBtoBとして出していくようにしています。

あと、おかげさまでEZOCAの事業も、北海道でポイントカードとして成長しました。それはやっぱりサツドラがあるからで。サツドラでのマーケティングの事例だとかお客さまの事例を、実体験をもって外に持っていけるかといったところにあります。今の私たちのグループのモデルっていうのは、端的に言うとBtoCとBtoBの組み合わせなんですね。

自分たちで失敗とか試行錯誤したものを出せるっていう強みがあるので、そういった意味では小売を主体にしてBtoBとBtoCを組み合わせてるっていう方向性は、最近やっと自分たちの中でも見えてきた部分というんですかね。モデルとしてこの方向というのは非常に価値があるイノベーションのかたちになりそうだなという、種みたいなのを感じていますね。

:富山社長はWeChatペイの代理店第一号でしたよね

富山:そうですね、事業会社としては国内第一号。

:トヨタさんとも提携されてるんですよね? あれはこれからなにを取り組まれるんですか……?

富山:トヨタさんは移動のデータを持っているんですけど、買うっていうポイントしかないので、EZOCAのデータとサツドラのデータを含めて、そのカスタマージャーニーをどうしたらいいのかを一緒にやりましょうって感じですね。

:なるほどなるほど。ちょっと余談ですけど、富山社長とお会いしたの2〜3年前くらいだと思うんですけど、お会いして、翌月か翌々月でしたっけ?

富山:そうですよね、一緒に中国に行きました。

:WeChatペイがこんなに日本で話題になる前ですよね。ちょうど「深センに行くんですよ」って言われて、「僕も行きたいです」って言ったら、なぜか1ヶ月後同じ飛行機で深センに。

僕の中ではニューヨークがいつもワクワクしてる街で、あとはシリコンバレーとかが1番先を行っているイメージだったんですけど。深センの後にニューヨークに行ったら、なんか古ぼけた街に見えたんですよ。あれは僕の中でけっこう衝撃で。中国の進み方とかすごくて。

富山:すごいですよね。

:すごいですよね。学ぶことすごくあるなと思って。

スノーピークの事業の本質は「人間性の回復」

富山:やっぱり「行く」ってすごく重要ですよね。当たり前ですけど、聞くのと見るのは大違いなんで。まあその当時は早かったですけど、今でも意外と行ってない人っていっぱいいますよね。イノベーションの起きてる場所を見に行くのが一番手っ取り早く感じれるかなというのがすごくありますね。

:リアルってすごく大事です。こういうイベントも、来て、生で聞いていただくと、聞きながらいろいろ考えるじゃないですか。僕もイベントに行けなくて、テキストデータで言ったりするんですけど、情報として入ってくるとあまり深く心に入ってこないというか、あんま身にならないみたいなことがあるなと思いましたね。山井社長いかがですか?

山井:はい。去年経産省さんが、大企業が活力を失ってるのでもうちょっとイノベートしたいってことで、うちとかユーグレナさんみたいなとんがった会社の経営者を呼んでという会があったんですけど。そのときにユーグレナの出雲さんと僕も同じこと言ったんですが、「我々の会社ではイノベーションという言葉を使うことはありませんけど」って。

:(笑)。

山井:つまり、イノベーションのつもりでやってないんですよ。そこが大企業さんと我々みたいなベンチャーの違いなんだろうなと思うんですけど。

今スノーピークの中で新しいことをやっているとすると、もともと我々の事業の本質は「人間性の回復だ」と思っていまして。今までは7パーセントのキャンパーの人間性を回復させてきたんですけれども、それを非キャンパーに広げようということをやっています。例えばアウトドアオフィスっていうことをやっていたりだとか、東京だとSHIBUYA CASTに我々のテントを張って、時間貸しでクリエイティブな会議ができるようなソリューションとして提供したりとか。

あとは品川のシーズンテラスさんのところでもアウトドアオフィスっていうことでやらせていただいています。あとは、住宅産業と一緒にお仕事をしていて、東京都内でしたら晴海の三菱さんのタワーマンションがあるんですけど、そこにはモデルルームが4つあって、1コはスノーピークの商品だけで内装されてます。このように住宅の販売を始めたりとかもしますね。

「人間性の回復」をテーマに掲げる企業とのコラボ事例

山井:他にもサントリーさんともプロジェクトを今一緒にやってて。その中で商品の共同開発もやっているんですけど、一番最近出たのがPEAKERっていうビターエナジードリンクです。非常にオーガニックに近いようなエナジードリンクを一緒に共同開発していて、これはたぶんサツドラさんとかでも販売していただいているかと思うんですけど。

富山:販売させていただいております。

:(笑)。

山井:スノーピークの商品って、キャンプ用品で一番売れるものでもまあ10万個とか20万個なんですけど、これは全国津々浦々のコンビニで、何億本という数でスノーピークのロゴマークが入って販売されているので、

富山:すごいですよね。ナイスコラボですね。

:「人間性の回復」をテーマをかかげられてる会社って、日本で、いや世界でも一社しかないと思うんですけど。大企業さんがそんなスノーピークさんと一緒にやろうということに行き着かれたのってどういう流れなんですか?

山井:スノーピークは役員合宿を毎年やってるんですけども、そこで5年に1回くらい、「我々は本質的に何者で、どこに行こうとしているのか」みたいな議論をするんです。上場する時は、2014年にマザーズに行って、2015年くらいに一部が行ったんですけど、上場のキックオフをするにあたり、「そもそも我々は上場したほうがいいのか、しないほうがいいのか」って議論したりとか。

どこに向かって行きますかっていう話をしたときに、「人間性の回復が我々のコアのミッションであればいいな」ということになって、それを非キャンパーに向けていくといった話にしました。この言葉自体が、サントリーさんのコーポレートメッセージである「水と生きる」というか、そういったコアが存立している基盤が非常に似ているところがありますね。

地球環境がちゃんとしてないと、雨が降ったら水害で水が出てこなかったり、飲料も作れないしウイスキーも作れないわけですから。遊びっていうのも一緒で、地球環境がちゃんとしてないとアウトドアって成立しないんですね。そういう部分も一緒です。

今の社会の中で、人間存在っていう共通のテーマで一緒にこれができますね、ってことに行き当たって。だから、非常に根本的で、コアなところでできているコラボレーションですね。規模もまったく違いますし、業種もまったく違うので、その2社がコラボをするってことは、ある意味で非常に珍しいことだと思うんですけど。

:ワクワクしますし、価値観が似てたり、根本でつながってると、そんな変なこと言ってこないですもんね?

山井:そうですね。

テクノロジーを武器に、人との接点をどう育てていけるか

:ちょっとお時間も迫ってきたので、最後に僕から簡単に質問させていただきたいんですけど。富山さんには、ブランディングっていうことでいろんなことをやっていらっしゃいますが、なにを重要視されているのか。最後、みなさんにメッセージを言っていただければと思います。

富山:さきほど「元気です北海道」でもありましたけども、やっぱり地域を変えていくというか、小売を軸に地域というものにコミットしていくというところです。AIの会社だとかテクノロジーを導入すると、人との接点が薄れるだとか、無人店舗になるみたいな言い方をされてますけども、そういうことではなくて。テクノロジーというのは最良の道具だと思うので、そういうものを使って、さっきのコミュニティの話とか、人の接点だとかをどう育てていけるのかとか。そういうことをやってるのがサツドラだというのを感じていただけるようになりたいなと思います。

小売だけだとわかりやすかったんですけども、自分たちがやりたいことは本当にまだ過程なので。小売以外でも、事業が広がっていったときに、もっともっと知っていただくということが必要かなと思いましたし、山井社長のお話を改めてお聞きして、やっぱりまだまだ、ぜんぜんできてないなという反省をしていたところでした。

「野遊び」をグローバルな言葉にしたい

:ありがとうございます。山井さんはいかがでしょうか。ミッションの「人間性の回復」とか「snow peak way」「コミュニティ」など、今日は来ていただいた方に持ち帰っていただくものがすごくたくさんできたと思います。それをどうやって会社で浸透させていくのかとか、社会に浸透させていくのかとか、そこを含めて教えてほしいです。

山井:そうですね、スノーピークは日本の会社なので、人間性の回復とかアウトドアっていうところを「野遊び」っていう言葉で言ってまして、コーポレートメッセージが「人生に、野遊びを。」っていう言葉を掲げてるんです。

:「人生に、野遊びを。」ですか?

山井:その野遊びって言葉を、グローバルな言葉にできたらいいなと思っていて。5年後10年後にみなさんがアメリカ行ったら「NOASOBI〜!」みたいなね(笑)。世界観がグローバルになっていくっていうことは、日本という国を世界に知らしめることになると思うので、その目標をがんばっていきたいなと思います。

:それはすごくワクワクする話ですよね。なるほど、ありがとうございます。もうちょっとお聞きしたいんですがお時間が来ちゃったので。2社とも確固たるミッションとか理念とかをお持ちで、いたずらに規模や利益を追わないけれども、しっかり世の中に浸透してユーザーやファンを増やしながら、成長を遂げていらっしゃいますね。こうした2社の経営者のお話から、なにか1つでもヒントになることがあれば幸いです。

お忙しいところおいでいただきました山井社長と富山社長に、最後に大きな拍手をいただければと思います。どうもありがとうございました。

山井・富山:ありがとうございました。

(会場拍手)