この20年で人がいなくなった職場とは

藤原和博氏(以下、藤原):「なくなりにくい仕事」についての議論を本当に深めていきますと、「よのなか科」という言い方をするんですが、一条高校でやったよのなか科の中では、徹底的に議論を深めていきますと、当然「人間とはなにか?」というところまでいきます。

だって、そうじゃない? ロボットのような身体の機能の代替、それからAI、脳の機能の代替というのと、人間との対比をするわけだから。そうすると、人間じゃなきゃできないものが明らかになるわけですので、「人間とはなにか?」がはっきりするわけですよね。

全部(ロボットに)取られてしまうのであれば、つまりロボット的な筋肉や脚力などの物理的な力を代替する機能と、脳の代替をする機能だけでいいんだったら、人間はいらないという話になりますよね。これちょっと相当悲しくないですか。そうすると人間はどこで残るのかですね。これをぜひ(議論していただきたいと思います)。

今日はそこまで最終的に深まらないとは思いますが、それをイメージしながら議論をしてもらいたいということなんです。いいですか?

まず、なくなる仕事を議論してもらいたいのですが、このなくなる仕事は、「ここにもある。あそこにもある」というようなことを言い出しますと、その議論がちょっと散漫になるんです。なので、企業でやるブレストでもそうなのですが、こういうブレストの場合は、テーマを絞ったほうがいいです。グッと絞ったほうが議論が深まるんです。

今日は、この20年ぐらいで激しく(人が)いなくなった職場、人間がやっていたのに、もう人間がまったくいなくなった職場をイメージしてもらい、そこをちょっと深く議論してもらいたいと思います。

なにかというと駅の改札です。わかりますよね? 今いるのが大学生以上の人であれば、駅の改札で物理的に切符を買って、その切符をハサミで切っていた時代を、わずかに覚えているんじゃないかと思うんです。どうですかね?

銀行全体で数十万人がいなくなる

高校生がけっこうギリギリで、中学生以下は完全に知りません。地方の高校生はまだそういうものは残ってて知ってるんだけど、都会の高校生は知らなかったりします。わかります? 日本全国で中学生以下は自動改札以降なので、人類として違うと思ったほうがいいです。わかりますか?

じゃあ聞きましょう。こういう切符を切ったあとの白いゴミが出たわけだけど、もしかしたら若い人たちは、本当に小さな頃のフッとわずかな、「ああ、その風景」というイメージがあるかないかですよ。「ある」という人は、ちょっと手を挙げてください。

(会場挙手)

はい。たいがいですよね。今20代以上で手を挙げなかった人は嘘つきですよね。見てないわけないよね。

(会場笑)

というわけで、もしかしたら海外に行ってたりすると違うのかもしれませんが、いずれにしてもそういうことで、改札は見事に機械化されてなくなりましたよね。あれがあっちこっちで起こるわけですよ。

それが見えないところでものすごい勢いで起こっているのが、銀行の内部の事務処理業務ですよね。テラーという人がいますよね。振込のときにけっこう高額だと、銀行の窓口でも預金の処理をしたりすると思うのですが、テラーという人もあの仕事も、たぶんなくなると言われています。

僕らの見えないところで銀行の中間的な処理業務がごそっと抜け落ちて、今はみずほでも数万人、銀行全体で数十万人いなくなると言われています。もう実際にその仕事はリストラが始まっていますよね。みなさんも知ってますよね? 

そういうこともあるわけです。見えるところ・見えないところはいっぱいあるわけですけど、とにかく改札で起こったことがいろいろなところで起こっている。

渋谷の駅から次に消えてなくなる人は誰か

藤原:では今日、非常に身近な駅と鉄道会社をイメージしてもらって、駅と鉄道会社、渋谷駅でもいいです。渋谷駅でもいいんだけど、改札の(駅員さんの)次にいなくなるのは誰か。わかる? 改札で(人が)いなくなったでしょ? 次にいなくなる駅の人は誰なのかをブレストしてもらいたいと思います。いいですか?

まず駅に入ったときのイメージをしてみて。ホームに行くと、コンビニやキオスクがあるじゃないですか。あそこにおばさんやお姉さんがいますよね。それもありますよね。

それから、駅員さんがいて、列車が入ってくると手を上げたりしてるじゃないですか。信号の光で合図したりもしてるじゃないですか。その人たちはどうか。それからもちろん、運転士・車掌はどうか。駅長がいるはずですよね。忘れ物係みたいな人もいますよね。それはどうなのかとか。

そういう感じで、僕らには見えないけど、例えば車両を製造する人もいるでしょうし、それからダイヤを組む人、運行管理する人も絶対いますよね。

そういうようなことで、ちょっと想像力を膨らませてもらって、次に誰がいなくなるか。これをもうワイワイワイワイ騒いで議論してください。1分半ぐらいです。ちなみに、鉄道会社に勤めている人いる? いたらちょっと傷ついちゃうかもしれない。

(会場笑)

いないようだから、遠慮なく「いなくなるいなくなるシリーズ」でいってみましょう。いきましょう! 3、2、1、ハイ、どうぞ!

(ブレストタイム)

モノレールの運転手、パラリーガル、今後なくなる仕事について

はい、じゃあそこまでにしてください。これについては、オックスフォード大学と野村総合研究所の研究が非常に有名で、新聞の1面トップを飾って、「なくなるかもしれない仕事ランキング」という感じで派手に発表されていました。

ハーバード大学の調査研究でもMITでも、ほぼ同じように上位に来ているのですが、自動車でさえも自動運転になるので、レールの上を走る列車の運転士(の仕事がなくなります)。

これはいなくてもいいんじゃないのと。本当かどうかはともかく、これは相当ランクの高いところにあります。というわけでまず運転士ですね。実際に、お台場に行くゆりかもめは開業当初から無人運転ですよね。あれはモノレールでもうレールが決まっていて方向転換する必要がないわけです。だから、余計そうなんですよ。

まあ「そういうようなものだな」というのは何となくイメージがわくんじゃないかと思うのですが、高度に知的な仕事と言われる弁護士と医者。最初にちょっと言いましたけど、これは(なくなるのか)どうかという話ですよ。

これはあらかじめみなさんに知識を与えてしまいますが、弁護士の仕事は相当なくなると言われています。つまり、ランキングですごく高いところにあるんですね。

例えば、人間と人間が交渉をしたり法定で弁論したり、記者会見したりしますよね。ああいう場では、やっぱり人間のコミュニケーション能力が非常に大事なので、あれは残ると思うんです。

ですが、背後にパラリーガルな仕事があるんですよね。このケースの場合は判例がこうだから調べます、その資料を揃えます、というのはAIのほうが得意ですよね。それはそうだと思うんです。だから、相当弁護士の仕事も変質していくという感じ。調べ物だけが得意な弁護士は非常に厳しいんじゃないかと思いますよね。

患者が本当に知りたいのは、自分と同じ症例が実際どうだったか

医者はどうでしょうか。医者は診断と治療がありますよね。治療についてはもちろんいろいろな主義もありますので、それでさえも慶應義塾大学などは、ダビンチというすごい(手術支援)ロボットを入れて、今ロボットがやる手術というのはとても増えているみたいですけれども。

昔だったら、こうやってがーっと切らなきゃならなかったじゃないですか。手先の器用さでやらなきゃならなかったものを、今はちょこちょこちょこと3箇所、4箇所穴を開けて、内視鏡で手術したりしているじゃないですか。そこにロボットなどが相当入っているということなので、これも変わっていく。

とはいえ、それでも内科の医師のところに行ったら「熱があってお腹が……」「あなた寝不足じゃないですか」とか言ってね。「充分に寝て、ちゃんと食べていれば治りますよ」というようなことを言ってくれると、安心みたいなものがあるじゃないですか。そういうものこそ、やっぱり人間がやっていてほしいですよね。そういうものは残るかもしれないね。

一方で、治療ではなくて診断の部分がすごく大事なんですけども。例えばこういうイメージです。僕が肺がんを疑われて、レントゲンを撮りました。その写真を見せられて、この黒い影か白い影か知らないですけど「これはもうステージxxですから、藤原さん、これは僕の経験で言いますと、この薬と放射線を何クール照射します」ということになりますね。

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